投稿日:2025年12月24日

コーターマシンで使うスロットダイ部材に起こる詰まりトラブル

はじめに:コーターマシンとスロットダイの基礎知識

コーターマシンは、フィルムや紙、金属などの基材に各種液体材料(塗料、接着剤、機能性材料など)を均一に塗布するために用いられる装置です。

その中でも、スロットダイコータは非常に精密な膜厚コントロールが可能な方式として、二次電池、電子部品、光学材料、医薬品パッチなど幅広い業界で採用されています。

スロットダイはその名の通り、金属ダイに設けた「スロット(細長い隙間)」から材料を押し出して基材へ連続的に塗布します。

しかし、スロットダイ方式では「詰まりトラブル」がしばしば問題となり、生産性や歩留まりに大きな影響を与えます。

今回は、製造業の現場経験にもとづき、詰まりトラブルの実状と、現場での具体的な対策について、バイヤーとサプライヤー双方の目線から詳しく解説します。

特に、アナログな改善しか行われていない工場で根強く残る課題や、最新の業界動向も紹介します。

スロットダイ部材の詰まりトラブルはなぜ起こるのか?

材料の変質・異物混入によるトラブル

スロットダイで最も多い詰まりの要因は、材料(塗料、スラリー等)に含まれる異物や凝集物です。

多くのコーティング液体は、顔料やフィラー、樹脂などが分散した複雑なスラリー。
製造・搬送・保存のいずれかの工程で分散不良や沈殿、凝集が発生すると、大きな粒子や固形物がダイの隙間に引っかかり、すぐに詰まりを起こします。

また、異なる材料の切替時に機内洗浄が不十分だと、洗浄液で溶け残った前材料が新材料と化学反応し塊になるケースもあります。

現場の実感として、「材料はロットごとに必ず性状がやや異なる」もの。
データシートには表れない微細な粒度・粘度変動が、現場の詰まりリスクを高めます。

ダイギャップの精度や機械的な摩耗も見逃せない

スロットダイ自体のスリット幅(ダイギャップ)がナノ〜ミクロン単位で細いので、極小さな異物・塵でも詰まりの原因になります。

しかもダイの材質は一般的にステンレスや超硬など耐腐食・高精度を誇りますが、長期間使用すると微小な摩耗、摺動部のカーボン沈着など、管理部材そのものの劣化がじわじわ進行します。

特に昭和から続く設備では、ダイの微細損傷や再仕上げ回数過多が原因で「最近詰まりやすくなった」という現象も現場ではよく見かけます。

現場の運用・洗浄プロセスがトラブルに直結

スロットダイは、想像以上に取り扱いが繊細です。

例えば、夜間の段取り替え時に洗浄と乾燥が十分でないまま次工程に入ると、僅かな残液が硬化してスリットを塞ぐ原因となります。

また、材料投入時の静電気・気泡混入や、オペレーターの「経験的な」作業によるばらつきなど、運用手順のわずかな違いも、詰まりの引き金となります。

慣れた作業者ほど手順を一部省いたり、経験に頼った微調整をしがちですが、これがアナログ業界の落とし穴です。

詰まりトラブルの現場インパクトと、放置した場合のリスク

スロットダイの詰まりは、単なる「一時的な生産停止」だけで済みません。

品質への影響

塗布ムラや線状欠陥としてすぐに現れるため、下流の検査工程で高確率でNG品となります。

また目に見えないレベルの微細詰まり(いわゆる「詰まり予備軍」)が長期間見逃されると、膜厚不均一や微細異物混入として顕在化し、最終製品の信頼性低下、顧客クレームにつながります。

生産ロスとコスト増

詰まり時には即座にライン停止・分解洗浄・部材交換となり、多い場合は半日以上の停滞も。

その間の原材料、エネルギー、人的コスト、各種スクラップ廃棄物が膨れ上がります。
歩留まり低下は、バイヤーにとっては仕入れ単価や納期リスク、サプライヤーにとっては赤字化・信頼喪失を意味します。

