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コネクティッド・カーでIoTデータ共有が進まない背景

目次
はじめに:なぜコネクティッド・カーのIoTデータ共有が進まないのか
コネクティッド・カーは、自動車業界の未来を切り拓く重要なイノベーションです。
IoT(Internet of Things)技術によって、クルマがインターネットと常時接続され、走行データや車両制御データ、運転者の行動データなど、さまざまなデータをリアルタイムに収集・分析できるようになりました。
本来であれば、こうしたデータを産業界横断で共有することにより、交通事故の削減や渋滞緩和、新しいモビリティサービスの創出など、数多くのメリットが生まれるはずです。
ところが、現状ではコネクティッド・カーのIoTデータ共有はなかなか進んでいません。
本記事では、製造現場で培った知見や実情をもとに、なぜコネクティッド・カーのIoTデータ共有が進まないのか、その背景と真因を深掘りし、今後の可能性についてもラテラルシンキングで掘り下げます。
コネクティッド・カーとIoTデータの重要性
膨大なデータがもたらす価値
コネクティッド・カーは、車両そのものをひとつの巨大なセンサー集合体へと進化させました。
走行経路、加減速、エンジンやバッテリーの状態、周囲の天候、運転の癖、交通インフラとの相互通信――これらは部分的に既に実現されています。
こうしたIoTデータには、製造業バイヤーとしても見過ごせない価値があります。
例として、
– 部品の不具合兆候の早期検知
– 予防保全部品の需要予測
– 実走行データを活用した新車開発、設計の高度化
など、サプライヤーもOEMも恩恵を受けるはずです。
「データを握る者が未来を制す」時代
デジタル化が進む中で、データの主導権争いは熾烈です。
クルマ業界では、従来「モノ作り」のパワーバランスが強かったが、最近は「コト消費」や「体験価値」重視のサービス革新が重要視されています。
IoTデータ共有が進めば、異業種連携や新たなビジネスエコシステムが生まれる可能性がある一方、「自社の牙城を崩されたくない」という意識が根強い現実もあります。
IoTデータ共有が進まない主な背景
1.「昭和の縦割り」構造が根強い
国内製造業の多くは、バリューチェーンごとに閉鎖的な構造を持っています。
例えば完成車メーカーと、部品サプライヤー、さらにディーラーやサービス拠点は個別最適化が強く、それぞれの「守備範囲」からデータを出したがらない雰囲気が根深いです。
なぜか。
不具合情報や生産ノウハウなど、「自社に不利になるかもしれないデータ」は絶対に外に出したくない、という昭和時代からの企業文化が色濃く残っています。
特に品質問題やリコールのリスクは各社にとって機密性が高く、トラブル発生時もまずは「社内で抱える」傾向が強いのです。
2.「所有権」の壁:OEMとサプライヤーのジレンマ
IoTデータの「所有権」は明確でないのが現実です。
完成車メーカー(OEM)が「ウチの車から取ったデータはウチの財産」と主張すれば、サプライヤーは「ウチの部品を使ってるのだから、その稼働データは我々も使う権利がある」と考えます。
さらに、クルマの所有者=ユーザーの個人情報という側面もあり、コンプライアンスや個人情報保護法などの規制が年々厳しくなっています。
この三者のねじれ構造が、互いにデータを「囲い込む」原因となり、データ共有の障壁となっています。
3.「プラットフォーム非統一」の徒労
各社各様のIoTプラットフォームが乱立しているのも問題です。
トヨタ、ホンダ、日産などは各自独自のコネクテッド基盤を構築。
部品サプライヤー向けのポータル、テレマティクスの標準化も、ネーミングこそ違えど実態は「壁」のままです。
業界共通のデータプラットフォームづくりには多額の投資が必要であり、既存システムとの融合も一朝一夕には進みません。
昭和の大型汎用機から脱却しきれず、アナログとデジタルが複雑に溶け合った「過渡期」である点も見逃せません。
4.データマネタイズと新興勢力
コネクティッド・カーのデータは「金の卵」とも言えます。
だからこそ、部品メーカー・システムサプライヤー・ITベンダー・新興モビリティサービス会社など、多様なプレイヤーの思惑が交差します。
新規参入のテック企業は「データの壁」をこじ開けたい。
一方、既存大手メーカーは「相手にはうま味を渡したくない」。
この「社内政治」「業界政治」が複雑に絡み合い、現場レベルでの実用化まで遠いのです。
「現場視点」で見るIoTデータ共有の実態
サプライヤーの生の声:「データさえ取れれば…」
