- お役立ち記事
- S45C・SCM435の材料指定でJISが保証すること——2026年改正版と熱処理・用途・ミルシート
S45C・SCM435の材料指定でJISが保証すること——2026年改正版と熱処理・用途・ミルシート

この記事のポイント(結論先出し)
S45C や SCM435 を「材料」として指定しても、JIS が保証するのは化学成分・寸法・外観で、焼入れ焼戻し後の強さや硬さは規定していない。2026 年 5 月に改正された JIS G 4051・JIS G 4053 も、鋼材は熱間圧延か熱間鍛造のままとし、熱処理をする場合の機械的性質は受渡当事者間で協定する形である。だから部品の強さは、図面の熱処理と硬さの指定で決まる。注文時には形状・種類の記号・寸法に加えて、棒鋼の用途(直接切削用など)を提示する必要があり、用途によってきずの許容深さが変わる。焼入れの効き方そのものを保証したいなら、焼入性を規定した H 鋼(JIS G 4052)を使う。ミルシートは注文時に求めた場合に出て、指定がなければ検査証明書 3.1 になる。
目次
2026 年 5 月に三つの規格が改正された
機械構造用鋼の材料規格は、炭素鋼の JIS G 4051、合金鋼の JIS G 4053、焼入性を保証した H 鋼の JIS G 4052 の三つで、いずれも 2026 年 5 月 20 日に改正された。JIS G 4051:2026 のまえがきには、令和 9 年 5 月 19 日までの間は、JIS マーク表示認証において旧版の JIS G 4051:2023 を適用してもよいと書かれている[1]。JIS G 4053:2026 と JIS G 4052:2026 も同じ扱いである[2][3]。移行期間中は、仕入先によって新旧どちらの版で認証されているかが分かれうるので、成績書に記載される規格の版を見ておく。
JIS G 4051:2026 の種類は 27 で、炭素鋼の S10C〜S75C と、肌焼鋼の S09CK・S15CK・S20CK がある。このうち S60C〜S75C は鋼板と鋼帯だけに適用する[1]。JIS G 4053:2026 の種類は 40 で、マンガン鋼、マンガンクロム鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、アルミニウムクロムモリブデン鋼に分かれ、主として肌焼用に使う種類と、表面窒化用に使う種類(SACM645)に注が付いている[2]。
📄 実務で使うなら — 原価のつかみ方(全 5 章・無料サンプルあり)
JIS は焼入れ焼戻し後の機械的性質を規定していない
発注する側がいちばん誤解しやすいのがここである。JIS G 4051:2026 の製造方法の箇条は、鋼材は熱間圧延のまま又は熱間鍛造のままとし、注文者の指定によって熱処理を実施してもよいとしている。その注には、注文者の指定によって熱処理を行う場合、受渡当事者間で機械的性質の値を協定することがあると書かれている[1]。検査の項目は、化学成分、形状・寸法・質量とその許容差、外観の三つである[1]。
規格末尾の国際規格との対比表には、ISO 規格では熱処理を実施した鋼材の機械的性質と試験方法を規定しているが、JIS では規定していないと明記されている[1]。JIS G 4053:2026 の対比表にも同じ記載がある[2]。
つまり「S45C」と書いて買った丸棒に対して、メーカーが保証しているのは成分と寸法と外観で、部品として必要な強さや硬さは、部品を作る側が熱処理で出すものである。ミルシートに引張強さが載っていないのは不備ではない。部品の強度を保証したければ、図面に熱処理と硬さ(必要なら測る位置と試験方法)を書き、熱処理をした部品で確かめる。熱処理の指定は熱処理を図面で指定する記事、硬さの試験方法は硬さの指定と試験方法の記事、浸炭や高周波焼入れの硬化層深さは有効硬化層深さの記事で扱う。
熱処理済みの棒鋼を材料として買う場合は、機械的性質の値をどうするかを仕入先と協定する。JIS G 4051 は、熱処理を実施した熱間圧延棒鋼の寸法の許容差や形状の許容差も受渡当事者間の協定によるとしている[1]。
化学成分:溶鋼分析と製品分析
