投稿日:2025年12月19日

売上比率を下げたいが仕事を断れない現実

はじめに ~製造業のジレンマと売上比率の課題~

製造業に身を置く方にとって、「売上比率のコントロール」は、永遠のテーマともいえます。

特定の顧客に売上が極端に偏ると、企業存続にリスクが生まれます。
案件を適度に分散し、リスクヘッジすることが理想ですが、現実には「仕事を断れない」「既存顧客の要望には応えざるを得ない」といった事情から、計画的な売上比率の見直しに踏み込めない企業が多いのも事実です。

実際、私自身も工場長や管理職として日々の生産と納期、品質確保に奔走しつつ、売上構成の健全化に頭を悩ませてきました。
本記事では、現場目線で「なぜ売上比率を下げることが難しいのか」「仕事を断れない日本の製造業界の現実」、そして「昭和のしがらみを残しつつも次世代へつなげるためのヒント」を具体的事例も交えながら深堀りします。

なぜ売上比率の高い取引先を減らせないのか

背に腹は代えられない経済事情

製造業の現場では、「この取引先を失ったら会社が傾く」という強いプレッシャーが常にあります。

売上の3割、いや5割以上を1社に依存している例も珍しくありません。
景気の先行き不透明な中で、新規顧客の開拓自体が難しい。
だからこそ、既存顧客の注文を断る勇気を持ちにくいのが実情です。

また、多くの中小製造業は受注生産中心で、予想外の設備投資や増員をしないと納期に応えられないこともあります。
それでも積極的に仕事を引き受けてしまうのは、「明日がないかもしれない」という共通した不安からくる企業防衛本能ともいえます。

顧客からの「お願い」に弱い日本企業の文化

昭和のしがらみ、いわゆる「お得意様」文化も根強く残っています。

昔から付き合いのある大手バイヤーや元請け企業から、「急にお願いだけど納期を早めてもらえない?」や「どうしても他社に頼めない仕事が来ている」などの打診が来ると、断り切れずに無理して引き受ける現場が多いです。

これは、日本独特の人間関係をベースとした商慣習が影響している部分が大きいです。
「義理と人情」「よろずお困りごと解決屋」的な精神が、結果的に売上が一社に傾く一因となっています。

現場にも負担が蓄積するアンバランス

売上比率が偏ると、特定取引先の仕様や要望に合わせて人員・設備投資・工程管理など、すべてを最適化せざるを得ません。

これが他業界への参入障壁、ひいては新規獲得チャンスの損失となります。
また、偏った業務負荷により、現場の士気低下や品質問題、納期遅延という悪循環が起こりがちです。

バイヤー・サプライヤー双方の本音 ~断れない心理の裏側~

サプライヤーが抱える「切られたくない」焦燥感

バイヤー、調達購買担当の方なら、自社サプライヤーから「どんなに面倒でも何とかします」「多少無理しても納品します」と言ってもらうことが多いのではないでしょうか。

しかしその裏には、「一度でも断れば、もう声がかからなくなるのでは」「価格交渉で不利になるのでは」といった大きな不安が渦巻いています。
特に、業界全体の発注減や他社への乗り換えも進む中で、少しでも関係を維持しようと「自己犠牲」を選ぶサプライヤーが多いのが現状です。

バイヤーが求める「安心するサプライヤー」との距離感

一方で、バイヤーとしては一定量・高品質の供給を常に担保してもらえる、信頼のおけるサプライヤーを複数キープしたいというのが本音です。

ですが、取引関係が長くなればなるほど、サプライヤー側への要求も無意識にエスカレートしがちです。
気づけば、「常に無理を聞いてもらっている」状況が常態化し、気がついたときにはサプライヤーの負担が限界を超えていることもあります。

お互いに本音を伝え合わず、表面的には「円満な関係」を維持しているつもりで、裏では双方が無理を重ねている。
これが、売上比率の偏りの根本原因の1つになっているのです。

昭和のアナログ文化を現実的に脱却するには

「人情」頼みから「対等なパートナーシップ」へ

今、時代の流れは「義理と人情」の取引から、対等なパートナーシップに変化しています。
特にグローバル化や労働生産人口減少の中で、調達も生産も「モノ」を作るより「仕組みづくり」への転換が問われています。

とはいえ、一気に昭和を捨て去るのは難しいもの。
まずは「なぜ仕事を断れないのか」「なぜ特定取引先に依存してしまうのか」を、現場・営業・管理部門が本音ベースで話し合える環境づくりから始めませんか?

現状を数値化・見える化し、現実と向き合う

売上比率や生産負荷、従業員一人当たりの工数推移など、社内の主要な指標を「見える化」することは、非常に有効な第一歩です。

数字として依存度や現場の負担を明らかにし、経営層と現場で共通認識を持てます。
それにより、「どの顧客にどれだけ頼っているか」を再認識し、将来的なリスクを冷静に議論できる土壌が育まれます。

分散化戦略とリスクマネジメントを地道に進める

新規顧客を短期間で増やすのは、多くの中小製造業にはハードルが高いです。

しかし、まずは「1社あたりの売上比率上限」を設定したり、連鎖的な設備投資で対応できる範囲、お断りする基準値を明確化したりすることで、徐々に分散化への道筋を実現できます。
「今しかない」という焦りに流されず、持続可能な働き方や受注体制への地道なシフトチェンジが求められます。

現場から提案したい、新しいチャレンジの方向性

個々のつながりではなく「会社対会社」の契約を明確に

昔は営業担当や工場長、現場リーダーなど個々人の人間関係で受発注が決まることが多くありました。

これからは、会社対会社で役割分担と責任範囲を明文化し、「非公式なお願い」ではなく「ルールに基づいた体制強化」を優先していく必要があります。
これはサプライヤーがバイヤーに提示しやすい材料にもなりますし、バイヤーが公正な評価軸を持つうえでも有効です。

小ロット受注・多品種対応への自動化・標準化投資を惜しまない

分散化といっても、利益率の悪い小ロット案件ばかり増えては現場の疲弊を招くだけです。
そこで、工程の自動化やシステム化によって「属人的な工程」をできるだけ減らし、多品種・小ロットにも効率よく対応できる生産体制の革新が不可欠です。

たとえば加工現場であれば、設備保全・段取り替えの標準化により、納期短縮とコストダウンの両立を図ることができます。

現場から「仕事の断り方」を学ぶ教育の場を設ける

「根性」や「我慢」だけでは、これからの経営は立ちいきません。

むしろ、現場発で「断る技術」を体系的に学び、上司や営業担当などにエスカレーションできる体制が重要です。
「すべて受けるのが善」から、「優先順位とリスクを見据えて受ける」へ。

このマインドセット転換こそが業界文化の進化につながります。

結論:現状維持では変化に飲み込まれる

売上比率を下げて企業リスクを低減したい。
でも、目の前の仕事を断れない。
このジレンマは、私自身も何度も痛感してきました。

ですが、現状維持を続けるだけでは、市場やバイヤーから切られた瞬間に大きな痛手を負う恐れがあります。

まずは現場・バイヤー・サプライヤーそれぞれが率直に現状を認識し、危機感を共有すること。
そのうえで、「昭和型取引」から「持続可能なパートナーシップ」へと、小さな改善を積み重ねていくことが、今後の製造業発展にとって不可欠です。

今からでも遅くありません。
株式会社全体、部署ごと、現場ごと――どんな小規模なところからでも、自社らしい分散化策、断る勇気、業務標準化への第一歩を、ぜひ踏み出してみてください。

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