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ラグランTシャツ印刷で袖ズレを防ぐための治具固定とテンション方向管理

目次
ラグランTシャツ印刷の難しさと工場現場の現状
ラグランTシャツは、その独特なカッティングとデザイン性から、スポーツウェアやカジュアルウェアとして根強い人気があります。
しかし、現場でシルクスクリーン印刷やインクジェット印刷を行う際には「袖ズレ」という重大な課題に直面しています。
直線的なパターンや縫い合わせが多い通常のTシャツと異なり、斜めに入る袖の切り替えが、治具への固定や生地のテンション管理に大きく関与します。
多くの現場では、昭和から続く「慣れ」と「勘」に頼った作業手順が根付いており、最新の自動化設備が導入されたとしても、アナログな手作業が工程品質の根幹を担っています。
この記事では、私の20年以上にわたる製造現場の経験から、現場目線の課題解決方法と、今後の工場運営における新しい地平線について深掘りします。
ラグランTシャツの構造的特徴と印刷難易度
ラグランTシャツの最大の特徴は、首元から脇下にかけて斜めに入る「ラグランスリーブ」です。
この構造がもたらす問題点をまず整理しましょう。
斜めの切替線がズレを誘発する理由
Tシャツのボディと袖が直線的につながるセットインスリーブと異なり、ラグランは斜め方向に縫製されています。
このため、生地を治具(プリンタープラテンや治具テーブル)に乗せる際、袖とボディの面には微妙な角度が生じます。
加えて、縫製ラインの引きつれや生地の弾性、テンション差が「袖ズレ」の直接原因となるのです。
アナログ固定の限界と「勘」に頼る現場
従来の治具は長方形や楕円形の平面が一般的です。
そのため、ラグラン袖の部位ごとのテンションコントロールが不十分になり、特にデザインが袖までまたがる場合や、複色の精密印刷では「版ズレ」「かすれ」といった不良が生じやすいです。
現場では「経験豊富なオペレーター」が袖や脇下を手で引っ張り調整する場面も少なくありません。
これはまさに“昭和の職人芸”の典型です。
治具の固定による袖ズレ防止の本質
では、ラグランTシャツを治具に正しく固定し、安定した印刷品質を得るためにどのような工夫が必要でしょうか。
単なる「固定」ではなく、「どこを」「どんな方向に」「どんなテンションで」押さえるべきか、現場の勘を論理的に分解していきます。
ライン取りを意識した治具形状の工夫
多くの現場で見落としがちですが、まず重要なのは「治具の形」です。
ラグラン用のオリジナル治具を設計し、ラグランスリーブの縫い目に沿った凹凸やガイドラインを設けることで、生地の置きミスや角度ズレを低減できます。
特に、首元から脇下へ斜めにガイドを設けることで、生地の「基準点」が目視しやすくなり、習熟度にかかわらず安定した位置決めが可能です。
部分テンション保持治具の導入
次に注目すべきは「部分的なテンション管理」です。
例えば、治具上で袖・脇下・裾にそれぞれ独立してテンションがかけられるクランプ式サポーターを設ける、もしくは柔軟性のあるシリコンパットを配置するなどの方法が考えられます。
これによって、生地全体に均一な力を加えるのではなく、袖方向・ボディ方向のテンションバランスを細かく調整でき、「引きつれ」や「波打ち」の原因を事前に排除できます。
テンション方向管理のポイント
治具による固定をさらにレベルアップさせるには、本質的な「テンション方向管理」が不可欠です。
テンションマップの作成とトライ効果
私が現場で推奨するのは、「テンションマップ」の作成です。
これは、Tシャツ全体を複数の領域(前身頃、後身頃、左袖、右袖、首元、裾)に分け、それぞれのパーツごとにテンションをかけた際の生地変形や位置ずれ量を可視化する作業です。
数着ずつサンプルを使い、テンション方向・強度・固定点などを逐次変えながら、最適なテンション条件を探ります。
この工夫は従来の「慣れ」に頼る現場工程から、データに基づいた誰もが再現できる工程管理へと昇華します。
プリテンション&ポストリリースの重要性
高品質の袖プリントを実現するためには、「プリテンション(仮張り)」と「ポストリリース(解放)」のタイミングも鍵を握ります。
標準的な治具で最初に仮固定し、プリント前にテンションを加えてリセット、印刷直後に適切な順序でジグから解放することで、テンションの開放時に生じる生地の「戻り(リバウンド)」を制御できます。
これは量産現場で歩留まり改善に大きく効きます。
自動化とアナログの融合を実現する新発想
現場でよく議論されるのが「自動化すれば全て解決するのか?」という問題です。
ラグラン対応の自動搬送治具やAI認識による印刷位置合わせ装置も登場しつつありますが、現実には完全自動化は難易度が高く、コストに見合わないケースがほとんどです。
半自動+職人技のハイブリッド手法
むしろお勧めしたいのは、「半自動」と「職人の感覚」を組み合わせたハイブリッド運用です。
例えば、治具の基準点位置決めだけは自動化し、最終テンション調整や生地の微調整は熟練オペレーターの手で行う。
または、AIカメラで全体の生地歪みを検知し、アラーム表示のみ行うことで“頼れる”現場作業員が即対応できるようにする。
こうした日本的な現場力の活用が強みとなり、特急品や複雑デザインへの柔軟対応力が増します。
昭和から令和へ:現場改革のすすめ
ラグランTシャツ印刷工程は、日本の“ものづくり現場力”を象徴する部分です。
まだまだ「アナログな泥臭さ」が求められる工程も残りますが、逐次現場改善(カイゼン)と新技術導入により、「誰でも一定品質」を実現する土台が出来つつあります。
バイヤー・サプライヤー間で「袖ズレリスク」を事前情報として共有し、要求仕様・許容範囲を明確にする取り組みも、今後の品質保証体制には必須です。
現場で使えるラグラン印刷治具・テンション管理の実践Tips
最後に、即現場で実践できる小技をいくつかご紹介します。
養生テープによる一時固定と基準点マーキング
ラグラン脇下や袖口など、生地滑りやすい部位には低粘着の養生テープを一時的に貼って仮固定する方法が効果的です。
また、治具上に分かりやすいマーキングを行うことで新人さんでも迷わず置き作業を進められます。
テンションテスターの活用
手作業でのテンション管理に悩んだら、市販の簡易テンション測定器や引張バネ計を用いて基準値を数値で共有しましょう。
「指先感覚」をデータ化できれば多くの作業者での再現性が高まります。
治具メンテナンスの徹底
生地が滑る、引っかかるなどの不具合は治具表面の摩耗や汚染が原因のこともあります。
定期的な表面清掃・磨き・シリコンシートの交換で、摩擦係数を最適に維持しましょう。
まとめ:ラグラン袖の印刷品質向上は現場の工夫から
ラグランTシャツの袖ズレを防ぐためには、治具固定とテンション方向管理の徹底がカギとなります。
現場の「勘と経験」をいつまでもブラックボックスにせず、形状工夫やデータ化により誰もが“職人級”の工程を再現できる仕組み作りが重要です。
また、バイヤーとサプライヤーの立場を超え「袖ズレリスク」を共有し合う、新時代のパートナーシップも求められます。
昭和の良さ、令和の新しさを融合させ、真に現場に根付く改善事例をぜひあなたの工場にも持ち帰っていただきたいと思います。
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