化学成分は溶鋼分析値で規定されている。代表的な鋼種の値は次のとおりである[1][2]。
| 種類の記号 | C(%) | Mn(%) | Cr(%) | Mo(%) | 製品分析の許容変動値の表(JIS G 0321) |
|---|---|---|---|---|---|
| S45C(JIS G 4051) | 0.42〜0.48 | 0.60〜0.90 | 0.20 以下(協定で 0.30 以下) | - | 表 2(炭素鋼) |
| S15CK(JIS G 4051) | 0.13〜0.18 | 0.30〜0.60 | 0.20 以下 | - | 表 2(炭素鋼) |
| SCM435(JIS G 4053) | 0.33〜0.38 | 0.60〜0.90 | 0.90〜1.20 | 0.15〜0.30 | 表 3(合金鋼) |
JIS G 4051 は、表に記載していない合金元素は、溶鋼を仕上げる目的以外に意図的に添加してはならないとしている[1]。受渡当事者間の協定で鋼材の製品分析を行う場合、溶鋼分析値の規格に対する許容変動値は JIS G 0321 によるとし、炭素鋼は JIS G 0321 の表 2、合金鋼は表 3 を使う[1][2]。
JIS G 0321:2025 の表 2 では、炭素の上限規定値が 0.25 % を超え 0.55 % 以下の範囲にある成分について、製品断面積 65 000 mm² 以下の鋼材の許容変動値は下限・上限とも 0.03 % である[4]。S45C の炭素は上限 0.48 % なので、直径がおよそ 287 mm 以下の丸棒(断面積 65 000 mm² 以下)なら、製品分析の結果が 0.39〜0.51 % の範囲にあれば規格外とはいえないことになる。受入で自社や第三者が分析して「0.50 % だから規格外」と判断する前に、溶鋼分析と製品分析の違い、許容変動値を確かめる。製品分析の値で受け入れたいなら、注文時に製品分析を行うことを協定しておく。
注文時に提示しなければならない情報
JIS G 4051 と JIS G 4053 は、注文者が注文時に少なくとも次の事項を製造業者、加工業者又は中間業者に提示しなければならないと定めている[1][2]。
1. 鋼材の形状
棒鋼、線材、鋼板、鋼帯、平鋼、形鋼又はその他の鋼材の別と、形鋼の種類。
2. 種類の記号
S45C、SCM435 など。
3. 寸法
径や対辺距離、長さ。熱間圧延棒鋼の長さは受渡当事者間の協定による。
4. 熱間圧延棒鋼の用途
一般鍛造用、直接切削用、冷間引抜用、その他。
4 番目の用途は、外観の規定と結び付いている。JIS G 4051 は、直接切削用丸鋼のきず取りは通常行わないとしたうえで、呼称寸法からのきずの深さを、径 16 mm 未満は呼称寸法の 4 % 以下(最大 0.5 mm)、16 mm 以上 50 mm 未満は 3 % 以下(最大 1.0 mm)、50 mm 以上 100 mm 未満は 2 % 以下(最大 1.5 mm)、100 mm 以上 200 mm 以下は 1.5 % 以下と定めている[1]。一般鍛造用棒鋼は、呼称寸法からのきず取り深さを呼称寸法の 4 % 以下(最大 5 mm)とし、残存きずの深さの最大値は受渡当事者間の協定による[1]。
旋削で仕上げる部品なら、表面のきずが削り代で消えるかどうかが問題になる。径 40 mm の直接切削用丸鋼なら、規格上は 1.0 mm までのきずが残りうるので、片側の削り代をそれより大きく取るか、きずの少ない材料を別に協定する。用途を伝えずに発注すると、仕入先はどの区分の外観を満たせばよいか分からない。
寸法と形状の許容差
熱間圧延棒鋼の径の許容差は、JIS G 4051 では JIS G 3191 の表 4(機械構造用棒鋼の許容差 B)による[1]。JIS G 3191:2022 の表 4 では、丸鋼と角鋼の径の許容差は、19 mm 未満が ±1.5 %(許容差の絶対値が 0.4 mm を下回る場合は ±0.4 mm)、19 mm 以上 32 mm 未満が ±0.8 mm、32 mm 以上 55 mm 未満が ±1.0 mm、55 mm 以上が ±1.2 mm で、偏径差は全許容差範囲の 70 % 以下である[5]。切りそろえる場合の長さの許容差は、7 m 以下でプラス 40 mm、マイナス 0 である[5]。
