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“相見積”が当たり前になりサプライヤーの信頼関係が築けない本音

目次
はじめに:なぜ“相見積”が常態化しているのか
近年、製造業の現場で“相見積”(複数のサプライヤーから見積もりを取得すること)はあたりまえのプロセスとなっています。
高度経済成長期、昭和の時代は長年にわたり特定サプライヤーとの信頼関係を築き、安定した取引を重視していました。
しかし、現代ではコスト競争や多様化するサプライチェーンへの対応のため、調達部門は「いかに安く・いかにリスクなく調達できるか」を重視せざるを得ません。
その結果、1社のサプライヤーとの長期的な関係よりも、常に価格や条件を比較する“競争原理”が前面に押し出されたのです。
この変化は、製造業で働く現場の担当者や、これからバイヤー(購買担当者)を目指す方、あるいはサプライヤーサイドにも多くの影響を与えています。
本記事では、実際の現場目線から“相見積”という慣行の裏にある本音や、信頼関係の築き方、今後の望ましい調達の在り方まで深堀りしていきます。
相見積の本来の意義と現場の現実
相見積は「悪」か?:理想と現実のギャップ
“相見積”は本来、価格の透明性や調達先の多様性を確保し、万が一の調達トラブル時もリスクヘッジするための「健全な」仕組みです。
複数見積の比較により、バイヤーは最適価格や条件を引き出せますし、客観的な根拠を上司や経営層に説明しやすくなります。
一方で、現実現場ではこのプロセスが形式的になり、「値段を叩くためだけの資料集め」と化しやすいのも事実です。
価格だけが最優先され、技術的な提案力や納期対応力、品質サポート力など“総合的な価値”が正当に評価されづらい風潮があります。
これではサプライヤー側も「どうせ最後は値段だけ」「本気で提案してもムダ」と考え、本質的な信頼関係を築こうというインセンティブは生まれにくいのです。
調達担当者の“本音”と“ジレンマ”
バイヤー側も、決して単なるコストカッターでいたいわけではありません。
現場経験者なら分かることですが、単純に安価なサプライヤーに切り替えれば調達リスクや品質リスクが高まることも十分承知しています。
また、価格だけの比較では現場生産性や日々の品質管理など、数値化しづらい“隠れた価値”が見落とされるリスクもあります。
それでも「購買はコストダウンが業績目標」とされ、「説明責任」を果たすために現場本位の判断が難しい。
「長年付き合ってきたサプライヤーを簡単に切り捨てていいのか」
「本当は現場力の高い取引先は残したいが、数字だけでは上司や監査室には説明しきれない」
この“現場のジレンマ”は多くの調達担当者が抱えている本音のひとつです。
サプライヤー視点の“相見積地獄”
「見積もるだけ無駄」―加速するアナログ疲弊
サプライヤー(主に中小・中堅メーカーや部品加工業者)から見ると、相見積は「自社の実力をアピールできる機会」とも言えますが、近年はその疲弊感が強まっています。
理由は、昭和の頃に比べ“見積もり依頼件数”が平準化・大量化し、「工数だけかかり、案件化率が極端に低い」ためです。
特に受注生産系の部品メーカーなど、図面毎・公告条件ごとに原価計算・工程設計をして細かな工数見積もりを作成しなければなりません。
これが月に数十件、場合によっては100件単位で各方面から届くにもかかわらず、「実際にまともな発注に至るのは1割もない」ケースは現場あるあるです。
しかも、リピート発注でさえも取引先の購買部門が人事異動で変わった途端、またイチから複数見積もりが再要求される理不尽さ。
こうなってくると、「どうせウチは当て馬。見積もるだけコスト増」と生産的な意欲さえ失われてしまいます。
「実験台」「情報収集目的」への不信感
現代の調達現場では、技術やスペックの相談フェーズから見積依頼・技術提案依頼を行う場合も増えています。
このプロセス自体はあるべき姿ですが、“最初から特定サプライヤーに内定しているのに、形式的に他社にも見積もりを頼む”という、いわゆる「カバーストーリー」に巻き込まれることもしばしば。
あるいは、「図面や見積情報を集め、主要サプライヤーへの値下げ交渉材料に使うだけ」という使い捨て的な扱いに、サプライヤーは強い不信感を持っています。
