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ロール設計と製品設計を分けて考える危険

目次
はじめに
製造業の現場で長年従事していると、しばしば「ロール設計」と「製品設計」を別個に捉える組織やプロジェクトに遭遇します。
多くの工場や開発現場では、成形ロールや圧延ロールなどのロール部分は「要素技術」として専門部署が担当し、最終的な製品の仕様や性能は別の設計者が決定しているケースが見受けられます。
一見、分業によって効率的に見えるこの体制ですが、実際にはいくつものリスクや機会損失が潜んでいます。
この記事では、ロール設計と製品設計を切り離して考える危険性について、現場目線で掘り下げていきます。
ロール設計とは何か?製品設計との違い
ロール設計の役割
ロール設計とは、鉄鋼やアルミ、紙、フィルム、樹脂といった様々な素材の加工工程で使用される「ロール(Roll)」の仕様・形状・材料・表面処理などを設計する仕事です。
たとえば、圧延のロールであれば、その直径、幅、表面硬度、溝の形状、ベアリングや軸受との関連、耐摩耗性や冷却方式などについて設計を行います。
これらは生産ラインの安定稼働や、最終製品の寸法精度、表面品質に直結する非常に重要な要素です。
製品設計の役割
一方、製品設計は最終的なスペック、強度、安全性、コストパフォーマンスを見据え、素材や部品の選定、形状設計、組付けや機能検証までを見据えた包括的な設計プロセスです。
顧客ニーズ、マーケットトレンド、品質基準といった多様な要求事項に対応するため、全体最適の視点が不可欠です。
なぜロール設計と製品設計が分かれやすいのか
組織の縦割り文化
日本の多くの製造業、とりわけ伝統的な大手企業では、組織を要素技術ごとに細分化した「縦割り構造」が今もなお色濃く残っています。
「ロール課」「製品設計課」「品質保証部門」など、部署ごとに責任範囲が明確化されており、専門性を深めやすい反面、横の連携が弱まりがちです。
アナログな進捗管理
また、業界が長らく紙文化やExcel管理、口伝えの打ち合わせを踏襲してきた背景から、工程間の情報共有が遅く、ロール設計と製品設計が「点」になりやすい傾向があります。
DX推進が謳われている昨今も、現場ベースでは図面の受け渡しや設計変更のフィードバックがリアルタイムで伝わらず、すれ違いが生じやすいのが実状です。
ロール設計と製品設計を分断することの危険性
品質不良の温床
ロール設計と製品設計が分断されていると、「現場でしか分からない勘所」や「実際に加工してみた際の微妙な違い」にアンテナが立たなくなります。
例えば、あるロール部の表面粗さが製品の表面品質に直結しているにも関わらず、ロール設計側は基準値通りにしか設定せず、製品設計者もその動向を深く理解できていない、という現象はよくあります。
その結果、量産段階に入ってから不良品が大量に発生し、ロールの追加工や再設計が必要になるなど、重大な手戻りコストが発生します。
開発リードタイムの長期化
製品設計段階では「こういう製品が作りたい」という仕様だけが先行し、その後ロール設計にバトンが渡されるケースが大半です。
ロール仕様が製品設計段階で十分に詰められていない場合、試作・試験を繰り返す中で初めてロール設計側の課題が顕在化します。
鋼板やフィルム、紙の寸法精度、捩れや反りといった物理的な課題、材料歩留まり、コスト最適化などが後から発覚し、開発リードタイムが大幅に遅延する原因となります。
サプライチェーン全体の競争力低下
グローバルサプライチェーンの時代においては、ロールメーカー(サプライヤー)とセットメーカー・エンドユーザー(バイヤー)が協創しない限り、競合との差別化は困難です。
ロール設計情報と製品設計情報が分断されたままだと、イノベーティブな製品開発や、ロールメーカー側からのコストダウン提案、新機能提案といったサプライヤーイニシアティブが生まれにくい構造が生まれます。
昭和的アナログ文化の功罪
属人的なノウハウ蓄積の弊害
