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“この部品だけ加工精度が出ない”理由の大半が設備の温度変動という事実

目次
序章:なぜ「この部品だけ加工精度が出ない」のか?
製造現場で「なぜか、どうしてもこの部品だけ寸法がズレる」「精度が安定しない」といった声があがることは珍しくありません。
長年、調達購買・生産管理・品質管理の現場に身を置いてきた私も、何度となくこうした現象に直面してきました。
現場では図面の見直し、工具の摩耗確認、加工条件の再検討など、様々なアプローチが取られますが、案外見落とされがちな「落とし穴」があります。
それが「設備の温度変動」です。
本記事では、加工精度と温度管理の密接な関係、そして現場でできる温度対策について、実体験も交えながら深掘りしていきます。
温度変動が加工精度に与える根本的な影響
金属も”呼吸”する——熱膨張のメカニズム
金属は温度変化によって膨張・収縮します。
たとえば鉄鋼の場合、1メートルあたり1℃で約0.012ミリ変化します。
わずかな違いに感じますが、マイクロン単位の精度を求める精密部品や長尺製品になると、これは無視できない誤差になります。
設備そのもののフレームやテーブル、加工物自体も一晩で気温が5℃動けば数十ミクロン変わる可能性があります。
ミクロンを争う現場で「室温」「油温」管理の盲点
製造現場では多くの場合、部屋の室温や工具の摩耗状況は気にしますが、機械本体や切削油、油圧系の温度管理まで気を配っている現場はまだまだ少ないです。
実際、旧来のアナログ工場で「エアコンはつけているから大丈夫」という油断から、加工時と検査時で温度が違い、結果的に検査でNGというケースも多々発生しています。
「朝イチ」「昼一番」「夜勤」タイムラインで精度がぶれる理由
特に交代勤務がある工場では、朝イチの加工と昼過ぎ、夜勤の終わりでは加工品の寸法が微妙に異なることが少なくありません。
これは工作機械自体が、稼働開始直後は冷えきっており、稼働とともに温度が上昇、フレームや主軸、固定治具などに熱が伝わるためです。
機械が”温まる”までは、どうしても寸法誤差が発生しやすくなります。
よくある「精度不良の調査」落とし穴——根本原因の見極め
現場でありがちな対応例
「部品精度がおかしい」となると、現場はよく以下のような流れをたどります。
– 材料ロット違いの検証
– 加工条件(回転数・送り)の見直し
– 工具摩耗や選定ミスの疑い
– 機械のジブ調整や異音確認
– 測定器そのものの校正
これらはもちろん基本であり重要ですが、「温度」という因子は現場の職人や若手にとって経験論的にしか認識されていないことが多いのが現実です。
「測定誤差」と片付けては危険——温度補正の必要性
測定するタイミング、測定する場所、その時の温度は本当に一定ですか?
測定テーブルの温度変動は、たとえば検査室と現場で5℃異なれば、製品の寸法も意外なほど変わります。
「測定値がぶれる=測定者のせい」というのは早計です。
本当の根本原因は、測定・加工環境の温度差かもしれません。
調達・バイヤー目線でも重要な「温度管理」
発注先工場の設備環境は見えづらい
調達やバイヤー業務では、見積もり時には「○μm精度」の製品納品が求められます。
しかし、実際に工場がどのような環境で製品を作っているのか、温度管理がどこまで徹底されているのか、短納期やコストダウン圧力の下では見えづらくなっています。
サプライヤー選定時にも「空調設備」「検査室精度」まで踏み込んでヒアリングするのは非常に大切です。
温度管理は「付加価値」——品質ロス削減、コスト最適化のカギ
安易なコストダウンは精度不良による再製作・検査コスト増に直結します。
長い目で見れば、温度管理を徹底しているサプライヤーの方が結果的にコストも品質も安定しやすい傾向は明らかです。
購買・バイヤー業務においては、「温度管理レベル」も一つの見極めポイントとなり得ます。
現場で今すぐ取り組める「温度変動」への具体的対策
(1)設備の予熱運転と段取り時間の最適管理
機械は「冷えた状態」から突如高精度加工すると誤差が大きくなります。
始業1時間前から予熱運転を入れたり、加工したい寸法に最適化するためのダミー加工を行うことで、機械自身の熱変形を安定させることが可能です。
(2)現場・検査室の温度記録と見える化
加工現場と検査室で温度差が発生しやすい工場では、シンプルに「温度ロガー」を設置し、毎日ログを残すだけでも大きな効果があります。
グラフ化して傾向を見せることで、現場の意識改革にもつながります。
(3)測定時の「温度補正」ルールの徹底
測定値は20℃基準で設計されていることがほとんどです。
現場温度と検査室温度が異なる場合、寸法補正表を用意して測定結果を修正するだけでも、納品時の寸法ずれリスクを下げることができます。
(4)定期的な現場教育と”昭和”脱却の文化づくり
「俺の勘と経験でなんとかなってきた」では未来は開けません。
若手や中堅社員に向けて、温度と精度の因果関係を座学とOJTの両面から繰り返し教育することが、長期的に生産性・品質を底上げします。
古くから変わらぬやり方を見直し、「現場が環境データも活用する」体質へシフトしましょう。
最新動向:工場自動化・DXと温度管理の未来
AI・IoT技術の進展により、温度・湿度・加工条件などあらゆる工程データがリアルタイムに可視化され、異常時には自動補正、またはアラートが出る設備も登場しています。
ですが、多くの中小規模工場ではまだまだアナログ運用が主流です。
重要なのは「最新技術導入と現場での運用ノウハウ」を融合させること。
人の感覚値とデータを組み合わせることで、真に強い現場が出来上がります。
まとめ:「なぜこの部品だけ?」にこそ現場改善のヒントがある
部品ごとの加工精度のバラつき、その根本原因の多くは「設備の温度変動」というシンプルだが見落とされがちな要素に集約されます。
温度管理は「コスト」と「工数」だけで片付けるものではありません。
確かな品質、安定した納期、そして現場の納得感を得るためには、日々の温度変動という”一見当たり前”の現象を数値で捉え、きちんと「見える化」し、「管理する」ことが鍵です。
ベテランも若手も、お客様(バイヤー)もサプライヤーも、全てのステークホルダーがこの視点を共有し、日々のQCD/経営改善につなげていきましょう。
「温度を制する者が、精度不良を制する」——
昭和の現場も、デジタル時代の工場も、その本質は変わりません。
どうか日々の現場に、新しい一歩を踏み出してください。
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