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プロセスFMEAが形骸化しリスクが見抜けない問題

目次
プロセスFMEAとは何か?
プロセスFMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、生産プロセスに潜むリスクや不具合要因を体系的に洗い出し、評価し、未然に対策するための非常に重要な手法です。
製造業の現場では、「未然防止」と「再発防止」が品質保証・コスト削減・納期遵守の大黒柱であり、FMEAはそのための必須ツールとされています。
しかし、現場を歩いてみると、多くの企業や工場で“FMEAの形骸化”という深刻な問題が根強く存在しています。
プロセスFMEAの真の目的は、「どこの工程で、どのようなリスクが生じうるのか」「その結果、製品や顧客にどんな影響があるのか」「最も効果的な対策はなにか」を深く洞察し、現場活動と直結させることにあります。
しかし、多くの現場ではこの本来の目的を忘れ、「“やればいい”“書類として揃えればいい”」という形式主義がまん延しています。
なぜFMEAは形骸化するのか?昭和的体質からの抜け出せない現実
最近、AIやDXがもてはやされている一方で、製造業の現場ではまだまだ昭和的な“属人的・アナログ”体質が深く根付いています。
わたしが工場長時代に数多く見てきたFMEAの問題は、以下のようなものでした。
まず一つは、「本来の現場プロセスが目の前にあるのに、実際に行わずに“会議室だけ”でFMEAを作成している」ことです。
机上だけで書類を埋め、実際の生産ラインや作業者の観察・ヒアリングをしない。
結果として、現場の真のリスクや潜在的な課題は見過ごされたままになります。
二つめが、「過去のFMEAをコピペするだけ」という無意味な作業です。
“先輩が作ったシートがあるから、それを更新すればいい”という安易な考えがはびこり、新しい技術や工程変更・人事異動があっても見直しをしないことが多々あります。
三つ目は、「FMEAをやること自体がゴールになってしまう」ことです。
リスク評価(RPN値の算出)や対策を記入することが目的化し、「実際にどんな“気づき”が得られたか」「現場で何を変えるべきか」が議論される機会が減ってしまっています。
総じて、FMEAが「生きたツール」ではなく「お役所的な通過儀礼」になっている現実。
この背景には、上意下達の管理体制、改善よりもミスを隠す文化、リスクを言語化できる人材の不足など、根深い構造的課題があります。
リスクが見抜けない“書類FMEA”の弊害
FMEAが形骸化してしまうと、どんなデメリットが現れるのでしょうか。
最も大きな問題は、「本当に危険なリスク、本当にコストがかかる不具合が見抜けない」ことです。
例えば、ある量産部品のFMEAシートを見ても、すべての工程で“リスク低” “対策十分です”しか並んでいない。
しかし、実際は“外観検査での見逃し頻度が高い”“新人教育が追いついていない”“納期遅れに直結する段取り替えミスが頻発している”といった、現実的なヒューマンエラーや供給リスクは全くスルーされてしまっています。
また、FMEAシートが「現場で働く作業者や保全員と十分にディスカッションされない」場合、現場感覚から乖離した机上の空論になります。
その結果、不意のクレームや生産トラブルが発生した際、「なぜ気づけなかったのか」と後悔する原因となります。
さらに、バイヤーやサプライヤーとのやりとりにおいても、FMEAが実情を反映していなければ、取引先からの信頼を損ね、価格交渉や新規案件獲得でも不利になります。
無駄なFMEAがもたらすコスト増大
もう一つ見逃せないのが、形骸化したFMEAは「本来生み出すはずの価値がゼロで、しかも労力と工数だけがかかる」という点です。
実際、FMEA作成に現場リーダーや品質担当者が膨大な時間を取られていますが、肝心の「リスク削減」「工程改善」にはほとんど直結していません。
このような作業は、現場の“やらされ感”を強めるばかりか、本当に大切な現場改善活動や人材育成の機会を奪ってしまいます。
形骸化から脱却するための現場目線FMEAのポイント
では、FMEAを「生きたツール」として機能させるには、何が必要なのでしょうか。
20年以上の現場経験から、以下のポイントを強くおすすめします。
1. 必ず現場を“歩く”こと
