投稿日:2025年11月14日

熱可塑性複合材料事業におけるグローバル展開と合弁会社設立の実践知

はじめに

熱可塑性複合材料は、近年世界中の製造業において注目を集める先進素材です。
軽量性や成形性、リサイクル性の高さから、自動車、航空宇宙、電子機器、建材など幅広い産業で利用が拡大しています。
市場のグローバル化が進む中、多国籍展開や現地ニーズへの即応、さらには技術・ノウハウの共有が重要になっています。

私自身、国内大手製造業に20年以上携わり、調達・購買、生産管理、品質管理、複数の合弁事業の立ち上げも担当してきました。
本記事では、昭和から令和へと変わりゆく製造業界の現状認識や、アナログ体質に根差した現場目線も交えて、熱可塑性複合材料事業のグローバル展開と合弁会社設立について実践知を共有します。

熱可塑性複合材料のグローバル市場動向

拡大する市場規模と技術革新

世界の熱可塑性複合材料市場は、年率7〜10%という高い成長率が続いています。
自動車分野では電動化や軽量化ニーズの高まりに応じ、金属の代替素材として積極的に採用されています。
特に欧州では、環境規制の強化によりリサイクル可能な熱可塑性複合材料の人気が高まっています。

一方で、加工技術や素材組み合わせ・設計技術も著しく進化しています。
SMC、GMT、CFRTPなどの成形技術や、複数素材の複合化技術が競争領域となっています。
先端メーカーの多くは、研究開発と生産現場の両輪でさらなる高付加価値化を目指し、グローバル規模で人材・知見の統合を進めています。

日本市場の独特な事情

日本では、依然として保守的な導入判断や長期的なサプライヤー選定が主流で、「ものづくり品質」へのこだわりも根強いです。
また、「現場力」「暗黙知の共有」「ちょっとした工夫での小改善文化」がいまだに多く残り、デジタル化や新興国流のフレキシブルなマネジメントが遅れていることも否めません。

ただしこの独自性が、世界に追随されにくい帯域の高品質ビジネスや、ニッチ分野でのブランド力につながっているのも事実です。
グローバル展開時には、日本ならではの「現場起点の品質思想」や「品質保証プロセス」を武器としてアピールすることも重要になります。

グローバル展開のメリットと課題

メリット:新市場の獲得とコスト競争力

グローバル展開の大きなメリットは、従来の枠を超えた新興市場へのアクセスと、現地調達などを活用したコスト競争力の獲得にあります。
例えば、東南アジア・中国・インドなど新規需要が期待できるエリアに、生産・開発拠点を置くことで、新規顧客開拓や現地ニーズにきめ細かく対応できます。

また、原材料の調達・物流もグローバル調達化が進んでおり、コスト面やBCP(事業継続計画)でも一定の安定性をもたらします。
多様な人材・知見の融合によるイノベーション創出が期待できるのも大きな利点です。

課題:品質保証・人材育成・組織文化の壁

課題としては「日本と同等の品質保証体制をどう構築するか」「現地スタッフのマインドセット」「語学・文化の違い」を挙げる現場が多いです。

特に熱可塑性複合材料のような高度技術領域では、ちょっとした作業手順や品質基準の認識差が重大な問題につながることもあります。
日本の本社のやり方をそのまま現地に押し付けても機能しませんし、逆に現地基準に合わせすぎるとブランド価値を損なうリスクもあります。

現場の肌感覚で言えば「すり合わせ力」「人と人の信頼関係構築」「細かい作業手順の“なぜ”伝達」を地道に積み重ねるしかない部分が大きいと感じます。
合弁相手国の工場文化、教育レベル、リーダーの人間力が成否を分けるといっても過言ではありません。

合弁会社設立の現場プロセス

戦略的視点:なぜ合弁会社なのか

海外での合弁会社(ジョイントベンチャー、JV)設立は、資本・リスクを分担し、現地ネットワーク・市場進出を素早く行う手法として有効です。
現地有力企業とのJVでは「顧客・サプライヤーとの太いつながり」「法規制・文化風習への対応力」「現地人材の確保」など多くのメリットがあります。

