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量産コストダウンを進めるほど日用品の設計自由度が失われる現実

目次
はじめに:量産コストダウンの現場で起こる「自由度の収縮」
日用品を製造する企業の多くは、常に「低コスト・高品質」を求められています。
とりわけ近年はグローバル競争が激化し、価格に対する消費者の目も厳しさを増しています。
そのため、設計から調達、生産、品質管理のすべての現場でコストダウン活動が当たり前のように進められてきました。
しかし、現場で長年経験した私の視点から言えば、「コストダウンにこだわるあまり、本来の製品価値や設計の自由度が大きく損なわれる」という現実が確かにあります。
昭和から続く伝統的なやり方や、見えないプレッシャーも交錯する中で、何が起きているのでしょうか。
本記事では、量産コストダウンの苛烈な現場の実態と、設計自由度が失われる仕組みを解説し、現場目線で現状打破のヒントもご紹介します。
コストダウンの構造:なぜ設計が縛られるのか
コストダウンの正体は「標準化」と「単純化」
量産コストダウンの基本戦略は、部品点数の削減、材料調達の集約、工法・工程の共通化、治工具や金型の流用、パーツの標準化等に集約されます。
これにより調達コストが下がり、オペレーションコストや品質管理コストも下げることができます。
しかし、この「標準化」と「単純化」が積み重なると、設計自由度は否応なしに狭まります。
実際の現場では、
– 「去年のプラットフォームを流用してくれ」
– 「新部品は極力減らせ」
– 「仕入先はこのリストから選んで」
– 「工程を増やす変更は認めない」
といった暗黙のルールや通達が飛び交います。
その結果、本来ユーザー体験を高めるための新発想や設計提案が、コスト面の制約で“NG”となり、革新的な製品に進化しにくくなります。
購買部門の「定量目標至上主義」が生む副作用
特に調達購買領域では「前年対比▲○%」といったコストダウンKPIが組織の隅々にまで徹底されます。
バイヤーも現場担当も、この目標を達成しなければ昇進や組織評価に直結するため、現場に強いプレッシャーをかけることになります。
するとどうなるか。
本音を言えば、
– もっと良い材料や設計があっても、今使っている標準部材でガマン
– 新サプライヤーを試したくても、既存サプライヤーとの取引履歴が優先
– 工場の自動化投資をしたくても、予算消化優先で先送り
など、「守りの発想」ばかりが先行するようになります。
これが、現場の創意工夫や自由な設計を萎縮させる大きな要因となっています。
設計自由度の喪失がもたらす悪循環
製品差別化の困難化と価格競争の泥沼
設計自由度が限定されることで、新しい形状、使い勝手、素材や機能を持った日用品は生まれにくくなります。
例えば、「もっと手の小さい人にも使いやすい形状に」という要望や、「ユニバーサルデザインを採り入れたい」といった提案も、“金型コストが高い”“生産工程が増える”といった理由で見送られてしまう現実があります。
結果、どのブランドも似たような形・機能の製品ばかりになり、最終的には「価格で勝負」せざるを得ない泥沼に陥ります。
こうして、ますますコストダウン主義が強化される悪循環が続きます。
技術・人材の停滞リスク
また、設計者が本来持っているはずの創造力や発想力が発揮されず、結果として技術力や人材育成も停滞します。
若手設計者は「いかに過去の流用でまとめるか」が仕事の大半となり、“攻める設計”ではなく“守る設計”ばかりに時間を使うことになります。
これが業界全体のイノベーションの停滞、ひいては日本の製造現場力の低下につながるという懸念も、まさに現場で実感されています。
昭和から続くアナログ業界の「固定観念」とその背景
「失敗しない」が最優先される風土
日本の製造業、特に日用品業界では、「ミスを避ける」「納期遅れを出さない」ことが非常に重く見られます。