曲がりは、任意の 1 m に対して 3 mm 以下、かつ全長 L(m)に対して 3×L mm 以下である[1]。長い軸を素材から削り出す場合は、この曲がりと径の許容差の両方を見込んで素材径を選ぶ。
製造方法:鍛錬成形比
JIS G 4051 と JIS G 4053 は、鋼材はキルド鋼から製造し、鍛錬成形比 4S 以上に圧延・鍛造などの熱間加工を実施するとしている。ただし注文者がさらにこの鋼材を用いて圧延・鍛造などの熱間加工を行う場合は、鍛錬成形比は 4S 未満でもよいが、あらかじめ受渡当事者間で協定しなければならない[1][2]。鍛造品の素材として買う場合はこの協定が要る。鍛造品の公差と加工代の決め方は鍛造品の公差の記事で扱っている。
超音波探傷試験は、規格に規定する分析試験以外の試験として行われることがあり、その場合は試験方法などを受渡当事者間で協定すると注記されている[1]。内部欠陥が問題になる大径材では、探傷の要否を注文で決める。
焼入れの効き方まで保証したいなら H 鋼
同じ SCM435 でも、成分範囲の中で焼入れの効き方(焼入性)にばらつきがある。JIS G 4052:2026 は、焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H 鋼)の規格で、SCM435H、SCr420H、SNCM420H など 24 種類を規定している[3]。検査では化学成分のほか、焼入性とオーステナイト結晶粒度が規定に適合しなければならない[3]。引用規格には JIS G 0561(鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法))が入っている[3]。
JIS G 4052 も、熱処理を行う場合の機械的性質は受渡当事者間で協定することがあるとしており、部品の硬さを保証する規格ではない[3]。保証されるのは、一端焼入試験(JIS G 0561)で焼入端からの距離ごとに測った硬さの推移が、規格の上限と下限の帯に入ることである[3]。部品そのものの硬さは保証の外だが、焼入れの効き方のばらつきが小さくなるので、熱処理後の硬さもそろうことが期待できる。歯車やシャフトのように熱処理後の硬さのばらつきを小さくしたい部品では、通常鋼から H 鋼に切り替えることを検討する価値がある。
ミルシートは注文時に求める
JIS G 4051 と JIS G 4053 の報告の箇条は、製造業者は注文者から要求された場合に検査文書を提出しなければならず、注文時に特に指定がない場合は JIS G 0415 の検査証明書 3.1 によるとしている[1][2]。対比表には、ISO 規格は検査文書の書式などのオプション項目の情報も規定しているが、JIS は規格での要求内容を決定するために必要な最低限の情報だけを規定し、注文量、検査文書の書式、熱処理の種類、表面仕上げ、非金属介在物、脱炭層深さ、引抜性などを削除したとも書かれている[1]。脱炭層深さや介在物を管理したいなら、JIS の種類の記号だけでは足りず、注文で個別に指定する必要がある。
検査証明書の区分(2.2、3.1、3.2)の違いと確かめ方はミルシート区分の記事、3.1 を出せない仕入先の見分け方は3.1 を出せない仕入先の記事にまとめた。海外規格の材料で置き換える場合は同等材の記事を参照してほしい。
発注書と図面に書く項目
1. 規格番号と版、種類の記号
JIS G 4051 S45C、JIS G 4053 SCM435、JIS G 4052 SCM435H など。
2. 形状・寸法・長さ
丸鋼か角鋼か、径、定尺か切りそろえか。
3. 熱間圧延棒鋼の用途
直接切削用、一般鍛造用、冷間引抜用など。きずの許容深さが変わる。
4. 納入時の熱処理の状態
圧延のままか、焼なましや調質を施すか。施すなら機械的性質の値を協定する。
5. 製品分析・超音波探傷・脱炭層などの追加要求
規格に入っていないので、要るなら注文で決める。
6. 検査文書
要否と種類。指定がなければ 3.1。
7. 図面側:部品の熱処理と硬さ
