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軸封部材の冷却不足が引き起こす重大故障

目次
はじめに:軸封部材と冷却の重要性
工場設備の安定稼働において、軸封部材は見逃されがちな存在です。
しかし、この部品が果たす役割を軽視すると、操業停止に至るほどの致命的なトラブルに発展することがあります。
特に冷却不足による軸封部材の劣化や故障は、計り知れない損害をもたらします。
本記事では、私自身の現場経験や業界で根強く続くアナログな現状にも目を向けながら、なぜ冷却不足が危険なのか、そのメカニズムと防止策、そして今後の製造業において求められる視点について詳しく解説します。
バイヤー志望の方やサプライヤー側でバイヤーの視点を知りたい方にも役立つ現場目線でお届けします。
軸封部材とは何か――役割と種類
軸封部材とは、主に回転機械の軸と外部との隙間(シャフトシール)を封じる部品の総称です。
ポンプやブロワ、減速機、コンプレッサーなど、工場で用いられる多くの機器に欠かせません。
その主な役割は、機器内の潤滑油や液体の漏洩と外部からの異物侵入を防ぐことにあります。
軸封部材にはグランドパッキン、メカニカルシール、リップシールなどの種類があり、それぞれ用途やコスト、保守性に違いがあります。
現場では「シールは所詮消耗品」と捉えられがちですが、その一方で計画外の漏洩やトラブル発生時の影響は極めて大きいものです。
部材の選定や保守をおろそかにすることで、予想以上の損失につながることも珍しくありません。
冷却不足の実態――なぜ見落とされるのか
軸封部材は、その機構上摩擦熱が発生しやすい部位です。
正常な冷却が行われていれば温度上昇は抑えられますが、冷却不良は即座にトラブルの種となります。
多くの現場では、「この程度の温度なら大丈夫だろう」「流れていれば問題ないはずだ」と、経験則や過去の慣習に頼る傾向が根強く残っています。
冷却水の流量や配管の詰まり、ポンプの故障など、冷却性能低下の兆候を初期段階で把握できていないことも少なくありません。
また、省エネ志向が進む中で冷却水の流量を減らしたり、ラインを複数機種で共用することが珍しくありません。
これにより一台機器で発生した流量低下が、他の機器のシール冷却まで影響を及ぼすリスクが高くなっています。
冷却不足が引き起こす重大故障――そのメカニズム
冷却不足が軸封部材の故障に直結するメカニズムは以下の通りです。
1. 摩擦熱の蓄積による部材劣化
軸封部材は、軸回転による摩擦熱を常に受けています。
冷却が十分に行われないと、摩擦部の温度は急上昇します。
この過熱がシールリング、パッキン、Oリングなどの劣化を急激に促進します。
2. 潤滑油や液体の漏れ・焼付き
冷却不足で部材表面が変形もしくは硬化すると、封止性が損なわれます。
それに伴い潤滑油や内部流体が外部へ漏れ出し、潤滑不良や焼付きが発生します。
一度焼付きが発生すると、短時間で回転部ごと破損に至ります。
3. 主機損傷・操業停止への連鎖
漏洩や焼付きは、主機そのもの(例:ポンプ、コンプレッサー)の深刻な損傷を引き起こします。
最悪の場合は突発的な操業停止につながります。
生産ライン停止によるダウンタイムは、多大な生産損失や納期遅れ、顧客信用失墜といった一連のリスクを招きます。
4. Fire & Safety リスクの増大
油や可燃性液体の漏洩を引き金に発火や爆発リスクが高まる工場もあります。
特に化学・石油プラント等では、安全衛生上のトラブルに直結しかねません。
昭和から抜け出せないアナログ管理のリスク
製造業、とくに装置産業の現場では未だに「目視・手触り・音・におい」など、経験則に依存する設備監視が主流のところも多く存在します。
温度計もアナログ、点検もベテラン一任、という現場は今も全国各地に残っています。
たしかに“職人の勘”は貴重ですが、冷却不足による微妙な温度上昇を「これぐらい大丈夫」と見過ごしてしまう失敗も多いのが現実です。
