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営業が先に顧客へ提案してしまい開発が後追いになる危険構造

目次
はじめに:メーカー現場に根付く「営業主導」の構造とは
製造業の現場では、営業部門が顧客の要望を取りまとめ、案件を獲得し、その内容を開発や生産現場に横流しするという流れが長く続いてきました。
この「営業主導」型のビジネス推進は、短期的にはスピード感と受注拡大につながる反面、中長期的には多くのリスクや弊害を生みます。
昭和時代から抜けきらないアナログな体質が強い業界では、「まずは受注ありき」「受けてから開発で何とかする」という考えが未だに根深いものです。
本記事では、営業が先走って顧客提案を行い、開発などの現場部門が後追いになる体制がもたらす危険構造と、その背景、さらに現場目線の解決策について深堀りしていきます。
営業先行型の典型的な流れと、その問題点
営業が取ってくる「夢の案件」の実態
営業担当者は、顧客との関係強化や短期の成果を追求するプレッシャーから、「何とか受注につなげたい」という思いを強く持っています。
その結果、「できます」「間に合わせます」と、一旦前向きな提案や回答を顧客にしてしまうことが多々あります。
特に新規案件や大型案件では、競合他社との駆け引きの中で営業が「背伸び」せざるを得ない場面も目立ちます。
その裏で、調達購買や生産管理、開発部門は営業部門から突然「これが決まったので、現場で何とかしてほしい」と丸投げされるわけです。
現場が抱える開発・生産の困難
この営業先行型の案件捌きでは、開発部門は本来なら時間をかけてリスク評価・コスト試算・量産性検証などを実施するべきところを、「既に決まった案件」「納期が差し迫った案件」として、後手後手の追従開発に追いやられます。
結果として、予定外の設計変更や無理な工程短縮、手戻り、コスト超過、納期遅延といった問題が頻発します。
過度のリソース投入や、現場のエンジニアに対する過重な負担、品質上のトラブルリスクも格段に高まります。
営業主導型の危険な構造を生み出す業界的背景
「モノづくりは何とかなる」という昭和的発想
日本の製造業の歴史をひも解くと、現場の叩き上げの精神や、「最後は現場の根性で乗り切る」という意識が強く横たわっています。
特に営業・開発・生産など各部門の間に明確な線引きや連携体制ができていない古い体質の企業では、営業が「とにかく案件を取る」→「現場には後で頼む」という構造が当然視されています。
結果的に現場には「これは無理筋だ」「後でまた炎上するぞ」という猜疑心と疲弊感が広がり、組織の活力低下や人材流出にもつながります。
リーダーシップと組織マネジメントの課題
往々にしてこの構造は、経営層または営業部門のリーダーが「現場は何とかしてくれる」「まずは受注が正義」と考えてしまうマネジメントにも起因しています。
成果主義が強すぎる場合や、部門間の壁が厚すぎる場合には「相談なき丸投げ」や「社内調整不足」が常態化しがちです。
現場や技術部門の声、リスクや課題を組織意思決定に反映させるシステムを作りきれない企業では、負のループが生まれやすいものです。
バイヤー(購買担当)の立場から見た課題とリスク
バイヤーに求められる本当の役割とは
調達購買部門のバイヤーは往々にして、「営業が決めてきた内容に合わせて最適なサプライヤーを選定してコストダウンする」役割として捉えられがちです。
しかし本当のバイヤー職は、製品実現のプロセス全体にわたり、適切なリスク評価、パートナーとの連携、サプライチェーンの強靭化を担う、きわめて重要かつ戦略的なポジションです。
営業が決定した仕様や納期・コスト条件が現実的でない場合、それをそのまま受け入れるだけではなく、「なぜこの条件が必要なのか」「どこにリスクや課題があるのか」を現場と連携し、タイムリーにフィードバックすることが求められます。
バイヤーが現場目線で提案できること
もし営業先行で案件が進んでしまった場合でも、バイヤー自らが早い段階からサプライヤーを巻き込み、設計・開発部門と連携し、現実的な納期・価格・品質の折り合い点を模索することが現場の負荷低減、プロジェクト全体の成功に直結します。
さらにバイヤーが調達段階からリスクを洗い出し、サプライヤーとの共創体制や協議(Early Supplier Involvement=ESIなど)を根付かせることで、「営業が勝手に話をまとめ、現場が苦労する」という悪循環は減らせます。
サプライヤー&下請け側のリアルな視点
取引先からの「無理難題」がどれだけ多いか
