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板金の曲げ加工でできないこと——最小曲げ半径・フランジ長さ・曲げ線と穴の距離

この記事のポイント(結論先出し)
板金の曲げ加工で「できない」と言われる理由は、材料が割れる・工具で支えられない・曲げた後に当たるの 3 つに分けられる。割れの目安になるのは、材料規格の曲げ性(どの内側半径で 180° 曲げて外側にき裂が出ないか)で、SPHC は 3.2 mm 未満で密着曲げ、A5052P は質別と板厚で密着から厚さの 2.5 倍まで(この記事で挙げた範囲)と規格ごとに決まっている[1][4]。ただし SPCC の硬質やオーステナイト系ステンレスのように、曲げ性を規定していない材料もある[2][3]。フランジの長さと穴の位置は工具と加工条件で決まるので、設計段階で仕入先の条件を聞いて確かめる。基準は発注時に書く[7]。
目次
「この形は曲げられません」の理由は 3 つに分かれる
板金部品の図面を出したあとに、仕入先から「この R では割れます」「このフランジは短すぎて曲げられません」「この穴は曲げると変形します」と返されることがある。言われてから設計を直すと、試作の日程も見積も組み直しになる。言われる前に設計側で確かめておけることは多い。
曲げでできないことの理由は、おおむね次の 3 つである。
- 材料が割れる:内側の曲げ半径が小さすぎて、曲げの外側が伸びに耐えられない
- 工具で支えられない:フランジ(曲げて立ち上げる部分)が短く、曲げの間に型で支えられない。曲げ線のすぐ近くの穴や切り欠きが曲げの変形に巻き込まれる
- 曲げた後に当たる:先に曲げたフランジが、次の曲げで機械や工具に当たる
3 つ目の、曲げの順番と干渉の問題は曲げ後の干渉の記事で扱っているので、この記事では 1 つ目と 2 つ目、つまり材料と工具で決まる限界を中心に整理する。曲げ寸法と角度の公差の書き方はプレス・板金品の公差の指定の記事が詳しい。
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割れの目安は、材料規格の「曲げ性」で読む
板材の材料規格の多くは、機械的性質の一つとして曲げ性を定めている。決まった内側半径で試験片を曲げたとき、外側にき裂を生じてはならない、という形の規定である。曲げ試験の方法そのものは JIS Z 2248(金属材料曲げ試験方法・2022 年改正・ISO 7438:2020 を基に作成)が定めており、試験片を決めた角度まで曲げて、湾曲部の外側のき裂の有無を調べる[5]。この規格は、内側半径を押金具または型の先端半径に等しいものとしている[5]。
主な板材について、規格が定める曲げ性を並べると次のようになる。
| 材料(規格) | 区分 | 曲げ角度と内側半径(外側にき裂を生じないこと) |
|---|---|---|
| SPHC(JIS G 3131) | 厚さ 3.2 mm 未満/3.2 mm 以上 | 密着曲げ/180° 曲げ・厚さの 0.5 倍 |
| SPCC(JIS G 3141) | 焼なましのまま・標準調質・1/8 硬質 | 180°・内側間隔 0(密着) |
| SPCC(JIS G 3141) | 1/4 硬質/1/2 硬質 | 180°・板 1 枚/板 2 枚を挟む |
| SPCC(JIS G 3141) | 硬質 | 曲げ性を規定しない |
| A5052P(JIS H 4000) | 質別 O(厚さ 0.8 超〜2.9 以下) | 厚さの 0.5 倍 |
| A5052P(JIS H 4000) | 質別 H32 など(同) | 厚さの 1 倍 |
| A5052P(JIS H 4000) | 質別 H34 など(同) | 厚さの 1.5 倍 |
| A5052P(JIS H 4000) | 質別 H36 など(厚さ 0.8 超〜1.3 以下) | 厚さの 2.5 倍 |
| SUS430(JIS G 4305) | フェライト系・焼なまし | 180°・厚さの 1.0 倍 |
| SUS304 など(JIS G 4305) | オーステナイト系・固溶化熱処理 | 機械的性質の表に曲げ性の欄が無い |
SPHC は JIS G 3131 の表 4 による(曲げ性は SPHC だけに適用される)[1]。SPCC は JIS G 3141 の表 26 で、内側間隔を「呼び厚さの板の枚数」で示している[2]。A5052P は JIS H 4000 の表 3 で、同じ合金でも質別が硬くなるほど、また板厚が厚くなるほど内側半径が大きくなる。たとえば質別 O は厚さ 0.8 mm 以下で密着、2.9 mm を超え 6.0 mm 以下で厚さの 1 倍、H34 は 0.8 mm 以下で厚さの 1 倍、2.9 mm を超え 6.0 mm 以下で厚さの 2 倍である。H38 以上の硬い質別には曲げ試験の規定が無い[4]。ステンレスの冷延板の JIS G 4305 は、フェライト系とマルテンサイト系の表には曲げ性を載せているが、SUS304 を含むオーステナイト系の表には曲げ性の欄を設けていない[3]。
この表を「曲げてよい半径」と読まないこと