また、異常が発生した際も「冷却系は後回し」「ほかの箇所の劣化が先」といった先入観で判断すると、本質的な原因追究を怠り、同じトラブルを繰り返す温床になります。
昭和的なアナログ管理の最大の欠点は、
「検知の遅れ」、
「データの蓄積・活用ができない」、
「継承困難」であることです。
新しい人材や外部サプライヤーに対し、なぜ冷却がどのように重要なのか、その“WHY”を伝えることができない場合、組織の学び合いと再発防止のサイクルが回らなくなります。
現場目線で考える冷却管理のポイント
では、冷却不足を見逃さず、事故を未然に防ぐためには現場でどのような工夫・取り組みが必要なのでしょうか。
実際の製造現場の管理職経験から、以下を提案します。
1. 冷却流路の可視化・データ化
冷却ラインの流量計、温度計をデジタル化し、“見える化”することが第一歩です。
アナログ計器を最新のIoTセンサーに置き換えることで、微細な流量・温度変化もリアルタイムに把握できるようになります。
流量計に加えて流入・流出温度差を常時記録し、「いつ・どこで」冷却低下が起きているかを日常的に監視しましょう。
2. 定期点検のルーチン化と簡素化
“点検したつもり”が一番のトラブル要因です。
チェックリスト化や、スマホ・タブレット利用による巡回点検記録の電子化を推奨します。
流量・温度の範囲外アラートで現場に自動通知する仕組みをつくれば、見逃しが激減します。
3. 標準作業手順の明確化と教育
現場ではマニュアル整備が疎かになりがちですが、冷却系は特に「正常状態の基準」や「異常時の初期対応」を文書化し、意図の共有を図りましょう。
また、新人を含めた定期的な教育や疑似トラブル訓練も有効です。
4. 予備品管理と素早いサプライ・バイヤー連携
突然のシール交換・冷却部材調達が必要になった場合も、予備品在庫・発注状況を整理し、サプライヤーと密接に情報共有する運用が不可欠です。
バイヤーは冷却不足のリスクを理解し、調達の優先順位を適切に設定できる “目利き”が求められます。
業界動向:デジタル化、標準化、そして人材育成
日本の製造業は今、大胆なデジタルトランスフォーメーション(DX)の大波に直面しています。
軸封部材や冷却システムも例外ではありません。
最新のIoT技術やAI解析を活用し、「異常の芽」を自動で検知・予兆する技術が急速に普及しつつあります。
同時に、JISやISOなど国際標準を活かした“状態監視・予知保全”の仕組み作りも進んでいます。
とはいえ、現場の心臓部である「人材」の役割が変わるわけではありません。
現場の暗黙知をデータに落とし込み、その知恵と最新技術を融合させることこそ、新時代のものづくり現場で求められるスキルとなります。
バイヤーの方は、こうした動向を理解し、本質的なリスクヘッジ力や「モノと情報」の両輪による調達力を身につける必要があります。
サプライヤーの方も、納入するだけでなく「どう冷却管理するか」といった応用提案力が信頼構築の鍵になります。
軸封部材の冷却を侮るな――まとめと提言
軸封部材の冷却不足が引き起こす重大故障は、決して“たかが消耗品のトラブル”ではありません。
その背後には、数千万から数億円規模の損害、納期遅延や安全衛生の事故、そして企業全体の信用喪失といった大きなリスクが隠れています。
本記事でご紹介した内容を現場で振り返っていただき、冷却不足のサインを“きちんと見て・測って・伝える”文化を根付かせることが今後ますます重要となります。
アナログな現場からデジタルな現場へと歩みを進め、軸封部材を巡るリスクマネジメント力を高めることが製造業全体の底力、発展につながります。
そして何より、“ひと”の目線で機器を守り、技術とノウハウを次代へと繋げていくことが、今もこれからも最も大切なポイントである――
このことを強く伝えたいと思います。
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