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投稿日:2026年6月10日

EN 10204のミルシート区分を正しく理解する

この記事のポイント(結論先出し)

EN 10204 のミルシートには 2.1・2.2・3.1・3.2 の 4 区分があり、区分を誤って指定すると「証明書は存在するが要件を満たしていない」という最悪の事態を招く。日本の調達現場で多発する「とりあえずミルシートをくれ」という発注慣行は、この区分を曖昧にしたまま運用するリスクを常にはらんでいる。本記事では区分ごとの法的・技術的な差異、JIS G 0415 との対応関係、そして調達現場での実践的な判断軸を体系的に解説する。

EN 10204 とは何か ― 規格の成り立ちと日本規格との位置づけ

EN 10204 は「金属製品の検査文書の種類(Metallic Products — Types of Inspection Documents)」を定めた欧州規格であり、2004 年 10 月に改訂・発行された現行版が世界標準として機能している。[1] この規格の源流はドイツ規格 DIN 50049 であり、
DIN 50049 で規定されていた材料試験・証明書の型式定義が 1991 年に欧州規格 EN 10204 として採用された
経緯を持つ。

その後、
EN 10204 は 2004 年に改訂され、BS EN 10204:2004 として「金属製品—検査文書の種類」という題で簡素化された証明書型式が再整理され、現在の 2.1・2.2・3.1・3.2 の 4 区分に集約された。
旧版では 2.1・2.2・2.3・3.1A・3.1B・3.1C・3.2 という 7 区分が存在していたが、
Type 2.3 が削除され、Type 3.1 が旧 3.1B を引き継ぎ、Type 3.2 が旧 3.1A・3.1C・3.2 を統合する形で整理された。

日本では、EN 10204 に対応する国内規格として JIS G 0415「鋼及び鋼製品 — 検査文書」 が存在する。
JIS G 0415 は日本工業規格(現・日本産業規格)として規定された鋼及び鋼製品の出荷のため、注文書の要求内容に従って購入者へ提出される各種の検査文書を定義している。
2014 年に最新改正が行われ、一般社団法人日本鉄鋼連盟(JISF)が工業標準原案を提出して経済産業大臣が改正した規格でもある。[3]

国際規格との整合については、ISO 10474:2013「鋼及び鋼製品 — 検査文書」がほぼ同一の体系を国際標準として規定しており、EN 10204 の国際的根拠として位置づけられている。[2] ただし JIS G 0415 の注記には「ISO 10474 では責任者の署名は必要ないとしている」という差異が明記されており、微妙な運用上の違いが存在する点は見落とせない。

調達現場で押さえるポイント

当社では累計 200 社以上のサプライヤー視察の中で、「EN 10204 を知っている」と言いながら旧版(DIN 50049 の 3.1B 相当)の認識のまま発注書を作成している購買担当者に繰り返し遭遇してきた。2004 年改訂で区分が再編されていることを確認せずに「3.1B で出してください」と依頼する場面は、特に国内の老舗サプライヤーとの取引で今もなお見られる。発注書には必ず「EN 10204:2004 の区分 3.1」と版年と区分番号をセットで記載する習慣が不可欠だ。

4 区分の本質的な違い ― 「誰が」「何を」「どの製品を」証明するか

EN 10204 の 4 区分を理解する鍵は、「検査の対象が出荷品そのものか否か」と「証明する主体が製造部門から独立しているか否か」という 2 軸にある。この 2 軸を正確に把握しないと、区分を選択しているつもりで実質的に何も証明されていない状態になる。

規格の枠組みでは、まず検査手法を「随時検査(Non-specific Inspection)」と「受渡検査(Specific Inspection)」に区別している。
随時検査とは、製造業者が自己の手順に従って、同一製造工程で製造された製品が注文の要求内容に合格するかどうかを検証するために行う検査であり、検査及び試験される製品は実際に出荷される製品と異なってもよい。
一方、受渡検査は出荷品そのもの、またはそのロットの試験単位に対して実施する検査であり、この区別が 2.x 系と 3.x 系の根本的な差異を生んでいる。

