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“なぜか毎日忙しい倉庫”が抱える根本課題

目次
はじめに:“なぜか毎日忙しい倉庫”の謎
製造業の現場でよく耳にするのが「倉庫が毎日、目の回るような忙しさだ」という声です。
顧客や営業からの急な出荷要請、突発的なピッキング指示、シーズンごとの在庫品大量移動。
現場はとにかくバタバタして、日常的に「人が足りない」「残業続き」という嘆きがつきません。
しかし、この「なぜか毎日忙しい倉庫」という現象は、決して偶然に起きているものではありません。
長年、現場で調達・購買・生産管理など幅広い立場を経験してきた身から、表面的な“人手不足”や“出荷量増加”だけでは説明しきれない、業界に根付いた構造問題をお話しします。
この記事が、現場の管理者・バイヤー・サプライヤーのみなさんが一歩離れた視点で日々の“当たり前”を見直す契機になることを願います。
忙しい倉庫の表層要因:業務過多・情報過多の現場
入出庫指示が「その場しのぎ」になりやすい理由
出荷予定が読めないまま、当日朝になって「これを急いで出荷してほしい」といった現場指示が頻発する倉庫。
実際に、平成~令和の今でも、手書きの伝票やエクセル集計シートが中心で、「突発の依頼にすぐ対応できるのが現場力」という意識が美談として残っています。
ですが、裏を返せばそれは「全体最適」どころか「場当たり的な仕事」が日常化しているだけです。
指示待ち、やり直し、在庫の場所探しが増え、結局、現場が疲弊していきます。
誰もが実感する“やったつもり”の在庫管理
在庫管理の手法は、未だに目視・メモ書き・現品管理票が頼りになっている現場が少なくありません。
ITシステムが導入されていても、実情は「棚卸しのたびに数が合わない」「どこに何があるかわからない」という場面が多いのです。
なぜ改善しないのか――。
その根底には、日本の製造業・物流業界特有の「昭和的アナログ文化」と「現場のあうんの呼吸」が色濃く残っている点が挙げられます。
根本課題1:分断された業務フローと役割意識
属人的オペレーションが次世代の成長を阻む
現場のベテランが「自分のやり方」に固執し、マニュアルや標準作業手順書を更新しない。
新人は「とりあえず先輩について回って覚える」ことを良しとし、ITツール等の新規導入は現場の反発で形骸化してしまう……。
調達・生産・物流が十分に連携せず、各部門が“自部門最適”でしか動けていないことが、倉庫現場に「繁忙の連鎖」を生み出しています。
昭和由来の“人海戦術”“現場の勘”に頼った仕事の進め方が、最新のIoT活用やロボティクスにもなかなか馴染まないのが実情です。
仕入先・サプライヤーとの連携不全
バイヤーとサプライヤーの間でも、情報共有のタイムラグや、「この品目だけ数を急に増やしてほしい」といった無理な調整が頻繁に発生します。
調達購買部門と倉庫、現場作業者のコミュニケーションロスも多く、見積回答や調整ミスが倉庫の忙しさに直結します。
SAP・ERPなどシステム的な統合が進んでも、現場慣習や各部門の“縄張り意識”が壁となり、全体最適なオペレーションに結びついていないのです。
根本課題2:IT導入とアナログ現場のミスマッチ
システムはあるのに使いこなせない事例
近年、多くの製造業倉庫ではWMS(倉庫管理システム)やバーコードスキャン、IoTセンサーなどが導入されています。
しかし、導入しただけで「現場の実態に合わない」「結局は手入力・手書き帳票が残っている」事例を山ほど見てきました。
要因は、「システムが現場を知らないまま作られた」「カスタマイズに現場意見が反映されなかった」「現場教育が不十分」といったギャップです。
現場サイドからすれば「パソコン操作の時間が増えて余計に非効率」という声が出てしまい、肝心なデータ精度も担保できない悪循環に陥ります。
デジタルとアナログが混在するETC業務
日本では、「完全自動化」はなかなか難しく、最先端ロボットの導入現場でも、設備トラブル時は結局手作業の現場力頼み。
