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銅合金は製品記号と質別で指定する——C3604・ばね用りん青銅・ベリリウム銅の時効処理

この記事のポイント(結論先出し)
銅合金の材料指定は、合金番号だけでは決まらない。JIS の伸銅品は、合金番号・形状・製法の記号に質別を付けた「製品記号」で一つの品物を指す。「C3604」とだけ書けば棒の製法や径の許容差の級が抜け、「りん青銅 C5191」とだけ書けば硬さが O から SH まで幅のある材料のどれでもよいことになる。ばね用りん青銅は一般用と別の JIS で、0.2 % 耐力まで規定されている。ベリリウム銅は成形後に時効硬化させる材料で、規格の値は時効処理後の試験片の値なので、誰がどの条件で時効処理するかまで決めなければ受入の基準が立たない。成績書は注文時に求めた場合に出るので、発注書に書く。
目次
銅合金は「製品記号」で指定する
JIS の伸銅品の規格は、種類の記号に質別を示す記号を付けて製品記号とする作りになっている。棒の規格 JIS H 3250:2021 では、種類の記号(例 C 3604 B)に製法記号(押出 E、引抜 D、鍛造 F)を付け、さらにその後に質別を付けて製品記号とする[1]。用途や許容差の級を示す記号もあり、導電用の棒には C、圧力容器用には V、径の許容差が特殊級の引抜棒には S、フレアナット用には N、耐脱亜鉛腐食用の鉛レス棒には RD を付ける[1]。規格の表示例では、径の許容差が特殊級で質別が F の引抜棒を「JIS H 3250 C 3604 BDS-F」と書く[1]。
板と条も同じ考え方で、りん青銅の JIS H 3110:2025 は板を P、条(コイル状の帯)を R で表し、「JIS H 3110 C 5050 P-1/4H」のように書く[2]。伸銅品用語の JIS H 0500 は、質別を「伸銅品に特定の物理的又は機械的性質を付与するために,必要な処理を施した材料の状態」と定義し、その処理には熱処理によるものと冷間加工によるものがあるとしている[4]。
発注書に合金番号だけを書くと、製法・形状・許容差の級・質別を仕入先が選ぶことになる。どれも価格と性能に効くので、見積の比較もずれる。図面の材料欄が合金番号だけなら、発注仕様書で製品記号まで落とし込むのが発注する側の仕事になる。材料の同等品を海外規格で受けるときの判断は同等材の指定と承認の記事で扱っている。
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快削黄銅 C3604:製法と許容差の級、鉛
C3604 の質別と試験
JIS H 3250 の機械的性質の表で、快削黄銅 C 3604 B の質別は F(製造のまま)で、押出・引抜・鍛造の各製法に設定されている。このほかフレアナット用の引抜棒に SR がある[1]。F の C 3604 は、押出棒が径 6.0 mm 以上、引抜棒が径 1.0 mm 以上 110 mm 以下で、引張強さ 335 N/mm² 以上またはビッカース硬さ 80 HV 以上と規定され、注によって引張試験か硬さ試験のどちらか一方だけを適用する[1]。成績書にどちらの値が載るかは仕入先次第になるので、硬さで受入を判断したい場合は注文時に指定する。
径の許容差も製品記号で変わる。特殊級の引抜棒には S を付けるので、精密な旋削部品の素材で外径を挽かずに使うなら、S の有無を指定する価値がある。引抜棒の曲がりの許容値も規格に表があるが、径や形状が表の区分外のものは製造業者の判断によるとされ、特に要求がある場合は受渡当事者間の協定によってもよいとしている[1]。
鉛を含む材料であることを前提に指定する
C 3604 B の化学成分は、銅 57.0〜61.0 %、鉛 1.80〜3.70 % である[1]。快削性はこの鉛で出している。銅と銅合金の学会誌に 2025 年に掲載された論文は、RoHS 指令と ELV 指令では銅合金中の鉛の含有量が 0.1 mass% 以下に規制される予定だが、2025 年 3 月時点では適用除外として 4 % 未満までの鉛の含有が許可されている状況だと説明している[5]。適用除外は期限付きで見直されるので、製品の仕向け先と時期によって扱いが変わる。現時点の適用除外の内容は原典で確かめ、RoHS への適合の確かめ方の記事の手順で仕入先に確認する。
JIS H 3250 自体にも鉛を減らした材料が入っている。規格は、鉛含有率 0.25 % 以下・カドミウム含有率 0.007 5 % 以下で被削性をもつ銅と亜鉛の合金を「鉛レス・カドミウムレス快削黄銅」と定義し、ビスマス系(C 6801〜C 6804)、けい素系(C 6931・C 6932)などの種類を規定している[1]。鉛の上限は種類によって 0.01 % 以下から 0.25 % 以下まで分かれる[1]。「鉛レスにしたい」と言うときは、どの種類の、鉛何 % 以下を求めるのかを数字で指定しないと、仕入先によって答えが変わる。
鉛レス材への切替えは、材料の名前を書き換えるだけでは済まない。前出の論文は、鉛レス快削りん青銅棒の開発で、硫化物を分散させて快削性を出し、切削トルクや切りくずの分断性を既存の鉛入り材と比べている[5]。切削性・強度・耐食性が変わるので、切替えは図面の材料変更として扱い、試作で加工性と特性を確かめてから量産に移す。
