投稿日:2025年12月22日

売上比率を下げる話が出ると止まる会議

はじめに:売上比率と製造業の本質

製造業の調達・購買、いわゆるバイヤーの仕事において「売上比率を下げる話」が持ち上がると、とたんに会議が止まる。
この現象は昭和から続くアナログな体質の業界ほど強く、現場のリアルと責任の所在が絡み合った複雑な構造が背景にあります。
いま一度、“売上比率”というキーワードを軸に、日本の製造現場を横断する課題や本質について、実務の現場目線で紐解いていきます。

売上比率とは何か、なぜ語られるのか

売上比率とは、文字どおり全体売上に占める特定の商品や取引先、部門などのパーセンテージを指します。
たとえばA社向けの売上比率が80%だと、A社への依存度がきわめて高い状態です。

この売上比率が議論される理由は明白です。
・特定の取引先に依存しすぎる商流リスク
・取引解消や大幅な発注減による経営インパクト
・収益の安定性・成長性の評価
要するに、売上偏重リスクを分散せよ、という現実に即した企業防衛の論点が議題に上がるのです。

売上比率を下げる話がなぜ会議を止めるのか

売上比率を下げる、という議論は新しい市場開拓や他顧客の比重拡大を意味しますが、現実にはそう簡単に動きません。
会議の空気が止まる理由の裏には、現場の“本音”があります。

1.現状維持バイアス

祖業、既存事業、長年のパートナー…昭和型企業ほど「今のビジネスで十分やれてきた」「大きく変えると余計なトラブルが起きるのでは」という心理が根強いです。

たとえば「主力取引先のA社の売上比率を下げたい」と会議で話が出ると、
・なんでA社を下げる必要があるのか?
・よそと同じ規模の取引が本当にできるのか?
こうした疑問や抵抗の声があがります。
現場の管理職は、目の前の安定=組織や自身の“身の安全”でもあるため、変化への抵抗感が強く、「今までどおりが無難」という空気が会議の進行を止めます。

2.責任の押し付け合い

売上比率を動かすには現顧客の攻略、新規顧客の獲得、各部門横断の調整など広範な努力が必要です。
「じゃあ、誰がやる?」
「うちの部門にはできない」
と無言のうちに責任のなすりつけ合いが始まります。
部門横断的な課題は明文化されないまま、いつしか議題から消滅……そんな会議体質が昭和型の組織には色濃く残っています。

3.数値化のみに偏った議論

「比率○%以下で」と数字だけがひとり歩きを始めると、具体的なアクションや現場のリアルが置き去りになります。
実際のバイヤー経験では、「A社比率を30%下げろ」「新規顧客を開拓しろ」ばかりがトップダウンで命じられ、現場は疲弊―。
数字だけ先行する机上の空論となり、議論が前に進まず会議が沈黙します。

日本の製造業―売上比率が高くなる構造的要因

なぜ日本の製造業は特定顧客への売上依存が高く、その比率を下げる議論が前進しにくいのでしょうか。
そこには構造的な理由が複数存在します。

1.系列・長期パートナーシップの文化

名だたる大手メーカーではいまも「系列サプライヤー」との安定取引が基本です。
長年の信頼関係に基づく「出入り(でいり)文化」が根付き、売上比率も自ずと偏重します。
「系列外は敵」「外の取引は問題視される」といった閉鎖的体質も根本要因です。

2.新規開拓・多様化への消極性

日本型製造業は「品質を守るため数量・工程・取引先をあまりいじらない」という発想が強いです。
リスク回避のため既存社数を守り、「売上比率の分散」より、「安定・信頼第一」が優先されます。

3.サプライチェーンの硬直化

設計から調達・生産まで“縦割り”の組織が多く、現場・営業・バイヤー・経営の連携は未だアナログです。
サプライヤー側からは「発注増加に耐える生産ラインがない」、バイヤー側からは「製造現場の事情を無視して分散はできない」と膠着状態に陥りやすいのです。

バイヤー・サプライヤー双方のリアル~比率議論の真の落とし穴

売上比率を“下げる”という議論の本質は、単なるリスク回避だけでなく「新たな商機の創出」「現実的なパートナーシップ再整理」にあります。
バイヤーもサプライヤーも、その現実的な落とし穴を理解し、行動しなければ本当の変革は起きません。

●バイヤー側の盲点

・“分散”を強いるばかりで具体的成果を追わない
・新規調達先の選定基準が従来型、冒険を恐れて無難に終始
・現場(生産部門・資材部門)のリアルな苦労を知らない

売上比率を減らせと言うだけで、増やすべき新規先の支援や既存パートナーとの信頼醸成の努力を怠ると、現場は疲弊し業績インパクトも出ません。

●サプライヤー側の課題

・「うちのお客様が減らないか?」という本能的な恐れ
・新規顧客開拓の営業ノウハウ・体力不足
・品質・納期維持のための“現状維持志向”の強さ

バイヤーの意図を正しく理解できず、ただ「値切られる・シェアを奪われる」と身構えるサプライヤーは多いです。
製品の多様化や仕様変更への柔軟な対応など、本当のパートナーシップを築くことでしか、安定は得られません。

アナログからの脱却~現場目線の実践ステップ

依存構造からの脱却には泥臭い現場対応こそがカギです。
今すぐ取り組める現実的な実践策を以下ポイントごとにまとめます。

1.現場ヒアリングの徹底

机上の計画値だけでなく、資材部門・生産現場・品質管理など、実務レイヤーの「新規対応の障壁」「依存構造がもたらす影響」を徹底ヒアリングします。
現場が本音で語れる“安全な場”の設計が重要です。

2.サプライヤーの段階的支援

新規取引や売上分散を進めるには、サプライヤーの生産・品質・経営リソース可視化が必要です。
トライアル少量生産や共同開発プロジェクトなど、段階を踏んだ支援策が有効です。

3.部門横断型“巻き込み型”会議体の構築

従来の調達・営業・生産管理など部門別会議ではなく、「リスク分散」「比率の見直し」という全社課題であることを明確化します。
専門職(バイヤー、サプライチェーン担当、製造部門、品質管理等)がフラットに発言できる会議設計を意識します。

4.KPIの“定量+定性”セット策定

「比率○%」という数値目標だけでなく、「新規顧客との信頼レベル」「現場の困難解消数」など、定量と定性をミックスしたKPIを導入します。

5.現場マインドセットの転換

特定顧客依存は、結局“現場の安心・慣れ”から生まれます。
リスク分散が“現場のためにもなる”という理解を促し、「攻めと守りのバランス」を体験学習や成功事例で浸透させます。

ラテラルシンキングで開く新たな市場戦略

売上比率低減の話を「顧客分散にとどまらない、事業成長の種まき」と定義し直すラテラルな発想で未来を切り開きましょう。
たとえば、
・既存の主力顧客と新事業・新分野の共同開発を提案
・サプライヤーの設備・技術を水平展開し、異業種取引先を探る
・海外市場やスタートアップ向けへの部材提供などゼロベース発想
といった、今までの枠を超える発想が新しい商流・商材を必ず生みだします。

結論:本気の“動詞化”が明日の成長を支える

売上比率を下げる、という話題が会議で止まるのは、伝統的な文化や現場のリアリティ、リーダーシップの不在が複合的に絡み合っているためです。
「リスク分散」の先にあるものは「チャレンジ」と「共創」であり、一歩ずつ現場の“動詞(行動)”に落とし込むことこそが、製造業の本当の成長ドライバーです。

昭和型アナログの壁を乗り越え、新たな時代にふさわしい、強く、しなやかな現場づくりを共に進めていきましょう。

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