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OEM製造に向く工場・向かない工場の判断軸

目次
はじめに:OEM製造と製造現場の現実
製造業の現場で「OEM(他社ブランドによる受託製造)」というキーワードを耳にする機会は年々増えています。
市場の変化やサプライチェーンの多様化によって、単なる部品供給から“自社の箱に相手の商品を詰める”役割まで、OEMの担う領域は拡大しています。
一方で、実際にOEM製造を請け負うか否か、その判断に悩む工場やバイヤーの担当者も少なくありません。
昭和から変わらぬ製造現場の空気が根強く残る業界で、OEM製造ならではの視点が浸透し切っていないのも事実です。
本記事では、20年以上OEM案件の現場で培った知見をもとに、「OEM製造に向く工場・向かない工場」の根本的な判断軸と、業界動向・現場目線の実践的なポイントを整理します。
OEMの案件を発注するバイヤーにも、受託側サプライヤーにも有益な観点がありますので、自社の立ち位置確認にもご活用ください。
OEM製造の特徴:責任範囲と柔軟性
OEMとは、Original Equipment Manufacturerの略です。
発注者(バイヤー)のブランド名で、受託側のサプライヤーが設計や製造の全部または一部を担うビジネスモデルです。
この構造上、「OEMを手掛けること」による工場の負担・リスク、運用面で求められる特性は通常の自社ブランド品とは大きく異なります。
求められる責任と裁量のバランス
OEMの場合、責任の所在がどこまでで、どの程度の裁量が発注側・受託側に与えられるかは多面的です。
企画段階から開発や設計支援も請け負うフルOEM、途中から量産のみを担当するパーシャルOEMなど、案件によって求められる役割は異なります。
工場側がどこまで巻き取れる体制か、得意なフィールドはどこかを客観的に俯瞰することは、受託可否判断で非常に重要です。
柔軟性の重要性と落とし穴
OEMでは、発注側ごとの細やかな指示変更やイレギュラー対応、時には自社流儀を抑えて相手の“流儀”に合わせる必要があります。
自社製品群を長年変えずに造り続けてきた現場ほど、「変化許容度」の低さがOEM失敗の一因となります。
しかし、「なんでも言う通りにすれば良い」と安易に受けると、品質責任や納期問題の火種にもなりかねません。
いかに自工場の柔軟性や標準化運用を見極めるかが分水嶺となります。
OEM製造に向く工場の5大判断軸
では、実際に「OEM製造に向く工場」はどんな特徴・条件を持っているのでしょうか。
現場目線のリアリティとバイヤーが重視するポイント、双方を意識して5つの判断軸を整理します。
1.工程の標準化・多品種対応の慣れ
OEM案件は発注者ごとに細かな仕様変更や少量多品種のオーダーが増えがちです。
生産管理・工程設計・部材手配などが標準化されている工場は、こうした事態にもスムーズに対応できます。
例えば「段取り替え」「ロット切り替え」「生産計画変更」などの運用マニュアル・ITシステムが現場に浸透しているかを点検しましょう。
逆に、長らく単一品種の大量生産に特化してきたライン、職人技頼みで工程をブラックボックス化している工場は要注意です。
2.技術サポート体制と開発シナジー
OEM案件は発注先のブランドイメージや設計思想を理解し開発をサポートできる技術商談力も重要です。
打ち合わせの場で「図面の行間」や「発注意図」を汲み取り、時には“設計者視点”で意見する技術営業・製造技術者の存在が不可欠になります。
工場内に品質保証や開発部門が併設されているか。
階層横断で設計者と現場がやり取りできるか。
こうした社内体制がOEM力の土台となります。
3.品質保証体制と不良流出防止力
OEMにおいて不良品流出は、発注ブランド全体の信用失墜につながるため、バイヤー側の審査も厳格です。
ISO9001など品質管理国際規格の認証取得だけでなく、現場レベルのトレーサビリティ・原因究明・改善体制が求められます。
特に、多品種少量ロットの頻繁な切替時における“初物リスク”管理や、不良連絡時の初動レスポンスなど、運用面の体制も問われます。
定期的な現場パトロールや4M(人・機械・材料・方法)変更時の要因管理ノウハウがどこまで蓄積されているかが分かれ目になります。
4.力量のある現場リーダーと職場の風土