バーコード化が進んでも、古い紙伝票や電話一本での指示が消えません。
この「デジタルとアナログの“いいとこ取り”」が、逆に中途半端で非効率なハイブリッド業務となり、現場のストレスとムリ・ムダを生み出しています。
業界特有の温存される“既得権益”と改善阻害要因
“経験則”が評価されすぎる製造業界の構造
日本の製造業では、どんなにAI・自動化が叫ばれても「ベテラン現場作業員の勘と経験」が仕事の中心に居座っています。
そうした経験値頼みの文化が、標準化や業務プロセス改革の障壁となっており、本来であればシステム連携やデータドリブンの意思決定が進むはずの領域でも足枷になっている現状があります。
組合や現場リーダー、経営層の意識改革が追いついていないことも、倉庫の改善を難しくしています。
“何となく流れてしまう日常”にリスク感度が低下
日々、忙しさに追われている現場では、「いつものことだから……」「多少のミスは致し方ない」というあきらめも蔓延しています。
異常在庫や誤出荷、誤品混入といったトラブルが起きても、「現場力で何とかした」の一言で済ませてしまう。
本来は徹底的に原因分析し、仕組みを変えるべき局面で、再発防止策も形ばかりで終わることが多いのです。
“忙しさ”から脱却するための現場発のアプローチ
現場の「気づき」を価値に変えるフラットな意見交換
当社では、ベテランだけでなく、若手・派遣パートのスタッフも巻き込んで「小集団活動」を推進しました。
改善提案を募るだけでなく、実際に試してみたいアイデアを現場レイアウトや作業フローの中で実験できる文化を育むことが重要です。
「なぜそれをやらないといけないのか」「この作業は本当に“価値を生んでいる”のか」という問いかけを日々キープし、現場が自身の仕事を「構造的に」点検できる仕掛けが、繁忙の根治につながります。
サプライチェーン全体を俯瞰する視点の確立
調達購買担当やバイヤーは「自部門最適」を離れ、サプライチェーン全体の流れを一つの“大きなシステム”として捉えるべき時代です。
日々の業務指示や生産計画も、営業・開発・現場を巻き込んで“事前協議”“情報共有の仕組み化”を徹底する。
倉庫現場の「無駄な繁忙」を削減するため、定期的な業務レビュー(ちょっとした業務棚卸し)を必ず開催しましょう。
バイヤー・サプライヤーも現場を知るべき理由
バイヤーであれば、発注先のサプライヤー現場を必ず見学し、ピッキング・検品・出荷・梱包までの工程を自ら確認することが不可欠です。
サプライヤー側も、「なぜバイヤーが急ぐのか?」を実際の現場サイクルや顧客要望から逆算して考え直すべきです。
単なる価格交渉や納期調整に終わらず、全体フローを理解してこそ、本当の信頼関係・Win-Winのパートナーシップが生まれてきます。
これからの“強い現場”のあり方
現場を「最終工程」ではなく「価値を創出する現場」に
倉庫は物流業務の“最終ライン”ではありません。
サプライチェーンの司令塔として、正確な情報処理・的確な業務設計で上流・下流プロセスと能動的に連携する存在です。
自動化・IoT活用を進めつつも、現場で発生する“違和感”や“ひっかかり”にアンテナをはり、試行錯誤し続ける姿勢こそ、“忙しさに埋もれない現場力”の源泉になります。
まとめ:昭和的アナログからの本質的脱却を
「毎日が忙しい倉庫」は、単なる人手不足や作業量の多さという表面的な問題だけではありません。
日本の製造業に長く根付いたアナログ慣習や、各部門・現場間の分断、システムと人間の乖離が根本の課題です。
現場スタッフ・バイヤー・サプライヤーが垣根を越えて、全体フローを俯瞰し、本当に価値のある活動に集中する。
そんな“ニューノーマル”の現場を一緒に作り上げていきましょう。
誰もが「なぜ毎日こんなに忙しいのか?」と疑問を持つことこそ、現場変革の第一歩です。
倉庫現場の無駄な繁忙から解放され、全体最適なものづくり・物流が日本の製造業に広がることを心から応援しています。
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