投稿日:2025年12月1日

アウターOEMの生産現場が嫌う仕様書の書き方と正しい伝達方法

はじめに:なぜ仕様書が現場を混乱させるのか

製造業の現場において、仕様書は製品の品質・納期・コストを左右する極めて重要なドキュメントです。
しかし、アパレル分野、特にアウターOEMの生産現場では「仕様書が分かりにくい」「同じ内容なのに表現が毎回変わる」「追加指示や修正が後出しで来る」といった、深刻な問題が蔓延しています。
これは、調達購買担当・バイヤー、または設計者から現場への情報が十分に伝達されず、余計な手戻りやトラブルを引き起こす原因となっています。

この記事では、そうした生産現場が嫌う仕様書の書き方の具体例と、どのような伝達方法が現場理解・生産効率・品質向上につながるのか。
大手製造業での現場経験を踏まえ、実践的な視点から解説します。

仕様書が嫌われる理由、よくあるNGな記載例

曖昧な表現や主観的な言葉による混乱

実際に筆者の現場で多く見られたのは、「なるべく」「適当に」「できるだけ」などの曖昧な表現です。
例として「ボタンはなるべく目立たない色で」と記載されていた場合、現場では「何色ならOKなのか」が判断できず、調達部門と生産現場、品質管理部門を巻き込んだ「エンドレスな質疑応答」と「手戻り作業」が発生します。

このような主観的な表現は現場の混乱だけでなく、量産時のバラつきや品質検査でのトラブルにも直結します。

図面・用語の非統一で「伝言ゲーム」状態に

アウターOEMの現場あるあるですが、同じ項目なのに「部門や担当」により呼び方・書き方がバラバラなことが多く、特に海外工場や外注サプライヤーと協業すると「伝言ゲーム」が加速します。
例えば「袖口→カフ」「ポケット→ポケット口」「縫製→ステッチ」というふうに用語が統一されず、仕様書と現場の作業指示が一致せず混乱、誤生産やクレームの原因になります。

「図」「数値」「文章」がバラバラ、視覚で伝わらない

仕様書に文章だけ、あるいは数字だけ羅列されていたり、図表が小さくボヤけていたりと、
見る人によって「意図」が解釈しづらい書き方も生産現場のストレス源です。
例えば「縫い代は2cm」とだけ書けばよいのか、「図でA部は2cm、B部は1.5cm」とエリアごとに明示すべきか、現場担当者によっては全く違う理解となります。

アナログ業界に根強い「属人的仕様伝達」の弊害

昭和から続く“ベテランの口伝え文化”が生産性を下げる

日本の製造業、とくにアウター分野を含むアパレルOEMでは、かつて「ベテラン作業者の経験」で仕様の細部を補っていた時代が長く続きました。
だから細かい部分を「いつもの感じで」「あのベテランが知ってるから」と省略し、文書化せずに回す文化が根強いのです。

これにデジタル化世代や、海外サプライヤーから入った新規メンバーが混じることで“何が標準なのか分からない”“Aさんがいなければ判断不能”という属人化リスクが表面化しています。

バイヤーとサプライヤー、相互不信がトラブルを生む

「言った」「言わない」「どこまで誰が責任を負うのか」という責任分担も曖昧なまま話が進み、結果としてチェック漏れ、再作業、納期遅延、そしてコストアップへつながるケースが後を絶ちません。
バイヤー(発注側)も「伝えたつもり」サプライヤーも「聞いていない」と双方が不信感を持ちやすくなり、生産性も労働意欲も下げてしまいます。

現場に伝わる仕様書の作成・伝達ポイント

“誰が読んでもブレない”仕様書作成の3つの原則

1. 事実と数値で具体的に記載する
2. 図面・イラストを併用し視覚化する
3. 用語・表現を社内・社外間で統一する

たとえば「ボタンはダークグレー(PANTONE:18-0201)直径15mm、2つ穴タイプ」と明記し、「この色見本に現物を合わせる」と添付することで認識ずれを最小にできます。
また、名称や用語も「社内標準呼称表」を作成し、部署・会社問わず統一することが重要です。

よくある仕様書トラブル“あるある”と対応策

– 「分厚いマニュアルだが、必要な情報がどこにあるのか分からない」
– 「海外工場に伝えたが、写真・絵で送らないと通じない」
– 「新旧バージョンの区別が曖昧で、どれが最新かわからない」

こうした事態を防ぐためには、ページ番号とバージョン管理を徹底し、「変更点記録欄」を設けて誰がいつ何を変えたか一目瞭然にしておきます。
さらに、写真・動画で実物を示し「百聞は一見にしかず」でイメージを共有することも効果的です。

生産現場が求める本当に“使える”伝達方法

「一方通行」から「双方向」へ、現場のフィードバックを仕様書に活かす

最も失敗するのは、設計やバイヤーが「これが正しい」と一方的に仕様を押し付けるパターンです。
現場で実際に作業する作業員やリーダーの「作りやすさ」「安全性」「リスク」を反映し、逐次フィードバックを仕様書に取り入れる「現場巻き込み型」の運用が不可欠です。

たとえば試作品・サンプル段階で気づいた点、作業上の難易度や心配点を記録し、迅速に設計部門やバイヤーへ報告、次回以降の仕様書に反映させる運用です。

工場の自動化・DX推進と仕様共有の新常識

近年は工場のIoT化や生産管理システム(MES)導入が進み、デジタルデータで図面・仕様書が共有されるようになってきました。
PDFだけでなく、3D-CADや動画ファイル、チャットベースのQ&Aなど、様々なデジタルコンテンツとセットで仕様を伝えることが品質向上に効果を発揮しています。
また翻訳機能を併用し、海外サプライヤーとのコミュニケーションもスムーズ化。
ベテランによる口伝え文化から、ナレッジ共有・デジタル活用へと大きく変化しています。

サプライヤー・バイヤーが「互いに納得する」ための一歩

サプライヤー側ができる“仕様確認”のコツ

– 受領した仕様書をそのまま現場に渡さず、必ず「現場リーダー」と詳細確認・質疑応答を行う
– 必要に応じて自社の“要約版”仕様書を作成し、現場用・管理部門用で活用する
– 仕様不明・不明瞭点は必ず文書ですり合わせ、曖昧なまま着手しない

バイヤー側ができる“伝達力”向上の工夫

– オンラインミーティングや動画説明で「文字・図だけで伝えにくい部分」を補完する
– 海外・現場担当の視点に立ち、ローカルルールや現場知識の差も配慮する
– 意図・目的・使い方まで明示し「なぜそうするのか」背景を共有する

まとめ:昭和的アナログ習慣から脱却し、現場と共に進化する仕様書文化へ

アウターOEMをはじめとした製造業の生産現場では、「分かりやすく・ブレなく・現場に役立つ」仕様書・伝達方法への進化が急務となっています。
昭和的な口伝え・属人化を脱し、事実・数値・視覚で具体的に示し、現場・バイヤー・サプライヤーが共通認識の上で協働する。

知識や経験、現場の知恵を取り入れた「現場起点の仕様伝達」により、品質・生産性向上、働く人が誇りを持てるものづくりを実現していきましょう。

20年以上現場を見てきた経験者として、あなたと共に新しい「業界の当たり前」を作っていきたいと思います。

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