これは良い面もあるのですが、コストダウン活動を進める現場では、少しでもリスクがある設計変更や部材変更には過剰に慎重な態度がとられる傾向があります。
新しい材料や工法を使うことでリコールやクレームが発生し、メディアで大きく報道されれば、現場は非常に厳しい責任追及に晒されるという恐怖心が常にあります。
こうして挑戦する文化より、足を引っ張りあう“横並び意識”が強化され、設計や製品開発の自由度がますます奪われる土壌となっているのです。
「仕組みで縛る」コンプライアンス偏重の罠
また、近年どの企業でもコンプライアンス重視・内部統制の強化が進み、設計変更や調達変更に対する承認プロセスが非常に多重化しています。
これにより、「柔軟に現場判断で設計を変える」裁量が削がれ、結果として定型作業が増加しイノベーションが起きにくくなります。
書類やルールを守ること自体が目的となり、目の前のお客様の価値を見失いがちになる点も、多くの製造現場で課題とされています。
現場目線で設計自由度を取り戻すために:具体的アクション
調達と設計の“壁”を壊す協働スタイル
コストと設計自由度は相反する側面がありますが、両者を高次元で両立させるためには、設計部門・調達部門・生産現場が「共通KPI」を持つことが有効です。
例えば、新製品の設計提案段階でサプライヤーを巻き込み、技術的な手当てや価格シミュレーションを同時並行で進めるフロントローディングの強化が挙げられます。
私の実体験では、
– サプライヤーの得意工法や特殊素材を“設計に反映”する
– 工場の自動化可能性まで含めて、BOM(部品表)提出時点で生産性に配慮
– 調達KPIに「設計自由度維持」の指標(例:新規設計採用比率)を追加
といった取り組みで一定の成果が出ました。
分断ではなく「知恵の掛け算」が、今こそ求められています。
デジタル活用によるコストガバナンスと設計革新
近年のデジタル技術の進化によって、シミュレーションや自動見積もり、デジタルツイン等を駆使すれば、かなり早期から“コストと設計の最適化チャレンジ”ができるようになりました。
例えば、
– 形状や材質の違いによる金型コスト変動をCAEで可視化
– 複数の設計案の調達価格をデジタル見積もりで即時試算
– AI活用でコスト・品質・納期のバランス最適化をシナリオ分析
といった実践が進行中です。
今後は単純なコストダウンだけでなく、設計自由度を保ったまま最適コストを模索する「スマートものづくり」が主流になるでしょう。
サプライヤー視点:バイヤーの意図をどう読み解くか
コスト要求の背後にある「現場の事情」理解が不可欠
サプライヤー側から見ると、日々のコストカット要請は大きな負担であり、“バイヤーがなぜこんなに設計フレキシビリティを認めないのか”と感じるかも知れません。
しかし実際には、バイヤーも現場の設計・生産・品質保証の間で“両面の板挟み”になっている現実があります。
サプライヤーとしては、
– コスト以外の強み(設計協力、物流効率、安定品質)を積極アピール
– 既存プラットフォームとの両立案を準備し、全員が納得できるWin-Win提案を出す
– 設計者や生産技術者との早期対話で「課題の本質」を掴む
といった、一段深い提案と理解が非常に有効です。
真のパートナー関係を築くことで、バイヤーにも「新しい設計へのチャレンジ」を納得してもらえるケースが増えています。
まとめ:「足し算の発想」で業界を進化させる
量産コストダウンを追いすぎると、日用品の設計自由度が徐々に失われる現実があります。
これは単なる個社の問題ではなく、業界全体の技術力・競争力低下を招きかねない深刻な課題です。
コストと自由度は本来“どっちか”ではなく、“どう両立させるか”に発想を転換すべき時代です。
現場の慣習や昭和的な縛りに囚われず、バイヤー・サプライヤー・現場技術者が「お互いの価値を掛け合わせる視点」で、より良い製品づくりへの一歩を踏み出していくことが、これからの日本製造業に求められています。
そのために、現場目線で知恵を出し合い、デジタルを活かした新しい挑戦、人的ネットワークを生かした水平連携・協働を推し進めていきましょう。