Type 2.1 ― 適合宣言(Declaration of Compliance)

4 区分の中で最も証明力が低い型式だ。
TYPE 2.1 は、同じ製造工程及び同じ製造仕様によって製造された製品が客先の要求に合致しているかを評価するために製造者の検査手順に従い製造者が検査を行うもので、実際に供給される製品を検査する必要はなく、検査記録の提出は不要で宣言書(Declaration)のみでよい。

つまり、「当社の製造プロセスは仕様を満たすように管理されている」というプロセス保証であり、出荷された個々のロットに対して試験データが存在するわけではない。一般的な建材向けボルトや汎用鋼材の国内取引など、品質リスクの低い用途では許容されるが、重要保安部品への使用は原則不可だ。

Type 2.2 ― 試験報告書(Test Report)

TYPE 2.2 は、製品が客先の要求に合致しているかを評価するために、供給される製品単位または検査単位にて、製品の仕様と製造者の検査手順に従い製造者が出荷前に検査を行うもので、検査記録が必要である。

2.1 との差異は「試験データの添付」にある。ただし重要なのは、このデータが「その注文ロットで実際に実施された試験の結果」とは限らない点だ。同一の製造工程・仕様で過去に実施した試験の代表値が記載されるケースがある。日本の調達現場でいう「カタログスペックを裏付けるデータが付いているミルシート」に近いイメージだが、厳密なロット別トレーサビリティを要求する用途には対応できない。

Type 3.1 ― 検査証明書 3.1(Inspection Certificate 3.1)

日本の調達・品質保証の文脈で「正規のミルシート」と呼ばれるものは、概ねこの 3.1 区分に相当する。
TYPE 3.1 は、製品が客先の要求及び製品仕様で決められた品質に従っていることを製造業者の製造部門から独立した品質管理部門が検査証明書を発行し証明するものであり、第三者検査員の立ち会いは不要である。

製造部門から「独立した」品質管理部門が発行するという点が 2.x 系との決定的な違いだ。
検査証明書 3.1 は製造部門から独立したオーソライズされた検査代表者によって妥当性が確認されなければならない。
また、注記として「検査証明書 3.1 は旧規格 JIS G 0415:1999 の検査証明書 3.1.B である」と明記されており、旧版の記号との対応関係が整理されている。

自動車・エネルギー・インフラ分野では、この 3.1 が最低要件として発注書に明記されるのが国際標準的な扱いだ。製造メーカーによっては欧州材であれば 3.1 相当の証明書が標準で付属するケースも多い。
欧州材(EU 圏内で生産された材料)は少量品の受注に柔軟に対応できるケースが多く、Type 3.2 を取得していないとしても少なくとも Type 3.1 の要件を満たしているケースが多い。

Type 3.2 ― 検査証明書 3.2(Inspection Certificate 3.2)

4 区分の最高位であり、製造者の品質管理部門に加えて独立した第三者検査機関が立会い・署名する証明書だ。
TYPE 3.2 は、検査時に第三者検査員の立ち会いを受け、供給される製品がスペック・スタンダードの要件に従っていると宣言をするもので、製造者の製造部門から独立した品質管理部門および第三者立会検査員の両者がサインをする。検査証明書は製造者または第三者検査機関のどちらが作成してもよい。

第三者としては Bureau Veritas・SGS・TÜV・DNV・Lloyd’s Register などの船級協会や試験機関が該当する。
EN 10204 Type 3.2 証明書が 2.1・2.2・3.1 と比較してより厳格な検査が実施されたことを証明できる理由のひとつに、検査機関が「材料メーカーの品質保証部門」と一緒に材料製造工程のトレーサビリティーと試験時に発揮された性能を確認し証明していることが挙げられる。また、上記の理由によりいわゆる「在庫品」の材料に EN 10204 Type 3.2 を付与することはできない。