サプライヤー側、特に下請け中小企業の声としてよく聞くのは
「営業担当が決めてきた内容が、現場感覚ではどう考えても実現困難」
「後出しで短納期や追加変更を要求される」
「現場に相談なく無理なコストダウンの要請が投げ込まれる」
という嘆きです。
特に昭和から続くいわゆる下請け文化の中では「取引先の無理でも何とか形にしなければ取引がなくなる」という恐怖、「現場で何とかする」のが普通という空気がいまだに消えていません。
信頼構築のための対等な協力体制の必要性
サプライヤーが「説得力ある根拠」を持って設計や調達、納期に関する現実的な提案や意見を伝えられる体制を築くことが、長期的なビジネス安定のカギとなります。
また発注側企業も「従属的な下請け」でなく「共創パートナー」としてサプライヤーに目を向け、課題やリスク、現場の声を組織的にすくい上げていく文化醸成が不可欠です。
なぜ営業主導の「後追い型」は時代遅れなのか
顧客価値と現場の持続的成長を両立できない
近年の製造業では、単なるモノ売りから脱却し「顧客の持続的価値創出」「サプライチェーン全体の最適化」「品質・納期・コストの同時達成」が不可欠となっています。
営業が受注ありきで突っ走り、現場が振り回される構造は、長期的なQCD(品質・コスト・納期)コントロールや組織のイノベーション能力の阻害要因です。
「顧客の真の課題を発見し、現場の知見を活かして価値共創する」ことこそ、今後の製造業現場で求められる基本姿勢です。
DX・自動化・グローバル対応時代の新潮流
デジタル変革(DX)やグローバル調達、サプライチェーンの複雑化に直面している今、単なる受注の量を追うだけでは競争優位性を確保できません。
営業・開発・調達・生産などの全プロセスでリアルタイムに情報連携し、リスクと課題を初期から洗い出す「フロントローディング」、サプライヤーを早期から巻き込む「オープンイノベーション」の潮流が世界で定着しつつあります。
営業発信の後追い型では、これらの時代変化に追随することは困難です。
現場目線で考える、危険構造からの脱却術
クロスファンクショナルな組織連携の徹底
「営業主導」の悪循環を断ち切るには、営業・技術(開発設計)・生産・調達など各部門がプロジェクト初期から一体となり、リスク・課題・顧客要求・現場知見を共に検討・共有する組織文化を醸成する必要があります。
具体的には、案件獲得前から各部門が定例会議や意思決定プロセスに同席し、「現場感覚で本当に実現できるのか」「どの段階でサプライヤーに入ってもらうか」を議論できる環境作りがスタートラインです。
現場を巻き込むフロントローディングの実現
開発初期からバイヤー・生産技術・サプライヤーをプロジェクトメンバーとしてアサインし、先回りしてリスク洗い出しや改善案立案に着手すれば、納期遵守やコスト最適化、品質向上のいずれもが現実的になります。
現場側から自発的に営業と対話し、「この仕様だとどのくらい無理がある」「ここは工場現場に〇〇という負荷がかかる」「どういう顧客優先順位か」など具体的に数字や根拠をもって説明できる体制を作ることも重要です。
意識改革とマネジメント・現場の新しい関係
営業部門の評価指標(KPI)も「受注件数」や「売上高」だけでなく、「現場・顧客との連携度」「リスク最小化度」「全体最適への貢献度」などを盛り込み、部署横断的な成果を高めるインセンティブ設計に進化させることが肝要です。
また、現場の声を吸い上げるオープンドアミーティングや、技術知見・調達知見に基づく営業提案資料の共創など、一過性でなく持続的な現場連携の習慣化が求められます。
まとめ:業界の本質的変革へ向けて
営業が先に顧客に提案し、開発や現場が後追いでフォローするという日本型メーカー組織に根付いた危険構造は、短期視点では受注増や売上拡大につながることもあります。
しかし中長期的には、顧客満足度の低下、現場疲弊、サプライチェーンリスク、イノベーション停滞、ひいては人材流出・競争力低下の重大な要因です。
営業主導を「現場・全社一体型」へと進化させるには、組織の壁を超えたクロスファンクショナルな連携、初期段階からの現場巻き込み、サプライヤーとの対等なパートナーシップ、バイヤーの戦略的役割強化、意識改革の徹底が必要不可欠となります。
これから製造業を志す人、バイヤーを目指す人、下請けサプライヤーの立場から現場改革を模索する方々には、ぜひ現場実感と全体最適の両輪で、新たな地平線を一緒に開拓していただきたいと願います。
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