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工程監査で見える箇所より見えない箇所の方がリスクが大きい理由

目次
はじめに:なぜ「見える化」だけでは不十分なのか
製造業の現場で語られるキーワードの一つに「見える化」があります。
工程監査においても、現場の状況を可視化し、誰が見ても作業内容や進捗が一目瞭然である状態を目指すのが一般的です。
確かに、現場の見える部分を監査し、改善点を抽出することで、ミスやムダを減らしやすくなります。
しかし、20年にわたり多様な現場を見てきた経験から断言できるのは、見える箇所だけをチェックしていては、重大なリスクを見逃す可能性が高いということです。
むしろ「見えない箇所」「隠れているプロセス」にこそ、経営リスクや品質リスク、納期リスクが潜んでいます。
昭和時代から続くアナログな風土が残る業界では、この傾向が特に強いです。
ここでは、なぜ見えない箇所のリスクが重大なのか、具体例やバイヤー視点、サプライヤー視点を織り交ぜながら、現場目線で掘り下げていきます。
工程監査の本質とは:チェックリストの落とし穴
形式的な監査が現場に根付く理由
工程監査の担当者の多くは、標準的なチェックリストを用い、5S、作業手順、記録書類の有無などを確認します。
日本の製造現場は「形式」「ルール」に極めて忠実で、誰もが「指示されたことは守る」「監査用の資料を用意する」という文化が根付いています。
ただし、書類が整っている・ラインがきれいである、という「見える部分」だけを評価しても、本質的な課題や潜在的リスクには気付きにくいのが現実です。
なぜ見えない箇所が生まれるのか
現場には「表向き」と「本当の姿」の二層が常に存在します。
工程監査の日だけ美化清掃を実施し、不都合な現象(例:検査結果の書き換え、段取り替えのショートカット)は、監査員が来た時だけ”隠蔽”される。
また、形式的な手順遵守だけではカバーできない”ムリ・ムダ・ムラ”が、人と組織の惰性によって隠されていきます。
このような「見せかけの安心感」が、担当者・バイヤーを油断させ、重大不良や工程事故・納期遅延の温床となるのです。
見えない箇所に潜む具体的リスク
ヒヤリ・ハットの隠蔽
現場でヒヤッとした出来事や手順違反が起きた場合、本来は「未然防止」のために上申・共有されるべきです。
しかし、昭和的な上下関係が強い職場や、問題発生時の責任追及が厳しい現場では、
「報告したら叱責される」
「自分の評価に響く」
「都合の悪いことは隠しておこう」
という心理が働きます。
結果、目に見える記録には”問題なし”と書かれているものの、水面下では同じヒヤリ・ハットが何度も繰り返されている、という状態が発生しやすくなります。
非公式な運用とその常態化
最初に決めた標準作業書や工程手順が、現場の工夫で”アレンジ”されることは珍しくありません。
これは「達人」レベルの熟練者による暗黙知(例えば、あえて測定値を丸めている、道具の所定外の使い方をしている等)として根付いてしまいます。
問題なのは、この”アレンジ”が文書や口頭報告では覆い隠されていることです。
この隠れた手順変更が、製品のバラツキやクレームの誘発要因になることは多々あります。
サプライチェーンのブラックボックス化
バイヤーや調達担当者が工程監査を行う際、二次・三次サプライヤーまでは目が届きにくいものです。
一次サプライヤーが提出するトレーサビリティ資料や工程管理記録も、実態と乖離がある場合、真のリスクは「見えない」部分にこそ集中します。
安定供給のはずが、実は下請けでキャパオーバーが常態化していた、製品の一部をアウトソーシングしていた、といった実例は決して珍しくありません。
監査対象から”漏れた”部分で不具合や納期事故が発生し、バイヤーも知らぬ間に炎上案件に巻き込まれた経験は、現場担当経験者なら誰もが持っているはずです。
なぜ「見えにくい」箇所こそ攻めるべきか