サプライヤー現場では、部品の寿命分析や生産ラインの改善にIoTデータを生かしたいという声が絶えません。
特に不具合の真因究明や予防保全には現実的な走行データが必要です。
しかし完成車メーカーへの依存度が高いため、「OEM経由でなければ顧客データに触れられない」ジレンマが存在します。
「生きたフィールドデータを持たないと、永遠にクローズドループから抜け出せない」と嘆く開発・品質担当者は多いのです。
バイヤーの葛藤:「リスクとリターンのはざま」
調達バイヤーとしても、本音ではデータ共有によってサプライヤーの自主改善やコスト低減が進むと期待しています。
一方で、万が一データの扱いを誤り個人情報流出やメーカー責任が追及された場合、自部署に責任が降りかかるリスクにも敏感です。
リスクを取ってまでデータ共有を進めるか否か――。
ここにも「忖度」や「前例主義」が根強く、前進を阻害しています。
ユーザー目線:「そもそも何が起きているの?」
車のオーナー自身は、自分の乗っているクルマがどんな情報をどこに送信しているのか、ほとんど知りません。
ディーラーを通じて得られる情報も限定的で、IoTによる利便性向上とプライバシー懸念のバランスが取れているとは言い難い状況です。
業界の「壁」を超えるラテラルシンキング
1.「敵対」から「共創」へ意識変革を
IoTデータを「囲う」発想を転換し、「みんなで共有し合うことで相乗効果が最大化する」共創型プラットフォームの実現がカギとなります。
たとえば、部品サプライヤーの現場とOEMの開発部門が、匿名化・分散化した形でデータ活用プロジェクトを組むとどうでしょうか。
短所を補完し合い、全体最適にシフトするための「業界横断プロジェクト」を巻き込むことが重要です。
2.データの「レイヤー化」で安全性担保
すべてのデータを無制限に渡すのではなく、アクセス権限や利用目的を限定し「必要なデータを、必要な人間だけが、目的範囲で」扱える仕組みづくり――。
多層防御・ゼロトラスト設計・ブロックチェーン技術の導入で、データ管理の信頼性を高めることができます。
現場サイドでは「匿名化した状態でも十分に使える」切り口を見出すことで、リスクを最小限に抑えながらノウハウ共有が推進できます。
3.海外動向や異業界に学ぶ先進事例
欧米では自動車業界標準でデータ共有のルールづくりが進んでいます。
GAFAやモビリティ・サービス企業などは「ユーザー同意」を前提に、マイクロサービス型でフェアなデータ取引を実現しています。
鉄道や航空業界の予防保全活用事例も参考になります。
アナログ的な「課長承認」「捺印文化」から抜け出し、デジタル時代のガバナンスフレームの一斉見直しが必要です。
4.自動車=「移動するプラットフォーム」への進化
今後自動車は、「個人が所有する道具」から「社会インフラの一部」へと役割を変えていきます。
スマートシティやV2X(車両―インフラ協調)プロジェクトでは、道路管理者や行政・保険会社とのデータ連携が前提となります。
すべての社会インフラとの連携を見据え、「自社の利益」だけでなく「社会全体の価値創出」を最優先に据えた政策提言や業界標準化への能動的参画が求められています。
これからのバイヤー・サプライヤーが取るべきアクション
意識変革とスキル転換
これまで調達・品質管理の立場では「コスト」「納期」「品質」の三本柱が主軸でした。
しかし今後、データ・サービスの価値を最大化するには、
– デジタルガバナンス知識
– プライバシー保護規則
– データ利活用ノウハウ
– 異業種協調力
といったアジャイルスキルがバイヤーにも求められる時代です。
見える化・可視化の徹底
「ウチのデータをただでくれ」ではなく、「このデータが欲しい理由は何か」「どう業務改善に直結させるか」を現場レベルで丁寧に説明し、双方納得のうえで進めるプロセスが不可欠です。
「データは経営資源である」という共通認識を持ち、情熱を持った現場発イニシアティブが加速させます。
まとめ:IoTデータ共有は製造業の未来をひらくか
コネクティッド・カー時代の到来は、業界に「昭和の壁」から抜け出す絶好の転機をもたらしています。
現場目線、バイヤー目線、サプライヤー目線——それぞれの立ち位置から見えてくる「リアルな課題」と「可能性」を冷静に認識した上で、既存の「壁」を越えていくラテラルな発想と行動が必要です。
真のデータ活用は単なる業績アップだけでなく、社会インフラや人々の生活全体に貢献する分野へと拡大しています。
製造業に携わるみなさん、課題を壁と見なさず、新たな価値を生み出すチャンスと捉え、IoT時代の旗手となっていくことを心から期待しています。