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設計根拠を残さず後継者が図面の意味を理解できない属人化の沼

目次
はじめに:なぜ図面の意味が伝わらないのか
設計部門で働く方は、日々「図面」を描く中で、後輩や他部門からの「これはなぜこうなっているのですか?」という質問に答える機会があると思います。
すぐに答えられるなら良いですが、過去の図面を見返して「なぜこの仕様にしたのか自分でも分からない」と頭を抱えたり、別の担当者の図面だとまったく意味が分からず困った経験が一度はあるでしょう。
この「設計根拠が図面に残されていない」という現象は、今なお多くの日本の製造現場で続く“属人化の沼”の代表例です。
属人化が進行すると、設計変更や後継者育成が著しく困難になり、時間もコストも余計にかかります。
しかもそれは調達購買や品質保証、生産現場にも波及し、組織全体の競争力を下げてしまいます。
この記事では、なぜ多くの現場で設計意図が伝わらず図面が属人化してしまうのか。
その背景を分析し、抜本的な改善策やデジタル活用、昭和から続く「設計文化」の課題にも切り込んで現場目線で考察します。
図面属人化の現場実態
設計意図がどこにも書いていない現実
昭和から続く多くの製造業において、「図面」を描くことが主目的となっていて「なぜこの寸法・形状・材料・公差にしたか」を記録する重要性が見過ごされがちです。
そのため、設計者本人だけが分かる“こだわり”や“折衝の妥協点”、または不具合対応の裏話などは図面の外側、つまり設計者の「頭の中」だけに残されていきます。
典型的なのは、以下のようなケースです。
– 組立現場から「ここの隙間公差を広げたい」と言われて追加対応
– サプライヤーの設備制約から急遽寸法を変更
– 顧客からの口頭指示(FAXや電話)で一部仕様を微修正
これらの裏事情は、図面や設計変更書などの公式文書にほとんど残されません。
その場をしのぐための急ごしらえ対応が日常化している職場では、なおさら属人化が深刻化します。
設計者と現場担当は“暗黙知”の共有で成り立つ
設計者がベテランであればあるほど、10年20年と染み付いた「これは常識」という暗黙知に頼る傾向が強くなりがちです。
たとえば、
– ここは強度が足りないからリブを付けておいた(でもその理由は記録なし)
– 本当はこの材料を指定したいがコストが合わないので妥協(詳細は議事録にも残らない)
– 以前発生したクレームを踏まえて仕様変更したが、詳細の経緯は上司も知らない
こうしたノウハウは後輩や他部門に「なぜ?」と聞かれても、「昔からそうやってる」「設計のセンス」「図面だけ見て推察して」という精神論で済まされることが今も多々あります。
なぜ“設計根拠”を残せないのか?
書類・システムが“目的化”しているから
ISOなどの外圧による設計変更書・仕様書・議事録などの運用は進みましたが、「とりあえず形式だけ合わせておく」「監査用の書類作り」になっていることが少なくありません。
本来は「設計がなぜ変更されたか」や「どんなリスクがあってどう対応したか」をしっかり文書で残す必要があります。
ところが、現実の優先度は「出荷に間に合わせること」や「コスト削減」「営業案件への即応」が高いため、記録やコミュニケーションの質がおろそかになりがちです。
設計部門は“成果物(図面)”だけで評価される
個人の目標管理では、1カ月に何件の図面を描いたか、どれだけ速く設計回答できたかという「納期」や「件数」でKPI管理されるケースが多いです。
一方で「設計根拠のドキュメント化」や「設計意図の分かりやすい伝達」は評価対象にならない職場も多く、「設計意図を残すのは面倒なだけ」というモチベーションの低下を招いています。
設計変遷や顧客要求の履歴が複雑化
OEM・サプライヤーなどバリューチェーンが長くなるにつれ、
– 試作品の設計→実機の設計→量産設計
– メーカー→1次サプライヤー→2次サプライヤー…と変遷
各段階で設計変更や顧客要求が二転三転し、図面管理や設計根拠の説明が非常に困難です。
メール・チャット・電話・FAXなど情報伝達経路が分断されていることも混乱を助長します。
属人化の“沼”が引き起こす問題
設計教育・後継者育成の壁
配属されたばかりの若手設計者や、中途で入った技術者が最も苦労する点は「なぜこうなっているのか分からない」図面の山と格闘することです。
前任者から十分な引継ぎもなく、打ち合わせの記録もなく、
– “この図面通りに作って良いのか?”
