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設計者の意図が伝わらずサプライヤーが独自解釈して不良が頻発する事例

目次
はじめに:なぜ設計者の意図はサプライヤーに伝わりにくいのか
製造業の現場で、調達購買や生産管理に関わってきた方なら、設計者が苦心して作成した図面や仕様書通りに部品を作ってもらったはずなのに、納品された製品に不良が頻発した——という経験をお持ちのことでしょう。
この現象は、バイヤーにとってもサプライヤーにとっても悩ましい問題です。
なぜ設計者の意図はサプライヤーに正確に伝わらないのでしょうか。
本記事では、現場目線から見た実践的な事例をベースに、昭和から続くアナログ業界ならではの構造的な課題や、業界動向まで踏まえて深掘りしていきます。
また、サプライヤーサイドから「バイヤーはどのような視点で求めているのか」を知る足掛かりにもなれば幸いです。
事例紹介:設計意図の”誤解”が引き起こす不良多発
具体的な現場例1:図面の読み間違いによる寸法不良
あるメーカーでは樹脂部品の量産を外部サプライヤーに委託していました。
図面上では「±0.1mm」の厳しい公差が設定されていましたが、サプライヤー側の現場責任者は「通常の品質基準で大丈夫だろう」と独自に判断し、スピード重視で量産ラインを回したのです。
この結果、数万個のうち2割を超える不良品が発覚しました。
設計者としては、「この部品は機構上、僅かなズレで組み立て不良や機能低下を招く」ことを強く意識していましたが、サプライヤーには「設計者がそこまで厳しく考えている」ことが伝わらず、「ちょっと厳しい数値だけどまあいいか」という現場独自の“常識”で完成品が作られてしまいました。
具体的な現場例2:板金加工の曲げ半径と応力割れ
金属部品の設計で、板金曲げRの大きさに細かな指定(例えば「最小曲げ半径3mm以上」など)があった場合、これは設計者が「無理な曲げで金属材料に応力割れが生じるリスクを避けたい」意図からつけたものでした。
しかし、昭和から続くアナログな製造業文化を持つサプライヤーでは、「昔から3mm以下でもイケるから、できるだけ材料を節約しよう」というコスト優先の現場判断がまかり通ります。
結果、最初は不良が顕在化せず納品後しばらく経って疲労破壊によるクレームが発生します。
設計意図に基づいた品質保証体制がつくれず、問題の火種を長期的に抱えてしまうのです。
伝わらない原因を解剖:製造業現場の”壁”
コミュニケーションの壁:図面・仕様書は万能ではない
多くの設計者は「図面や仕様書で全て伝えたつもり」になりがちですが、実際にはそのドキュメントを読むサプライヤーの“読み方”や“視点”に大きなバラつきがあります。
設計担当は製品全体や上流の目的まで知っているため「ここが重要」と思う箇所を自明のものとしますが、サプライヤー現場は「あくまで依頼された仕様通りに作るだけ」の立場に立ちがちです。
また、接触点となる調達・購買部門が技術的な橋渡しを十分にできていない場合、図面や仕様書の記述が意図通りに伝わらないことは往々にしてあります。
昭和的アナログ業界の”勘と経験”文化
日本の製造業は長らく“職人技”や“現場の勘と経験”を重視してきました。
多くの中小サプライヤーでは、ベテラン作業者の個人的ノウハウを頼りに不明点を判断する文化が根強く、設計側からの細かな指定も「このくらい大丈夫だろう」と自己流で処理されがちです。
こうした“独自解釈”が品質問題を誘発する温床となっています。
工場自動化と意図伝達のギャップ
近年、工場自動化やデジタライゼーションの進展で、設備やロボットによる標準化・効率化が進む一方、人手による調整や最適化に頼っていた伝統的な分野では設計意図の伝達がますます難しくなっています。
「この設定値、なぜこの値にしているの?」という理由の共有が疎かになると、設備更新や担当者交代のたびに意図やノウハウが分断され、設計側の狙いと現場の運用が乖離してしまいます。
設計意図を正確に伝える5つの実践策
1. わかりやすい「技術的注記」と「設計背景説明」
図面のオーバースペック化は避けつつも、「なぜこの公差なのか」「この部材はどんな機能を担っているのか」といった設計の背景を併記することで、現場への意識づけが図れます。
