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製造業で人材管理が後手に回る危険信号

目次
はじめに:なぜ製造業の人材管理が「後手」に回るのか
長年、製造業の第一線に身を置いてきた私から見ても、「人材管理」は製造現場で最も遅れている分野の一つです。
自動化技術やIoT、DX推進といったキーワードが話題になる中で、人材管理――つまり、採用・配置・育成・評価・定着といった基盤づくりは、手付かずのまま「昭和のやり方」が色濃く残っています。
この遅れは、やがて目に見える大きなリスクとして工場運営に深刻な影響を与えかねません。
この記事では、製造業における人材管理の現状、抱える問題、そして今、何から手をつけるべきかを、現場目線と最新動向を織り交ぜて実践的に考察していきます。
人材管理における“昭和的慣習”が招く問題
1. OJT一本槍の限界
多くの工場で、若手の育成は「OJTで学べ」の一言で片付けられがちです。
経験豊富な先輩に付き、「見て覚えろ」「体で覚えろ」という文化は、かつての大量生産・長期雇用社会ではある意味機能していました。
しかし今や技能継承の核となるベテランが定年を迎え、30代・40代の中堅が極端に薄い“団塊ジュニアの谷間”と呼ばれる現実があります。
OJTが機能する前提自体が崩れ始め、「誰が誰に教えるのか」という最も基本的な仕組みづくりから見直しが必要です。
2. 年功賃金と終身雇用の歪み
「頑張っても、昇進や昇給は年功序列」「目立ちたくない」という空気も根強く残っています。
その結果、若手が意欲を失い、せっかく入社しても3年以内で辞めてしまうという“早期離職”が多発しています。
また、定年を見据えたベテラン層のモチベーション維持も難しくなっており、やる気のある人材が伸び悩むという現象も生じています。
3. 労務トラブルとコンプライアンスリスク
労働時間管理やハラスメント関連の法律が強化される現代。
旧態依然とした管理体制のままでは、思わぬ形でブラック企業認定を受けたり、重大なコンプライアンス違反に発展する危険性があります。
「うちの工場だけは大丈夫」はもはや通用しません。
現代の働き手が求める、透明感のある人事制度や安心して働ける環境づくりが急務です。
現場が抱えるリアルな人材リスク
技能伝承の断絶による生産性低下
例えばプレス加工、射出成形、組立ラインなど、日本の製造現場には長年“匠の技”とも言うべき技能が受け継がれてきました。
しかし、マニュアルに書けないノウハウや、一瞬の判断力が必要な現場では、技能伝承が断絶しはじめています。
これによりラインの立ち上げ時間が増加、不良率の悪化、品質問題が頻発するというリスクが高まっています。
慢性的な人手不足と採用競争激化
国内の少子高齢化は製造業にとって“構造的な人材不足”という新たな危機を招いています。
従来通りの「非正規雇用で回す」「地元の募集だけ」の採用手法では、応募数そのものが激減。
サプライヤーがキャリア志向のバイヤー層を獲得できない、という問題も深刻化しています。
若手人材・多様な国籍人材・女性や高年齢者の戦力化など、ダイバーシティ対応の遅れが成長阻害要因になりつつあります。
現場リーダー層の枯渇とマネジメント崩壊
「課長・係長が部下を動かせない」
「現場管理職のなり手がいない」
「現場をまとめるリーダーがみんな若い世代には“煙たがられる存在”になっている」
こうした声を各地の工場でよく耳にします。
管理職育成が機能しなくなれば、現場マネジメントや工程改善が形骸化し、重大な組織の弱体化が進行します。
人材管理の“後手”が及ぼす経営インパクト
人材管理の遅れは、やがて工場経営そのものに大きなダメージを与えます。
工程改善が回らず、品質不良が多発。
納期遅延やクレームが相次ぎ、結果、信頼失墜へと繋がる悪循環が始まります。
また、外部環境の変化(かつてない円安やインフレ、感染症流行など)に柔軟に対応できず、大口顧客から取引終了宣言を受けるケースも珍しくありません。
現場の“地力”低下は、気付いた時には手遅れになりがちです。
バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点から見る人材問題
バイヤー視点:供給メーカーの“現場力”を厳しく見る目
バイヤー(調達担当)は年々多様化し、コストだけでなく「サステナビリティ」「品質体制」「働きやすさ」といった“人の面”も重視する傾向にあります。
取引先の工場見学では「働いている人の表情」「現場の空気感」「リーダーとの対話」を重視する企業も増えています。
現場が疲弊している、管理職が機能していない、教育訓練に投資していない等の工場は、発注を控えられることも多いのです。
サプライヤー視点:バイヤーから選ばれるために
一方、サプライヤーの立ち位置では「バイヤーがなぜ人材管理にまで関心を持つのか?」という視点が重要です。
人材安定――正社員・技能実習生・地元採用・女性活用をバランス良く進めている工場は、「安定供給のパートナー」として評価されやすいです。
逆に、人海戦術の連発や転職者の高頻度入れ替えが目立つ現場は、バイヤーが“潜在リスク”と判断しがちです。
実践的・現場発の人材管理アプローチ
1. “マルチスキル化”で人材の流動性を高める
一人一工程時代から、複数工程をこなせる「マルチスキル人材」へとシフトしましょう。
例えば、溶接・塗装・検査・組立という具合に、工程間をローテーション対応できるチームを作ることで、休業リスクや予期せぬ離職にも強い現場が構築できます。
マルチスキル教育は、従来のOJT一本槍から脱却し、定量的スキルマップを作ることが第一歩です。
2. 若手・外国人・高年齢者の戦力化
従来の“若手男性中心”から、外国人技能実習生や女性、高年齢者も含めた多様性重視の配置を実現しましょう。
言語や宗教、生活背景の違いを理解し、班長・教育担当の役割分担を再設計するだけでも、定着率が劇的に上がった事例は多数あります。
制度そのものを見直す発想が不可欠です。
3. “見える化”と評価制度の透明化を推進
技能伝承マニュアルや動画、教育記録のデジタル化は、属人化から脱却する有効な一手です。
また、頑張った人を公平に評価し、成果やスキル向上に応じた報奨制度を明確化しましょう。
一例として、現場改善提案や品質向上活動にポイント制度を導入し、年2回の表彰や現金・商品支給に結びつけることで、従業員満足度と現場力の底上げに成功した工場も多く見られます。
ラテラルシンキングで“新しい地平”を模索する
単なるPDCA(計画・実行・検証・改善)だけでは、現場の人材問題は行き詰まります。
これからは“水平思考(ラテラルシンキング)”で新しい地平線を開拓することがカギです。
たとえば、
・異業種研修に若手を送り出す(製造現場の常識を疑う体験)
・副業容認やフリーランス人材の活用で多様な働き方を促進
・人間関係再構築のための現場主導型イベント
・AIやIoTを活用した工程負荷可視化による“人と機械の最適分担”
など、発想を転換することでマネジメントの質が根本的に変わります。
まとめ:人材管理“後手”は取り返しのつかないリスクに
製造業における「人材管理の後手」は、品質リスク・納期遅延・企業ブランド失墜といった取り返しのつかない結果につながる可能性があります。
現場力こそが製造業の最大の競争力。
アナログ業界ゆえの慣習に甘んじるのではなく、今一歩、新しい視点でもう一度現場に向き合いましょう。
バイヤー、サプライヤー、経営者、そして現場で働く皆さんが一丸となり、時代を超えて信頼される“現場”を再構築することこそが、次の10年の成長を支える最大のカギだと確信しています。