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製造業で人が育たない原因を教育だけに求める危険

目次
はじめに ― 現場の「人材育成」問題とは何か
製造業で働く皆さんや、これから製造分野のバイヤー、購買担当を目指す方々は、現場の人材育成に大きな課題を感じているのではないでしょうか。
「最近の若手は育たない」「教育が足りていない」といった声が現場のあちこちで上がります。
しかし、その原因を単純に「教育不足」や「人手不足」と短絡的に考え、表面的な対策に終始してしまう。
この視点こそが、じつは一番の危険であり、人材育成がうまくいかない根本原因に他なりません。
本記事では、20年以上製造業の現場に身を置き、バイヤーや工場長、マネジメントを経験してきた私の実体験をもとに「本当に人が育たない理由」と、その背景に潜む業界特有の価値観、構造的な問題について掘り下げて考察していきます。
製造業の「昭和」的風土が人の成長を妨げる
なぜ「教育」に頼りきってしまうのか
多くの製造企業では、未だに「現場で覚える」「ベテランが若手に手取り足取り教える」といったOJT中心の文化が根強く残っています。
製造工程の属人化が進んでいる会社ほど、ノウハウやスキルが暗黙知として「人」にべったりと紐付いており、体系だった仕組みが整えられていません。
結果として、新人が思うように力を発揮できず、離職につながるケースも後を絶ちません。
ここで「教育制度が悪い」「若手の意欲が足りない」という発想に陥り、eラーニングやマニュアル、研修の充実に奔走する。
これが悪循環の始まりです。
「昭和的価値観」との決別が肝要
昭和型の価値観では、年功序列、終身雇用が前提。
「一度入れば定年まで面倒見る代わりに、現場のやり方は先輩の背中を見て覚えろ」という仕組みが当然でした。
しかし、今や時代は令和へと移り変わりました。
人材の流動性が高まり、「会社」がキャリアを保証する時代ではありません。
にもかかわらず、現場では「新人教育は〇〇係長の個人的スキルに依存」「できる人に仕事が集中し、全社的な型や標準化が進まない」という状態が続いています。
この構造問題を認識せず、教育だけで解決しようとすること自体がリスク要因なのです。
人が育たない根本原因1:組織設計の遅れ
「教育の仕組み化」ではなく「育成のインフラ不足」
「人が育たない」という声は、実のところ「教育の仕組み化」不足というより、適切な「育成インフラ」が整っていないことに起因しています。
例えば、多くの現場で以下のような問題があります。
– 職務記述書(ジョブディスクリプション)がない、または極めて曖昧
– 誰がどんなスキル・知識を身につければ一人前かの基準が社内で統一されていない
– 「この工程は〇〇さんしかできない」という属人化ゆえ、マニュアルや標準作業指示書を作る余裕がない
だからこそ新しく入った人は「何を学べば良いのか分からない」「育成する側もゴールが見えていない」まま現場に放り出され、しだいに離脱してしまうのです。
本来持つべき組織設計の考え方
成熟した製造業の現場では、「何ができる人を、どの工程で、どう評価するか」を可視化・標準化する動きが進んでいます。
– 〇〇業務にはこのレベルの機械操作と品質見極め力が必須
– 検定や認定制度、スキルマップの導入
– 進捗や習熟度を見える化する人事/教育システム
これにより新人・既存問わず、自分の成長プロセスとキャリアアップの道筋が明確になり、モチベーション維持と離職防止にもつながるのです。
仕組みと環境整備無しに「教育」だけを強化しても、根本的な解決には遠いと断言できます。
人が育たない根本原因2:評価の矛盾 & 責任の曖昧さ
バイヤー・サプライヤー業界でも共通して見られる曖昧さ
バイヤーや購買担当にも同じ課題があります。
「バイヤーの若手が育たない」「技術力やコスト交渉力の底上げが進まない」と嘆く企業ほど、人材評価・育成の仕組みが定着していません。