りん青銅:一般用とばね用は別の規格
りん青銅には一般用の JIS H 3110 と、ばね用の JIS H 3130 がある。JIS H 3110 自身が、C 5191 と C 5212 はばね材に適するとしながら、特に高性能のばね性を要求するものは、ばね用りん青銅を用いるのがよいと書いている[2]。ばね用の JIS H 3130:2025 は、ばね用りん青銅 C 5210 と C 5240 について、低温焼なましを施してあるので高性能ばね材に適するとし、質別 ESH と XSH はほとんど曲げ加工を施さない板ばねに用いるとしている[3]。
二つの規格では、保証される機械的性質の項目が違う。同じ質別 H で比べると次のようになる。
| 項目(質別 H・厚さ 0.10〜1.6 mm) | 一般用 C 5191(JIS H 3110) | ばね用 C 5210(JIS H 3130) |
|---|---|---|
| すず(Sn) | 5.5〜7.0 % | 7.0〜9.0 % |
| 引張強さ | 590〜685 N/mm² | 590〜705 N/mm² |
| 0.2 % 耐力 | 規定なし | 450 N/mm² 以上 |
| ビッカース硬さ | 180〜230 HV | 185〜235 HV |
| 設定されている質別 | O、1/4H、1/2H、H、EH、SH | 1/2H、H、EH、SH、ESH |
値は JIS H 3110 の表 3 と JIS H 3130 の表 2・表 6 による[2][3]。引張強さの範囲はほぼ重なっているが、ばね用は 0.2 % 耐力の下限が規定されている。ばねとして効くのは降伏しにくさなので、ばねの用途で一般用を買い、引張強さだけで受け入れると、ばねとしての性能を保証する数字が成績書に一つも載らないことになる。ばね部品の仕様の書き方はばねを発注するときの記事で扱っている。
硬さと曲げ性は「注文者の要求がある場合」
JIS H 3110 は、曲げ性と硬さは注文者の要求がある場合に適用し、硬さを適用する場合は引張強さと伸びは適用しないとしている[2]。JIS H 3130 も同じく、硬さと曲げ性は注文者の要求がある場合に適用するとしている[3]。曲げ性の規定は、曲げた部分の外側に割れが生じないことで、試験片の端部には適用せず、割れの基準と判定の対象にしない端部からの距離は製造業者の判断による。ただし特に要求がある場合は受渡当事者間の協定による[2]。
つまり、プレスで曲げる端子やばねの材料を買うとき、曲げ性を注文で求めなければ、規格上は曲げ性が受入の条件に入らない。曲げ半径が厳しい部品では、曲げ性の要求と、曲げる方向(圧延方向か直角方向か)を発注書に書く。JIS H 3130 の曲げ性の表は、試験片の採取方向を圧延方向と直角方向に分けて内側半径を定めており、方向によって許容される内側半径が違う質別がある[3]。
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ベリリウム銅:時効硬化を誰がするか
ベリリウム銅は、伸銅品の中では時効硬化熱処理で強度を高められる熱処理形合金で、JIS H 0500 は伸銅品の JIS ではベリリウム銅(C 1700、C 1720)が該当すると説明している[4]。JIS H 3130 は、ばね用ベリリウム銅について、時効硬化処理前は展延性に富み、処理後は耐疲労特性と導電性が増加するとし、ミルハードン材を除き,時効硬化処理は成形加工後に行うとしている[3]。ミルハードン材は、適当な冷間加工と時効硬化処理を施して規定された機械的性質を付与した材料である[4]。
規格の値は「時効処理後の試験片」の値
JIS H 3130 は、C 1700・C 1720・C 7270 について、時効処理前の値(表 3)と、試験片に規格の条件で時効硬化処理をした後の値(表 5)を分けて規定している[3]。時効硬化処理の条件は、C 1700 と C 1720 が 315 ℃±5 ℃で、保持時間は質別 O が 180±10 分、1/4H が 150±10 分、1/2H と H が 120±10 分、C 7270 が 375 ℃±5 ℃で 120±5 分である[3]。
たとえば C 1720 の 1/2H は、時効処理前の引張強さが 590〜695 N/mm²、規格の条件で時効処理した後は 1 240 N/mm² 以上である[3]。材料メーカーが成績書に載せる時効処理後の値は、この条件で処理した試験片の値で、部品メーカーが成形した後に時効処理した部品そのものの値ではない。
時効処理の条件は用途で変えることがある。ばね論文集の落合の報告は、C 1720 で処理条件を変えて調べ、315 ℃は強度的な諸特性を満足させるには最も無難な温度だが、ばね限界値と疲労寿命はやや低温側が、導電率と応力緩和、収縮率はやや高温側がよいとまとめている[6]。同じ報告は、時効処理による収縮率は質別と温度で変わり、低質別ほど収縮が大きいとも書いている[6]。寸法の厳しい部品では、時効処理での寸法変化を見込んだ型や加工が要る。
発注する側が決めることは次のとおりである(当方の提案)。
1. 時効処理を誰がするか
材料メーカー(ミルハードン材を買う)、部品メーカー、自社のどこで時効処理するかを決め、見積の範囲に入れる。
2. 時効処理の条件
規格の標準条件で処理するのか、用途に合わせた条件にするのかを決め、温度と時間を仕様書に書く。