規格の曲げ性は、材料が規格どおりかを確かめるための材料の受入れの条件であって、部品の曲げを保証するものではない。読み方で注意したい点が 3 つある。
1 つ目は、試験が必ず行われるとは限らないことだ。JIS G 3131 と JIS G 3141 は曲げ試験を製造業者の判断で省略してよいとし、その場合も曲げ性は規定を満足しなければならないとしている。特に注文者の指定がある場合は試験を行う[1][2]。JIS H 4000 は、曲げ試験を注文者の要求がある場合だけに適用するとしている[4]。曲げのきつい部品で材料の曲げ性を確かめたいなら、材料の注文で試験を求める必要がある。
2 つ目は、試験の向きである。JIS G 3141 は曲げ試験の試験片を圧延方向と平行に採るとしている[2]。部品の曲げ線は圧延方向に対してどの向きにも置かれるので、規格の試験と同じ向きで曲げるとは限らない。日本塑性加工学会の会報に載った解説は、冷間圧延鋼板の材料特性が圧延方向(ロール目)の違いで大きくばらつき、圧延方向と 45° の方向とで加工硬化指数(n 値)に 6.2 % の差があったと報告している[6]。曲げのきつい部品では、曲げ線と圧延方向の向きを図面で指定するか、仕入先の取り方を確かめる。
3 つ目は、規定が無い材料があることだ。SPCC の硬質、A5052P の H38 以上、オーステナイト系ステンレスでは、規格の表から曲げの目安が読めない[2][3][4]。このような材料で小さな内側半径を求めるなら、試作で割れが出ないかを確かめてから量産に入る。
内側半径は、工具と材料の両方で決まる
プレスブレーキによる V 曲げでは、パンチとダイ(V 字の溝を持つ下型)の間に板を挟み、パンチを押し込んで曲げる。前出の解説は、パンチを進めるとダイの両肩とパンチ先端によって板が曲がり始め、一定のストロークまで進むと、板はダイの肩に支えられてパンチから中央に集中した荷重を受けて曲げられる、と説明している[6]。同じ解説は、曲げ部の曲げ半径の大きさがロール目の違いや板厚のばらつきなどの材料要因と、曲げ速度などの加工要因で変わり、結果として曲げ角度が変わるとしている[6]。
つまり図面の「R0.5」は、パンチの先端の半径をそのまま写したものにはならない。材料・板厚・ダイの溝の幅で、仕上がる内側の半径は変わる。発注側としては、次のどちらかを図面で決めておくとよい。
- R に機能がある場合(相手部品と接する、応力が集中する):R を個別の寸法として書き、許容範囲と測り方を決める
- R に機能が無い場合:「曲げの内側半径は加工者の標準工具による」のように書き、仕入先が持っている工具で曲げてよいことを明示する
後者を書かずに図面の R をすべて同じ値で指示すると、仕入先は図面どおりの R を出すために工具を用意するか、図面と違う R になることを承知で曲げるかを選ぶことになる。どちらも見積と品質の両方に響く。
フランジの長さと、曲げ線の近くの穴
フランジが短すぎると、型で支えられない
V 曲げでは板がダイの肩に支えられて曲がる[6]。フランジが短く、曲げの途中で端がダイの肩から外れてしまうと、板を支えられず、決めた角度と寸法に曲げられない。どこまで短くできるかは、使うダイの溝の幅で決まり、溝の幅は板厚や曲げの R に合わせて仕入先が選ぶ。
このため、「最小フランジ長さは板厚の何倍」と一律に覚えるより、仕入先に、その板厚で使う型と、曲げられる最小のフランジ長さを聞くほうが確実である(ここからは実務の提案)。仕入先が複数ある場合や、試作と量産で仕入先が変わる場合は、一番条件の厳しい仕入先に合わせて設計しておく。どうしても短いフランジが要るときは、長く曲げてから切る、別の工法にする、といった代わりの方法を設計段階で相談する。
曲げ線の近くの穴・切り欠きは、変形に巻き込まれる
曲げでは、曲げ部の外側が伸び、内側が縮む。曲げ試験が外側のき裂を見るのはこのためである[5]。曲げ線のすぐ近くに穴や切り欠きがあると、その変形に巻き込まれて、穴が楕円になる、穴の縁が伸びる、といったことが起きる。どこまで離せば変形しないかは、板厚・材料・内側半径・工具で変わるので、次の順で確かめるとよい(実務の提案)。
1. 機能に効く穴を洗い出す
ねじ穴、位置決めピンの穴、相手部品と合わせる穴など、変形すると組み付けに影響する穴を、曲げ線からの距離とあわせて一覧にする。
2. 仕入先の目安を聞く
仕入先が、その板厚と工具で、曲げ線から穴の縁までどれだけ離せば変形しないと見ているかを聞く。
3. 近すぎる穴は、工程で逃がすか公差を分ける
曲げた後に穴をあける、曲げ線に沿って逃がしの切り欠きを入れる、変形してもよい穴として公差を緩める、のどれにするかを決める。曲げた後に穴をあける場合は工程が増えるので、見積の前提として仕入先に伝える。
4. 試作で確かめる
近い穴を含む部品は、試作で穴の形と位置を測ってから量産に入る。
材料と曲げの組み合わせを、発注前に確かめる
ここまでをまとめると、設計段階で確かめることは次のとおりである。
| 確かめること | 見るもの・聞く相手 | 図面・発注書への書き方 |
|---|---|---|
| 内側半径で割れないか | 材料規格の曲げ性(種類・調質・質別・板厚) | 材料の種類と調質・質別まで書く。きつい曲げは材料の注文で曲げ試験を求める |
