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特殊素材(フェルト・帆布)に印刷する際のインク選定と乾燥法

目次
特殊素材(フェルト・帆布)印刷の現場課題
製造業の現場では、商品の高付加価値化や差別化のために、特殊な素材への印刷ニーズが高まっています。中でも、フェルトや帆布は独特の風合いと優れた物性により、各種インテリア製品や工業用途で幅広く使用されています。
しかしながら、紙や一般的なプラスチック素材とは異なり、フェルト・帆布のような多孔質で厚みのある素材に印刷する場合、従来のインク選定や乾燥方式では課題が山積しています。
昭和から続くアナログな手法では、十分な密着性や耐久性、そして量産効率が確保できないケースも多々あります。
本記事では、約20年にわたり製造業の調達・生産管理・品質管理・自動化に携わってきた現場視点から、特殊素材への実践的な印刷プロセスの核心に迫り、最新動向や今後の選択肢について深掘りしてまいります。
フェルト・帆布の素材特性とその影響
フェルトの特徴と印刷への影響
フェルトは、羊毛や合成繊維を絡み合わせて圧縮した不織布です。
表面の繊維の立体構造、そして弾力性や吸水性に富む点が特徴です。
このような立体的で粗い表面はインクの「にじみ」を引き起こしやすく、また素材自体がインクを吸収するため、鮮明な発色や高精細な印刷が困難となる場合があります。
また、水分を含みやすい性質から、乾燥プロセスにも注意が必要です。
帆布の特徴と印刷への影響
帆布(キャンバス)は、綿やポリエステルなどで高密度に織られた丈夫な布で、耐摩耗性や強度に優れています。
しかし、織目が凹凸を形成しており、表面の平滑度が低いため、インクの乗りやすさや乾燥ムラ、摩擦による色移りといったリスクをはらんでいます。
また、用途によっては撥水・防炎加工が施されることもあり、これらの後加工がインクとの相性に大きく影響します。
インク選定の実務ポイント
現場では、「インクが乗ればいい」という単純な話ではありません。
耐洗濯性・耐摩耗性・発色性・生産コストなど、様々な観点で最適なインク選びが求められます。
1)水性インクとその適性
フェルト・帆布への印刷で広く採用されるのが水性インクです。
ナチュラルな風合いと、柔軟な印刷面、低コストが魅力です。
水性インクは、フェルトや綿帆布の繊維へよく馴染みます。
ただし、にじみやすいため高精細な印刷には注意が必要です。
また、吸水性素材に対しては速乾性を持たせる処方(高分子バインダーの含有等)が必要です。
高品位・量産目的には、プリント後の「加熱定着」が不可欠となります。
2)溶剤系インクの事例
耐候性や耐水性が求められる工業用途・屋外用バナーなどには、溶剤系インクも選択肢となります。
溶剤インクは繊維への吸収性が低い素材でも優れた密着性と耐久性を発揮しますが、有機溶剤の揮発臭や作業環境への配慮が必要です。
また、素材の種類や防炎・撥水加工によってインクの乗りやすさが異なるため、「捨て刷り」や試作検証が必須となります。
3)UV硬化型インクの新潮流
最近の業界動向で注目されるのが、UV硬化型インクです。
紫外線を当てることで瞬時に硬化する特性から、にじみのないクリアな発色と高い工程効率を実現します。
従来は平板やプラスチック対象が主流でしたが、インク自体の柔軟性や追従性が向上し、帆布のような布地にも応用が拡がっています。
ただし、素材削れ・カール・ひび割れリスクといった点は、事前の試験による検証が重要です。
4)昇華転写インクと組み合わせ用途
ポリエステル混帆布・フェルトなどには、昇華転写方式も有効です。
一旦紙に染料インクで転写し、その後しっかりと加熱・加圧して布に染着させるため、表面にインク層が残らず「染み込み型」の鮮やかな発色が得られます。
プリントTシャツやオリジナルトートバッグなど、グッズ加工でもよく利用されています。
