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市場ニーズ調査が机上の空論で終わり製品が滑る典型例

目次
市場ニーズ調査が机上の空論で終わる理由
製造業の現場に数十年身を置いた者として、最も痛感しているのが「市場ニーズ調査が現実から乖離しやすい」という事実です。
多くのメーカーが新製品やサービスを立ち上げる際、必ずといっていいほど市場調査や顧客ヒアリングを実施します。
しかし、その成果が「実際の売上や顧客満足」に直結しないことが多く、現場では「あれほど調べたのに、どうしてこんな結果に?」と首をかしげる場面を幾度となく目の当たりにしてきました。
その根本的な要因は、「調査結果が現場感覚や生の声から遊離し、きれいごとや理想論ばかりが先行してしまう」構造にあります。
ここでは、昭和気質が色濃く残る製造現場ならではの事情も交えつつ、机上の空論に陥る原因と解決の糸口を探ります。
典型的な失敗事例:現場不在の市場調査
アンケートの設計が表層的すぎる
市場調査の主流であるアンケートやヒアリングは、しばしば「仮説」や「定性情報」に基づき設計されています。
例えば、とあるFA機器メーカーで新製品開発プロジェクトが立ち上がった際、営業部が顧客に「どんな機能を追加したいか」「現状の不満は何か」を紙ベースで回収しました。
このとき、現場の作業者や設備保全担当者へのアプローチが疎かになってしまい、バイヤーや管理職の表面的な意見だけでアンケートを終えました。
この結果、「省エネ」「低コスト」といった無難で優等生な回答ばかりが並びました。
プロジェクトはこのアンケート結果にそって機能追加やコストダウンに注力しました。
しかし、製品リリース後、現場の作業者からは「メンテナンス性が悪くなった」「操作が複雑」といった声が噴出します。
表面的なニーズばかり拾って本当のペインポイントに迫っていなかったため、製品導入後に現場からの拒否反応が強くなり、結局シェアを伸ばせませんでした。
トップダウンの意思決定による現場軽視
大企業特有の問題として、意思決定が現場を置き去りにした「トップダウン」になりやすい傾向があります。
例えば、社長直轄のプロジェクトチームがトレンド先行の新分野参入を決断し、「AI連携」「IoT化」などのバズワードで、新機能を盛り込んだ製品化に突き進むケースです。
現場の生産担当やメンテ担当からは「導入現場のネットワークインフラが追い付かない」「誰が運用するのか明確でない」といった意見が出ていましたが、経営層からは「市場の未来を見据えた先見性だ」と押し切られました。
結果として、市場では「機能過多で高コスト」「現場で使いこなせない」などの理由で受け入れられず、わずか1年でカタログ落ちとなりました。
昭和アナログ業界が抱える固有の構造問題
「これまで通り」の思考停止が横行
日本の製造業、とりわけ部品加工や組立産業の現場では「これまでうまくいった方法をそのまま踏襲する」「新しいやり方より現場の経験則が最優先」といったムードが根強く残っています。
こうした保守的な社風の中では、「本当に困っていること」や「今後の業界変化」に対する危機感が潜在化しやすくなります。
実際、現場ヒアリングをすると「社内的に新しい要望は言いづらい」「問題があっても何となく自分たちでリカバリーしてしまう」といった声が多く、本当の課題が表面化しにくくなっています。
そのため、机上のニーズ調査だけでは、根深い課題やギャップを見逃してしまいます。
サプライヤーとしての受け身スタンス
バイヤーとサプライヤーの関係性も、昭和アナログ構造の中で大きな課題です。
大手メーカーの下請けとしてサプライヤーが位置付けられがちで、「バイヤーさんに言われたものを忠実に作る」スタンスが定着しています。
そのため、自社から積極的に「現場ニーズを深く掘り下げ提案する」体制ができていません。
一方でバイヤー側も、実は「どんな製品が現場で本当に受け入れられるか?」のアンテナが細く、調達・購買部門と現場部門との間に見えない壁が存在しています。
「自分たちが指示したことをサプライヤーが守ればいい」と思考停止状態に陥り、イノベーションを自ら封じてしまっているのです。
なぜ現場感覚を捉え損ねるのか
生きたデータ・本音情報が集まらない
現場の課題や要望は、定型的なアンケートや調査設問では掬い取りきれません。
なぜなら、作業者や設備保全担当、工場長といった現場人材は「余計な摩擦や手間を避けたい意識」が強く、建前に終始する傾向が高いからです。
また、ニーズを的確に言語化できる人材が社内外に少ないため、調査担当も「聞き出す力」が十分には機能しません。