| 規格に曲げ性が無い材料か | SPCC 硬質、H38 以上、オーステナイト系ステンレスなど | 試作で割れを確かめる工程を入れる |
| 曲げ線と圧延方向 | 曲げのきつい箇所 | 必要なら向きを図示する |
| R の扱い | R に機能があるか | 機能がある R だけ個別に指定し、他は標準工具によると書く |
| フランジの長さ | 仕入先の型と最小フランジ長さ | 足りない場合の代わりの工法を決めておく |
| 曲げ線の近くの穴 | 機能に効く穴の一覧と仕入先の目安 | 曲げ後に加工する穴は工程として書く |
| 表面処理との順番 | めっき・塗装を曲げの前にするか後にするか | 工程表に書く |
表面処理済みの鋼板(めっき鋼板など)を曲げるか、曲げてから処理するかで、曲げの外側の皮膜の状態が変わる。処理の種類と記号は表面処理の種類と記号の記事、部品に熱処理がある場合の順番は熱処理の種類を目的から選ぶ記事で扱っている。鋼板の種類の記号だけでは調質やめっきの付着量が決まらない点は、SPCC・SPHC・SECC の指定の記事も参照してほしい。
曲げの限界は、設計の段階で仕入先と詰めておくほど後の揉め事が減る。取適法の対象となる取引では、公正取引委員会のテキストが、委託内容が明示されていない、または検査基準が明確でないために委託内容と違うことが明らかでない場合は、それを理由に受領を拒めないとしている[7]。R・角度・穴の位置のどれを合否の判定に使うかは、試作の結果を見てからではなく、発注書の段階で書いておく。
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よくある質問
図面の曲げ部がすべて「R0」になっている
CAD の初期値のまま R0 になっている図面は多い。規格の曲げ性で「密着」とされている材料・板厚でも、それは 180° に曲げて外側にき裂が出ないという材料試験の条件であり[1][2]、部品の R0 を保証するものではない。R に機能が無いなら「内側半径は加工者の標準工具による」と書き、機能がある箇所だけ R を指定する。
SUS304 の部品で、曲げの外側が割れた
JIS G 4305 はオーステナイト系の表に曲げ性の欄を設けていないので[3]、規格の側からは曲げの目安が読めない。割れた箇所の内側半径と板厚、曲げ線と圧延方向の向き、材料のロットを記録し、仕入先と内側半径を広げられるか、曲げの向きを変えられるかを相談する。設計を変えるなら、試作で確かめ直す。
同じ図面なのに、材料の調達先を替えたら曲げ角度がずれた
前出の解説は、同じ 1 枚の冷間圧延鋼板の中でも板厚に 0.03 mm のばらつきがあり、その板厚差で曲げ角度が 1° 程度変わること、材料のばらつき(ロール目・ロット・板厚)がスプリングバックの量にも影響することを示している[6]。材料の調達先が替われば、角度の調整をやり直す必要が出ることがある。材料の調達先の変更は、仕入先から連絡をもらう変更の対象に入れておく。
アルミ板で、同じ A5052P なのに曲げられる R が違うと言われた
JIS H 4000 では、同じ A5052P でも質別(O、H32、H34、H36 など)と板厚で曲げ試験の内側半径が違う[4]。図面や発注書に質別まで書かれていないと、仕入先によって手配する材料が違い、曲げられる R も変わる。材料は「A5052P-H32」のように質別まで書く。
まとめ
板金の曲げでできないことは、材料が割れる・工具で支えられない・曲げた後に当たる、の 3 つに分けて確かめる。割れの目安は材料規格の曲げ性で読めるが、試験の扱い・試験の向き・規定の無い材料に注意が要る[1][2][3][4]。フランジの長さと曲げ線の近くの穴は、使う工具と加工条件で決まるので、設計段階で仕入先に聞いて図面に反映する。
出典・参考資料
- JIS G 3131:2024 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 11 月 20 日改正)
- JIS G 3141:2021 冷間圧延鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)
- JIS G 4305:2021 冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 3 月 22 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 4000:2022 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 4 月 20 日改正)
- JIS Z 2248:2022 金属材料曲げ試験方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 10 月 20 日改正)
- 金英俊・柴田隆浩・今井一成「板材の V 曲げにおける初等解析」塑性加工学会会報 ぷらすとす Vol.1, No.3(日本塑性加工学会/2018 年 3 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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