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投稿日:2026年2月17日

人材不足対策として教育を増やした結果現場が回らなくなった話

はじめに

現代の製造業が直面している最も深刻な課題の一つに「人材不足」があります。
特に、ベテラン層の大量退職や若年層の製造業離れが進む中、管理職や現場リーダーは、人手不足対策として「教育」に力を入れざるを得なくなっています。
一方で、教育を重視し過ぎた結果、本来やるべき現場作業の手が回らなくなり、生産性が下がる、といった本末転倒な事態も頻繁に発生しています。
この記事では、私が20年以上にわたり製造業の現場管理職として実際に経験した「教育を重視するあまり現場が停滞した実話」をもとに、現実的な対策と今後取るべき方向性を深掘りします。

教育強化が叫ばれる背景

なぜ今、教育が重視されるのか

第一に、団塊の世代を中心とした熟練作業者の大量退職によって、現場のノウハウや阿吽の呼吸がごっそり抜け落ちていることが挙げられます。
また、熟練工の「技術がブラックボックス化」されていたため、一人二人去るだけでも作業の継続が困難になることが多々発生しています。
後継者育成も思うように進まず、現場としては「教育で人を作る」方向にシフトせざるを得ないのです。

昭和的現場文化の影響

多くの製造業現場は「背中を見て盗め」「先輩が教える」といった、言語化されていない業務伝承が中心でした。
マニュアルもあって無いようなもの、教育体系も場当たり的。
そのため、形式的な研修や座学を増やすことで「教育強化」という名の安全策を取ることが増えています。
これが、現場作業の負荷増大や停滞の一因にもなっています。

教育時間の捻出と現場運用のジレンマ

教育に割くリソースとは

教育を強化すればするほど、現場の生産計画や納期遵守を押しのけて「教育の時間捻出」が必要になります。
具体的には、新人研修、OJT、技能伝承会議、外部講習、ISO教育などがあります。

どれか1つでも真剣にやれば丸1日現場から作業者や管理者が抜けます。
場合によっては指導者自体も作業の第一線を離れざるを得ず、結果的に「人も成果物も足りない」となる現場が頻発しています。

現場に残るメンバーの疲弊

現場は常に「余剰人員ゼロ」で回っています。
一人が教育で抜けるだけで、他のメンバーにしわ寄せがいき、残業や休日出勤が横行する状況も珍しくありません。
「教育が必要と分かっていても、本当に今このタイミングでやる必要があるのか?」という葛藤が現場責任者には絶えず付きまといます。

現場で起こった“教育重視”による弊害事例

その1:納期遅延と品質クレームの急増

一時期、私たちの工場でも「現場力アップ推進月間」と称し、全社員の1割が毎週教育に当たる体制を敷いたことがありました。
ところが、教育担当に割かれた人数分、作業現場が回らなくなり、わずか1カ月間で納期遅延が前年比の3倍に。
また、教育に持っていかれたベテラン作業者が実作業から抜けたことで工程異常に気づかず、不良流出やクレームが激増しました。

その2:作業者モチベーションの低下

教育を受ける新人や2~3年目の中堅は、現場に出る回数が減ることで「自分は戦力外なのか?」と自信を失いがちです。
また、教育担当を任されるベテランも「結局作業が溜まるだけで感謝されるわけでもなく、むしろ恨まれる」とやる気をなくしてしまう場合もあります。

その3:管理職層の疲弊

教育計画は、管理職が現場の状況を見ながら組みますが、教育で抜ける人を埋める追加要員はありません。
「明日は教育、でもラインが止まる。じゃあ自分が現場に立つか…」と、管理職が本来の業務時間を割いて現場応援に入る状況になり、管理業務や安全管理が手薄になるという悪循環も発生します。

なぜ“教育だけ”では人材不足を解消できないのか

属人化から脱するには教育“だけ”でなく標準化・自動化が不可欠

そもそも、従来のように熟練作業者のノウハウを“教育”だけで伝えることには限界があります。
教わる側の力量、文脈、個々の現場状況に依存しすぎるため、効率が悪いのです。

現在は、作業標準の細分化、動画マニュアル化、自動化技術の導入、ペーパレス化など、IT・DXを組み合わせた「教えずとも現場が止まらない仕組み」が鍵となっています。

昭和的現場文化・慣行を見直す必要性

「現場が忙しいから教育は後回し」のままでは結局人は育ちません。
同時に、「教育を最優先」にして現場が回らなくなるのも根本解決になりません。

属人化・マンパワー依存から抜け出す構造転換、つまり
「標準化・自動化・見える化」
へのシフトチェンジが、どちらの状況にも抜本対策となるのです。

ラテラルシンキング的な解決策と現場実践例

トリプル“W”の定着

日本の製造現場には「誰が、いつ、何を」を即時に明確化する文化が欠けています。
現場遺伝子にこのトリプル“W”を染み込ませることが、教育効果・標準化・自動化成功の下地になります。
この意識変革を全階層で習慣化できれば、属人化が薄まり教育コストも激減します。

“ショートカット教育”の導入

従来は全体研修や現場OJTの長期拘束が当たり前でしたが、本当に必要なのは「その場で」「必要な分だけ」「検索できる」教育体制です。
タブレットやスマートグラス、チャットボット、5分動画など、「スポット教育」の導入で、教育に割く時間と人手を最小化することが可能です。

私たちの工場でも、清掃・点検手順や組立工程を動画にし、作業現場の端末でいつでも繰り返し見られる仕組みを作ったことで、教育担当者も受講者も現場をほとんど離れずに済むようになりました。

自動化・DX推進による「教えずに済む」現場への進化

単純作業や判定ミスが多い工程は積極的に自動化へ移行すべきです。
AI画像判定やロボット化で、人間しかできない判断領域を極小化します。
加えて、「工程異常・不良発生アラート」の自動通知化なども、現場技能の属人化脱却と教育コスト削減の両面で効果大です。

サプライヤー・バイヤー目線での“教育と現場力”の捉え方

バイヤーが知りたいことと現場のギャップ

バイヤー(調達購買担当者)としては「納期・品質・コスト」の安定が最重要です。
いくら教育に力を入れているサプライヤーでも、現場が循環不全を起こしていては信頼されません。
逆に、徹底した教育体制よりも「誰が抜けても止まらない仕組み」や「異常時の即応体制」を持つ現場こそ、高く評価されます。

サプライヤーの立場でバイヤーと交渉する場合には、「教育担当者を何人配置しています」よりも、「標準化・自動化・現場見える化施策がどれほど整っているか」を強調した方が、現場力の説得材料として有効です。

まとめ:人材不足時代の“強い現場”とは

製造業の人材不足対策において、教育「だけ」に依存したアプローチには限界があることを、現場目線から強く実感しています。
大事なのは、「教育・標準化・自動化」の三本柱をバランスよく進め、どの層が抜けても「現場が回る仕組み」を積み上げることです。

昭和型の属人化文化から、平成・令和の“仕組みで人を守る現場”への進化が求められる時代です。
バイヤーもサプライヤーも、この“現場転換”を見据えたうえで、自社や取引先の強み・弱みを分析し、次の時代の競争力強化を目指していきましょう。

革新は必ず現場から始まります。
教育を重視しながらも、標準化・自動化という新しい地平線を共に切り拓いていきましょう。

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