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売上はあるのに評価されない技術の悲哀

売上はあるのに評価されない技術の悲哀
はじめに──「Sold, but not Celebrated」な技術現場の現実
日本の製造業は技術立国の礎と言われてきました。
多くの現場では、確かな技術力と工夫で生み出された部品や製品が、グローバルサプライチェーンを静かに支えています。
しかし、売上は確実に計上されているにも関わらず、その技術や工夫が経営層や関係者から“十分に評価されていない”という現実に、現場で苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。
なぜ、売り上げに直結する成果が正しく評価されないのか。
この問題の根底には、業界に深く根付いたアナログ文化、見えにくい貢献、評価指標の陳腐化といった多層的な課題が潜んでいます。
本記事では、私が20年以上現場に身を置き、調達購買・生産・品質・工場運営など様々な経験から得た実践知をもとに、製造業の「評価されにくい技術」の本質的な問題点と、その突破口についてラテラル的視点から深掘りします。
なぜ“売れる技術”が評価されにくいのか
まず考えてみたいのは、なぜ“ちゃんと売れている”にも関わらず、技術や現場の成果がステークホルダーから評価されにくいのかという事実です。
この現象には、以下のような複合要因が絡み合っていることが多いです。
「見える化」されていない価値の問題
日本の製造業では、「どれだけ売れたか」「何をどのくらい生産したか」といった定量評価は重視されています。
しかし、その裏で実はもっと評価すべき“見えない貢献”が大量に存在します。
例えば、品質トラブルを未然に防ぐための地道な現場改善、機械の稼働率を最大化するための細かな工夫、サプライヤーとの信頼構築によるコスト削減──。
これらの活動は売上の陰に隠れ、可視化されていないことが多いのです。
「見えない貢献」は、経営視点ではコストセンターとみなされがちです。
実は現場の不断の改善や技術者のノウハウの蓄積こそ、長期的な利益体質の礎なのですが、売上という短期指標からは把握しにくく、経営層や外部のバイヤーには伝わりにくいのが現実です。
古い評価指標の“呪縛”
昭和の高度成長期に確立された「生産量」「工数削減」「直接材料比率」などの指標は、今なお多くの現場で主流です。
しかしDXやグローバル化が進み、複雑なバリューチェーンが絡み合う現代では、これら“昭和型”の指標だけでは測れない価値が多く存在しています。
たとえば、高度な自動化導入で現場が効率化されても、その成功要因となった制御プログラムのアジャストや、地道な工程改善は“数字に現れにくい努力”として埋もれていきます。
売上があっても、これらの貢献が評価指標に反映されない限り、現場のモチベーション低下や人材流出につながり、組織全体の競争力をむしばむことにもなります。
業界慣習とアナログ文化の壁
さらに、製造業界には「現場は黙って結果を出すもの」という文化が根付いています。
自分たちのノウハウや工夫は“秘伝”としてオープンになりにくく、“言わなくても分かるだろう”という無言の風潮も存在します。
特にサプライヤーの立場からすると、上流バイヤーや経営層に「どれだけ努力したか」「どれほど工夫したか」を見せる・伝える手段が乏しい。
受注ベースで判断されるため、“売上という表面的な数字”のみで評価が固定化され、技術者の士気や現場の独創性を殺してしまうリスクがあります。
評価されない技術による現場への悪影響
モチベーション低下からくる「現場のサイレント退職」
売上を支えているはずの技術力や努力が認められなければ、現場メンバーのモチベーションは下がり続けます。
「どうせ評価されない」「やりがいがない」と感じた優秀な人材は、声をあげることなく静かに会社から離れていきます。
社内外で人材争奪戦が激化する中、これは極めて大きな損失です。
自発的な改善・創意工夫が停滞する
「頑張りが報われない」と感じる現場は、やがて消極的になり、言われたことだけを淡々とこなす雰囲気になります。
日々の中で「ここをこう直したら安全性が上がる」「工数が削減できるかも」といった創意工夫をしなくなれば、競争力の低下はまぬがれません。
バイヤー・サプライヤー間の関係性悪化
バイヤー視点でいえば、「価格だけで選んでしまう」「技術力を正しく評価できない」という状態だと、パートナーシップは築けません。
短期的なコスト優先の発注を繰り返せば、結果として良質なサプライヤーが逃げてしまい、中長期的には自社の調達リスク増大につながります。
デジタル時代に必要な「技術評価」のラテラルシンキング
では、どうすれば売上だけでなく“本質的な価値”や“見えない技術”を正当に評価できるのでしょうか?
ここで必要になるのが、「評価のラテラル(水平)シンキング」です。
縦割り評価から一歩踏み出し、以下のようなアプローチが有効と考えます。
技術の「見える化」とストーリーテリング
現場でどんな工夫がなされ、どのような困難をどうやって突破したのか。
これをしっかり見える化し、内部報告書や社内発表だけでなく、お客様やバイヤーにも伝えるストーリーテリング技術が求められます。
たとえば、工場のライン改善で稼働率を2%向上させたとしても、「この2%向上の裏に、どんな分析と仮説検証があったのか」「何年越しでチームが取り組んだ課題だったのか」をドキュメンタリー調で可視化しましょう。
これは経営層だけでなく、バイヤーにも“価格以外の信頼性”として伝わります。
特に専門バイヤーを志す方や、サプライヤー側でバイヤーの考えが知りたい方には、「相手に伝わる形で自社技術を語れる」重要性を認識してほしいのです。
定性的な評価指標の導入
これまでの「量」中心評価だけでなく、現場の“定性的成果”(たとえば工程改善、品質安定化への取り組み、社内教育活動 等)を評価項目として組み込む意識が不可欠です。
ヒヤリハットの削減件数、リスク予知活動、技能伝承の進捗評価など、数字で表せない努力も、評価委員会や3者ミーティングで定期的に共有する仕組みづくりが有効です。
現場×バイヤーの「双方向コミュニケーション」
バイヤーとサプライヤー、または現場と経営層。
そこに“対話の機会”がほぼ皆無なのも、評価されない技術の要因です。
独創的な発想や、工夫の苦労話、顧客要求の真意などを、定期的なオープンミーティングで共有することが重要となります。
技術の引き出しを見せ合い、互いに「評価のポイント」をすり合わせていくことで、「売上だけでない評価」が生まれます。
ロールモデルや“賞賛の文化”を根付かせる
たとえば、月一回の「技術表彰」「改善活動発表会」「悩み・工夫共有会」といった場を設け、現場担当者の成果を全社的に発信する。
これを継続的に行うことで、“頑張り・工夫・挑戦”の価値が全社に広がり、次世代人材の育成にも直結します。
最後に──「評価されない」で終わらせない強い現場を育てよう
製造業の現場には、売上数字に現れない多くの工夫や知恵が息づいています。
今まさにアナログ業界からデジタル化への過渡期にあり、従来の価値基準だけでは「現場の真の力」は評価されません。
大切なのは、「いや、どうせ無理だ」とあきらめる前に、一歩視点をずらして新しい評価指標や、伝え方を模索することです。
現場、バイヤー、サプライヤー、経営層。
それぞれが少しずつ歩み寄り、ラテラルシンキングで“評価の地平線”を広げていくことで、次代のモノづくり日本をさらに強くするはずです。
あなたの現場の技術は、たしかに価値があります。
「売上はあるのに評価されない」という悲哀を乗り越え、“本当に評価される現場”を一緒に目指しましょう。