投稿日:2025年12月6日

5S活動で整理したはずが数日後に元通りになる現場の不思議

はじめに:5S活動でよくある「あるある」現象

5S活動といえば、ものづくりの現場において今や常識中の常識となっています。
整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、この5つの要素を徹底することで生産性向上や安全確保はもちろん、品質・コスト・納期管理にも寄与すると誰もが学びます。

にもかかわらず、現場で「さあ、5S活動をやろう!」と気合を入れて整理したにも関わらず、数日後にはまた物が散乱し、工具や備品が元の無秩序状態に逆戻りしてしまう。
こうした現象は、製造業に身を置いている方、特に工場管理に携わる方であれば一度は体験したことがあることでしょう。

なぜ5S活動は持続しにくいのでしょうか。
現場目線でその原因を洗い出し、持続可能な5Sの実現策や、業界に根付いた文化的背景まで踏み込んで徹底解説します。

なぜ?5Sがすぐに形骸化してしまう理由

活動の目的や意義が現場に浸透していない

5S活動を導入・推進する際、「本来の目的」や「意義」が曖昧なまま進められるケースが多いです。
「管理職から指示されたからやる」「監査や外部顧客のため」「月次レポートの点数を稼ぐため」など、どうしても現場の納得感がないまま作業として消化されがちです。

本来、5Sは現場社員の負担やストレスを減らし、安全性や業務効率を高め、ムダをなくし職場環境をより良くするための取り組みです。
この本質に気づかず、単なるお掃除・整理活動に成り下がってしまえば、数日後に元通りになるのは当然といえるでしょう。

昭和的現場文化の根強さ

昭和から続く熟練者中心の現場では、「道具は使いやすい場所に自分なりに置くのが一番」「作業中にいちいち片付けなんてまどろっこしい」「使ったらわかる人が片付ければいい」という個人主義もまだまだ根深く残っています。

また、「現場は散らかっていて当たり前」「忙しい時は整理整頓より生産が優先」という一種の“現場あるある”文化が無意識的に継承されている側面も否めません。
このような価値観がブレーキとなり、新しいルールや仕組みが定着しないケースが多いです。

見た目優先で収納場所を変えすぎる混乱

5S活動では「ラベルを貼る」「置場所を決める」という施策が多いですが、現場実態を無視して「ここならカッコいいから」「この棚が空いていたから」と使いやすさよりも見栄え優先で物の収納場所を決めると、結局誰も守れなくなります。

産業用現場は多品種小ロット、段取り替えが多いライン、突発修理が頻発する設備…と環境条件も複雑です。
現場で働く人の視点に立った運用になっていないと、改善活動が逆に“遠回り”になり、やがて元の姿に戻るリスクがあります。

5S活動の持続化に必要な思考とアプローチ

5Sは“現場の闇”と向き合うことからスタート

5Sを単なる「掃除大会」や「見た目の改革」と捉えず、まずなぜ現場が散らかるのか、なぜ整理整頓が守られないのか、その“現場の闇”に向き合うことが大切です。

例えば、急ぎの対応や納期対応で仮置きが増えてしまっているのか、不便な収納レイアウトになっていないか、工具や備品の数自体が足りていないのか。
実際、現場の運用実態や困りごとを「見える化」し、根本原因から対策しなければ、一時的な整理は意味を持ちません。

まずは“仮置き”や“例外運用”を減らす

常に整頓された状態を保つためには、「元の場所に戻す工夫」よりも、「“仮置き”や“仮運用”が生じる理由」を潰すことが重要です。
例えば、部品の配置が遠すぎる、よく使うものが隠れて取りにくい、共用工具が少なすぎるなど、日々現場で起きている“仕方ない例外”を一つひとつ解消することが持続化への鍵となります。

