投稿日:2025年12月13日

工程能力指数が高くても不良が出るケースがある理由

はじめに:工程能力指数とは何か

工程能力指数(Cpk)は、製造現場で品質管理を行う上で非常に重要な指標です。
この数値が高いということは、工程が設定された規格内にしっかりと製品を納める能力があると判断できます。
多くの方がCpk値だけを見て、工程の健全性や不良率の少なさを判断しがちです。
しかし実際の工場現場では、「工程能力指数が高い=不良が出ない」とは限りません。
昭和時代から続くアナログな現場や、最新の自動化ラインでも、不良ゼロに向けた悩みの声は今も絶えません。
この記事では、なぜCpk値が高いのに不良が出るのか、そのメカニズムと現場経験者目線での実践的な対応策を解説します。

工程能力指数(Cpk)が高いとはどういうことか

統計的な裏付けと、現場での意味

Cpk(Process Capability Index)は「工程から生み出される製品がどれだけ規格内に納まるか」を、位置(平均値)と広がり(標準偏差)で評価する統計的指標です。
一般的に製造業ではCpk=1.33以上を“合格”ライン、それ以上であれば「高い」と言えます。
例えば金属加工の外径値や、プレス部品の板厚など、さまざまな工程管理に使われています。

但し、Cpkで測っているのはあくまで「継続的に発生しているバラツキ(偶発的バラツキ)」です。
測定サンプルが工程を代表していれば、確かにその工程は安定している、というひとつの根拠になります。

なぜCpkが高い工程でも不良が出るのか?

Cpkが高くても不良が発生する。
これは現場でよくある話ですが、なぜそうなるのでしょうか?
理由としては大きく以下のポイントが挙げられます。

  • 偶発的・一時的な異常(特殊原因)にはCpkは無力
  • 測定していない特性・不良には目が届かない
  • 人や設備の潜在的な問題・癖の見逃し
  • 測定データの母集団が偏っているリスク
  • 現場運用のアナログさが残る“見えない穴”

現場目線で把握したい “Cpkに隠れたリスク”

偶発的・一時的な異常とCpk

製造ラインでは日々わずかな変動を伴いますが、Cpkはそうした「普通のバラツキ」を対象にした指標です。
しかし、工具の破損や治具のズレ、シフト交代時の段取りミスなど、突発的な異常(=特殊原因)はCpkの対象外です。
特殊原因による異常が偶発的に発生すると、どんなに高Cpkであっても一瞬で大量不良に繋がります。
実際にはこうした異常要因は月数回レベルで潜在しており、特に「段取り替え」「休憩明け」「夜勤体制」など、アナログな部分で起こりやすいのが現場のリアルです。

「測定していない特性」への死角

Cpkは測定した特性値のばらつきだけを見ています。
たとえば寸法や重量などでOKを取っていても、「見た目」「キズ」「表面仕上げ」といった官能検査や人の目に頼る特性はCpkの対象外です。
現場では「数字上は問題ないが、実際の使われ方の中では不具合になる」ケースがとても多くあります。
品質トラブルに発展したとき「Cpk的には大丈夫ですが…」と頭を抱えた経験のあるバイヤーや製造現場の方も少なくないでしょう。

測定母集団の偏りと、アナログ現場の落とし穴

昭和から続く現場文化には、帳票や検査記録の手書き、目視確認、測定器のキャリブレーション漏れなど、“アナログな穴”が散在しています。
「たまたま良品ばかり測っていた」「サンプリングのタイミングが偏っていた」「そもそも記録が改ざんされていた」など、人や運用に起因する問題が現場には根付いています。
例えば納期直前で焦る現場では、実際に良品だけを選抜して測定記録を残すことも、決してゼロではないのが現実です。
こうしたケースではCpk値そのものが実態と乖離してしまい、見かけの安心感から「なぜ不良が出るのか分からない」状況を招きます。

バイヤー・サプライヤーを目指す方が知るべき、“真の現場力”

工程能力指数だけに頼らない「現場の肌感」

Cpkや統計的データを正しく理解し活用することは大切です。
しかし「現場の肌感」「アナログな経験知」も侮れません。
工場長や現場リーダーがよく口にする“勘”や“癖”、日々の気づきは、数字の隙間に潜む不良の兆候を発見する重要なヒントです。

品質活動を進めたいと思っているバイヤーや、サプライヤーの立場で信頼を獲得したい方は、Cpk等の書面データだけでなく、現場に足を運び「なぜ先輩がこの工程では手間を惜しまないのか」を汗をかいて観察することが必要です。
デジタルが進んだ現代でも、“アナログな現場力”が不良0への最後の砦であり続けています。

現場改善のヒント――昭和的手法×デジタル化の融合

現場の改善活動は、QCサークルや5S、ヒヤリハットといった“昭和的手法”から、いまやIoTやAIを使ったリモート監視へと大きく進化しています。
しかし肝心な部分では「現物現場で、現実を自分の目で確かめる」こと、「測定・記録の質を守る」ことが不可欠です。

<現場ベースで推奨したい施策例>

  • 工程の変化点管理(人、モノ、設備、条件別のルール化)
  • 段取り・休憩明けのダブルチェック
  • 測定器の校正履歴・点検履歴の可視化
  • 不良発生時の“なぜなぜ分析”と実際の現場へのフィードバックループ
  • IoTによる設備状態・異常速報の活用

こうした地道な施策を組み合わせることで、Cpkに“現場力”という人間的な安全弁を加えることができます。
データ至上主義やデジタル化時代にこそ、アナログな現場観察力やコミュニケーションを絶やさないことが大切です。

まとめ:Cpk頼みから、現場観察力との両輪へ

工程能力指数(Cpk)は、製造現場を数値で捉え、工程の健全性を示す大切な指標です。
しかし実際の工場現場では、“Cpkが高い=不良ゼロ” にはなりません。
その主な要因は、突発的な異常や測定対象外のバグ、現場運用に潜むアナログな穴などです。

サプライヤー・バイヤーとして品質向上を目指す方は、「なぜCpkが高いのに不良が出るのか?」の本質を知り、現場観察や地道な改善活動を積み重ねることが不可欠です。
昭和的な手法を否定せず、デジタルとの融合で“データ+現場力”の両輪を強化していきましょう。

これからの製造業を担う皆様が、Cpkの“数字に隠れた現場のリアル”を知り、より強く賢いバイヤー・サプライヤーへと成長されることを心から応援します。

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