投稿日:2025年11月21日

防衛・情報通信分野における技術連携と次世代インフラ開発の方向性

はじめに

防衛・情報通信分野は国家の安全保障と社会インフラの根幹を担う重要な産業です。
近年、AI・IoT・5G・クラウド・量子技術など次世代技術の登場により、両分野の融合が急速に進んでいます。
世界の安全保障環境は大きく変動し、日本の製造現場も守りから攻めのイノベーションへの転換を迫られています。

私は製造業の現場で20年以上にわたり購買、生産管理、工場長経験を積んできました。
本記事では、現場目線で「防衛・情報通信分野の技術連携」と「次世代インフラ開発」の動向、課題、バイヤー・サプライヤーの最新戦略について深く解説します。

防衛・情報通信分野における最新動向と技術融合の重要性

世界的な地政学リスクと防衛産業のシフト

ロシア・ウクライナ戦争、米中対立、サイバー攻撃の頻発——。
これらの背景から、世界各国は従来の「武器中心」から「防御・情報+同盟ネットワーク」へ防衛戦略を転換しています。
センサー、情報通信、AIによる解析、無人ドローン、衛星通信の適用や、陸海空に閉じないマルチドメイン対応が進んでいます。

日本も2022年の安保三文書策定以降、防衛装備のスマート化・ネットワーク化を国家プロジェクトとして推進しています。
これにより部品・システム調達の在り方が根本的に変わりました。

情報通信インフラの進化と防衛の一体化

5G・ローカル5G・衛星通信・クラウド基盤の導入が急速に進んでいます。
重要インフラ(電力・交通・通信)は95%以上が民間設備で構成されており、防衛と民間のセキュリティ要件の垣根が取り払われつつあります。
サイバー防衛・エネルギーネットワーク、災害時のレジリエンスにも直結するトピックです。

情報通信インフラの「オープン化」(グローバル標準・民間ノウハウの活用)と「セキュリティの堅牢化」が同時に問われているのが現代の課題です。

技術連携の事例と現場の課題

先進事例:日系サプライヤーのチャレンジ

例えば、ある中堅電子部品メーカーでは、防衛省向けのセンサー/通信モジュール開発で「民生ノウハウ×厳格な防衛要件」にチャレンジしています。
具体的には、バイヤー(調達側)の要望を先読みし、「冗長化」「耐環境性」「長期供給」に対応した部品設計や、トレーサビリティ/品質文書のデジタル化に取り組んでいます。

また大手SIerは、観測衛星の大容量データ伝送、指揮通信の暗号化、現場のワイヤレス化(ローカル5G)など防衛と通信の融合領域のソリューションに力を入れています。
これらはサプライチェーン全体に対し、これまでにないベンダー間連携が求められています。

泥臭い現場課題:守秘義務と技術情報の流通

昭和時代からの防衛産業は「閉じた情報」「紙ベース」「担当者間の阿吽の呼吸」で回ってきました。
今も多くのメーカー現場では、設計図の郵送・現物受け渡し・パス付きファイルの手動受け渡しが根強く残っています。
しかし現代のDX化・IT武装のカギは、「守るべき情報」と「連携・開示すべき情報」の峻別とスムーズな流通です。

現場としては
– バイヤーの要求がブラックボックス化しやすい
– 開示すべき技術範囲、秘密保持範囲のすり合わせに苦労する
– 防衛案件は長期継続だが、市場部品のEOL(供給終了)が加速し調達が難化する

など、泥臭いアナログ課題が依然として横たわっています。

次世代インフラ開発の方向性

オープン&モジュール化戦略

これまで大手メーカーによる「垂直統合型」のインフラ開発が主流でした。
今後は、
– 業種横断(自動車✕半導体、防衛✕民間通信など)
– グローバル標準準拠
– サプライヤー間の「リファレンスモデル」共有
– 複数ベンダーが相互運用可能なアーキテクチャ

など、「オープン&モジュール型」の発想が不可欠です。

例えば量子暗号通信ネットワークでは、「民間クラウド事業者×大学×防衛研究所」など跨る連携が求められており、サプライヤーにも国際標準対応力と交渉力が試されます。

人材育成&ダイバーシティの推進

先進国の研究者・高度スキル人材は圧倒的に不足しています。
バイヤー/メーカー/現場担当者も「多能工化」(複数技術・複数業種理解)の推進や、自前主義から他流試合を奨励する社風改革が急務となっています。

具体的には
– 現役技術者へのDX教育(AI・ビッグデータ・セキュリティ)
– サプライチェーンの多様化(女性・外国人の活用)
– 官民のスキルシェアリング

など、長期視点での人材戦略が差を生みます。

バイヤー・サプライヤーが知っておくべき最新トレンド

「アジリティ」と「レジリエンス」調達への変化

これまで大規模発注・長期契約がデフォルトだった防衛系調達も「機動性(アジリティ)」と「供給柔軟性(レジリエンス)」が重視されています。

コロナや地政学危機時、品薄・価格高騰・海外部品輸入滞りの対応を経験し、「冗長な在庫」「マルチベンダー発注」「国内サプライヤー重視」へトレンドが変化しています。
現場力としては
– サプライヤー間で部品互換性の事前検証
– リスクシナリオごとの調達BCP構築

が不可欠です。

サイバーセキュリティとバリューチェーン管理

DX化が進む一方、工場・ベンダーごとのサイバーリスク評価、IoTデバイス~クラウドまで含めたセキュリティ対策が必須になっています。
2022年以降、防衛省・情報通信事業者ともベンダー監査やサプライチェーンセキュリティ認証(CMMC、NIST SP800-171など)が発注条件になるケースが増加。
バイヤー側は「全サプライヤー監査」「情報共有プラットフォームの導入」など、手間とコストをかけた上で安心網をつくっています。

サプライヤーにとっても「守るべき守秘情報」「開示すべき技術範囲」を見える化し、全社でサイバー対策に注力することがビジネス参入の最低条件となりつつあります。

昭和アナログ業界から次世代型への脱皮

現場ではDXやIT化への抵抗や「前例踏襲文化」「トップダウン指示」の壁が未だ根強いです。
しかし、世界のインフラ需要や防衛・通信の融合領域は年々拡大。
国際競争力の観点では「旧態依然」を脱して、バイヤー/サプライヤーどちらも現場目線での自律・共創が求められます。

一例として、現場の声レポートやIoTデータを管理部門・バイヤーとリアルタイムで共有、設計変更や新規技術要件を即座にキャッチアップする仕組みを持つことが強みになります。
また、技術者同士の他社交流、グローバル展示会・ITベンチャーとのコラボを現場に浸透させることで、ラテラルな発想、新しいビジネスモデル創出の土壌が育ちます。

まとめ

防衛・情報通信の技術連携、次世代インフラ開発は今まさに「産業構造の大転換期」です。
昭和から平成、令和へと現場は大きく変革していますが、求められるのは泥臭い実務力と、新しい発想力の両立です。

製造・調達、バイヤー・サプライヤーが共通の課題意識を持ち、オープンな対話・情報連携・人材育成・リスク管理を強化することで、日本の強みを世界で活かすことができます。

現場の知見を活かし、これからも目の前の課題に正面から取り組みつつ、業種・世代を超えたイノベーションを共に切り拓いていきましょう。

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