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製造業の安全対策を相談すると必ず出てくる「今までは大丈夫だった」

目次
はじめに:安全対策の“常識”と“惰性”
製造業の現場で安全対策を強化しようとしたとき、多くの管理職や作業者から「今までは大丈夫だった」という言葉を耳にします。
一見、実践に裏打ちされた説得力のある意見のようですが、この言葉には現場の慣れや油断、そして変化への抵抗が隠されています。
この記事では、なぜ“今までは大丈夫だった”という考え方が根強く残るのか、そしてこれからの時代の製造業の安全対策をいかに進化させるべきかを、現場目線と業界動向から深堀りします。
「今までは大丈夫だった」の裏にある心の壁
現場経験が逆風になる瞬間
昭和の時代から続く多くの工場では、熟練作業者やベテラン管理職ほど“慣れ”や“経験値”を強みにしており、その分だけ「今までは大丈夫だった」という発想に寄りかかってしまいがちです。
彼らは過去に大きな事故もなく、日々の業務を丁寧に遂行してきた自負があります。
しかし、事故や災害というのは“例外的な事象”です。
めったに起こらないからこそ、発生した時の影響が甚大になるのです。
アナログ体質が残る製造業
製造業界の多くは、デジタル化・自動化が進む一方で、“現場の勘”や“目視確認”が重視されるアナログな文化が根強く残っています。
日々の写真記録や報告書管理ですら「紙ベース・口頭伝承」で止まる現場は珍しくありません。
こうした文化の中で、「新しい安全対策」は“現場をよく知らない外部者が作った余計なルール”と認識されてしまいがちです。
なぜ安全対策が後回しになるのか
安全投資はコストであり売上に直結しないという考え方
製造業の経営層や現場管理者にとって、安全対策への投資は一見“コスト”に見えます。
新しい機器の導入、作業フローの変更、従業員への教育などは短期的には売上や生産効率を阻害する側面もあります。
「今忙しいから、来期以降にしよう」「事故があればその時考えよう」という心理になりやすいのです。
現場作業者の習慣と“面倒くさい”心理
安全靴やヘルメットの着用、さらにはちょっとした作業手順の変更ですら、「慣れてるから大丈夫」「面倒くさい」と感じる作業者も多いです。
長年の習慣を変えることは心理的なストレスを伴い、小さな抵抗が積み上がって「やらない理由」を作ってしまいます。
近年の業界動向:安全対策は“リスクマネジメント”へ
ISO45001への対応とグローバルな労働安全衛生の潮流
最近では、グローバル調達を行う大手メーカーや自動車産業を中心に、ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)への対応が急務となっています。
これらのグローバル基準では、「今までは大丈夫だった」的な慣習は通用しません。
事故原因の徹底追求や“ヒヤリ・ハット”の積極開示、社内教育の義務化など、より構造的でデータドリブンなアプローチが求められています。
ここでは「ゼロ災害」を謳い、万が一の事故が世界のサプライチェーンに大きく影響することも珍しくありません。
コンプライアンスと企業ブランド価値の時代
従業員の安全を軽視し、重大災害や労災事故が発生すると、今やSNSやニュースですぐに全国・全世界に拡散します。
取引先との信頼関係が傷つき、一瞬で経営危機に追い込まれる事案も増えています。
「安全を最優先する姿勢」は、現代では“企業価値の根幹”として認識されているのです。
現場目線で考える実践的な安全対策のすすめ方
小さな失敗や「ヒヤリ・ハット」をカジュアルに共有する文化構築
従業員が「危なかったけど大丈夫だった」と思ったことを、心理的安全性を確保して気軽に話せる雰囲気作りが肝要です。
失敗や危ない体験は個人に閉じ込められがちですが、これを全社で積極的に集め分析することが事故予防には効果的です。
管理職や現場リーダーは「失敗の報告=評価が下がる」のではなく、「報告した勇気は評価する」姿勢に変えるべきです。
現場当事者が自分ごと化できる仕組みづくり
安全対策のルール変更や新設備導入時には、“現場の声”を必ず吸い上げることが大切です。
例えば、「どの作業が一番危ないか」「自分が一番ヒヤッとした体験は何か」をワークショップ形式でグループ討議させます。
それをもとに、現場主導の改善案や手順書作りを行い、自分たちで安全を守るという“オーナーシップ”を持たせます。
ヒューマンエラー前提の仕組み化
「人間は絶対に間違える」というラテラルな発想を前提にした安全設計も有効です。
物理的に誤操作できない治具、センサーによる異常検知、AI解析による危険予知、リモートモニタリングなど、システムに頼れる部分はどんどん自動化します。
現場の人は「徹底して注意する」よりも「そもそも間違えにくい流れや仕掛け」によって守られるべきなのです。
バイヤー・サプライヤーの視点:信頼を勝ち取る本当の安全対策
調達購買で重視する本質は“価格”より“安心感”
バイヤーがサプライヤーを選ぶ際、品質や納期はもちろん大切ですが、近年は「工場の安全意識」も主要な評価項目になりつつあります。
特に大手グローバル企業では、サプライヤー評価で労働災害件数や職場改善状況を視察・レビューするケースが増えています。
「過去に大事故はなかった」は訴求材料にはなりません。
「危険が発生しそうな兆候も未然に防いできた」「現場から改善提案が絶えない」など、現場が根付いているカルチャーこそが評価を高める武器になるのです。
現場発の改善活動が企業間パートナーシップの証に
安全に投資し現場改善し続けるサプライヤーは、結果としてリスク対応力が高く、長期的な取引相手として信頼されます。
バイヤーとの商談でも、形式的なマニュアルや証票ではなく、「現場の実体験がどう報告・活用されているか」「どのようなクロスファンクショナルな連携があるか」を自信を持って伝えるべきです。
「今までは大丈夫」だったのは偶然にすぎず、本気で事故の“想像力”を働かせ対策し続けるパートナーには、安心して業務を任せたくなるバイヤーが多いのです。
昭和型から令和型安全文化へのシフトチェンジ
これからの安全対策は、ただ義務感でチェックリストを回すのではなく、「安定した生産」と「ブランド信頼」の本質を理解し、人が自主的に改善するカルチャーへシフトが求められます。
特に、30〜40代の次世代リーダーは新しい技術と現場の知恵を融合し、自分たちの言葉で「なぜ安全が大切なのか」を伝えられる力が必要です。
ヒヤリ・ハットの事例や他社の最新トレンド、自社ならではの工夫を積極的に社内外に共有しましょう。
まとめ:「今までは大丈夫」の先にある未来へ
「今までは大丈夫だった」は、製造業界に深く根付く“現場主義”の良さと、“変化恐怖症”が混じった言葉です。
ですが、企業を成長させ次世代に繋げていくためには、過去に縛られず、地道な改善と変革に取り組み続けることが求められます。
安全なくして生産なし、成長なし。
経営層・現場・バイヤー・サプライヤーの全てが“自分ごと”として安全に向き合う時代に、一歩踏み出しましょう。