安全への影響

無理な異物除去や洗浄作業時のケガ・廃液処理ミス、設備の再立ち上げ時のトラブルなど、不意な安全リスクも生じます。

長期間放置すると、重大な火災や薬傷事故につながる恐れもあります。

昭和体質工場でありがちなアナログ管理の限界

日本の製造業の現場では、高度経済成長期から脈々と受け継がれた「職人勘」「家内制マニュアル運用」「経験こそ至高」という文化が根強く残っています。

スロットダイ部材で詰まりトラブルが多発する現場ほど、以下のようなアナログ管理が今も続いています。

・手書きの点検簿、記憶頼みの異常管理

「昨日の洗浄は誰がやった?」「この詰まり、何時ごろ起きたっけ?」と口頭やノートに頼る傾向です。

異常履歴が属人化し、根本原因のトラッキングが困難なため、同じ仕様・同じ人が繰り返し失敗する構図が生まれやすくなります。

・ダイ部材の分解洗浄・点検は完全手作業

定期的な分解・洗浄プロセスが「ベテラン作業者のさじ加減」や「勘と記憶」に大きく依存している場合があります。

洗浄ムラや再組み立て時の組み間違いが、詰まり再発またはダイ本体の異常摩耗をまねきます。

・予備部材・消耗品の管理が非システム化

スロットダイやシール材の予備が、定位置管理やバーコード管理されていないことで、適切なローテーションがなされず、摩耗・汚染したまま長期放置。

最適な交換タイミングも見失いがちです。

詰まりトラブルを防ぐ現場発・即効性のある対策

詰まりトラブルとその影響を最小限にするためには、現場の「今すぐできる」管理と、技術・デジタル活用の両輪が重要です。

以下、経験を踏まえた実践的な取り組みを紹介します。

作業標準書の徹底と「なぜなぜ分析」

まず現場でありがちな、「手順書が形式だけ存在」「細かな運用改善が属人的」を脱却しましょう。

洗浄手順・洗浄済部材の乾燥・保管方法、点検の順番と基準などを、A4一枚のイラスト付き標準書として明文化します。

詰まりトラブルが起きた時は、「なぜ(WHY)」を連続的に追及し、再発防止策をその都度運用標準へ反映。このサイクルの繰り返しで少しずつ詰まり件数が減っていきます。

異物・凝集物の監視強化(材料管理の見直し)

材料搬入時、現場受入段階で10μm以上の異物やゲル粒子の混入がないか、簡易フィルタ通過試験やライトテーブル、顕微鏡観察を取り入れることが有効です。

また原材料(樹脂粉など)はロット毎にグレーズド状態(表面のしっとり感など直感的な品質)の微妙な違いが詰まりに現れるため、「目利き検査」と定量的試験双方を組み合わせるのがベスト。

スロットダイ自体の状態監視・メンテナンス高度化

スロットダイのクリアランスを高精度ゲージやレーザーで定期測定し、わずかな損耗も事前に検知する体制が不可欠です。

また、定期的な超音波洗浄や自動洗浄装置の活用で、手作業洗浄のムラ・再発を防ぎます。
ダイのローテーション管理(何枚目が、何ロット目に使ったか)をバーコード化すれば、摩耗やユースフルライフの管理もラクになります。

作業者の教育とモチベーション向上

詰まり要因と対策を「他人事」ではなく自分のタスクとして認識してもらうため、毎朝のミーティングで直近の詰まり事例とその背景を共有することが効果的です。

さらに、詰まりゼロの継続達成ラインには報奨や称賛などのインセンティブを設け、ポジティブな循環を生み出します。

デジタル化・自動化活用の新潮流

ここ数年、製造業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波が高まり、スロットダイコータ現場でもデータロガーやAI分析、予知保全システムが導入されつつあります。

リアルタイム異物検知・チョーキング監視

最新鋭のコーターマシンには、可視光/近赤外の異物検知カメラや、ダイ内圧力・流量変化をAIで学習して詰まりの「前兆サイン」を通知する装置も普及しています。

材料メーカーとのデータ連携で「このロットは詰まりやすい」といった傾向の事前分析も進んでいます。

自動洗浄、IoT連動の段取り管理システム

小型自動洗浄機・乾燥モニタ、IoT連動の工程モニタリングで、洗浄不良・過乾燥など運用ミスを減らす取り組みが要注目です。

また交換タイミングや部材履歴管理をタブレット端末で見える化し、経験者の“暗黙知”を現場全員で共有できる土壌を作ることが重要です。

バイヤー・サプライヤー双方に必要な視点とは?

詰まりトラブルの削減は、現場のみならず供給網全体の競争力強化に直結します。

バイヤー(発注側)は、「どんな場合に詰まりを起こすのか」を過去の品質トラブルリストで明文化し、サプライヤーと共通の“評価指標”として活用しましょう。

さらに、「現場で使いやすい(詰まりにくい)材料」とは何かを現場最前線の声から拾い、“バイヤーのスペック要求”に反映させる取り組みが重要です。

サプライヤー側も、「詰まりやすさ」を重要品質特性の一つと位置付け、材料開発や提案時に「異物発生率」や「ダイギャップ模擬テスト」などを積極的に開示・提案しましょう。

両者のコラボレーションが、究極的な生産性アップのカギです。

まとめ:詰まりトラブルゼロが現場変革の起点になる

コーターマシンのスロットダイ部材詰まりは単なる「現場作業の遅延」ではなく、品質・コスト・納期・安全――製造業がこだわる“四大KPI”の全てに影響する最重要課題です。

そして現場の地道な改善と、DXによる革新的変化は、組み合わせてこそ最大効果を発揮します。

昭和の職人気質と現代のデジタル技術、両方の良さを生かしつつ、「詰まりゼロ」へ挑戦し続けましょう。

この地道な取り組みが、製造業全体の底力を高め、世界の競合との差別化につながると私は確信しています。

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