乾燥・定着工程の最適化
印刷工程が終わった後の乾燥・定着が最も重要なポイントです。
ここを怠ると、せっかくきれいに印刷しても色にじみ・ベタつき・耐久性不良につながります。
自然乾燥とその課題
少量・多品種のカスタム加工では自然乾燥(置き乾燥)も多くみられます。
ですが、多孔質なフェルトや厚手帆布では内部までインクが残りやすく、完全乾燥に長時間を要するのが課題です。
特に梅雨時や換気不良な工場では、乾燥ムラやにじみが発生しやすい点に注意が必要です。
熱風乾燥・アイロンプレスの効果
工業ラインや量産においては、熱風乾燥機や連続加熱装置の導入が定番です。
水性インクの場合、150℃前後で30秒~1分間程度加熱することで、バインダー成分が繊維としっかり結合し、耐洗濯性・耐摩擦性が飛躍的に向上します。
小ロットや特殊形状品では、アイロンプレス(プレス機)を活用することで、安定した乾燥・定着品質が得られます。
UV照射・瞬間定着の最新動向
UVインクでは、専用のUVランプやLED照射装置によって“瞬時に”硬化層が形成されます。
乾燥時間を大幅に短縮でき、年々生産性が向上しています。
厚手帆布では多段照射(多回数UV露光)によって内部までしっかり硬化させる工夫が必要です。
また、UV照射時の熱変形や黄変を防止する目的で、最新では低温硬化型インクや温度上昇制御システムも活用されています。
現場で起きがちなトラブルとその対応策
特殊素材ならではのトラブルに対する現場ノウハウは、高付加価値化・高品質化に不可欠です。
インク移り・乾燥不良トラブル
乾燥不足でインクが移る場合は、乾燥工程の温度・時間見直し、もしくは素材側の含水率管理が効果的です。
また、「離型紙」を活用した工程管理や、途中検査による不良流出防止も現場では重要です。
色ムラ・印刷抜けの改善例
厚手素材ではインクの流動性・バインダー配合を最適化するとともに、「下塗りプライマー」や「下処理剤」(インクレセプター)を用いる方法も近年一般化しています。
これにより色ムラやインク抜けを低減できます。
従来の技術にとらわれず、「工程ごとのデータ管理」や「AI外観検査装置」の導入といったデジタル変革も今後の重要課題です。
耐摩耗性・耐水性を高めるアフタープロセス
十分な乾燥後、アクリル樹脂などを組み合わせたトップコート工程や、撥水・防汚剤の後加工を組み込むことで、より高い耐久性・実用性を持たせることができます。
この工程はコストやライン設計とのバランスを見つつ、顧客ニーズや最終用途に応じて最適化しましょう。
調達・バイヤー目線とサプライヤーが知るべきこと
バイヤーとしては、「どのインク、どのコストで、どんな乾燥工程を望んでいるか」を明確にサプライヤーに伝えることが肝心です。
少量多品種、短納期、耐久性要件など、「現場の本当の課題」を原価構造とセットで伝えることで、提案力あるサプライヤーを選別できます。
また、サプライヤー側の立場では、「この素材、このインクにはこの乾燥が必須」というアドバイスや、「試作段階から協働する姿勢」が長期取引の信頼を勝ち取ります。
最近は、製造現場からのフィードバックを設計に迅速に反映する、デジタルツインによる検証や遠隔モニタリングの力も高まっています。
まとめ:アナログ業界からDX化へのヒント
フェルト・帆布への印刷は、今も現場力や熟練ノウハウがものを言う領域ですが、最新のインク選定や乾燥技術、AIやIoTによるライン最適化が「昭和方式から令和基準」への進化を加速させています。
バイヤー・サプライヤーの双方が工程全体の知見を共有し、「付加価値の高い特殊素材印刷」を実現すれば、製造業全体の発展にも寄与できます。
本記事を参考に、現場課題の発見と解決、さらには自社のブランディング力強化につなげていただければ幸いです。
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