現場メンバー一人ひとりの“共感”を生む仕掛け

5Sを現場文化に根付かせるには、作業者自身が「この状態が一番楽」「この仕組みだと自分も楽になる」「みんなで守ろう」と思える納得感が不可欠です。
「誰のため・何のため」なのかを現場で膝を突き合わせて話し合い、5S活動で得られた効果を定期的に“可視化”する、たとえば「〇〇工程でヒヤリ・ハットが何件減った」「不具合発生率が何%改善」など数値や事例で示すことでメンバーの意識が高まります。

定着する仕組みのヒント

1. 小さな“成功体験”を積み上げる
あれもこれも一気にやろうとせず、まずは目につく場所、よく使う工具から始めるのがコツです。
整理・整頓の“効果・快適さ”を全員が実感できれば、横展開も進みやすくなります。

2. 改善の“見える化”と“仕掛け”
ビフォー・アフターの写真掲示、現場パトロールでの声がけ、5S委員会を設置して相談役を決めるなど、日常にうまく5Sを組み込みます。
また、「○○を元に戻したらポイントゲット」など、ちょっとしたゲームや報奨金、称賛の仕組みが意外と効果的です。

3. “変える勇気”も必要
昔からのやり方を守り続けるだけでなく、新しい収納やデジタル管理の導入、小型自動搬送ロボットによる工具搬送など、新技術やアイデアの試行も前向きに進めてみましょう。

自動化・デジタル化時代の5S活動のアップデート

現場DXと5Sは相性が良い

IoTセンサーや画像認識AIを使った現場管理、RFIDによる工具・備品の自動追跡、5Sアプリでの日報管理など、デジタル化は5S活動の強力な武器になります。
「いつ、誰が、どの工具を使い、どこに戻していないのか」「物の在処や棚卸しの進捗」をリアルタイムで可視化することで、属人的な管理から脱却しやすくなります。

人の判断と最低限のルールづくり

ただし自動化に依存しすぎず、「なぜ散らかるのか」「なぜルールを守れないのか」という現場に根付く文化やオペレーター自身のクセを理解したうえで施策を設計するのが肝要です。
人の行動原理に立脚したうえで、「これなら自分もできる」「面倒くさくない」ルールを最低限厳選し、現場とともに育てていきましょう。

バイヤー・サプライヤーにも影響を及ぼす5Sの本質的価値

現場こそ“会社のショールーム”になる時代

最近では大手バイヤーがサステナブル調達基準の一環として、サプライヤー現場の5Sレベルや安全意識を重視する傾向が高まっています。
“きれいな現場”はそのまま「約束を守る会社」「品質を大切にしている会社」とみなされ、信頼や取引条件に直結します。

“見える化”が与信や選定評価に

整理・整頓ができていない現場は「ハザードが多い」「隠ぺい体質がある」「管理がルーズ」という負のイメージを与えてしまいがちです。
逆にどんなに歴史のある町工場や、多品種変量生産の現場でも、小さいながらも「これは工夫しているな」「仕組みで管理しているな」という点をバイヤーは目ざとく見ています。
現場5Sの“見える化”や、改善活動の“ストーリー”を積極的に伝えることが、価格だけでない企業価値を生む時代になりました。

まとめ:本気の5S活動が現場力を変える

5S活動で最も大切なことは、「やったフリ」や「昔からの慣習」に流されることなく、現場目線で日々の困りごとを一つひとつ正面から解決することです。

数日で元通りになってしまう職場には、必ず“根本的な理由”が存在します。
それを直視し、改善し合える文化に変えていくことこそ、次代のものづくり現場の基盤となるでしょう。

昭和と令和が混在する今、「現場の不思議」を“進化のチャンス”ととらえ、5S活動を自分たちの現場力アップ、新たなバイヤーとの信頼構築、サプライチェーン全体の競争力向上にフル活用していきましょう。

読んでくださった皆様が、もう一度“自分の現場の5S”を見直し、小さな一歩からでも本質的な改善を始めていただけることを願っています。

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