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試作段階と量産段階で調達要件が変わり過ぎて混乱を生む現場

目次
はじめに:調達要件の変化が現場にもたらす混乱
製造業に携わる皆さんの現場で、「試作段階と量産段階で調達要件が大きく変わるため、各部署が混乱している」という声をよく耳にします。
実際、私も工場長や調達担当、品質管理部門を経験してきた中でたびたび直面した課題です。
このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。
そしてアナログ業界の特性が混乱にどう影響するのでしょうか。
本記事では、現場目線で「試作から量産に至るまでの調達要件の変化」に焦点を当て、課題の本質と解決のヒントを深掘りしていきます。
また、製造業界の「昭和マインド」の残る企業文化ならではの動きや、バイヤー・サプライヤー双方の視点も織り交ぜて解説します。
試作段階の調達:柔軟性とスピードが最優先
試作段階で求められる調達の特徴
新製品開発や工程改良のための試作段階では、材料や部品、加工方法がまだ確定していません。
そのため、調達部門やバイヤーはとにかく「早く」「柔軟に」「少量でも」調達することが求められます。
加えて、図面や仕様も頻繁に変わるため、サプライヤーへの依頼も曖昧な部分が多く、都度現場とのコミュニケーションが不可欠です。
現場に起こる混乱の一例
試作でうまくいけばすぐ量産…というわけにはいきません。
例えば、試作時に問屋から緊急調達した部品が、いざ量産になったときに同じ条件・価格で手配できない、といった問題が頻発します。
また、製造現場側でも「試作品の仕入先」と「量産品の仕入先」がまったく異なることで、手配ミスや納期遅延につながることも珍しくありません。
バイヤーから見た試作段階のジレンマ
バイヤーや調達担当者の立場でも、短納期・小ロット対応は採算性が合いません。
それでも「まず試作品を作らねば全てが始まらない」ため、利益度外視で手配することになります。
しかも、昭和型の製造文化が根強い企業では、帳票や承認手続きが未だ紙ベースだったり、システム連携が不十分だったりと、アナログ的な負荷が追い打ちをかけます。
量産段階の調達:安定供給・コスト最優先の現実
量産移行で求められる調達要件
いざ量産となれば、求められる調達要件は劇的に変化します。
「価格」「安定供給」「納期遵守」「品質保証」が最優先され、試作品で許容されていた柔軟さや即席対応は一切通用しません。
サプライヤーにも事前の品質監査や量産前提での能力評価が求められ、一括した大口発注や長期契約になることもほとんどです。
量産移行時に起こる調達現場の混乱
この切り替えのタイミングで、以下のような混乱が往々にして生まれます。
– 試作段階で利用したサプライヤーが量産に非対応
– 量産用コストに見合わない調達ルート・条件
– 社内の図面・仕様書の更新忘れや伝達漏れ
– 実績・認可の無さからくる品質・納期のリスク
特に日本のアナログ業界では、「一度量産承認すると、現場がなかなか仕入先を変えない」「良くも悪くも“なあなあ”で付き合いが始まっている」など、属人的な調達が混乱を深めます。
サプライヤーから見た量産段階の心理
サプライヤーの立場からすると、「試作で声がかかったから量産も任せてもらえる」と期待したのに、突然「コストが合わない」「実力不足」と切られる事態もよくあります。
逆に、量産前提で投資や仕入れを進めていたのに、発注が来ない“空振り”リスクもあります。
バイヤー側の判断基準・導入基準が明確に伝わらず、サプライヤーが右往左往するのです。
なぜ試作と量産でここまで要件が変わるのか
土台にある「目的の違い」
最も大きな理由は、試作と量産の「目的の違い」です。
試作はあくまで新しい試みや仕様の検証(リスクテイク)です。
多少コストが高くても、新規性や柔軟性、スピードのほうが大きな意味をもつ段階です。
一方、量産は「安定的に同じものを作り続け、利益を確保するための段階」です。