FMEAを作成する際は、工程リーダー・品質管理・生産技術のメンバーが必ず現場プロセスを歩き、現物・現場・現実(3現主義)を確認しましょう。
実際の作業者や保全担当とも対話し、「どこでヒヤリ・ハットがあるか」「どんな作業ミスがありがちか」といった経験則もひろい集めることが重要です。
これにより、机上では見逃しがちな潜在的リスクや、本当に困っている部分が明確化されます。
2. 最新の技術変化や人の流れを反映させること
製造ラインは、日々自動化投資や配置転換などの変化を続けています。
特に最近は“人が足りない” “多能工化が進められている” “自動化設備がブラックボックス化している”など変化が激しい時代です。
FMEAは、「過去のまま」ではなく、「最新のプロセスや人のスキル変化」を必ず反映しましょう。
新人教育の遅れや設備ソフトバージョンの違いなど、これまでなかったリスク要素も盛り込むことが肝心です。
3. 異分野の視点で新たなリスクを掘り起こすこと
現場担当だけの会議だと、「おなじみの問題」しか挙がらず、思考が固定化しがちです。
そこで、調達購買担当・生産管理・品質保証・サプライヤー・時にはバイヤーなど、“異分野の視点”を巻き込みましょう。
「この部品、万が一納入遅延や海外から来ないリスクは?」「工程変更したとき、サプライヤーの調達側で気づける方法は?」など、現場以外が気づくリスクも重要です。
4. FMEAを「対策実行」の入口と捉えること
FMEAは完成した時点がゴールではありません。
導き出された重要リスク(RPN値が高い項目など)は、具体的な対策アクションや現場改善活動につなげましょう。
たとえば、「段取り替え手順の標準化と教育」「冗長系センサーの追加」「納入遅れ対策のための在庫安全率引き上げ」など、リスト化したリスクに対して確実にアクションプランを実行する流れを組むべきです。
また、トラブル発生時は「FMEAで見落としていなかったか」を確認し、反省・改善のループをつくりましょう。
昭和的な体質から脱却し、FMEAを現場変革の武器にするために
現場に根付いた昭和的な体質―「前例踏襲」「とりあえず書類でOK」「リスクを隠す空気」から本気で脱却するには、経営層・管理職の覚悟と現場の意識改革が不可欠です。
企業文化の改革として、
– 「FMEAは現場力・現物主義で進める」ことを明文化する
– 管理職が現場メンバーと共に現場ウォークや分科会を定例化する
– FMEAの「良し悪し」を“書類の見栄え”ではなく「発見されたリスクの質」で評価する
– サプライヤーやバイヤーに対しても“見せかけ”ではない、本質的な現場改善志向を共有する
ことが極めて重要です。
また、IoTやAI活用も進んでいますが、基本は「現場で気づき、本質を突く」FMEA。
そのベースなくしては、“デジタル化”しても中身が空疎なままです。
バイヤー・サプライヤーの目線から見たFMEAの本質
サプライヤーの立場にある方は、「FMEAをどう見られているのか?」が気になるでしょう。
取引先バイヤーは、「御社は本当に現場を知っているのか」「リスクを見抜き、対策する力があるのか」を、FMEAシートとその運用状況から鋭くチェックしています。
逆に、バイヤーとしては「形骸化したFMEAしか出せないサプライヤー」とは、将来のトラブルや品質不良が不安で取引を敬遠せざるを得ません。
また、リスクを率直に開示し、共に改善する姿勢を見せるサプライヤーには、逆に協力的なサポートやビジネス拡大のチャンスが生まれます。
現場を知る現役バイヤーは「FMEAが現場の現実・改善活動と結びついているか」を見抜いています。
サプライヤー側も、現場目線でどれだけ自社FMEAを“磨けるか”が今後ますます問われる時代になっています。
まとめ
プロセスFMEAは、製造業の命綱ともいえる重要なリスクマネジメントツールです。
その力を最大限活かすには、「現場主義」「多様な視点」「形骸化からの脱却」「改善ループの組み込み」が必須です。
昭和的なアナログ業界を飛び越え、「本当に価値あるFMEA」を現場で生み出すことが、今後の日本のモノづくりの存続と発展、そしてグローバル市場での競争力維持への鍵となります。
ぜひ今一度、自社や自分の現場で「FMEAが形骸化していないか?」「本質的なリスクや改善が見抜けているか?」を再点検し、現場力を高めるアクションを起こしましょう。
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