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調達管理における購買部門のDX推進成功の秘訣

この記事のポイント(結論先出し)
購買部門のDXは「ビジョンを描く」ところから始めると、投資対効果の議論で止まりやすい。順序を変えて、やらないと違反になる範囲から先に片づけると、効果の見積りを待たずに着手できる。制度が既に要求しているのは、①電子で受け取った取引データを電子のまま保存すること(電子帳簿保存法 第 7 条)、②発注時の明示と取引の経緯の記録(取適法 第 4 条・第 7 条)、③受領日から起算した支払期日(同 第 3 条)の三つで、①は令和 6 年 1 月から出力書面だけの保存に代えることができなくなり、②は違反すると罰金の定めがある。分析や自動化はこの三つの記録が揃った後に乗る話になる。効果が出るかどうかにかかわらずやる必要がある範囲を先に切り出すのが、着手順としていちばん詰まりにくい。
目次
はじめに
近年、製造業界では調達管理における購買部門のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が急速に進んでいます。
グローバル化やサプライチェーンの複雑化、そして消費者ニーズの多様化に対応するためには、効率的な調達が欠かせません。
その中で、購買部門がDXを活用することで、調達業務をより効率的かつ効果的に行うことが期待されています。
本記事では、調達管理における購買部門のDX推進成功の秘訣を探ります。
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やらないと違反になる範囲と、やると良くなる範囲を分ける
購買部門のDXが止まる場面では、たいてい同じ質問が出る。「それをやると、いくら得をするのか」である。工数削減や在庫圧縮の見込みを詰めているうちに年度が変わり、翌年また同じ資料を作り直す。この行き詰まりの理由を業務と組織の側から分解した記事は別にあるので、調達課のDXが進まない本当の理由を参照してほしい。ここで扱うのは、その先の「では何から始めるか」である。
着手順を決めるときの手がかりは、購買の仕事のなかに効果の見積りを必要としない範囲があることだ。制度が既に要求している部分がそれにあたる。ここは得か損かを計算しても結論が変わらない。やるしかない。だから最初に切り出すと、投資対効果の議論を待たずに動き出せる。
| 着手順 | 中身 | 根拠 | 性質 |
|---|---|---|---|
| ① | 電子で受け取った取引データを電子のまま保存する | 電子帳簿保存法 第 7 条 | 義務 |
| ② | 発注時に明示し、取引の経緯を記録して 2 年間残す | 取適法 第 4 条・第 7 条 | 義務(罰金の定めあり) |
| ③ | 支払期日を受領日から起算して定め、その日までに払う | 取適法 第 3 条・第 5 条 | 義務(勧告の対象) |
| ④ | 集まった記録を分析し、繰り返しの作業を自動化する | — | 任意 |
調達現場で押さえるポイント
①から③は、大がかりなシステムを入れなくても着手できる。逆に④だけを先に始めると、分析に載せる記録が人手の転記で作られることになり、入力の負担が減らないまま画面だけが増える。順序の問題であって、道具の問題ではない。
購買部門におけるDX推進の必要性
競争力の向上
現代の市場環境において、製造業の競争力を維持するためには、コスト削減とともに迅速な意思決定が求められます。
購買部門がDXを推進することで、データの効率的な活用が可能となり、意思決定のスピードと精度が向上します。
これによって、コストや供給リスクを最適化することができます。
サプライチェーンの最適化
購買部門のDX推進により、サプライチェーン全体を可視化し、部品や原材料の流れを最適化することができます。
これにより、適正在庫の維持や納期遵守、サプライヤーとの円滑なコミュニケーションが実現します。
特に不確実性が高い時代においては、サプライチェーンの強靭化は非常に重要です。
新たな価値の創出
DXによって得られるデータを活用することで、新たなビジネスモデルやサービスを創出することが可能となります。
たとえば、購買データを元にした予測分析による販売戦略の策定や、新しい調達手法の提案が可能です。
このように、購買部門は単なるコストセンターからバリューセンターへと変貌を遂げることができます。
着手順① 電子で受け取ったものを、電子のまま残す