そのため一品一様の融通は通用せず、標準化・安定供給・コスト削減が不可欠になります。
日本のアナログ業界特有の「属人・属部署主義」
加えて、製造業特に日本のアナログ業界では「試作は開発部門・量産は調達部門」と完全分業され、情報連携や基準整備が甘いケースが多く見られます。
また、職人や経験者による“裏技的現場対応”に頼る文化が今なお残っています。
このため、「なぜこの試作ルートではダメなのか」「誰がどこまで巻き取るのか」といった社内部署間の温度差や合意形成の遅さが混乱の根本原因になっています。
混乱がもたらす現場の弊害
コストと納期のロス
– 試作品ベースで仕入先も購買条件も仮決めのまま量産発注してしまい、想定外のコスト増や納期遅延が発生する。
– 量産仕入先の選定遅れから、ライン立ち上げ期に部材が足りず、生産計画が大幅に狂う。
品質リスクと責任の所在あいまい化
– 試作サプライヤーと量産サプライヤーが全く違う場合、同じ仕様でないことで品質トラブルが起きやすくなる。
– 製品トラブル発生時、「量産仕入先が決まらない責任は誰が負うのか?」といった責任所在の不明瞭さが増す。
サプライヤーとの信頼関係の損失
– 試作協力だけお願いし、量産で発注が出ないことでサプライヤーからの信頼が損なわれる。
– 逆に、量産が急に決まり、サプライヤー側の製造・供給体制が間に合わず混乱を招く。
混乱回避のためにバイヤーが今からできること
1:初期段階から量産を前提とした調達シナリオをつくる
最初から「量産用サプライヤーと試作用サプライヤーは必ずしも同じではない」ことを全関係者に明言し、調達イメージや条件を議論しておくことが不可欠です。
製造部門・開発部門・調達部門の合同プロジェクトチームで、量産化の要件(コスト、品質、納期、供給能力など)を洗い出しましょう。
2:「試作は試作」と割り切り、量産はゼロベースで仕切り直す
感情に流されず、「試作サプライヤーへの義理」とは別に、全社ルールに則り量産仕入先の選定基準やプロセスを徹底します。
サプライヤーへも「量産発注は別条件になる可能性が高い」と初回から説明し、変な期待値ギャップを生まないことが大切です。
3:情報の社内一元管理、デジタル化を推進する
アナログ業務や属人的管理が混乱を助長します。
調達・図面・検査・承認などの情報を、社内で誰でも追えるデジタルシステムで一元管理していきましょう。
できるところからでも、デジタルツール導入や情報共有会議の定例化、部門横断の情報リンク作りを進めることが推奨されます。
4:バイヤー心理、サプライヤー心理をお互い理解する
バイヤーは「量産のシビアな責任」と「サプライヤーとの信頼関係構築」の狭間で苦しみがちです。
一方サプライヤーも「試作段階では調子良いのに量産で手のひら返しは辛い」と感じています。
定期的に相互フォーラムや情報交換会を設け、全体最適を考えられる関係構築が肝心です。
新たな知見で混乱を制する:ラテラルシンキングのすすめ
昭和からの流れを守るだけでなく、「試作→量産」という“直線思考”を逆転する意識がラテラルシンキングです。
– 量産を見据えた試作/サプライヤーチョイス
– 部署や世代を超えた情報資産の共有
– 属人ノウハウを「会社資産」としてデータベース化
今後はAIやIoTなどのデジタル技術も巻き込み、バーチャル試作やサプライヤーマッチングが一層加速する時代に突入します。
現場では、今のやり方を「本当にこれでいいのか?」と問い直す姿勢が大切です。
時に現場からのボトムアップ提案が“新しい調達”の潮流を生み出します。
まとめ:調達要件の差異をチャンスに変えよう
試作段階と量産段階では、調達要件が変わるのは当然です。
変化を問題視せず、「どこで、誰が、何を、なぜ変えるのか」を全社として合意・共有する仕組みこそが、混乱回避と現場改革への第一歩です。
アナログの良さとデジタルの強みを融合させ、バイヤーもサプライヤーも現場も、ワンチームで新たな未来の調達を切り拓きましょう。
今後も、現場目線の知見を惜しみなく発信していきます。
皆さんも一緒に、製造業の新しい地平線を開拓していきましょう。