「在庫品(市中品)には 3.2 を付与できない」という制約は調達現場で非常に重要な事実だ。製造ラインに製造前から第三者が介入してこそ 3.2 が成立するため、既製品を後から 3.2 対応にすることは原則不可能である。

調達現場で押さえるポイント

製造業の調達購買 10 年以上の経験から断言できるのは、「3.2 の依頼は早めに、かつ発注前に第三者機関との調整を済ませておく」ことの徹底だ。海外の反応炉・発電設備向け大型鍛造品を扱う案件では、ITP(Inspection & Test Plan)に基づく第三者検査のスケジュールが製造リードタイムを大幅に左右することがある。3.2 を「後付け」で要求する発注ミスが起きると、最悪の場合、製品を廃棄して作り直すしかない状況になる。

4 区分の数値比較表 ― 選択判断の全体像

比較項目 Type 2.1 Type 2.2 Type 3.1 Type 3.2
正式名称(英語) Declaration of Compliance Test Report Inspection Certificate 3.1 Inspection Certificate 3.2
JIS G 0415 対応 2.1(同一) 2.2(同一) 3.1(旧 3.1.B) 3.2
試験データの有無 ❌ なし ⚠️ 随時検査の代表値 ✅ 受渡検査の実測値 ✅ 受渡検査の実測値
対象製品 出荷品と異なってもよい 供給品単位または検査単位 出荷ロットの試験単位 出荷ロットの試験単位
発行・署名者 製造者(製造部門可) 製造者 製造者の品質管理部門(製造から独立) 製造者品質管理部門+第三者検査機関
第三者立会い ❌ 不要 ❌ 不要 ❌ 不要 ✅ 必須
市中品(在庫品)への適用 ○ 可 ○ 可 ○ 可(条件付き) ❌ 原則不可
ロット別トレーサビリティ ❌ なし ⚠️ 限定的 ✅ あり ✅ あり(第三者確認済み)
相対的な取得コスト 低〜中 高(第三者費用込み)
圧力機器指令(PED 97/23/EC)対応 ❌ 不可 ❌ 不可(Cat III 以上) ⚠️ カテゴリ依存 ✅ 高カテゴリ対応可
主な用途・業種 一般建材・汎用ボルト類 低リスク機械部品 自動車・一般エネルギー・配管 原子力・航空宇宙・海洋構造物・高圧容器
旧 DIN 50049 との対応 2.1 2.2 3.1B 3.1A・3.1C・3.2 を統合

JIS G 0415 と EN 10204 の整合性 ― 日本の法規制での位置づけ

日本の鉄鋼規格体系において、JIS G 0415 は個別材料規格から広く参照される基盤規格として機能している。圧力配管用炭素鋼鋼管の JIS G 3454 規格案(2025 年度版)において、JIS G 0415(検査文書)と JIS G 0404(一般受渡し条件)が引用される構造になっていることが日本鉄鋼連盟の公式資料から確認できる。[5] 同様に、高圧配管用炭素鋼鋼管(JIS G 3455)[11] や圧力容器用鋼板(JIS G 3116)[12] においても JIS G 0415 が引用されており、検査文書の体系が圧力機器分野の根幹を支えている。

一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101)においても JIS G 0415 が引用されていることが日本鉄鋼連盟の規格案から確認されており、[7] 最も汎用的な鋼材規格においても検査文書の根拠として JIS G 0415 が参照されている実態がある。

機械構造用鋼においても同様の引用構造が存在する。JIS G 4052 規格案(2025 年度版)では、機械構造用鋼における JIS G 0415 検査文書の引用が確認されており、[6] 機械加工部品の調達においても EN 10204 相当の区分管理が事実上の標準となっている。

経済産業省の産業安全分野では、特定設備材料の承認申請において鉄鋼材料の機械試験要求事項やミルシート記載内容が明示的に規定されており、[9] ミルシートの記載内容は単なる商習慣ではなく産業保安の法的根拠に直結している。これは調達現場で「とりあえず形式的にミルシートを集める」という運用が法的リスクを持つことを意味する。

