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工程間物流を軽視すると生産効率が一生上がらない話

目次
はじめに:製造現場で見落とされる「工程間物流」の重要性
製造業の現場に身を置いた経験者なら誰しも、資材や部品が次工程へうまく渡らず現場が混乱した経験が一度はあるのではないでしょうか。
どんなに優れた最新鋭の設備を導入しても、原材料や仕掛品が「必要なときに・必要な場所へ・必要な量だけ」準備できなければ、生産効率は向上しません。
実は、日本の多くの現場では今なお工程間物流が十分検討されていません。
仕入れ品や部材をライン間で人手に頼り物理的に移動させている工場、工程ごとに中間在庫が山積みになっている現場も珍しくありません。
この現状こそが、昭和時代のアナログなやり方から抜けきれない製造業の課題であり、生産性のボトルネックになっています。
本記事では、なぜ工程間物流を軽視すると生産効率が上がらないのか、その理由を現場目線で深掘りし、今すぐ実践できる改善アプローチまで網羅的に解説します。
工程間物流とは何か?
定義とその範囲
工程間物流とは、工場内で原材料や部品、半製品を1つの工程から次工程に必要なタイミングで運ぶ活動全般を指します。
通常、調達(購買)から生産ラインへの投入、さらに各工程間の仕掛品の移動、そして最終組立に至るまで、あらゆる物の流れが該当します。
例: 金属プレス品を部品倉庫から溶接工程へ搬送する、成型部品を組立ライン手前のピッキング場所に納入する──これらすべてが工程間物流に該当します。
「物流は外部任せ」の日本的認識の誤り
日本の多くの製造現場では、物流と言うと「出荷・配送=外部委託」という意識が根強く、工場内の“内部物流”にはあまりスポットが当たりません。
ですが、工程間物流が最適化されていないと、ライン停止・人手不足・品質トラブルなど、経営を揺るがす大きな損失につながりかねません。
工程間物流がボトルネックになる現場の特徴
1. 在庫の山と余剰スペースの増加
工程間物流がうまく設計されていないと、工程ごとに仕掛品やパレットが山積みになり、作業スペースが奪われます。
物の置き場探しや積み直し、搬送待ちなど、付加価値を生まない「ムダな作業」に従業員が多くの時間を費やしています。
2. 総工程リードタイムの大幅な遅延
仕掛品が「滞留」していると、製品ができあがるまでのリードタイムが長くなり、顧客納期への対応力が下がります。
特に多品種少量生産では、品種切替のたびに物流の流れが乱れやすく、製品1個あたりのリードタイム悪化が顕著になります。
3. 間違ったシグナル:現場の声が埋もれる
工程間物流を軽視すると、「どこで、どんなトラブルが、何回起きているか」現場担当者の声が上層部まで正しく伝わらなくなります。
これは、問題の根本原因が隠れ、改善機会を永遠に逸することを意味します。
なぜ工程間物流が生産性を左右するのか?
1. 工程連携の「調律役」だから
各工程はリズムよく流れる楽器のようなものです。
工程間物流は、そのリズムを整え、生産ライン全体が調和する「調律役」となります。
どこか一工程だけ高度化しても、物流が追いついていなければ周囲が崩壊し、全体最適(TOC理論でいうボトルネック)には絶対なり得ません。
2. 適正在庫と高回転化のカギを握る
無駄な仕掛品の山を作らず、「必要な分だけを必要な場所へ、必要な時に」届ける物流設計は、工場全体の適正在庫を左右します。
これは、資金繰りやキャッシュフローに直結する超重要テーマです。
3. 品質管理とトレーサビリティ向上にも寄与
どの部品がどこの工程をいつ通ったのか、物流の流れが可視化されることで、品質トラブル時の原因究明や回収が圧倒的にスピードアップします。
昭和時代から続くアナログ工程間物流の限界
1. 作業者頼み・手押し台車の運用
物流設計が未整備の現場では、作業者が各工程へ台車で仕掛品を運ぶ旧来スタイルが目立ちます。
この方法は、個人の勘や場当たり的な判断に頼るため、急な受注変動や人員不足で簡単に崩れてしまいます。
2. 「歩く」「探す」非付加価値活動の温床
資料を探す、工程間のモノを探す──これらの動作はすべて“ムダ”です。
本来生産活動へ投入すべき人材や時間が、物流の非効率な仕組みのせいで失われています。
今、工程間物流こそ自動化・デジタル化すべき理由
1. 人手不足・高齢化への対応
世界的に労働力人口は減少傾向にあり、人手に頼る物流は維持が困難です。
AGV(自動搬送車)やロボット、IoTセンサー活用など、工場の内部物流をデジタル化することで、限られた人材を付加価値の高い業務へシフトできます。
2. 調達・購買戦略でも物流は見逃せない
購買(バイヤー)の視点では、サプライヤーからの納入形態(通い箱、ラベル管理、納入頻度など)が工場の工程間物流設計の前提となります。
サプライヤーと工場の間に「物流の壁」が生まれると、調達コストやSCM全体の効率悪化につながります。
つまり、バイヤーにとっても工程間物流の理解と設計は不可欠です。
3. ESG経営とサステナブルな工場運営
ムダな工程間物流はCO2排出やエネルギーロスを増やします。
リサイクル率向上や環境負荷低減を目指すなら、物流効率化は避けては通れません。
実践:工程間物流を見直すステップ
1. 現状把握:「歩数計」や「ムダ取り」計測から
まずは現場の物流フローを現実的に見える化します。
1人1日の歩数、仕掛品の滞留時間、移動回数などをデータ化。
Excelや市販の物流診断ツールを使うだけでも、意外なほど無駄な動きが浮き彫りになります。
2. 品種や製品別の最適物流ルートを設計
単純な「最短距離」だけでなく、品種切替や工程ごとの品質要件も考慮し「一筆書き」の物流ルートを設計します。
並行して、納入方式(ジャストインタイム・定期納入・繰返納入など)の見直しも必要となります。
3. デジタル化・自動化の導入検討
AGV導入や物流管理システム(WMS等)の活用、ピッキングリストの電子化など、自動化投資は段階的に始めることがポイントです。
工場全体のIoT化とセットで検討することで、継続的な改善サイクル(KAIZEN)が回り始めます。
4. サプライヤーや調達側との連携強化
サプライヤーの納入単位や梱包形態、ラベル情報データとの連携を密にし、調達~生産~工程間物流が一気通貫でつながる仕組み作りが重要です。
内外の境界線を外し、全体最適を図ることが工場の競争力向上に直結します。
まとめ:工程間物流を制する者が、真の生産効率を手に入れる
工程間物流は、従来あまり重視されてこなかった「現場の足元」に潜む生産性アップの金鉱山とも言えます。
現場から声があがらず、慣習や人手への依存で放置されてきた分野だからこそ、大胆な刷新が劇的な効果を生み出します。
現場担当者、バイヤー、サプライヤー、それぞれが互いの立場や物流の重要性を認識し、具体的なアクションを起こしていくことで、自社の工場だけでなく日本のものづくり全体を未来へ加速させることができるでしょう。
今こそ、工程間物流に目を向け、新たな地平線を目指しましょう。
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