日本の製造業は長年、熟練技術者の「勘・コツ・経験」に頼る形で品質を支えてきました。
ロール設計や調整にまつわる膨大なノウハウが、個人の頭の中や手帳、図面の余白メモに残りがちで、体系的に全体設計に反映されにくいという問題があります。
デジタルツインなど最新技術の活用と、現場の熟練者の知見が統合されないままだと、設計全体の品質や生産性は頭打ちになりやすいのです。
現場の声が製品に反映されにくい
現場作業者やロール設計者が感じている「ここをもう少し工夫すれば良いのでは」といった現場起点のアイデアが、組織的に吸い上げられず、最終製品には反映されにくい点もアナログ文化の弊害です。
特にロール設計は「縁の下の力持ち」的な立場ゆえ評価されにくく、新規提案がしにくい風土が根付いています。
ロール設計と製品設計をシームレスにするには
プロジェクト初期段階からの連携
最も重要なのは、プロジェクトの立ち上げ初期にロール設計者と製品設計者が同じテーブルに着き、議論を重ねる体制を作ることです。
コンカレントエンジニアリングの手法を導入し、早期段階からすり合わせを行うことで、後から生じる「手戻り」を最小限に抑えられます。
これにより、お互いの持っている課題や、実現したい機能・リスクを洗い出しやすくなります。
DX推進による設計情報の一元化
図面・CAD・BOM(部品表)・工程管理情報をクラウドやPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)で一元管理することで、設計者同士の情報壁を取り払うことができます。
また、IoTやAIを活用し、ロールの稼働データや品質情報を設計にリアルタイム反映させる体制を築けば、現場の知見がダイレクトに次世代設計へ連携可能です。
現場力の活用と評価軸の再設計
ロール設計部門・製品設計部門の双方が現場観察や設計意図の相互理解ワークショップを定期開催し、縦割りを打破することが求められます。
また、「コスト低減」「リードタイム短縮」「品質向上」といった従来評価指標に加え、「現場からのアイデア提案数」「部門連携活動度」といった指標も組み込むことで、連携を促進する環境づくりが出来ます。
バイヤー・サプライヤー両視点のメリット
バイヤー(発注者)にとっての利点
ロール設計と製品設計の融合により、開発初期から現場課題を織り込んだ最適設計が実現でき、後戻りコスト・調整工数を削減できます。
また、サプライヤーから提案された新仕様・特殊材料・表面処理技術などを柔軟に取り入れることで、他社には真似できない高付加価値製品の開発も可能となります。
サプライヤー(供給者)にとっての利点
サプライヤー側も、設計初期から深くバイヤー業務に参画することで「最終製品視点」の価値訴求ができ、価格競争から脱却できます。
また、自社の強みやノウハウを積極提案し、パートナーシップを強化することで、安定受注や案件獲得チャンスも増加します。
これからバイヤーを目指す方へのアドバイス
真に価値あるバイヤーとは、単なるコスト削減や発注元管理ではなく、現場設計者やサプライヤーと一体となり「ものづくり全体の最適化」を目指せる存在です。
自分自身で現場を見て歩き、ロール設計者や製品設計者の声を直接聞き、プロジェクトマネジメントや品質保証に関する幅広い知識・調整力を身につけていくことが大切です。
また、ITやデータ活用への理解も今後は必須スキルとなります。
まとめ
ロール設計と製品設計を分けて考えることは、品質リスクや手戻りコスト、イノベーション機会損失として現場に多大なダメージをもたらしかねません。
これからの製造業にとって重要なのは、設計や工程ごとに「分断」するのではなく、現場目線の知見とデジタル技術を組み合わせ、組織としてシームレスな連携を実現することです。
バイヤーを目指す方や現場設計者のみなさんも、「ロールと製品設計の境界を越えて」新しい価値創造にチャレンジしていきましょう。
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