ミルシート偽造・改ざん問題 ― 区分選定の「実害」を知る

EN 10204 の区分を正確に指定することの重要性は、偽造・改ざん問題の実態を見れば一層明確になる。

JFE スチール株式会社は公式サイトにおいて「最近、鉄鋼製品に対するミルシートの偽造が散発している。当社においても、規格名等を改ざんされた例を確認している」と注意喚起を行っている。
また山陽特殊製鋼株式会社も
ミルシートに記載している製品長さ・寸法・鋼種名等が改ざんされた事例、また製品ラベルの捏造等により当社の鋼材と謳った偽造品などを確認している
と公表している。

より深刻なのは、
神戸製鋼の事案のように取引先との間で取り交わした仕様書の基準を満たさない製品を満たしているものとして出荷し、この際に検査証明書(いわゆる「ミルシート」)に記載される数値を書き換えたり捏造したりした
ケースだ。これは外部からの偽造ではなく内部の改ざんであり、区分上は「正規の 3.1 証明書」が発行されていながら数値そのものが虚偽だった。

この問題への対処として、
JFE スチール株式会社は鉄鋼業界として日本で初めて「ミルシート偽造判定システム」を稼働させ、QR コードをスマートフォンで読み込むことにより正規ミルシートの内容を即座に参照できる仕組みを導入した。
またミルシートの電子化に関しては、
三菱商事の鋼材サプライチェーン電子化プラットフォーム「Mill-Box」は 2023 年時点で 200 社以上が導入しており、ミルシートの受取・保管・開示の効率化が進んでいる。

3.2 区分が要求される用途では、こうした改ざんリスクに対して構造的な防壁が機能する。第三者検査機関が製造段階から関与し、サンプリング段階で刻印を打刻し、試験片ごとに立会いを行うため、数値の事後改ざんが極めて困難になる仕組みになっている。区分の選定は「書類の種類を選ぶ行為」ではなく「不正への構造的抵抗力の水準を選ぶ行為」であることを調達担当者は認識する必要がある。

調達現場で押さえるポイント

中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、「3.1 と書いてあるが実態は 2.2 相当」というケースだ。製造部門から独立した品質管理部門が署名しているように見えても、実際には同一担当者が兼務しているだけ、という運用が横行している工場も存在する。当社ではサプライヤー審査時に組織図と品質管理部門の実態を現地確認する体制を設けており、書類上の区分と実態が乖離していないかを直接確認することを徹底している。

用途別・業種別の区分選定ガイド ― 現場判断の実践軸

EN 10204 の区分選定において「どの区分を要求するか」は、製品の用途・法規制・顧客要件・リスク評価の 4 軸で判断する。以下に金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の 5 ジャンル横断で見た際の実践的な選定軸を整理する。

一般機械部品(電気電子・組立完成品向け汎用鋼材)
化学成分・機械的性質のトレーサビリティが必要な部品であれば 3.1 が最低ライン。コネクタハウジングや非構造ブラケット程度であれば 2.2 で対応できる場合もあるが、顧客の仕様書で 3.1 を明記していることが多く、発注段階で確認が必須だ。

圧力配管・容器(化学・エネルギー分野)
JIS G 3454(圧力配管用炭素鋼鋼管)が JIS G 0415(EN 10204 対応)を引用している通り、[5] 圧力機器向けの素材は 3.1 以上が事実上の要件となる。EU 向け圧力機器でカテゴリ III 以上であれば PED 指令上 3.2 が要求されるケースが多い。

自動車部品・構造用鋼
日本国内向け自動車部品では JIS 規格に基づく材質証明書が中心だが、Tier 1 を通じた輸出案件では EN 10204 区分の明記が求められる。エンジン・シャーシ系の構造材では 3.1 が標準要件であり、航空機用部品では 3.2 まで求められる案件が多い。

