投稿日:2025年12月6日

“設計レビューが通ればOK”という形式主義が現場との断絶を生む

はじめに:なぜ「設計レビューが通ればOK」では現場が疲弊するのか

多くの製造業の現場で、「設計レビューが通れば、とりあえずOK」という空気が蔓延していることを実感します。
この形式主義的な思考は、バイヤーや設計担当者、そしてものづくりの第一線に立つ現場とサプライヤーの双方に、大きな断絶と非効率をもたらしています。
昭和から続く「設計書主導」のやり方から脱却できず、現場の知恵やノウハウが活かされにくいという問題が根深い一因です。

この記事では、自身の20年以上にわたる現場経験をふまえ、設計レビューにありがちな落とし穴や、現代の製造業が抱えるアナログ的形式主義の背景、そして設計・調達・現場が一体となって競争力を高めるための視点を提案します。
バイヤーの方はもちろん、現場で汗を流す方、そしてサプライヤーの立場でバイヤーの本音を知りたい方にも役立つ内容としています。

形式主義の現状:なぜ設計レビューは形骸化しやすいか

設計レビューの目的と現場での実態

設計レビュー本来の目的は、設計段階でのミスや手戻りを減らし、コストや品質を事前に最適化することです。
しかし、多くの企業で行われている設計レビューは、実際にはチェックリストを埋めることが目的化し、実質的な議論や現場の知見が反映されないことが多いです。

現場からは「設計レビューするなら現場で使う人間の声をもっと聞いてほしい」「紙の上では分からないノウハウを伝える場がない」といった声が顕在化しています。
サプライヤーにとっては「設計者の思いだけで量産できるものではないが、そこが伝わらない」などのジレンマとなっています。

バイヤーや設計者の視点―責任回避のための儀式化

バイヤーや設計担当者が設計書やレビューの合格印を重視する背景には、ミスが起きた際の責任の所在を明確にしたいという防衛意識が働きがちです。
そのため、承認印が押されれば「仕事は終わった」という気持ちになり、その後の現場トラブルについて本質的に考える機会が失われてしまいます。

こうした“形式主義”は、特に大企業や古い体質が色濃く残る業界ほど、根深い問題となっています。
これではせっかくの設計レビューが製造競争力の源泉になるどころか、むしろ成長の足枷になりかねません。

現場目線で読み解く「設計レビュー万能論」の限界

設計担当者と現場のすれ違いはなぜ起こるか

設計段階では理論上成り立っていても、実際の現場では治工具の制約、作業スペース、作業員の技能レベル、原材料のばらつき、サプライヤーの加工技術など、数多くの現実的な課題が存在します。
設計者は往々にしてCAD上の理想形を追求しがちですが、現場には「その形状では工具が入らない」「公差が厳しすぎて量産現場では実現できない」など、納期や品質に直結する問題がひそんでいます。

こうした課題を現場からフィードバックできない設計フローや、サプライヤーから意見を取り上げにくい空気は、昭和から続く“トップダウンのお作法”に原因があるといえるでしょう。

サプライヤーの立場:本当にバイヤーが知りたい情報とは?

サプライヤーの立場から見ると、「設計レビューに合格した設計」が必ずしも量産・コスト・品質すべての面でベストではないことが少なくありません。
にもかかわらず、「設計通りにしか作らせない」「異議を唱えるとやり直しにされる」といった慣例が横行しています。

しかし、実はバイヤーが本当に求めているのは「設計通りかどうか」ではなく、「実現性」「品質確保」「コスト削減」など、現場視点の改善案やリスク情報だったりします。
現場のリアルな情報や製造側のノウハウが共有されれば、設計と生産性の齟齬を埋める突破口が見えてくるのです。

昭和的アナログ業界の現実とDXの遅れ

未だに根強い「紙文化」と会議偏重

多くの製造現場では、設計図やレビュー資料が紙ベースで管理され、情報が分断されています。
設計ミスや工程改善に関する口頭伝達、現場掲示板、会議での密室的議論など、DX(デジタルトランスフォーメーション)と無縁の運用が常態化しています。

これにより、貴重な現場知見がレビューや設計反映に生かされず、同じ失敗が何度も繰り返される原因となっています。
また、生産技術・工程管理・現場作業者の重要な気付きが握りつぶされると、企業全体の競争力も目減りしてしまいます。

設計と現場の「壁」を壊すために―企業風土の見直し

形式主義がはびこる背景には、「現場の声は軽んじられている」「設計者は現場の苦労を理解しない」という思い込みや断絶があります。
製造大手でも、トップから「現場起点経営」や「現場・現物・現実」の精神が叫ばれつつも、実際には設計主導と現場軽視が続いている場合が少なくありません。

こうした業界慣習を打破し、現場と設計、調達が対等に語りあう場をつくる――言うは易し、ですが、トップダウンだけではなく「草の根的な改善文化」が重要です。

ラテラルシンキングで考える:設計レビューの新しい地平

製造現場と設計の“共創”を生むためのステップ

1. 設計レビューチームに現場・サプライヤーを積極的に巻き込む

設計段階から現場担当者やキーパーソンとなるサプライヤーを招くことで、「設計者だけの納得」や「理屈倒れ」の設計を防げます。
定期的なフィードバックループを運用し、小さな現実的課題でも拾い上げて設計に反映させる文化が大切です。

2. 「失敗ノウハウ」の共有・データベース化

設計レビューが通ったのに現場が苦労した、納入部品に思わぬ不具合が見つかった――こうした“設計レビュー万能論”の落とし穴こそ、全社的に集めて再発防止・設計改善に生かすチャンスです。
品質管理部門や現場と協力して「失敗知見」をデジタルで蓄積し、「こういう設計は現場では成立しない」という知恵を次世代へ伝えていくべきです。

3. デジタルツールとアナログ現場力の融合

あえて紙の良さや現場の勘所(暗黙知)をデジタルツールで「見える化」し、設計~調達~現場がリアルタイムに課題を共有する仕組みを構築します。
たとえば、レビュー資料や現場の写真・動画、QC(品質管理)情報を同時に確認し、設計者が現場の目線で設計変更を可視化できるようにします。

バイヤー・サプライヤー・現場の三位一体が「儲かるものづくり」を実現する

従来は設計・バイヤーが「作らせる側」、サプライヤーや現場が「作らされる側」という分断がありました。
しかし、競争の激しい現代製造業では、現場の改善スピードやサプライチェーン全体の最適化が「儲かる工場」のカギです。

サプライヤーの意見を設計段階から取り入れ、バイヤーと現場がパートナーとして信頼し合うことで、「本当に実現可能でコスト・品質・生産性のバランスが取れた設計・調達」が可能になります。
さらに、「設計レビューはプロセスの一部」という意識にアップデートし、現場と一体で進化する姿勢が企業の強みになるのです。

まとめ:「設計レビュー万能論」から脱却せよ

「設計レビューが通ればOK」という形式主義の裏側には、昭和時代から続く業界慣習と、現場・バイヤー・サプライヤーの断絶があります。
本来は競争力の源泉であるべき設計レビューが形骸化すれば、顧客満足や品質・コスト競争力も遠のいてしまいます。

これからの製造業では、現場の知恵と設計の理論、バイヤーの現実的視点を統合し、三位一体の改善サイクルをまわすことが成長のカギです。
あなたもぜひ、自分の職場で「形式主義から本質主義」への転換にチャレンジしてみてください。

現場で培った知恵や悩みが、業界全体を進化させる原動力になると、私は信じています。

You cannot copy content of this page