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大手の内製化検討が最大のリスクになる構造

目次
はじめに:製造業における「内製化」の現実
製造業、とりわけ大手メーカーにとって、内製化の選択は避けて通れないテーマです。
調達コストの上昇やサプライチェーンリスクの増大、品質や納期の要求水準の高まり――こうした課題が顕在化する中、「自社で作れば全てが解決するのではないか?」という誘惑に、多くの経営者や現場責任者が引き寄せられます。
一見すると「内製化」は、コスト圧縮や品質管理、ノウハウ蓄積の観点から理想的な解決策に思えるかもしれません。
しかし、私は製造現場で20年以上、購買・生産管理・品質・工場運営を幅広く経験するなかで、「大手の内製化検討こそが、最大のリスクになりうる構造」を何度も目の当たりにしてきました。
今この記事を読まれている「買う側のバイヤー」も「売る側のサプライヤー」も、あるいはその狭間で悩む製造業従事者も、ぜひ現場目線でこの深いリスク構造を知っていただきたいと思います。
なぜ今、内製化が再び注目されているのか?
昭和から続く「外注頼み」の構造的課題
日本の製造業は、経済成長期から「外注先との協業モデル」によって強みを発揮してきました。
取引先ネットワークによる分業体制、下請け企業の技術力・柔軟性を活かすことで、高品質かつ低コストなものづくりを支えてきました。
しかし、バブル崩壊後はコスト最適化・リストラの流れとともに、「外注切り」の流れや、価格交渉力の低下、技術伝承の希薄化といった弊害も露呈しています。
昭和型の「外注丸投げモデル」は、現代の複雑な市場ニーズや危機環境(自然災害・地政学リスク・パンデミック等)には脆弱だという認識も広がっています。
サプライチェーン混乱がもたらした「内製化回帰」
2020年以降、コロナ禍によるサプライチェーン寸断や、ウクライナ問題・米中摩擦による材料調達難、物流停滞が、製造業にかつてない混乱をもたらしました。
外部依存体制だけでは「供給保証が困難」という教訓から、多くの企業が内製化の検討を再始動しています。
調達コストの激変リスク低減、自社ノウハウの蓄積、データ管理の強化、他社との差別化材料としても「内製化」は戦略オプションとして真剣に議論されています。
内製化が「リスク」に転じる三つの構造要因
1.固定コスト増とキャパシティリスク
内製化を本格的に進めると、量産対応ライン・技能者・設備投資といった多大な「固定費」を自社で背負うことになります。
製造ロットが安定的に確保できている間は問題ありませんが、市況変動や需要急減の局面では「余剰設備」と「人員過剰」が経営を直撃します。
また、国内工場の人材確保難・高齢化という課題が追い打ちをかけ、せっかく内製化しても「オペレーションの維持が困難」「技術継承が進まない」リスクも想定されます。
現代の需要は従来に比べ「変動性・多品種・短納期化」が進んでおり、従来型の「内製万能論」は通用しません。
2.コア技術以外への無駄なリソース分散
自社の強みであるコア技術や独自性のある部分の内製化には確かなメリットがあります。
ところが大手メーカーほど、「全部自社でやれば安心」という誤った全方位内製思考に陥りがちです。
これにより、内製不要な汎用品や特殊性の低い工程にまで、人的・資金的リソースが大量に分散してしまいます。
外注先であればコスト・品質的に問題なく調達できる工程に自社エネルギーを奪われることで、本来注力すべき「イノベーション」「新製品開発」「市場対応力」が低下し、中長期的に競争力を削ぐ結果となります。
3.外部サプライヤー信用失墜・共倒れの連鎖
大手の急激な内製化方針は、長年にわたり関係を築いてきたサプライヤーに大きな懸念を与えます。
取引縮小・業績悪化・技術提携終了といった事態が連鎖的に発生すると、地域製造業生態系全体の弱体化や若手技術者流出、ひいては自社も将来必要となる技術・部品・工程の「支え手」を喪失してしまいます。
「作る側」「買う側」双方が短期的な営業利益だけで動けば、日本的な「互恵協力サプライチェーン」の強みそのものが失われ、中長期的成長も見込めなくなります。
現場目線で読み解く、内製化判断の本質とは
内製化は単なるコスト比較や安易なリスク分散策ではありません。
