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品質保証が最も恐れるのは“判断基準の曖昧さ”という現実

目次
はじめに:品質保証の最前線で感じる「基準の曖昧さ」とは
製造業の中枢を担う品質保証の現場で、最も避けなくてはいけないもの、それが「判断基準の曖昧さ」です。
長年にわたり生産の現場に携わっていると、計測機器の精度や工程管理、ヒューマンエラーなど、品質にまつわるさまざまな課題が浮かび上がってきます。
しかし、その根本には「何を良品とし、何を不良品とするか」の線引きが曖昧であることに起因しているケースが、驚くほど多いのです。
特に、昭和の頃から続くアナログな慣習や、属人的な判断に頼りがちな現場では「なぜこの基準なのか」「この範囲で本当に顧客満足を守れるのか」と自問自答することが日常茶飯事です。
本記事では、私が経験してきた実例や、業界動向を交えながら、品質保証における「判断基準の曖昧さ」がもたらすリスクと、その解決に向けた実践的なアプローチを紹介します。
製造現場の方、バイヤー志望の方、サプライヤーの皆様も、ぜひ現場目線で“今一度考える”きっかけとなれば幸いです。
なぜ「判断基準の曖昧さ」が最悪の敵なのか
製造業が抱える“隠れリスク”
少し極端な言い方ですが、製造業の品質事故の多くは、現場の「基準の曖昧さ」に帰結します。
たとえば、不良品の判定を行う際、「このキズの大きさならOKだろう」「この寸法のズレならギリギリセーフ」という曖昧さが現場の積み重ねの中でルール化されてしまう。
こうした状況は、一見すると経験値からくる“柔軟な対応”にも思えますが、いざクレームやリコールが発生した際、その判断の根拠を明確に説明できず、ブランド毀損や顧客離れに直結します。
また、属人的な判断が横行すれば、ラインごと、オペレーターごとに合格基準がバラバラになり、品質のばらつきが拡大します。
最終的に「なぜA工程ではOKなのに、B工程ではNGなのか」と社内外から指摘され、現場は混乱を極めるのです。
バイヤー・サプライヤーの信頼関係にもヒビ
バイヤーの立場から見れば、サプライヤーの判断基準が曖昧なままでは、安定供給が常にリスクにさらされている状態です。
サプライヤーは「これまではこの基準で納品してきたのに、急にNGと言われる」と戸惑い、不信感を持つでしょう。
バイヤーにしてみれば、「ルールを守らない不誠実な会社」と判断し、取引停止に踏み切ることもあります。
このように、判断基準の曖昧さは、現場内部の問題だけにとどまらず、企業の存続や市場競争力を大きく揺るがしかねないのです。
昭和から現代まで続く“アナログ基準”の光と影
「経験と勘」に頼る限界
現場では今なお、「ベテラン作業員の勘と経験」に頼った品質判定が存在しています。
実際、熟練の職人による五感を活かした最終チェックで、細微な不良を弾き出す光景は珍しくありません。
確かに、日本の製造業の強みは「人」にあるとも言えます。
しかし、技能者の高齢化・人員流動化が進み、知見の継承が困難になる中、「技術の見える化」「属人化からの脱却」が急務となっています。
今はたまたまうまく回っている工場も、次世代に引き継ぐ時が近づいてから慌てても遅いのです。
現場改革のための一歩
筆者が現場長を務めていた頃、まず取り組んだのは「暗黙知の形式知化」でした。
たとえば、表面キズの判定基準であれば、実物サンプルを用意し、「これ以上のキズならNG」「この程度ならOK」と、全員で目視チェックし、写真や寸法データで記録しました。
さらに、検査員同士で“相互確認会”を開催し、判定にバラつきがないか定期的に確認を徹底しました。
これにより「誰がいつ判定しても同じ基準」で品質保証ができる仕組みを作り上げたのです。
判断基準の明確化がもたらすメリット
クレーム・リコールリスクの低減
判断基準が明確になると、不良品が市場に流出するリスクは劇的に減少します。
もし不具合が発生しても、基準通りに管理していた証拠を提示することで、顧客とのトラブルを最小限に抑えることができます。
また、基準自体の見直し・改訂が必要な場合も、速やかに是正できる体制が整うのです。