電子帳簿保存法の第 7 条は、所得税(源泉徴収に係るものを除く)と法人税の保存義務者が、注文書や領収書などに通常記載される事項を電磁的方式で授受した場合に、その取引情報を電磁的記録により保存しなければならないと定めている[1]。対象になるのは EDI だけではない。インターネットを通じた取引、電子メールでの授受(添付ファイルを含む)、取引先のサイト経由でのやりとり、そして複合機の FAX 機能をペーパーレスで使った場合も、いずれもここに入る[1]。
順序の先頭にこれを置く理由は二つある。一つは、既に義務になっていて猶予の枠組みも狭いこと。もう一つは、着手が思われているより軽いことである。
紙をデータに変える義務はない
国税庁の案内は、対象について「あくまでデータでやりとりしたものが対象であり、紙でやりとりしたものをデータ化しなければならない訳ではありません」と書いている[2]。つまり、この義務は書庫の紙を全部スキャンする話ではない。いま電子で届いているものを、電子のまま置いておくという話である。しかも保存するファイル形式は問われず、PDF に変換したものやスクリーンショットでも差し支えないとされている[2]。受け取った場合だけでなく、自社が送った場合も保存の対象になる点だけ注意が要る[2]。
範囲は紙で保存する場合と変わらない。連絡の行き違いによる誤りや書き損じのあるもの、検討段階で作った正式な見積書の前の粗いもの、取引を希望する会社から一方的に送られてくる見積書などは、保存の必要はないものと考えられる、と一問一答は書いている[1]。電子メールについても、取引情報が含まれていないメールまで保存する必要はなく、本文に取引情報が書かれていれば本文を、添付ファイルで授受したのであれば添付ファイルのみを保存すればよい[1]。
出力書面だけの保存は、令和 6 年 1 月から選べない
この論点は誤解が残りやすい。令和 4 年度の税制改正で整備された宥恕措置は、要件に従った保存ができない事情がある場合に出力書面等による保存を事実上可能としていたが、適用期限(令和 5 年 12 月 31 日)の到来をもって廃止された[1]。令和 6 年 1 月 1 日以後に行う電子取引の取引情報については、出力した書面等による保存をもって電磁的記録の保存に代えることはできない[1]。
代わりに置かれたのが猶予措置である。ただしこれは「紙でよい」という措置ではない。適用を受けるには、税務署長が要件に従って保存できなかったことについて相当の理由があると認めることに加えて、電子データ自体を保存したうえで、そのデータと出力書面の両方について提示・提出の求めに応じられる必要がある[1]。電子データの保存に代えて出力書面のみを保存する対応は認められていない[1]。なお、この猶予措置の適用に税務署への事前申請等の手続は必要ない[1]。
猶予措置は「準備が終わるまで」の措置である
着手順を考えるうえで効いてくるのは、猶予措置の性質である。一問一答によれば、保存できる状態が既にできているのに、資金繰りや人手不足といった事情もなく保存していないのであれば、この措置は使えない[1]。さらに、整備が間に合わないといった事情が解消された後に行う電子取引については、相当の理由があるとは認められない[1]。
言い換えると、環境が整うほど猶予の余地は狭くなる。DXを進めた会社ほど、この措置に寄りかかれなくなるという構造になっている。要件を満たさない保存が続いた場合、青色申告の承認の取消対象となり得るとされている。ただし取消しは違反があれば直ちに必ず行われるものではなく、事務運営指針に基づき、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討したうえで判断される[1]。
もう一点、社内で扱いを分ける必要がある論点がある。消費税に係る保存義務者が行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、その保存の有無が税額計算に影響を及ぼすことなどを勘案して、引き続き出力書面による保存が可能とされている[1]。所得税・法人税と消費税で扱いが違うので、「消費税は書面でよいと聞いた」という社内の理解が、そのまま全体の判断に転用されていないかを確かめておきたい。
最初にやるのは、発生元を数えること
具体的な措置の選び方(改ざん防止の方法、検索要件を表計算ソフトの索引簿やファイル名で満たすやり方、基準期間の売上高が 5,000 万円以下の場合の扱い)は、電子帳簿保存法の対応|システムなしで満たす方法と、5,000万円以下の緩和にまとめてある。着手順の観点でここに書いておきたいのは、その前段である。
最初の作業は道具選びではなく、電子取引データがどこから入ってくるかを数えることになる。購買部門の場合、担当者個人のメール、取引先のウェブサイトからのダウンロード、共有フォルダ、チャットの添付と、入口が分かれていることが多い。入口を数えないまま保存先だけ決めると、決めた場所に集まらないデータが残る。