長期戦略・技術基盤・人づくりというレベルで真の「企業力」を見極め、選択と集中を図る必要があります。
ここで、現場で実際に見てきた「失敗と成功」の分岐点を3つ挙げます。
選択するべき内製化領域は「技術差別化ゾーン」に限れ
・自社唯一の特殊工程や品質ノウハウ
・市場競争力のカギを握る部位
・先端技術・新素材など、他社に先行できる研究・開発領域
本当に強みを発揮できる分野に経営リソースを集中させましょう。
汎用品や競争激化が進む部分については、思い切った外部調達・協業がむしろ効率的です。
「外注化」による相乗効果強化も選択肢とせよ
取引先や地域ネットワークの強みを最大限活かしつつ、共通部材や標準化パーツは外注化、それ以外を内製で守る「ハイブリッドモデル」が重要です。
信頼できるサプライヤーと開発段階から情報共有し、ともに工程改善やコストダウンに挑戦する姿勢も、大企業の役割です。
一方的な取引縮小通告だけでなく、「共存共栄型」の新調達体制こそが日本らしいものづくりの進化の鍵となります。
現場のオペレーション適正・維持性を現実的に見極める
「理論上はできるはず」という本部方針だけで内製化を推進すると、現場負荷や予想外のメンテナンス難、技能者不足に直面します。
工場作業者や現場監督者が「本当に回せるのか」「小ロット多品種にも追随できるか」という現実的目線をもって検討を重ねることが不可欠です。
極端な設備自動化・デジタル投資も、現場力や従業員スキルと乖離していないか、継続的なOJTや改善サイクルを必ずセットで用意してください。
これからの調達・バイヤーはどうあるべきか
内製化を巡る攻防は、調達・バイヤー部門の力量が問われる時代です。
サプライヤーに対して一方的な価格競争の押し付けではなく、「内製との比較優位性」や「将来も価値の生まれるパートナーシップ構築」が重要な使命となります。
「本当に内製すべきなのか?」
「サプライヤーはどんな強みがあるのか?」
「変化や危機が起きた時、どちらの体制がメリットを発揮できるのか?」
こうした質問を既成概念にとらわれず、多様な角度で思考し続けること。
さらに、サプライヤーの現場・実力・課題も頻繁に訪問し、現地現物・率直な対話によって「共創」の関係を育むこと。
調達・購買部門は、もはや単なるコスト削減担当ではなく、「ものづくりの未来を創る戦略パートナー」です。
サプライヤーの皆さんへのメッセージ
近年の内製化回帰の動きに不安を抱えるサプライヤーの方々へも、一言メッセージを伝えたいと思います。
「大手の内製化」は確かに一時的な脅威ですが、だからといって単なる値下げ競争や短期受注に流されてはなりません。
サプライヤーも、独自の技術開発・設備刷新・多品種対応力、製造DX・自動化導入など、変化に積極的に取り組むことが生き残りの要です。
むしろ「自分たちの現場力・ノウハウ」でしか生み出せない価値を、各バイヤー・メーカーの担当者に定量的・定性的に示していきましょう。
また、情報発信やアピールが苦手な企業ほど、積極的にコミュニケーション体制を強化することが求められます。
「競合他社との違い」「自社独自の強み」「今後の成長ストーリー」を明確に語れるサプライヤーこそが、今後の大手からも必要とされ続ける存在となります。
まとめ:内製化検討の先にある“真のものづくり力”とは
製造業大手による内製化検討は、一歩間違えば経営リスクの巨大なトリガーとなります。
昭和の時代には外注化が効率化の手段としてもてはやされ、平成から令和にかけては再び内製回帰が注目される――。
こうした「振り子」の歴史のなかで、本当に見極めなければならないのは、
・自社コア技術を守り抜けるか
・柔軟かつ持続可能な生産体制を維持できるか
・パートナーやサプライチェーンの力を結集できるか
という現場ベースの実践的視点です。
内製化は魔法の解決策ではありません。
むしろ競争力低下や組織分裂のリスクすら内包しているのです。
これからの製造業は「内と外」を自在に行き来し、選択と集中を極め抜く“しなやかさ”が求められます。
この原則を胸に、変化する時代を貪欲に学び、サプライヤー・バイヤー・製造現場が一体となって、ものづくりの新しい地平線を切り拓いていきましょう。
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