– 成果指標が曖昧(例:コストダウン額だけ、件数だけ)
– 属人的な裁量が広がるとともに、失敗した時の責任も不明確
– フィードバックや成長実感が得づらい
こうした組織設計の曖昧さが成長のブレーキになっています。
「失敗」に寛容な風土・責任の明確化が不可欠
今後重視すべきは、「挑戦と失敗」を許容できる組織文化です。
– どこまでが本人責任で、どこから管理職・組織の支援が必要か
– トライ&エラーの経験や提案自体も評価する
– 定性的評価も導入し、数字だけに囚われない組織づくり
この仕掛けと風土転換が、製造業・バイヤーいずれにも求められる発想転換です。
人が育たない根本原因3:自動化やDXの進展とのギャップ
デジタル化の遅れ VS 人間系スキルの未熟
今、製造業は自動化・DXの波が押し寄せています。
– 製造工程のIoT化、AI導入
– 購買・調達システムのクラウド化
– 品質管理もデータ駆動型に進化
一方、これらのシステムや機器を「使いこなせる人材」「DXに適応できる人材」の育成が全く追いついていません。
従来のOJT・昭和的指導方法だけでは、新しいIT系スキルや、横断的な折衝能力を持つバイヤー・生産管理者は育ちません。
「教育の本質」は、単なる従来知識の伝達ではなく、「自分で学び直す力」「変化を受け入れ突破する力」を醸成する環境設計に変わりつつあるのです。
人間系スキルとデジタル系スキルの融和
– データを読み解く力、課題設定・構造化力
– サプライヤーや他部署と協働する調整力
– 現場のリアルな現象をITシステムに正しく橋渡しできる地力
こうした新しいスキルセットを育てるには、「人が育つ組織システム」そのものを作り変える必要があります。
教育に責任を丸投げせず、部門横断で学びの機会・情報共有の場を設計することが決定的に重要です。
現場目線の実践的アプローチ:「学ぶ組織」に転換する
一人ひとりの成長を喜び、掛け算に変える仕掛け
私自身、工場長や購買部門の責任者を歴任して気付いたことは、「優秀な個人はいるがチーム全体は育っていない」現象に他なりません。
昭和的なロールモデル型OJTだけでは、優れた人材のノウハウが波及せず、結局「この人がいないとまわらない」危うい現場になってしまいます。
そこで取り組んだことは、以下の点でした。
– 作業や交渉プロセスの“言語化”と“共有化”
– 会議や連絡会で属人ノウハウを引き出すQAタイム・ナレッジシェア
– メンター制度整備や、お互い評価する360度フィードバックの試行
これらによって、職種や年代の垣根を超えて「共に学び、高め合うカルチャー」ができ、離職率の低下・バイヤーの交渉力UPといった成果が表れました。
知識のタコツボ化から、業界全体の“知の連携”へ
製造業全体の課題として、「他社の成功事例や先進プロセスを自社流にアレンジできない」閉鎖性も見逃せません。
– サプライヤー同士の情報交換
– バイヤーとサプライヤーが一緒に学ぶ共創型勉強会
– 業界外からのインプットを受け入れるアライアンス
といったオープン・イノベーション的な仕組みも不可欠です。
「うちはうち、よそはよそ」といった旧来的思考から脱却し、業界全体で人材育成の“成功循環”を作ることこそ次世代の製造業の発展に欠かせないと考えています。
まとめ ― “教育だけ”に頼るリスクを超えて
製造業で「人が育たない」と感じた時、その原因を新人や教育部門だけに押し付けてはいけません。
– 組織そのものの構造、育成インフラの欠如
– 曖昧な評価基準・責任体制の放置
– DX時代にふさわしい学び・変化適応環境の構築不足
こうした根本課題を見つめ直し、「個人まかせ」でも「教育だけ」でもなく、組織・現場・業界を挙げて連携し、みなで学び合う“新しい人材育成型組織”へ歩んでいく――。
これが、バイヤー・サプライヤー双方の持続的成長と、製造業全体の底上げにつながります。
本記事が、現場リーダー・管理者はもちろん、業界をより良くしたいと願うすべての方の気付きと行動の一歩につながれば幸いです。