3. 部品で何を確かめるか
時効処理後の部品で硬さを測るのか、ばね荷重を測るのかを決める。材料の成績書だけでは時効処理が正しく行われたことは分からない。
ミルハードン材を使うと時効処理の工程を省けるが、JIS H 3130 では、たとえば C 1720 のミルハードン材の質別(OM、1/4HM、1/2HM、HM、XHM、XHMS など)は厚さ 0.60 mm 以下の範囲で規定されており、成形性は質別で変わる[3]。曲げの厳しい部品に使えるかは、試作で確かめる。
成績書は注文時に求める
三つの規格とも、報告の箇条は同じ書き方で、製造業者は受注時に注文者から要求がある場合、受渡当事者間で同意した試験や検査の成績を記載した報告書(成績書)を注文者へ提出するとしている[1][2][3]。外観についても、使用上有害な欠陥があってはならないとしたうえで、特に要求がある場合の欠陥の基準は受渡当事者間の協定によるとしている[1]。
求めなければ成績書は出てこない。発注書には、成績書の要否と、載せてほしい項目(化学成分、引張試験か硬さ試験のどちらか、曲げ性、時効処理後の値など)を書いておく。鋼材のように検査文書の種類を EN 10204 の区分で指定する考え方は、ミルシート区分の記事が参考になる。
発注書に書く項目
1. 規格番号と製品記号
例:JIS H 3250 C 3604 BDS-F、JIS H 3130 C 5210 R-H。合金番号だけで終わらせない。
2. 寸法と許容差の級
棒は径・対辺と長さ、板は厚さ×幅×長さ、条は厚さ×幅。特殊級が必要なら記号で。
3. 受入に使う機械的性質
引張試験か硬さ試験か。曲げ性が要るなら曲げ方向とともに。
4. 鉛など含有物質の条件
鉛レス材を求めるなら種類と上限値。含有化学物質の調査票が要るなら様式も。
5. 時効処理の分担と条件(ベリリウム銅など)
誰が、何℃で何分、処理後に何を測るか。
6. 成績書の要否と記載項目
注文時に求めないと出ない。
端子やコネクタの接点材として銅合金を指定する場面はコネクタを調達する記事で、鋼の材料指定は機械構造用鋼の材料指定の記事と鋼板の材料指定の記事で扱う。
よくある質問
Q. 図面に「C3604」とだけ書いてある。仕入先に任せてよいか。
A. C 3604 B の質別は F が基本なので、質別の取り違えは起きにくい。抜けやすいのは製法と径の許容差の級、受入に使う試験(引張か硬さか)である。外径をそのまま使う部品なら特殊級(S)の要否を確かめ、成績書が要るなら注文時に書く。
Q. 一般用のりん青銅 C5191 の H で、ばねを作っている。問題か。
A. 直ちに問題とは言えないが、一般用の規格には 0.2 % 耐力の規定がない。JIS H 3110 自身が、特に高性能のばね性を要求するものはばね用りん青銅を用いるのがよいとしている。ばねの荷重や耐久性で問題が出ていないかを確かめ、必要なら JIS H 3130 の材料への切替えか、耐力の値を受渡当事者間で協定することを検討する。
Q. 鉛レス黄銅に切り替えたいと仕入先から提案された。
A. 材料変更として扱い、変更後の製品記号、鉛の上限、機械的性質の差、加工性への影響を書面で出してもらう。試作で寸法・外観・機能を確かめてから承認する。承認の手順は同等材の記事と同じ考え方で進める。
まとめ
銅合金は、合金番号に製法・形状・用途の記号と質別を付けた製品記号で指定する。快削黄銅 C3604 は鉛を含む材料で、鉛レス材は JIS H 3250 に種類ごとの上限が決められている。りん青銅はばね用と一般用で規格が分かれ、ばね用は 0.2 % 耐力まで規定している。ベリリウム銅は成形後に時効硬化させる材料で、規格の値は標準条件で処理した試験片の値なので、時効処理の分担と条件、処理後に部品で何を測るかを決める。硬さ・曲げ性・成績書は、注文時に求めなければ受入の条件に入らない。
出典・参考資料
- JIS H 3250:2021 銅及び銅合金の棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 1 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 3110:2025 りん青銅及び洋白の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 3 月 21 日改正)
- JIS H 3130:2025 ばね用のベリリウム銅,チタン銅,りん青銅,ニッケル-すず銅及び洋白の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 3 月 21 日改正)
- JIS H 0500:1998 伸銅品用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 8 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
- 鉛レス快削りん青銅棒の開発(山田浩士ほか/銅と銅合金 64 巻 1 号/2025 年)
- ベリリウム銅のばね特性におよぼす時効硬化処理条件の影響(落合敏正/ばね論文集 40 号/1995 年)
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