OEMは、発注者独自の要望や新たなチャレンジ案件も多く、「前例がない仕事」にトライし続ける精神的余裕と経験が必須です。
本来なら自社ブランドの方が優先される現場で、納期や個別仕様の調整などイレギュラー対応を粘り強く回せる現場リーダーの有無。
また、「責任と権限」のバランスを持ったボトムアップ型の風土が育っているかも重要な判断軸です。
発注者・サプライヤー双方が“困りごと”を本音で語れる文化がある工場は、OEM対応力が高い傾向にあります。
5.情報セキュリティと知的財産管理
OEM案件でしばしば問題視されるのが「情報漏洩」「コピープロダクト」など知的財産に関する事故です。
発注者サイドからは、「新製品情報がライバルに流れないか」「設計図や仕様書が社外流出しないか」「下請け先で同型類似品を勝手に作られないか」といった不安が常にあります。
工場として、セキュリティポリシーの教育や社内外の関係者への契約(NDA等)の徹底、IT/紙資料含めた持ち出し制限が実施できる体制かどうか、この観点もOEMビジネスを始める上で欠かせません。
向かない工場の典型パターンとその背景
一方、「OEM案件に向かない工場」の特徴も明確にあります。
現場でみられる典型パターンと、その背景をご紹介します。
ワンマン経営と属人化が進む現場
ベテラン職人の技術と暗黙知頼りで、工程標準化やマニュアル整備が進んでいない現場は、個別案件(OEM)のたびに混乱しやすい傾向があります。
また、経営方針が「うちはウチのやり方でしか作れない」「OEMはややこしいから断る」といった保守的判断が強い場合も、リスクへの備えが十分とは言えません。
製品の独自性・技術の“独りよがり志向”
長年培った特殊な技術や製品で競争力を持っている工場ほど、「自社流儀」や「技術の囲い込み」に固執しがちです。
OEM側からの新たな提案や市場要望に柔軟に応えられない場合、発注者からも敬遠されがちになります。
アナログな仕組みから抜け出せない
未だにFAX・手書き台帳・電話連絡のみに頼った情報管理、Excel台帳による部材管理、ペーパー保存の作業指示書など“昭和流”が根強く残る工場では、OEM案件の複雑化やバイヤーのデジタル化要望に追いつけません。
デジタルデータ連携・ERPシステム化や現場IoT化が進んでいない工場は、今後さらにOEMの案件受注が難しくなるでしょう。
時代とともに変わるOEMの“理想像”
近年、製造業のバリューチェーンはデジタル化・グローバル化が進み、OEM案件の面でも大きな転機を迎えています。
量産型OEMから高付加価値型OEM、協業型ODM(設計製造受託)まで、多様なパターンに分化しており、「自分たちの立ち位置を定期的に確認する」習慣が求められる時代です。
バイヤー側の課題:選定力と共創意識
バイヤー視点でも、発注先の工場を“価格”や“納期”だけで安易に選ぶのではなく、
・現場の柔軟性
・技術サポート能力
・経営層も含めた協力体制
・情報セキュリティやCSR
といった「目に見えない力」まで総合的に評価する必要性が高まっています。
「作ってもらう」だけでなく、「ともに創る」パートナー意識を持つことで、双方の持続的競争力向上につながります。
サプライヤー側の課題:自覚と進化への対応
サプライヤーとしての工場も、「一丁噛み」「とりあえずやってみる」受け身姿勢から脱却し、
・自社はどのスタイルのOEMが最も得意か
・現場力と付加価値提案力の差別化
・最新ITや自動化投資による競争優位
を戦略的に考え、現場・経営一体となって継続的な進化を図ることが今後欠かせません。
まとめ:変化を恐れず、“自分たちの判断軸”を再点検しよう
OEM製造への可否判断は単なる「できる・できない」ではなく、“自社らしい勝ち筋”を明確にして、その軸に基づき判断することが重要です。
現場の柔軟性、工程の標準化、多品種対応力、技術サポート、品質保証体制、情報管理――これらを横断的にチェックし、足りない点はアップデートする。
昭和流から抜け出せない現場も、一歩を踏み出すだけで未来のOEMニーズに応えうる進化が始まります。
バイヤーもサプライヤーも、「自分の立場なら、どの判断軸が一番大事か?」を今一度点検し、OEMの可能性を最大化するための一歩につなげていきましょう。
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