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投稿日:2026年2月16日

グリッパの汎用化が逆に作業効率を下げる理由

はじめに

製造業の現場では、コストダウンと生産性向上が常に求められています。

その中で、大きな期待を背負って導入されることが多いのが、ロボットやハンドリング装置で使われる「グリッパ(Gripper)」の汎用化です。

「どんなワークでもこのグリッパ一つで対応できる!」といった謳い文句は、多くの設備導入担当者や経営層の心を捉えます。

ですが、私が20年以上の現場で数多くの自動化プロジェクトを経験した結論――「グリッパの汎用化は、逆に作業効率を落としかねない」ことが多々あります。

この記事では、汎用グリッパに切り替えたことで陥りやすい現場の落とし穴と、従来型グリッパの「不便に見えて合理的」な側面、そして今後の製造現場で本当に求められる考え方について詳しく解説します。

グリッパ選定に悩むバイヤーはもちろん、サプライヤーの立場からバイヤー心理を学びたい方、現場の実情を知りたい方へ、現役工場長経験者の視点でラテラルに深掘りします。

グリッパの「汎用化」とは何か?

まず、「グリッパの汎用化」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

一般的には、サイズや形状が異なる複数のワーク(部品や完成品)に、同じグリッパで対応することを指します。

たとえば電動アジャスト機能付きや柔らかいパッド素材、不定形ワーク対応の多関節指型グリッパなどが“汎用グリッパ”として製造現場で選ばれます。

なぜ汎用グリッパが選ばれるのか

主な理由は以下の通りです。

– ワーク切替えごとの段取り替え工数・コストの削減
– 部品在庫の管理負荷低減
– 開発設計・発注の標準化による効率アップ
– 新規ワーク対応時も既存設備をそのまま使える期待

特に設備投資やメンテナンスの観点で、現場の負担を軽減したいバイヤーや工場マネージャーにとって「汎用化」は大きな魅力になっています。

汎用グリッパにありがちな“落とし穴”

ところが、実際に導入して運用してみると、現場でしか分からない数々の問題点が表面化します。

ここでは三つの代表的な落とし穴を紹介します。

1. 着実な把持力不足とワーク破損リスク

汎用グリッパは様々なワークに対応できるよう設計されていますが、個々のワークに最適化されていないため「掴みが甘い」「滑り落ちる」「圧力が強すぎて割れる」などの現象が起こりやすくなります。