このような対応が繰り返されると、「新たな技術提案」「中長期的なコストダウン提案」といった価値創出型の関係性はまったく育ちません。
相見積の“昭和的な呪縛”からの脱却
なぜ業界では“アナログ調達文化”が根強いのか
現状、製造業の多くの現場では、見積提出そのものが“紙ベース”や“Excel文書・メールベタ打ち”で運用され続けています。
発注依頼→見積依頼→見積回収→社内回覧→購買稟議→発注書発行、という一連のフローが、煩雑なアナログ作業に膨れ上がっている企業も少なくありません。
過去の“どんぶり勘定”や“印鑑文化”の名残もあって、「とにかく見積を数多く集めれば納得感が得られる」という形式主義が依然根強いのです。
この“アナログな呪縛”こそが、現場力を削ぎ、サプライヤーのモチベーションを奪い、関係性構築を妨げる元凶ともいえます。
ラテラルシンキングで考える「新しい調達像」
ここで“ラテラルシンキング(水平思考)”を発揮し、見積比較競争を超えた信頼・共創型のサプライチェーンを目指す必要があると感じます。
まず、従来の「短期的、単発的な案件ごと調達」から、「中・長期的な協働パートナーシップ」へのシフトを促進すべきです。
– 例えば、サプライヤーと年間契約を結び、中長期的な生産・供給計画を事前共有
– 単価交渉も「個別案件ベース」→「通期総量や技術協力への見返り」として設計
– 継続的な技術提案やバリューエンジニアリングを、調達側の評価項目にしっかりと組み込む
また、デジタル化・業務自動化が“調達オペレーション”の抜本的な合理化にも大きな力を発揮します。
– 見積もり依頼・回答・評価プロセスをデジタル管理(クラウド型調達BPO等)
– 見積もりそのものも「AI自動見積り」「原価シミュレーション」を導入し、担当者の工数削減
– 過去実績やサプライヤーパフォーマンスの“見える化”による、より納得性のあるサプライヤー選定
これにより、「形式的な相見積」から「価値を正当に評価する協働関係」への進化が期待できます。
現場目線で考える“信頼関係の築き方”
サプライヤーから信頼されるバイヤーとは?
長年の現場経験から言えば、“本当に信頼される購買担当者”は、決して「価格だけ」の提案に偏りません。
– なぜ相見積を依頼するのかを明確に伝える(単なる資料集めでないことの説明)
– サプライヤーにも「何を重視して評価するか」をオープンにし、公平・公正な目線で比較する
– 競争を強いるだけでなく、「今回条件が叶わなかった理由」「今後期待すること」など、率直なフィードバックを行う
– 案件化しなかった場合も労をねぎらい、「次の商談機会」も視野に入れて誠意あるフォローを徹底する
このような基本姿勢が、サプライヤーから逆に「このバイヤーの案件なら本気で提案しよう」という前向きなモチベーションを生み出します。
サプライヤー側の“攻めの立ち位置”も重要
サプライヤーもまた、単に「見積依頼に受け身で対応」するだけでなく、自社の強みや技術力、納期対応力、改善提案力などを積極的にアピールすることが大切です。
– 単価だけでなく、「品質・納期の安定性」「現場サポート力」という付加価値を“見える化”して伝える
– 案件ごとの「VE/VA(バリューエンジニアリング/バリューアナリシス)」や「予防提案」「設計段階でのコストダウン提案」など、積極的な関与
– 見積もりフォーマットや根拠提示をわかりやすくし、バイヤーが「社内説明しやすい資料」に仕上げて納品する
こうした攻めの取り組みが、「長く付き合いたいサプライヤー」として選ばれる道を開きます。
まとめ:相見積の“次世代型”に今こそ舵を切ろう
“相見積”は調達購買のあるべき健全なプロセスです。
ただし、現状は単なる形式的・価格重視の資料収集に陥り、サプライヤーとの信頼関係が損なわれ、生産現場全体の競争力を削ぐリスクもはらんでいます。
今こそ、形式にとらわれず、本質的な価値(技術力・協働力・現場サポート力…)を軸とした「新しい協働型サプライチェーン」への進化が求められています。
バイヤー・サプライヤー双方の立場から“相見積地獄”をただのあたりまえにせず、ラテラルシンキングをもって共に「次世代のものづくり」を実現しましょう。
製造業の現場力向上は、調達・購買現場から変えられます。
新しい地平線を一緒に切り拓きましょう。
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