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物流KPIが現場実態と噛み合わない企業の課題

目次
はじめに:物流KPIと現場のギャップがもたらす本当のリスク
製造業における物流は、単なる「モノの運搬」以上の重要性を持っています。
調達から生産、出荷までの全プロセスがシームレスにつながることで、生産能力や品質の安定、コスト競争力の源泉となります。
しかしながら、多くの企業では物流そのものにKPI(重要業績評価指標)を導入しているものの、現場の実態とうまく噛み合っていないケースが散見されます。
物流KPIが現場実態と乖離したまま運用されると、数値目標のみが独り歩きし、現場の労苦や改善努力がまったく反映されないという弊害が生じます。
これは「昭和のアナログ業界」に特有の深い課題であり、根本的な解決に向けた視点の転換が今、求められています。
この課題を乗り越え、真に生産性と競争力を高めていくためには何が必要なのでしょうか。
今回は、工場現場責任者やバイヤーとしての自身の経験も踏まえ、物流KPIの本質と現場で起こる乖離、そしてその“埋め方”に深く切り込んでいきます。
物流KPIが現場と噛み合わない理由
標準化されたKPIの落とし穴
多くの企業では「納期遵守率」「誤納率」「梱包ミス発生率」「運搬コスト」「作業時間短縮」など、物流KPIの項目を設定しています。
しかし、その指標が本当に現場の実態を反映しているでしょうか。
例えば、納期遵守率を100%に近づけるために、現場はイレギュラー対応や過剰な残業を強いられるケースが発生します。
一方、コスト低減をKPIとして掲げると、外注や物流コストを優先するあまり、品質や納期厳守とのバランスが崩れる現象も多く見られます。
このように、「数値目標最優先」の運用が、現場に過度なプレッシャーや非効率を生むケースは少なくありません。
現場起点と現場無視のKPI設計
KPIは本来、経営目標から逆算して現場に落とし込むものではありますが、実際には現場へのヒアリングやフィードバックが形骸化しているケースも多いです。
現場担当者の誰もが、
「このKPI、現実離れしすぎてないか?」
「現場の自動化状況や人員構成を無視した数値だ」
と感じているにも関わらず、既成のKPIを維持する空気があります。
現場のアイデアや根本的な改善提案がすくい上げられておらず、机上の指標だけが重視されてしまうのです。
これは、とくに日本の昭和的な組織文化(上意下達/現場軽視/「数字」だけを追う体質)に根深く残る課題と言えるでしょう。
物流KPIと現場がすれ違うと、どんな問題が生じるか?
現場モチベーションの低下と人材流出
KPIが現場の苦労や工夫を可視化しないまま押し付けられると、作業者やラインリーダーの働きが正当に評価されなくなります。
「どうせ数値だけ、現場の現実は見てない」
という不信感が広がり、有能な人材ほど見切りをつけて離職する傾向も顕著です。
業務改善が停滞し、真の課題が放置される
形だけのKPI追求が長年続くと、現場は「KPI達成用の帳尻合わせ」に終始し、根本的改善への発想も消えてしまいます。
たとえば出荷作業の遅延が発生し続けているのに、なぜ遅延が起きるかというプロセス分析より、「今日もKPI未達成!」という“怒り方”だけが常態化するのです。
こうなると「本来もっと効率的にできる新しい仕組み」や「他社流入のイノベーション」など、現場独自の改善アイデアを育む風土が生まれません。
まさに「表層の数値管理」による組織劣化です。
バイヤー・サプライヤー間のコミュニケーション断絶
サプライヤーの立場からすると、KPIありきでオーダーが振られ、現場実態が伝わらないまま納期や品質に追われることになります。
一方のバイヤーからしても、現場側の苦労や事情が見えず、建設的な話し合いができなくなります。
このすれ違いは、サプライチェーン全体の競争力を脆弱化させる要因となります。