その結果、現場では以下のような二次対応が必要になります。

– ワークごとに“把持ポイント”を設定し直す追加作業
– ワークへの緩衝材追加や補助治具の設計工数・在庫コスト
– 破損や落下のたびにラインストップ

「どんなワークも掴める」が、「どのワークも完璧に掴めない」ことは、かえって作業効率や品質管理の低下につながりやすいのです。

2. 細かい段取り・ティーチングの頻発

汎用グリッパだからこそ、ワークや投入治具が変わるたびに「細かなグリップ位置、強さ、開閉幅」の味付け調整が必要となります。

この微調整には以下のような人手・時間コストがかかります。

– グリッパ部のセンサー値やパラメータ最大化
– ワークごとに異なる位置決め・ティーチング
– 品種切り替え時の各種セッティング確認

機械は万能ではありません。

結局「汎用」グリッパを選んでも、実際は“品種専用グリッパの段取り替え”と同程度の手間や知恵が求められ、計画より段取り替え時間が伸びることが多いです。

3. 標準化による“平均点”の落とし穴

製造現場では「最適化」が強みの一つです。

本来、ワークや工程ごとの特性を活かすために治具や把持部分を最適設計し、「高品質・高速化・低コスト化」を同時に実現してきました。

汎用グリッパ導入で標準化・平均点を目指すと、こうした「伸びしろ」を自ら手放すケースが増えます。

結果的に、

– よく使う主力ワークで生産性が落ちる
– グリッパコストは上がるが生産量は変わらない
– 「できることは増えた」が「やり込む強み」が消える

このジレンマが、設備や現場力の地道な発展を止めてしまいかねません。

現場での実例紹介:汎用化で生まれた非効率

実際の製造ラインで起きた、汎用グリッパ“失敗事例”から学んでみましょう。

ケース1:「汎用パッド」での滑り落ちトラブル

某自動車部品メーカーのA社は、1つのラインで形状の異なる3種類のカバー部品を扱う必要が出ました。

設備担当者は「無調整で使える汎用グリッパ」を導入。

しかし、最も重いワークでは“すっぽ抜け”頻発。

一方、最も脆弱なワークでは圧迫破損が頻発しました。

現場ではワークごとに都度調整→段取り替え工数が増加→生産計画が大幅遅延。

最終的に、元の「専用グリッパ体制+クイックスイッチ」に戻し、生産工程が安定するという結果になりました。

ケース2:「柔軟指型」が精密ワークで逆効果

半導体関連パーツ搬送の現場では、柔らかい指状のグリッパを選定。

多品種に対応可能ですが、精密部品では“たわみ”と“微振動”によりセンターが出ず位置ズレが発生。

二次工程で仕掛け直す手間が増えたため、一時的に「ごくシンプルな微細物専用グリッパ」に現場カスタムで切り替えたことで工数と不良発生率が激減しました。

なぜ「汎用化」が進むのか?昭和から令和への業界動向

それでもグリッパの汎用化・標準化傾向が止まらない理由は、現場・技術・経営それぞれの立場に深く根ざした「構造的要因」があるためです。

技術者視点:「ブラックボックス化」願望

従来は“この工程、この品種、この冶具だけ”という超個別対応が主流でした。

しかし

– 設備担当・電気技術者の高齢化
– 若手確保難・技能伝承の停滞
– ITシステム化・PL責任の増加

などで、「できるだけ人の知見や経験が要らない」自動化~ブラックボックス志向が強まっています。

結果、「とりあえず汎用グリッパなら誰でも扱える」という“安心材料”へのニーズは今後も消えません。

サプライヤー視点:「提案のしやすさ」

個別ワークや工程特有の課題を把握して、専用グリッパを設計・提案するには、顧客ヒアリング・現場観察・設計ノウハウといった経験・人手・納期が必要です。

一方「汎用グリッパ」の場合、標準カタログ部品としてすぐ提案できるため、営業工数や設計リスクを低減しやすいのです。

経営者・バイヤー視点:「投資効果・リスク最小化」

設備投資は長期的な回収・流用計画が組まれます。

「新商品追加やライン変更が発生しても、既存設備のままなら投資効率が良い」と経営層やバイヤーは考えます。

結果として、「まずは汎用グリッパで!」が現代製造業の主流的マインドセットとなっているのです。

現場力を活かすグリッパ選定術:本当に大切な視点

汎用グリッパは決して悪ではありません。

重要なのは、「現場ごとの優先度」と「汎用と専用のベストミックス」を見極めることです。

1. 主体となる“基幹ワーク”をしっかり分析

全てを汎用設計するのではなく、

– 最も多く流れるワーク
– 機能や品質で失敗が許されないワーク

についてはコストをかけて専用最適化を、とくに検討すべきです。

これだけで作業効率と品質リスクの大半がコントロールできます。

2. 汎用グリッパの“本当の目的”を再確認

「すべてに一律で対応する」発想ではなく

– 新製品や端境期の“暫定段取り”
– 試験ラインや評価工程の“実証段階”
– 変種頻度が極めて高い工程のみ

で活用し、“本当に求める成果”を現場内で擦り合わせましょう。

3. クイックスイッチ・シンプル切替の併用

最適グリッパを「ワンタッチ」で交換できる仕組み(クイックチェンジ、簡易着脱治具など)を用意すれば、

– 専用グリッパの強みを必要時に最大活用
– 切替工数は最小限

見た目の「汎用一辺倒設計」でなく、「必要に応じ都度最適化できるフレキシブル設計」こそが、生産現場に最もフィットするのです。

まとめ:現場目線×業界俯瞰で見えたグリッパ活用の未来

グリッパの汎用化は、理論上は素晴らしい効率化策に見えます。

しかし現場で起こる「細かすぎる最適調整」の重要性や、「標準化による現場力低下」を無視して、盲目的に汎用化を進めると、むしろ生産効率や品質トラブルが多発しやすくなります。

汎用グリッパと専用グリッパ、現場従事者の技能バランス、バイヤー・サプライヤーの手間とリスク――。

これからの製造業現場では、「汎用か専用か」ではなく、「どれだけ必要な部分を最適化し、残りは効率的に汎用でカバーするか」という“技術・段取りの地平線”を広げていく必要があります。

現場で汗を流す皆さん、バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの考えを知りたい方。

グリッパ選定の際は、「目に見える効率化」の奥にある“隠れた非効率”に目を向けて、現場力・生産性・設備投資の最適バランスを追求していきましょう。

それこそが、昭和の熟練技術から令和のスマートファクトリーへ――本当の現場改革の一歩となるはずです。

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