– “万一トラブルがあっても自分が責任を取れるのか?”
と精神的プレッシャーにさいなまれます。
結果、「このやり方で本当に問題ないのか」と恐る恐る進めるため業務は停滞します。
属人化が全体の効率を著しく下げてしまうのです。
設計変更時の手戻り・ミス誘発
「なぜここを変えてはいけないのか」という設計意図が引き継がれていないため、安易な設計変更が行われ思わぬ不具合を発生させるリスクがあります。
現場からの突発要望や顧客仕様変更にも正しく対応できず、「とりあえず形だけ合わせる」ことで部品不良や品質トラブルの火種となります。
実際の現場でよく起こる例として、
– 公差を広げた途端に振動などの異常が発生
– 安価な材料に切り替えたら強度不足で破損
– 図面上は同じに見えるのに、現物が組み立たない
といった“想定外”の連鎖が頻発します。
サプライヤーとの関係にも影響大
特にサプライヤー側から見れば、「設計者がなぜこの点にこだわっているのか」や、「品質要求の裏にあるリスク」が分からず、不良品の防止や改善提案がしづらくなります。
調達購買部門からしても「なぜこの価格・納期でなければいけないのか」の交渉材料となるロジックが不明確なため、バイヤー・サプライヤー双方にとって大きなストレスとなります。
属人化を脱却するために今できること
設計レビュー文化を再設計する
従来の「形だけ実施するレビュー」ではなく、「設計者がなぜその仕様を選んだのか」「どのようなリスクが想定されたのか」を言語化を強く意識した設計レビューを徹底することが重要です。
その場限りの質疑応答で終わらせず、議事録やレビューシートに設計根拠を必ず残す習慣が必要です。
“設計意図の記述”をルール化、システム化する
手間を嫌ってやらない文化から脱却するには、「図面に必ず簡単な設計意図を明記する」ルール化や、設計管理システム(PDM等)の活用が有効です。
最低限でも、
– “この寸法は○○のために設定”
– “材質選定の理由は△△”
– “この公差は△△のトラブル未然防止”
といったメモ書きレベルでも良いので、後から追跡できるようにすることが肝要です。
属人ノウハウは“動画・音声”も活用
図面や設計書に残しきれない細かい“勘どころ”や“コツ”は、スマホやPCで簡単に録音・録画し、設計管理システムや社内共有フォルダに格納することも効果的です。
若手の立場で「引き継ぎ資料が分かりやすい」と感じるポイントがたくさんあるので、現場側からも要望を出し合い協力するのが属人化対策のコツです。
ラテラルシンキングで考える「設計ナレッジ共有」の新たな地平線
「形」よりも「意図」を重視した設計DXへ
昭和から続く現場文化は、「図面に絶対的な正しさがある」と信じがちですが、これからは「なぜそうしたのか」「どこがリスクか」という【意図=ナレッジ】の蓄積が本当の資産となります。
AIやDX技術の活用で、設計根拠や類似設計の検索、設計意図の自動タグ付け、設計変更の履歴管理も可能です。
単なる書類作成やデータ保存に留まらず、「未来の設計者が活用しやすい知識資産の構築」こそが属人化を断ち切る本質的なキーとなります。
現場とバイヤー・サプライヤーの協創へ
設計者発の属人化は、決して設計者「だけ」の問題ではありません。
調達購買担当やサプライヤーこそ、設計意図が分からないことで苦しい立場になることも多いです。
逆に言えば、「ここが設計ノウハウのブラックボックスなのですが」と現場から質問したり、サプライヤーが付加価値提案をすることで、属人化の壁を突破するキッカケが生まれます。
まとめ:組織全体で「設計意図を共有する」文化を築く
設計根拠を残さず後継者が図面の意味を理解できない属人化の沼から脱却するためには、昭和から続く設計現場の文化や評価指標そのものを見直す必要があります。
手間やコストを理由に先送りするのではなく、「知識資産」として設計意図やノウハウを必ず残す。
その習慣が浸透すれば、バイヤー、サプライヤー、現場作業者、全員が「なぜ?」に即答できる組織へ進化します。
製造業全体の生産性向上、品質向上、そして強い現場づくりの第一歩は、今目の前の図面1枚に「なぜこうしたか」を書き添えることから始まります。
新しい設計ナレッジ共有の地平線をみなさんとともに切り拓きましょう。
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