日本企業単独の進出では乗り越えにくい「現地ならではの壁」をJVパートナーが補完してくれます。
また、合弁設立は撤退や縮小、方向転換の柔軟性も高いです。

合弁パートナーの選定基準

私自身が現場で意識してきたのは、単なる「取引先としての相性」だけでなく「経営の価値観」「現場の品質意識」「細かなトラブル時の誠実な対応力」を重視する点です。
特に熱可塑性複合材料の現場は素材特性や加工プロセスに知識が必要なため、技術レベル・教育体制まで見極める必要があります。

最近では現地パートナーの「サステナビリティ志向」や「デジタル化の推進力」、カーボンニュートラル対応の本気度もポイントです。
パートナー選定時には現場見学・工程監査・管理職へのインタビューを必ず実施し、腹を割って課題や将来ビジョンについて語り合うことが大切です。

設立から稼働までの現場運営ノウハウ

合弁設立後に苦労するのは「日本式の細かい品質管理」「現場目線での問題発掘・改善」を現地スタッフに“腹落ち”させることです。

現場でよく行ったのは、「やってみせる」OJTスタイルの教育、「ヒヤリ・ハット」や「4M変化」の記録を共有・習慣化すること、日本語・現地語両方で手順書・標準書を用意することでした。
また、現地リーダーに日本側で数か月間“研修留学”してもらい、日本人社員と寝食を共にし“現場の空気”を実体験してもらうことも有効でした。

品質クレームや納期遅れが発生した際は、現場の担当者本人だけでなく、その周辺の工程リーダーや管理職とも“会話ができる関係性”を築いておき、組織をまたいだ再発防止策を徹底します。
「手順を守らなかった」の背景には、言語化されていない現場の“ストレス”や“気付き”が隠れていることも多く、日本の“がまん文化”と、海外の“自己主張文化”の違いを丁寧に分析する必要があります。

アナログ体質を強みに変える

現場力の可視化と横展開

古くから製造業に根付く「現場力」は、世界でも通用する大きな強みです。
たとえば、日々のミーティング、問題発生時の即時対応、地道なカイゼン活動、そして「勘とコツ」を言語化・可視化していくプロセスは、複合材料のような難易度の高い現場で特に活きます。

このアナログ文化をグローバル現場でも共有するためには、「なぜこれが大事なのか」をしつこいほど説明し、体感させることが重要です。
また、現場のQCD(品質・コスト・納期)指標やカイゼンの実績数値を“見える化”して発信し、現地拠点間でのベンチマークや競争を促すことが効果的です。

昭和のやり方から新しい地平線へ

一方で、IoTやデジタルツイン、生産性指標の自動蓄積・解析といった「デジタル力」と「現場力」をどう融合させるかがこれからのカギになります。
デジタル現場ではヒヤリ・ハットや設備稼働率の自動記録、AIによる不良品解析などがスタンダードになりつつあり、現場スタッフにも基本的なデジタルリテラシーが不可欠です。

管理職自身が泥臭く現場を歩き、デジタルデータを、従来の“目視”や“情報交換”と組み合わせて考えることで、昭和の知恵が令和の現場でも輝きます。
経験者だからこそできる「ラテラルシンキング=“例外を例外で終わらせない深読み現場感覚”」が、合弁現場の実力向上に寄与します。

まとめ:未来を切り拓くグローバル現場力

熱可塑性複合材料事業のグローバル展開と合弁会社設立には、多様な現場課題と成長機会が共存します。
日本的な現場力・カイゼン文化は、今こそ新しい地平線を切り拓くための武器となります。
デジタルの力を恐れず、現地スタッフとの trust を育みながら、「なぜこうするのか」を粘り強く現場で語り続けていきましょう。

製造業の現場がグローバルで進化し続け、日本発のイノベーションが世界市場で輝くことを心より期待しています。

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