特に、バイヤーとサプライヤーが建前だけでやりとりをしてしまう現象も見られ、真の要求や現場のペインポイントが浮かび上がらないままプロジェクトが進行してしまいます。
“製品主導”の視野狭窄
日本の製造業は技術主導・製品志向が強いため、「自分たちのモノづくり技術をどう活かすか」に議論が集中しがちです。
しかし、現場では「操作負担が減る」「毎日の点検が楽になる」「生産ラインを止めずに保全できる」といった実用的なペインポイントにこそ価値が生まれます。
卓越した技術があっても、使う人間のペイン・ゲインに焦点が合わなければ、宝の持ち腐れとなるのです。
こうしたギャップは、市場調査に現場や取引先が参画せず、机上の仮説検証ばかりでスタートしてしまうことに原因があります。
滑る製品に共通する見落としポイント
①運用・現場負担の変化を無視
新しい機能・追加装備にばかり注目し、現場作業者が「どんな点が面倒になりそうか」「操作教育はどう変わるか」といった運用目線が不足しています。
結果的に、「実装はできたが、実際の現場で使われない」「現場が忌避する」など、導入・定着が進まない事態を引き起こします。
②“価値”の定義が技術偏重に
「性能が上がった」「精度が高まった」だけを価値とし、現場ユーザーの生産性、精神的負担軽減、業務全体の効率化などを置き去りにしていませんか。
価値の定義がサプライヤー都合や設計者目線に偏ることが、滑る製品の典型例につながります。
③バイヤー・現場との“合意形成”プロセスを省略
バイヤー部門と仮仕様までは話し合うが、実際の現場確認やパイロットユーザー検証を軽視する現象は根強いです。
特に、現場の課題を体感できるメンバーが調査段階から参加しない場合、導入後に「聞いてなかった」「予想と違った」となりがちです。
どうすれば“滑らない製品”を生み出せるのか
現場の“本音”を引き出すインタビュー技法の活用
現場ユーザーの本音を把握するには、「雑談ベースのヒアリング」や「現場での観察」「匿名フィードバック」といった非公式アプローチが有効です。
例えば、「工場の作業者が昼休みにどんな話をしているか」「トラブル時にどんな行動をとるか」まで丁寧に傾聴し、そこに潜む気付きやヒントを拾い上げるべきです。
また、課題を指摘してもらった際には、「それでどう困るのか?どんな影響があるのか?」まで踏み込んで聞き出しましょう。
サプライヤーとバイヤー“協働”型の価値創出
サプライヤー側が受け身でなく、「自社が得意とする分野で、現場ニーズに合致する製品・サービスをどうカスタマイズ提供できるか」を主体的に模索することが重要です。
実際に成功した案件では、「バイヤー現場とのワークショップ形式」「現場担当も巻き込んだプロトタイプ検証」「フィードバックセッション継続」など、一方的な提案や調査結果だけに頼らない双方向の協業が肝でした。
現場参加型のプロジェクト推進体制
ニーズ調査、開発、量産、テスト運用すべての工程で現場メンバーをアサインし、「実際に製品を触り、業務フローで試す」プロセスの導入が滑らない製品を生む最大の鍵です。
製品開発サイドと現場が共に「どこにどんな価値が出るか/出ないか」を実地で確認することで、机上の空論を回避できます。
バイヤー・サプライヤーが知るべき“現場目線”の真髄
現在の製造業界はDX化・IoT推進の追い風があり、データドリブンな価値検証がやりやすくなってきています。
しかし、「ボトムアップの生の声」「泥臭い現場感覚」を軽視すれば、どんな最先端技術も結局は使われない、滑る製品となります。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして付加価値提案力を身につけたい方には、
「現場の人間は何に悩み、どんな場面で困るのか」
「どうすれば少しでも“楽”になれるのか」
こういった泥臭い疑問を出発点に、現場の実態と向き合い続けることが、競争優位を短期・長期双方で生み出すのです。
まとめ:机上の空論を打破し、現場発の価値創出へ
市場ニーズ調査が机上の空論で終わり、製品が滑る現象には、アナログな慣習や意思疎通の壁、現場との距離感といった日本の製造業が長年抱えてきた問題が根深く絡んでいます。
本当に必要なのは、「現場ユーザー目線」「泥臭い課題発見」「サプライヤー・バイヤー協働」の三位一体による“実行力”です。
時代がどれだけ進化しても、現場の声と実態に寄り添い続ける姿勢こそ、滑らない製品づくりの根幹なのです。
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