部品の強さは材料規格ではなく、ここで決まる。
よくある質問
Q. S45C のミルシートに引張強さが載っていない。仕入先に求めるべきか。
A. JIS G 4051 は熱処理後の機械的性質を規定していないので、圧延のままの材料に引張強さの保証はない。強さが必要なのは熱処理した部品なので、部品の熱処理と硬さを図面で指定し、部品で確かめる。調質済みの材料を買うなら、機械的性質の値を注文時に協定する。
Q. 受入で分析したら炭素が規格の上限をわずかに超えた。規格外か。
A. JIS の化学成分は溶鋼分析値で、製品を分析した値には JIS G 0321 の許容変動値が適用される。断面積と成分の規定値に応じた許容変動値の範囲に入っていれば、規格外とはいえない。製品分析で受け入れることを注文時に協定していたかも確かめる。
Q. 2026 年版に改正されたが、図面の材料表記を直す必要があるか。
A. 種類の記号が変わっていなければ、図面の材料記号を直す必要は通常ない。ただし移行期間中は新旧の版が混在しうるので、成績書の規格の版を確認し、版によって要求が変わる項目を使っている場合は発注書で版を指定する。
🛠 発注の管理なら — 発注書の作成から送付、進捗の確認までをひとつの画面で行える Newji one(製造業の見積・発注クラウド/サービス資料は無料)
まとめ
機械構造用鋼の JIS が保証するのは化学成分・寸法・外観で、焼入れ焼戻し後の機械的性質は規定していない。部品の強さは図面の熱処理と硬さの指定で決め、部品で確かめる。注文時には形状・種類の記号・寸法と、棒鋼の用途を提示し、用途に応じたきずの許容深さを削り代に見込む。製品分析の値は JIS G 0321 の許容変動値で判断し、焼入性の安定が必要なら H 鋼を使う。検査文書は注文時に求め、規格にない脱炭層や探傷などの要求は個別に決める。
出典・参考資料
- JIS G 4051:2026 機械構造用炭素鋼鋼材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2026 年 5 月 20 日改正)
- JIS G 4053:2026 機械構造用合金鋼鋼材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2026 年 5 月 20 日改正)
- JIS G 4052:2026 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2026 年 5 月 20 日改正)
- JIS G 0321:2025 鋼材の製品分析方法及びその許容変動値(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 12 月 22 日改正)
- JIS G 3191:2022 熱間圧延棒鋼及びバーインコイルの形状,寸法,質量及びその許容差(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
鋼の機械部品を、材料から熱処理まで通して相談する
newji の OEM/ODM 生産では、各種鋼材の切削・研削・旋削に加え、熱処理や表面処理も加工方式に含めて、品質要求・数量・納期・コストから国内外の生産先を選定します。選定した生産先での試作で寸法・外観・機能を検証し、量産後は工程内検査と出荷前検査の体制をつくります。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
CONSULT — 品質・検査・規格の相談(無料)
この記事のような品質・検査・規格の課題、
ご相談ください
規格の調べ物、仕入先への品質要求づくり、検査・試験を受けてくれる会社の手配まで。専門の会社を探し、newji がまとめて進めます。
- 規格や図面の要求を、仕入先にどう伝えるかの整理
- 検査・試験を受けてくれる会社探し
- 相談は無料。内容を確認のうえ担当者からご連絡
見積・発注クラウド Newji one
受発注が増えるほど、入力・確認・催促が重くなる。
受発注管理を“仕組み化“して、ミスと工数を削減しませんか。
見積・発注・納期まで一元管理できます。
