不具合の流出原因が“管理外領域”に潜むケースの多さ

はじめに：なぜ「管理外領域」に不具合が潜むのか？

近年、製造業の現場で「不具合の流出」が大きな問題となっています。

一度顧客に不良品が届けられると、信頼の失墜だけでなく、多大なコストと人的リソースが必要になるためです。

この「流出不良」は従来、現場の見逃しや検査工程のミスとされがちでした。

しかし、現場で長年働いた経験から見て、実は原因の多くが、「管理外領域」に潜んでいることに気づかされます。

この記事では、なぜ管理外領域に不具合が発生しやすいのか、その実態と、バイヤー・サプライヤーそれぞれが取るべき対策をご紹介します。

管理外領域とは何か？現場目線での定義

現場での「管理外領域」とはどの範囲か？

製造工程には、「自工程管理」や「工程間検査」など、きめ細かい管理基準が設けられています。

一方で、その工程間に存在する「隙間」や、サプライチェーン全体で明確な役割分担がされていない部分が「管理外領域」となりがちです。

例えば、「委託した二次加工業者」が独自手順で作業し、親会社が細かなチェックを怠るケース。

また部品メーカーの下請け（二次、三次サプライヤ）が納期優先で未検査品を流出させる場合。

設計部門と生産部門で仕様確認が不十分なまま開発が進む…これらが典型的な「管理外領域」です。

管理外領域の特徴

・責任の所在が曖昧で、トラブル発生時に「誰の責任なのか」が明確になりづらい。

・品質基準や管理ルールが属人的、または未整備。

・昭和型の「持ちつ持たれつ」な商習慣が色濃く残っている場合が多い。

・デジタル管理が進んでおらず、伝票や口頭伝承に依存しがち。

このように、表向きは「しっかり管理されている」ように見えても、実は漏れ落ちている領域が多く存在するのです。

なぜ管理外領域に不具合が潜むのか？根本原因を探る

産業構造と商習慣が生む「見て見ぬふり」

製造業に根付くアナログな慣習の中で、サプライヤとバイヤー（顧客企業）は、時に「波風を立てない」ことを最重視します。

現場担当者は「本当はここに問題がある」と薄々感じていても、「余計なことを言うな」「前例がないからやるな」といった空気が支配的です。

その結果、管理の網から漏れた工程やサプライヤが温存され、結果的に「管理外領域」が巨大化していきます。

業界あるある「手順書通りにやっていない」問題

品質保証部門や、バイヤーが現場監査をした際に、手順書と実務が食い違っているケースは非常に多いです。

実際には、段取りや工数削減を現場が独自工夫しており、手順書はただの「建前」と化していることが多々あります。

特に昭和から続く町工場や下請けでは、ベテラン作業者が「長年の勘」で判断する文化が強く、「品質管理」への意識が薄れる傾向があります。

設計と現場の「壁」も管理外領域を作り出す

製品設計部門が伝える仕様が細かすぎたり逆に曖昧だったりすると、材料の取り違えや工程のズレが発生しやすくなります。

「言われた通りに作ったけど、それは違う」というトラブルは、設計部門と現場・外注先の継ぎ目、まさに「管理外領域」で起きがちです。

「流出不具合」の事例から学ぶ、管理外領域の怖さ

事例1：下請け業者の独自判断が招いた大規模回収

自動車業界の某社では、サプライヤに委託したプレス部品加工工程で、材料ロットの取り違えが発生。

しかし、この下請け工程を親会社が細かく監査せず、現場任せにしていたため、不適合品が出荷される事態となりました。

結果、数万台規模の製品回収となり、顧客・消費者を巻き込んだ社会的事件へと発展しました。

事例2：工程間検査の「穴」が生んだ流出

精密機器の組立ラインでは、外注部品の受入検査が省略されていました。

本来ならバイヤー側が「管理すべき」項目ですが、「すべて納品書通り」と現場間で合意したままスルー。

結果的に不良品が製品へと組み込まれ、市場でのクレーム増加、現場・設計・仕入全部門が責任のなすり合いとなりました。

バイヤーが知るべき「見落としリスク」とその対策

サプライチェーン全体を「広く」見る姿勢を持つ

「自社が直接管理していないから安心」と考えがちですが、調達バイヤーはサプライチェーン全体を把握し、どこに「見えないリスク」が潜んでいるかを俯瞰する力が必要です。

リスクアセスメントを実施し、特に一次・二次下請け工程のヒヤリハットや不具合傾向に目を光らせることが重要です。

現場監査は「アナログ部分」こそ徹底する

書類や手順書だけでなく、実際に現場で作業者に話を聞いたり、現物を手に取って確認することが肝心です。

手順と実務のズレ、未標準化領域の情報共有が重要な事故防止ポイントになります。

特に産業ピラミッドのボトム（孫請け、曾孫請け）に目を向ける姿勢が「現場目線の管理力」です。

「波風を恐れないコミュニケーション」で防ぐ

現場担当やサプライヤーは、バイヤーとの関係悪化を恐れて本質的な課題を言いにくい雰囲気があります。

「困ったことは正直に申告できる」関係性を日頃から築き、情報共有の場を設けることが、流出不具合の予防につながります。

サプライヤーに求める「管理外領域」脱却の心構え

「ウチの責任じゃない」はNG

部品単位で「この範囲までがウチの管理、後は知らない」とする慣習が根強いですが、「つながる責任」を強く意識しましょう。

自社工程の出口だけでなく、受け入れる工程側や、さらなる下流への影響も理解する姿勢が差別化につながります。

品質管理は「現実」と「理想」のギャップを認識

現実の工程でどこまで手抜きや独自運用が入りやすいのか、現場作業者と現場リーダーが危機意識を持つことが大切です。

定期的に「現場ウォーク」や「クロスチェック」を導入し内省する習慣が、流出リスク低減に効いてきます。

昭和型アナログ業界に変革を促す具体的アクション

デジタル管理と人間力の「ハイブリッド」化

IoTやAI活用によるデータの一元管理・追跡を推進しつつも、現場の勘や「おかしい」と思う直感を評価する文化が求められます。

「最後は人が守る」から「データも人も守る」への変革が時代の要請です。

現場力強化のための「逆参入経路」

設計や調達担当が現場作業を実地体験し、「工程間の隙間」を体で覚える研修を増やすことが有効です。

また、サプライヤー担当者を本社へ招いて想定外の意見を聞くワークショップを開催しましょう。

これにより「見えていなかった管理外領域」が顕在化しやすくなります。

まとめ：新たな製造業の地平を、一緒に切り拓こう

管理外領域に潜む不具合の流出は、単なる現場のミスや個々の責任の不明瞭さだけでなく、業界全体の構造的な課題に根ざしています。

昭和のやり方から抜け出せていない部分を直視し、今こそ「ラテラルシンキング」――枠を超えた思考で、バイヤー・サプライヤー・現場全員が「安全地帯」を広げる時代です。

大事なのは、「自社だけの最適化」を追いかけるのではなく、全体最適を見据えて、隙間なく管理の目と心を張り巡らすこと。

現場目線の知恵と、新しい技術や仕組みの力を融合させ、皆さま自身が「管理外領域」という見えない地雷を、一つ一つ取り除いていきましょう。

それが、これからの製造業をさらに強く、しなやかにする最大の価値となるはずです。