投稿日:2025年12月1日

品質保証でNGになり“再購入”が発生して実質原価が膨らむ本音

はじめに――見えない“再購入”コストに気付いていますか?

製造業に携わる皆様、日々の業務のなかで「コストダウン」は常に最重要テーマです。

調達購買部門では、1円でも安く仕入れるためにサプライヤーとの交渉や新規開拓を進めていることでしょう。

しかし実際には、せっかく安く購買した部品が品質検査でNGとなってしまい、急遽“再購入”を余儀なくされる――そんな場面に心当たりはありませんか?

表面上はコストダウンを達成しているつもりでも、この“見えないコスト”によって最終的な原価が大きく膨らんでいるケース、実は業界には非常に多いのです。

昭和時代から続くアナログな調達体制では、こうした裏コストが埋もれやすく、気づかぬうちにあなたの会社の利益を削り続けます。

この記事では、品質保証でNG判定が下り再購入が発生することで“実質原価”が膨らむ仕組みと、本音ベースの現場事情、そして業界全体の構造的問題について深く掘り下げていきます。

再購入が発生する実務的な理由

品質保証と現場検査――理想と現実のギャップ

ものづくりにおいて品質保証は最重要業務です。

ところが、生産現場の人手不足や時間的プレッシャーのなかで“検査の精度”はサプライヤーごと、ロットごとにバラつきやすくなっています。

調達購買部門はサプライヤーの価格・納期のトータルでメリットを最大化しようとしますが、品質保証部は納入後の現場検査に基づきNG品の選別を徹底します。

このプロセスでNG判定が出れば、「もう一度同じ部品を手配し直す=再購入」の事態となります。

なぜ再購入コストが増大するのか

再購入が発生すると、次のような追加コストが不可避です。

・不良品の返品・処分や再検査にかかる追加工数
・納入遅延による生産ラインの停止やライン切れ
・急な追加オーダーによる特急チャージや割高な取引
・従業員の対応時間や現場の混乱

こういったコストは帳簿上「標準原価」に入りづらく、“見えない裏コスト”としてボディーブローのように効いてきます。

アナログ業界が“再購入コスト”を見過ごす構造的な要因

社内意思疎通の壁――縦割り体質と数字だけの評価

昭和時代に構築された大手製造業の多くは、設計・製造・調達・品質保証の各部門が縦割り構造になっています。

このため、「調達は価格だけ」「品質は合格/不合格だけ」と最適化の指標がバラバラです。

購入価格だけを評価指標として追い続けると、品質NG後の再購入や緊急対応コストが経理帳簿でブラックボックス化してしまい、「本当の総コスト」が部門間で見える化されません。

サプライヤーとの関係性にも根深い問題が

さらに、サプライヤーとの関係を“数十年の経験と情”に頼ることが多く、「価格を下げてもらったから品質は目をつぶろう」「古い慣習だから返品交渉も大目に見る」といった甘えが現実に存在します。

アナログな業界体質がこうした構造的な非効率・無駄コストを助長しているのです。

再購入問題がもたらす“本音ベース”の現場課題

調達購買部門のジレンマ

調達側としては、当然コストダウンのKPIに縛られます。

しかし実際には、安価なサプライヤーから仕入れた製品がNGとなるたび、現場や営業から「ちゃんと品質見てるのか」「また遅れるのか」と板挟み。

わかっていながらも、調達方針の見直しを主導する権限が弱かったり、部門間調整の煩雑さから“気付かぬふり”が横行します。

また、再購入に関する追加原価の分析やレポート作成が行われていない企業も少なくありません。

現場・生産管理の混乱

現場では「予定通り材料がこない」「検査で落ちたから予定割れ」と、生産計画の遅れやロスが発生。

現場スタッフはトラブルへのリカバリーや突発的な休日出勤、残業で対応するため、士気やモチベーションも低下します。

要するに「安い部品を買ったけど不良が増え、現場が疲弊し、全体の生産性とコストが悪化した」という皮肉な事態が繰り返されています。

購買バイヤーの視点――なぜ“標準原価”に潜む罠を見抜けないのか

現場を知らない購買担当者の落とし穴

購買部門に新しく配属されたバイヤーは、とかく「見積書上の価格」だけを追いがちです。

部品表に基づいて安価なところからサプライヤー登録し、数値目標をクリア。

しかし、その先に待っている「実際に納品され生産現場で組み込まれるまで」の一連のプロセスコストを肌感覚で理解しないままになりがちです。

“見えない原価”まで目配りできるバイヤーになるには

質の高いバイヤーは、部品価格+納入後の品質リスク+万一の再購入率までをトータルで判断します。

「調達コストを下げて、全体原価は上がった」では本末転倒です。

納入不良発生率や返品率、再購入に要する時間・手間も追いかけ、自社の利益・現場の信用を守れる“現場起点のコスト感覚”を磨くことが大切です。

サプライヤー(供給元)が知っておくべき「バイヤーの考えていること」

バイヤーは現場事情も見ている――“安かろう悪かろう”時代の終焉

従来は「とにかく価格優先」だったバイヤーも、昨今の品質志向やESG評価、BCP(事業継続計画)重視の流れのなかで、サプライヤー選定に慎重になりつつあります。

供給元が「安値攻勢」だけでなく、“不良発生率ゼロへの努力”や“トレーサビリティの明確化”を積極的にアピールすると、バイヤーの信頼・取引リピートにつながります。

突発再購入時の会社ごとの知恵も武器に

「もしNGが出ても、1日以内にリカバリー納品できる体制が整っています」
「過去3年間、一度も返品が出ていません」

こうした実績や現場対応のスピード感をデータで示せれば、安値競争を抜け出し“選ばれるサプライヤー”になれる時代です。

バイヤー側も“総コスト感覚”で判断している点をぜひ意識しましょう。

昭和からの脱却――再購入ゼロを目指すために企業がすべきこと

部門間連携強化とコスト見える化

「安く買う」「品質を守る」「生産トラブルを減らす」…これらを“総合最適”で進めるには、購買・品質保証・設計・現場が同じテーブルで「トラブル時のコスト分析会議」などを定例化することが第一歩です。

再購入が必要となった場合、追加コストを経理処理に計上し、「どこで何が起きたのか」を全社で共有する仕組みづくりが重要です。

デジタル化でブラックボックスを解消

AIやIoTを使った納入ロットのトレース、NG発生時のアラート・データ蓄積、再購入時のコスト自動計算――こうしたシステム化を進めることで、“誰でも今の再購入コストが即わかる”状態にすれば、経営陣への問題提起がしやすくなります。

“現場を見る”バイヤー教育の浸透

購買を担うバイヤー全員が、実際に製造ラインや検査工程を体験する「現場研修」を恒常化しましょう。

数字だけでなく「品質不良時、現場で何が起こっているか」「メンバーの顔色や現実的ダメージ」を実感して判断を下せる人材を育成することで、本質的原価低減が現実のものとなります。

まとめ――本当の“原価管理”は現場に学ぶ

一見するとコストダウンできているにも関わらず、品質保証でNGが発生し再購入に至ると、企業利益を大きく損なうことは明らかです。

業界の慣習やアナログ体質をそのままにしておくと、埋もれた“裏コスト”はますます膨らみます。

しかし、現場・バイヤー・サプライヤーが三位一体となり、「標準原価」ではなく「実質総コスト」を見据える視点を持てば、必ず改善への道筋は開かれます。

単なる価格交渉や帳簿の数字に惑わされず、現場起点・トータル最適化の発想で製造業の発展を共に押し進めていきましょう。

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