根本解決に向けたアプローチ:本当の現場力とKPIをつなぐには
製造現場を「数値」に還元しない勇気
KPIはもちろん重要ですが、それだけに囚われて現場の実態を無視しては本末転倒です。
大切なのは「なぜこのKPIなのか」「どう現場と連動しているか」を、現場担当者も納得できる形で設定し直すことです。
たとえば、
・現場の自動化進捗や人員再配置など、実際の現場改善と連動したKPI
・ミス/ロスが生じた原因ごとに細かく分析し、対策プロセスKPIを併設する
・KPI未達成でも「やったこと・工夫したこと」を評価軸に入れる
など、「数値の奥の思考プロセス」や「前向きな改善アクション」を評価する仕掛けが必要です。
現場“起点”の逆算型KPI設計
トップダウンでKPIの“理想形”を落とすのではなく、むしろ現場ヒアリング・業務実態と課題感から「到達可能な目標」「本当に役立つ数字」を積み上げてKPI設計するアプローチが不可欠です。
現場リーダーやベテラン作業者の“生の声”を極限まで取り入れることで、現場が納得し、自発的に取り組める指標となります。
このとき、「現場からボトムアップで作り上げたKPI設計」の存在は、モチベーション向上・改善意欲を長期的に引き出し、単なる“枠組み”管理を超えて会社の強い競争力となります。
バイヤーとサプライヤーの本音対話と相互理解
KPIの設計や運用を発注側だけで完結させず、パートナーサプライヤーも巻き込んだ形で「現場同士の対話の場」を持つことがますます重要です。
「このKPI、どの部分が一番大変か?」
「現場で感じている隠れた課題は?」
「実現可能な範囲で、どんな改善案なら動ける?」
といった率直な意見交換を重ね、お互いの実態=「現場のリアルな事情」を前提条件としたKPIに磨き直す必要があります。
現場の目線を受け止め、共にKPIを再設計することで、「ちょっとした改善」を積み重ねていけます。
結果的に、「一方通行のKPI管理」から、「サプライチェーン一体となった真の生産性向上」へと脱皮できるわけです。
令和の時代に求められる「リアルなKPI運用」とは
デジタル時代は“可視化”がすべての出発点
昨今の製造現場ではIoTやビッグデータを活用した「可視化」が進んでいますが、その本質は「現実を捉え、真の課題を浮き彫りにする」点にあります。
単なる作業量やコスト可視化だけで満足せず、「なぜ/どこで/何が」問題なのか、現場レベルのボトルネック原因と共に見える化する視点が肝要です。
KPI“運用プロセス”自体の見直しを
KPIは、達成度を確認するだけの“報告ツール”ではなく、むしろ現場を変革する“対話ツール”となるべきです。
定期的なKPIレビュー会を設け、「未達理由を“責める”のではなく、“なぜ”を一緒に深堀りして解決策を創出」していく。
現場の工夫や踏ん張りを正当に評価し、「改善提案」→「KPI修正」→「新たな現場改善」…というサイクルを回していく。
これが日本の製造現場に今こそ求められている運用の在り方です。
まとめ:物流KPI・現場・サプライチェーンの“新しい関係”を築こう
物流KPIは、そのままでは単なる「数字の達成ゲーム」に終始してしまいます。
昭和のアナログ的な業界体質、現場無視のトップダウンKPI設計、現場の努力の見落とし——
こうした旧態依然の運用を脱却し、現場目線とサプライチェーン全体視点を融合したKPI設計・運用が、これからの競争力のカギとなります。
製造業に勤める方、調達・バイヤーを目指す方、サプライヤーでバイヤー思考を知りたい方——
皆さんには、現場という“生命線”に着目し、KPIを単なる管理ツールでなく、〈変革と成長の原動力〉へ進化させる視点を持ってほしいと強く願います。
これまでの「数字ありき」とは違う、令和の製造業ならではの課題解決のアプローチへ、共に歩み出しましょう。
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