インフラ・建設(一般構造用鋼材)
JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)が JIS G 0415 を引用している事実[7] から明らかなように、国内の公共工事向けでも検査文書の区分管理が前提となっている。官庁工事では 3.1 相当の証明書提出が一般的に求められ、重要構造物では 3.2 が指定されることもある。

原子力・航空宇宙・海洋構造物
3.2 が必須となる代表的な領域だ。ITP を事前に策定し、製造工程に第三者検査機関を組み込む必要があるため、発注から証明書取得まで通常の 3.1 ケースより数週間〜数ヶ月のリードタイムが追加される。この追加リードタイムを計画に織り込まない調達ミスは現場で繰り返されている。

旧版区分との対応と「2024 年以降の潮流」

EN 10204:2004 が 20 年以上改訂されていない現在においても、規格への需要は拡大している。特に水素エネルギー分野での利用拡大と洋上風力発電設備向け需要が顕著であり、
水素(EN ISO 19881)や洋上風力(DNV-OS-C101)プロジェクト向けに 3.2 証明書の需要が高まっている。

デジタル化の面では、電子署名付き PDF や QR コードによる真正性確認が標準化しつつある。JIS G 0415 においても「文書の保管及び配送は電子情報又は印刷物のいずれでもよい」と明記されており、電子ミルシートは規格上適法だ。ただし、電子化すれば改ざんが防げるわけではなく、電子署名やブロックチェーン技術との組み合わせによる真正性保証の仕組みが別途必要になる。

また、
現行版 EN 10204:2004 は 1991 年版を廃止して文書型式を合理化し、圧力機器指令(EU 指令 97/23/EC)等の EU 指令への整合を図ったものである。
EU では 2019 年の EU 規則 2019/1020 や 2023 年の PED ガイドライン H-05 が 3.2 の独立性要件をさらに強化する方向に動いており、今後の改訂ではこれらが盛り込まれる可能性がある。日本の調達担当者も欧州規制の動向を継続的にフォローしておく必要がある。

発注書・仕様書への正確な記載方法

EN 10204 区分の混乱の多くは、発注書や仕様書の記載が曖昧であることに起因する。正確な記載のためには以下の要素をセットで明記することが鉄則だ。

①規格番号と版年の明示
「EN 10204」だけでは旧版(1991 年版)と現行版(2004 年版)のどちらを指すか曖昧になる。「EN 10204:2004 Type 3.1」と版年込みで記載する。ISO 10474:2013 を明示する選択肢もあり、国際商取引では ISO 番号を指定するほうが通用範囲が広い。[2]

②区分番号の明示
「ミルシート添付のこと」という表現は区分の指定になっていない。「EN 10204:2004 Type 3.1 に基づく検査証明書を添付すること」と明記する。

③試験項目の指定
化学成分のみか、引張・硬さ等の機械的性質も含めるか、さらに非破壊試験(UT・MT 等)が必要か、を仕様書に明示する。EN 10204 は証明書の型式を規定するが、試験項目は個別の材料規格または購入者の指示によって決まる。

④第三者機関の指定(3.2 の場合)
3.2 を要求する場合、どの第三者機関(または顧客代表者)が立会いを行うかを事前に合意しておく。機関ごとに対応可能な地域・工場・スケジュールが異なるため、製造開始前の調整が不可欠だ。

⑤言語の指定
JIS G 0415 では「検査証明書は英文での作成が求められる」場合があると注記されている。国内取引であっても海外サプライヤーから調達する場合は英文発行を明示し、必要に応じて日本語翻訳版の添付を求める。

調達 DX 時代の EN 10204 運用 ― デジタル証明書と今後の課題

紙ベースのミルシート管理は「保管コスト・検索性・改ざんリスク・国際共有の困難さ」という四重の課題を抱えている。中小企業庁が 2023 年 3 月に公表した電子受発注システム普及促進に関する報告書においても、ミルシートのデジタル化課題がサプライチェーン効率化の論点のひとつとして言及されており、[8] 政府レベルでのデジタル化推進の方向性が示されている。