ライン切り替え、増産対応の迅速化
設備投資や工程変更など、環境変化に応じて迅速に基準を適用できるのも大きな利点です。
たとえば、新規設備での立ち上げ時に「従来のAライン基準」が正式文書で残っていれば、そのまま教育や指導に落とし込むことができ、属人的な「言った言わない」を避けられます。
結果的に生産の立ち上げ期間が短縮され、品質管理の効率化につながります。
サプライチェーン全体の安定化
グローバル調達が当たり前となった今では、複数のサプライヤーに同じレベルの製品品質を求める必要があります。
判断基準が明確であれば、「どういった要求か」「なぜその許容範囲なのか」を正確に伝えられ、サプライヤー側もムダな再調整・再設計の手戻りを防げます。
コストや納期を圧迫する要因を抑え、サプライヤー・バイヤー双方の信頼関係強化につながるのです。
基準明確化への現場改革 ~実践のステップと課題~
1. 現場“共通言語”をつくる
まず、ベテランから新人まで「同じ基準」を用いて判定できるよう、共通言語でルールブックを作成します。
業界や現場の風土ごとで細かい表現が変化するため、「できるだけ客観的な数値・写真・現物サンプル」による明文化が効果的です。
また、判定基準を一度固めた後も、半年~1年周期で見直す仕組みを導入し「基準自体の老朽化」を防ぎます。
2. クレーム・異常品発生時の“振り返り”を習慣に
基準から逸脱した現象が起きたときは、迅速に現場を巻き込んで“振り返り”を行います。
なぜ発生したのか、基準は守られていたのか、顧客ニーズの変化はないかを多角的に掘り下げます。
その場しのぎの対症療法ではなく、「基準そのものをアップデートするための改善提案」を必ず出し合う文化の醸成が重要です。
3. AI・IoT活用による“匠の技”のデジタル化
最近は、カメラ画像認識やセンシング技術を活用し、目視検査の基準すらAIに学習させる事例が急増しています。
「職人の目」をAI化することで、個人差やノイズによる判定ミスを減らすだけでなく、日々の品質データを蓄積し、基準アップデートへの活用も容易になります。
ただしツール依存に偏りすぎると、現場の目利き力が低下するリスクもあります。
人とデジタルの最適なバランス、「人の五感」と「テクノロジー」の二刀流活用が、これからの現場改革のキーポイントです。
サプライヤーこそ知っておきたい、バイヤーの“ホンネ”とこれからの動向
サプライヤーの立場では、「細かい基準ばかり押し付けられる」「実用上は問題ないのに要求レベルがどんどん上がる」と感じているかもしれません。
しかし、背景にはバイヤーが「最終顧客から訴訟リスク・信頼低下リスクを背負っている」という現実があるのです。
過剰品質・過少品質、どちらも避けたいのがバイヤーの本音です。
よってサプライヤー企業は、“基準の起点”と“狙い”を深く理解し「なぜその品質が必要なのか」まで遡ってバイヤーと対話することが大きな差別化要素になります。
2020年代後半以降、ESG投資やグローバル規制強化の流れから「説明責任」「基準透明性」に注目が集まっています。
ルールや基準を社外・海外にもオープンにする動きが一段と加速しています。
古くからの“阿吽の呼吸”だけに頼る時代は、確実に終わろうとしています。
まとめ:「曖昧な基準」と決別し、強い現場を創る
品質保証が最も恐れるのは“判断基準の曖昧さ”という現実は、昭和から令和へと変化する製造業の過渡期において、避けて通れない課題です。
判断基準の明確化は、品質事故リスクを減らすだけでなく、現場力の底上げや、サプライチェーン全体の信頼構築にも大きく寄与します。
現場、バイヤー、サプライヤー、それぞれの立場から「基準」と真剣に向き合い、「言葉にして伝える」「数字と現物で裏付ける」こと。
これらの小さな工夫の積み重ねこそが、日本のものづくりを次の世代へ受け継ぐための土台になると、私は信じています。
自分たちの“基準”を、今一度棚卸しし、更新し続けていく姿勢が、明日の現場につながります。
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