例えば、
「このR寸法は疲労クラック防止のため絶対遵守」や「このサイズ変更は機能保守のため不可」など、人任せにしない補足メモが極めて有効です。
2. 初回立ち会い・現場説明会の徹底
特に新規立ち上げ部品や仕様変更時には、設計者が直接サプライヤーの現場や生産機械の前で「ここが落とし穴・ポイント」と解説し、その意図を口頭・実演で伝えるのがベストプラクティスです。
「見て、聴いて、触れる」コミュニケーションは、何より設計意図を腹落ちさせます。
3. バイヤー・調達の「技術的目利き」としての役割強化
バイヤーや調達部門も、単なる購買窓口ではなく「技術の通訳」としてサプライヤーと設計者を結ぶ役割が重要です。
具体的には、設計ポイントの社内共有やQ&A、審査会でのフィードバックなどを積極的に行い、「伝わっているか?」を常に確認する組織的習慣が求められます。
4. デジタル技術・3Dモデル活用による意図共有
従来の2D図面だけでなく、3D‐CADやデータ共有システムの活用で、「こう動かしたい・この位置合わせが重要」といった設計意図を可視化しやすくなっています。
サプライヤーとデータを共通化し、イメージのすり合わせを進めましょう。
5. 継続的な評価・フィードバック体制
量産移行の際も、「最初に作った通り」「不良票が出ていないから大丈夫」ではなく、短期・中期で再評価や定期報告の協議を設け、設計意図からブレていないか点検することが重要です。
これにより、現場の独自解釈や“慣れ”によるドリフトを未然に防げます。
今後の業界動向:アナログ文化とデジタル変革の融合
サプライヤー「自立」型ものづくりへの転換
これからの製造業では、サプライヤーが単なる「言われたまま部品を作る」存在を越えて、「なぜこの設計なのか」を共通理解し、自らQC活動や工程改善を提案できる自立型パートナーへの転換が進むでしょう。
そのためにも、発注側(バイヤー・設計者)はサプライヤーの強み・弱みを洞察し、「一緒に品質を作り込む」姿勢を持つことがポイントです。
”昭和の勘”から”データに裏付けされた判断力”へ
熟練の現場技術や暗黙知は大きな財産ですが、「なぜその判断になるのか」「どこが失敗の分岐点か」をデータや記録でフォローし、“慣れ”だけで進めないのが今後は必須です。
サプライヤーが設計意図を聞き返したり、気付きを共有できる文化・ITインフラ構築の重要性が増しています。
サプライヤー目線:設計者・バイヤーの考えをどう理解するか
「図面が来たら作る」だけじゃ生き残れない時代
厳しいコスト競争にさらされながらも、品質基準をグローバルに合わせる要請が日本の製造業には増えています。
サプライヤーとして重要なのは、「なぜこの仕様になっているのか」を一歩掘り下げて確認し、納期やコスト面の相談だけでなく積極的に「設計者・バイヤーの悩みどころ」を吸い上げる姿勢です。
つまり、単なる下請けから“提案型パートナー”になることで、信頼関係・取引継続性が格段に高まります。
実践ポイント:納品前チェックとフィードバック文化
設計側の要求を鵜呑みにせず、「この仕様はここが難しい/リスクがありそう」と社内でブレストし、必要なら「意図は?」「代替案は?」と問い返しましょう。
さらに、量産~納品後にもデータ分析や現場の声をバイヤーにフィードバックするループをつくることで、“独自解釈”による手戻りやクレームが大幅に減少します。
まとめ:明日は自社・自分の身にも起きる現場の落とし穴
設計者がどんなに緻密な図面や仕様書を用意しても、サプライヤーの現場に真の意図が伝わらなければ、不良やクレームの連鎖を防ぐことはできません。
そのため、製造業の全プレイヤーは「なぜこの指示になっているのか?」「どのポイントを最も重視しているのか?」を、現場レベルから経営層まで連携して共有し、時には立ち止まって問い直す姿勢が不可欠です。
今日のアナログ的“慣れ”や“阿吽の呼吸”に頼ったものづくりから、意図と現実のギャップを解消する現場づくりへ。
この記事が、バイヤー・製造者・サプライヤーが一層高品質な”ものづくり”の仲間となる契機となることを願っています。
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