デジタルミルシートの実装において調達現場が押さえるべき判断軸は、「電子化した証明書が EN 10204 の要件(区分・署名・責任者情報)を電子的に満たしているか」という点だ。PDF を単純にメール送付するだけでは改ざん可能であり、電子署名(eシール)や QR コードによる原本照合システムとの連携が必須になる。JIS G 0415 では「検査文書が適正なデータ処理システムによって作成される場合、署名(又はマーク)は記載しなくてもよい」という規定があり、適正なシステムであれば電子署名なしで運用できる余地もある一方で、「適正」の解釈が曖昧なままでは法的リスクが残る。

国際競争力の観点から見れば、EN 10204 区分の正確な管理と電子化はコスト削減施策というより、「正確な品質管理情報を即時に提出できる能力」という競争優位の源泉になりつつある。グローバルサプライチェーンで Tier 1・Tier 2 サプライヤーとして生き残るためには、ミルシート管理の DX は避けて通れない投資だ。

まとめ ― 区分を「知っている」から「使いこなせる」へ

EN 10204 の 4 区分(2.1・2.2・3.1・3.2)の本質的な差異は、「随時検査か受渡検査か」「製造部門から独立しているか」「第三者が関与しているか」という 3 点の組み合わせによって決まる。この構造を理解していれば、発注書の記載内容・サプライヤーへの要求仕様・受入検査の判断基準がすべて論理的に導き出せる。

日本の製造業調達現場において、EN 10204 の区分管理が依然として属人的な慣習に依存しているケースは少なくない。「ミルシートがあれば安心」という思い込みを脱し、「どの区分の、どの試験項目を対象とした証明書が、誰によって発行されているか」を問い続けることが、品質トレーサビリティとサプライヤーリスク管理の核心だ。

JIS G 0415(EN 10204 対応)が圧力配管・圧力容器・機械構造用鋼・一般構造用鋼材の各規格に横断的に引用されている事実[4][5][6][7] は、検査文書の区分管理が特定業種の話ではなく、製造業全体の品質保証インフラであることを示している。調達部門がこの体系を正確に理解し、発注段階から正しい区分を指定することが、品質事故の予防とグローバルサプライチェーンへの適応において最も費用対効果の高い取り組みである。


出典・参考資料

  1. ISO 10474:2013 – Steel and steel products — Inspection documents(ISO 公式)
  2. BS EN 10204:2004 金属製品-検査文書の書類(日本規格協会 JSA Group Webdesk)
  3. JIS・国際規格の整合性情報データベース(日本産業標準調査会)
  4. JIS G3459 規格案(JIS G 0415 引用確認)(日本鉄鋼連盟)
  5. JIS G3454 規格案(圧力配管用炭素鋼鋼管・2025年度)(日本鉄鋼連盟)
  6. JIS G4052 規格案(機械構造用鋼・2025年度)(日本鉄鋼連盟)
  7. JIS G3101 規格案(一般構造用圧延鋼材)(日本鉄鋼連盟)
  8. 電子受発注システム普及促進に向けた実証調査事業報告書(中小企業庁・2023年3月)
  9. 特定設備材料承認申請 別添(JIS G 3193 機械試験・ミルシート記載事項)(経済産業省)
  10. JIS G3455 規格案(高圧配管用炭素鋼鋼管)(日本鉄鋼連盟)
  11. JIS G3116 規格案(圧力容器用鋼板)(日本鉄鋼連盟)

※ 出典リンクは 2026 年 6 月 10 日時点でリンク到達性を確認しています。

EN 10204 区分の管理から調達プロセス全体の最適化まで

  • 「サプライヤーが正しい EN 10204 区分で証明書を出せているか確認する時間がない」
  • 「海外サプライヤーへの 3.1・3.2 要求の発注書作成を任せられる人材がいない」
  • 「ミルシートの保管・管理が属人化していてトレーサビリティが取れない」
  • 「グローバル調達で EN 10204 対応サプライヤーの選定・評価に工数をかけられない」

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