トラブルのほとんどは「想定外」に潜んでいる
大きな品質問題や製造トラブルの多くは、「見える部分」よりむしろ、「現場の日常の盲点」や「担当者が問題なしと思い込んでいる領域」で発生します。
たとえば、
・日常点検が記載通りやられていない(書類だけ記入)
・ベテラン頼みの作業がブラックボックス化
・設備保全記録のズレが月単位で未補正
など、監査日には表出しない「クセ」や「抜け道」が業界を支配していることも少なくありません。
デジタル時代の「見えないリスク」は拡大中
紙帳票だけではなく、デジタル化・自動化が進んだ現場でも、システムと運用のギャップが新たな”見えないリスク”を生んでいます。
担当者ごとのPC内Excel管理、正式運用前のマクロ活用、IoT導入後のアラート無視など、「システムは整っているが運用で抜かれている」状況が多数存在します。
監査では”つじつま合わせ”が得意な現場は多く、バイヤーや品質担当者がこの部分に意識を向けなければ、肝心な情報がすり抜けてしまうのです。
「見えない箇所」をどう掘り起こすか:現場目線の工程監査アプローチ
表のデータと現場の「リアル」にギャップを感じ取る
・書類と現物を照合するだけでなく、現場作業者の手順、所作、道具の使い方まで徹底的に観察する。
・許容できるはずの計器誤差と、実際の「狙い値」のばらつきが一致しているか、現品実査を行う。
・工程の「待ち時間」「運搬工程」「段取り替え」など付帯作業を、工程図ではなく現場の動きの中で見極める。
作業者・現場担当者との本音トークを大切にする
・「監査のため」ではなく「一緒に現場を良くしたい」というスタンスで話を聞くことで、隠れていた問題や非公式な工夫が引き出しやすくなる。
・ベテラン作業者が「ここは正直やりにくい」「本当はこうしたほうが安全」などと感じている点を吸い上げ、公式化・標準化の検討につなげる。
工程間の「つながり」「受け渡し」部分を重点確認
各工程単体の監査だけでなく、受け渡しの時間差や品物の棚置き状態、部材の供給・回収サイクル、といった「工程間のハザマ」に注目します。
物流倉庫、サブ工程、ピット内・屋外スペースなど、”隠れた棚卸し”や「責任の谷間」のリスクがないかも見逃さないことが肝心です。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる姿勢
バイヤー視点:表面だけで安心しない
バイヤーは、監査で提示されたチェックリストや公式記録だけでなく、
「この現場でどんな”例外運用”がありえるのか」
「作業従事者本人は、運用通りにできているか・やりにくい部分はないか」
という視点を持ち、常に”疑問””違和感”を大切にすることが大切です。
サプライヤー側が見せかけの対応に終始していないか、現場の温度感や雰囲気まで掴む力が求められます。
サプライヤー視点:”隠したがる”心理から脱却する
昭和な業界気質、新人や派遣スタッフへの教育不足、繁忙期による”応援体制”などから生じるバラつきや事故を、隠さず、むしろ自ら開示し改善提案を行う姿勢こそが信頼につながります。
「見えないリスク」を掘り起こし、是正までやり切る姿勢が、企業競争力を高めるカギとなります。
まとめ:「工程監査は、現場の奥深くを読み解くプロセス」として
工程監査は単なる「見える化」では意味をなさず、「見えない・見えにくい部分こそ」最大のリスク地点です。
表面的な資料や記録、工程図だけでなく、その裏に隠れた「運用実態」「無言の工夫」「現場の現実」を掘り起こすことが、真の品質管理、安定供給のためには欠かせません。
バイヤーであっても、サプライヤーであっても、現場目線・本音目線で接し、奥行きのある監査や改善に向き合うことが業界全体の底上げにつながります。
工程監査の”その先”のリスクマネジメントに、今こそ目を向けていきましょう。
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