ポスター印刷でグラデーションを再現する網点設計とスクリーン角度

はじめに―ポスター印刷に求められるグラデーション表現力

ポスター印刷は、商品訴求や企業ブランディングの要として重要な役割を担うツールです。
その仕上がりで特に注目されるのが、滑らかなグラデーション表現です。
グラデーションが美しく再現されているかどうかは、デザインそのものの印象に直結し、見る人の心を動かす力となります。

しかし、実際の現場では「思ったほど色が滑らかにならない」「ムラが目立つ」という悩みも多く耳にします。
この課題を解決する鍵が、アナログ印刷技術の核である「網点設計」と「スクリーン角度」の最適化にあります。
本記事では、確かな現場目線と最新業界動向を交えながら、誰でも実践できるノウハウをわかりやすく解説します。

網点（アミテン）とは何か―グラデーションの基礎原理

“色の濃淡”は小さな点の集まりで表現される

一般的なオフセット印刷やシルクスクリーン印刷では、フルカラー画像は「網点」と呼ばれる微細な点の大小・密度によって再現されています。
この手法を「ハーフトーン」と言い、元画像の濃淡部分を細かな点として分割することで、視覚的になめらかなグラデーションを作り出しています。

濃い部分は網点が大きく密度も高く、薄い部分は網点が小さく間隔も広くなります。
肉眼では一見わからなくても、ルーペ等で観察すると無数の点で構成されているのがわかります。

楽器で言えば“音の粒立ち”を整える作業

現場感覚で例えるなら、網点は楽器の音の粒立ちに似ています。
いかに精密に、しかし美しく「違い」を響かせるか。
乱雑な網点では“ノイズ”となり、きれいなグラデーションに仕上がりません。
網点設計とは、画像という楽譜を滑らかに奏でるための指揮でもあります。

グラデーション再現の難しさ―昭和から続く“ムラ問題”とは

アナログ領域の壁：「モアレ」と「バンディング」

グラデーション表現時に起こる代表的な印刷不良が「モアレ」と「バンディング」です。
モアレは、規則的なパターンが干渉し合い波紋のような模様が現れる現象です。
バンディングは、なだらかに変化するはずの色調が段階状に分かれて見えてしまう問題です。

昭和世代の現場では「目立たない角度にしろ」「あんまり細かけりゃ潰れるぞ」といった経験則で乗り切るケースが多く、根本的な設計までは踏み込めずにいました。
しかし、時代は変わり、デジタル処理やハイブリッド印刷の台頭で品質への要求レベルが飛躍的に高まっています。

バイヤー・サプライヤーの視点の違いとは

部材調達や外注先選定を担当するバイヤーは「とにかく安定的で再現性が高い印刷」を求めます。
一方サプライヤー側は「価格やリードタイムに現実的な落としどころ」を探します。
両者が納得する「美しい表現×量産安定」の両立が、まさにこの網点・スクリーン角度の設計にかかっています。

現場が教える実践ポイント―網点設計のコツ

1. 網点形状の選択（ラウンド型、楕円型、ライン型）

最もポピュラーなのはラウンド（円形）型ですが、グラデーション部分のトーンジャンプを減らしたい場合や、特定の色で階調をなめらかにしたい場合には楕円型やライン型の網点も有効です。
特に顔料が詰まりやすい濃色・淡色部で形状を調整することで、ムラを大幅に軽減できます。

2. 網点線数（lpi）の最適化

線数（lpi＝lines per inch）が細かいほど高精細な印刷になりますが、用紙やインク、印刷機の性能とマッチしない場合は逆効果です。
現場では「185線が標準、写真主体なら200線、けど和紙系だと粗い175線程度」という具合に、紙質・インク・画像内容で最適値を選定します。

3. 中間階調の“立ち上げ”テクニック

グラデーションの始点・終点では網点が極端に小さくなり、版の再現性に限界が出る場合があります。
ここで「ベタ立ち上げ」や「ダブルドット方式」など独自の階調カーブを設計することで、トーンジャンプを防ぎなめらかさをキープできます。

スクリーン角度の意味と設計の実際

スクリーン角度って何？

網点を紙面上に配置する際、その“傾き”＝スクリーン角度がグラデーションや色鮮やかさへ影響します。
4色（C・M・Y・K）それぞれの網点を同じ角度で重ねると、規則的な干渉＝モアレが発生します。
これを避け、各色の網点が目立たないように分散配置するのが「スクリーン角度設計」のポイントです。

一般的な理論値と、実践での微調整

原則的な設計例は
・C：15°
・M：75°
・Y：0°
・K：45°
です。

しかし、実際の現場条件（印刷機の癖、紙送り方向、見え方の好み）によっては微妙なアジャストも重要になります。
「微妙に45°よりズラしたらモアレが消えた」「インテリアポスターならむしろ45°固定で視認性重視」など、現場では経験値と実践検証が両輪となります。

具体的な現場ノウハウ事例―この違いが品質の分かれ道

印刷物検版と現場フィードバックの重要性

印刷は一発勝負ではありません。
現物印刷でグラデーション部分をルーペで確認―帯状のムラや粒立ちが目立てば、網点設計やスクリーン角度の微調整を重ねます。
定期的にサンプル検版と現場フィードバックを繰り返すことで“予想外の不良発生”を最小限に抑えられます。

“バイヤーの要求”を逆算して設計するクセを持つ

バイヤーが納得する品質とは「どんな場所でもムラなく・いつ見ても同じ発色」であること。
そのためには印刷時の再現性＝誰が印刷してもブレが出ないパラメータ設計がカギとなります。
「今月はC刷りが濃くでる」「冬場はインク乾きが遅い」等、現場ならではの日常データをもとに設計値を少し“遊ばせる”余裕も必要です。

バイヤー・サプライヤーの距離を埋める―現場連携最適化のすすめ

昭和から令和へ、印刷現場も急速にデジタル化が進んでいます。
しかし、アナログ臭の残る製造業ならではのノウハウや、現場勘も依然として強い力を持ちます。
バイヤーとサプライヤー双方が定期的に「効果検証会」や「意見交換MTG」を設け、現物ベースで目標と仕組みを共有することで、品質事故や無用なトラブルを大幅に減らすことができます。