着手順② 発注のときに明示し、経緯を記録する
次に来るのが取適法の手続の部分である。ここを②に置くのは、購買部門の担当者が日々の発注のなかで直接触れる範囲であり、しかも違反に罰金の定めがあるからだ。
罰金の定めがあるのは、明示と記録、そして報告・検査の側である
取適法第 14 条は、第 4 条第 1 項に違反して明示すべき事項を明示しなかったとき、第 4 条第 2 項に違反して書面を交付しなかったとき、第 7 条に違反して書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したときに、その違反行為をした委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者を 50 万円以下の罰金に処すると定めている[3]。第 15 条は、第 12 条第 1 項から第 3 項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者を 50 万円以下の罰金に処すると定めている[3]。第 16 条の両罰規定は「前二条」、すなわちこの第 14 条と第 15 条の両方にかかる。両罰規定により、法人にも各本条の刑が科される[3]。
一方、買いたたきや減額といった第 5 条の禁止行為には罰金の規定がなく、第 10 条の勧告の対象になる[3]。代金の中身を争う場面より、書類を出したか記録したかという場面のほうが、罰則の観点では手前にある。
実際の指摘のされ方も、この形と合っている。公正取引委員会が公表した令和 7 年度の運用状況によると、勧告又は指導が行われた違反行為等を類型別にみた合計 14,115 件のうち、発注内容等の明示義務等を定めた手続規定に係る違反(第 4 条、第 7 条又は第 12 条違反)が 6,887 件、委託事業者の禁止行為を定めた実体規定に係る違反(第 5 条違反)が 7,228 件となっている[7]。
| 令和 7 年度・違反行為の類型 | 件数 | 分母と割合 |
|---|---|---|
| 手続規定違反(第 4 条・第 7 条・第 12 条) | 6,887 | 類型別件数合計 14,115 件の 48.8% |
| うち 発注内容等の明示義務違反 | 6,242 | 手続規定違反 6,887 件の 90.6% |
| うち 書類等の作成・保存義務違反 | 644 | 同 9.4% |
| うち 虚偽報告 | 1 | 同 0.0% |
| 実体規定違反(第 5 条) | 7,228 | 類型別件数合計 14,115 件の 51.2% |
| うち 支払遅延 | 3,787 | 実体規定違反 7,228 件の 52.4% |
| うち 製造委託等代金の減額 | 1,323 | 同 18.3% |
| うち 買いたたき | 1,006 | 同 13.9% |
読むときの前提を二つ外さないでほしい。まず、この表は事業者へのアンケートの回答ではなく、公正取引委員会が勧告又は指導を行った違反行為等を類型で数えたものである[7]。次に、割合の分母が段ごとに違う。48.8% と 51.2% は類型別件数の合計 14,115 件を分母とし、90.6% と 9.4% は手続規定違反 6,887 件を、52.4% 以下は実体規定違反 7,228 件を分母としている[7]。なお、1 件の事件が複数の類型で数えられることがあるため、この合計は措置件数(勧告 39 件と指導 8,261 件で 8,300 件)とは一致しない[7]。
そのうえで見ると、明示義務違反 6,242 件、書類等の作成・保存義務違反 644 件、支払遅延 3,787 件を足した 10,673 件が、類型別件数の合計 14,115 件の 4 分の 3 を超える。本記事が②と③に置いた範囲は、実際に最も多く指摘されている範囲でもある(①の電子取引データの保存は国税に関する義務なので、この統計には現れない)。同年度に行われた集中調査の公表でも、主な違反行為として書面の不交付・記載不備が先頭に挙げられている[7]。違反が見つかったあとに何が起きるかは取適法に違反するとどうなるかで扱っている。
明示は、書面でも電子でもよい
第 4 条第 1 項が求めているのは、製造委託等をした場合に直ちに取引条件を明示することであり、その手段として書面と電磁的方法の両方が認められている[3]。条文が挙げている事項の全文と、明示を紙でなく電子で行うときの条件は発注はメールで出してよい——電子化の条件が変わったで扱っている。明示すべき事項は明示規則の第 1 条第 1 項に 8 つの号として並んでいる(公正取引委員会のテキストと発注書とは——取適法の 4 条明示 12 項目では、この 8 号を実務で数えやすいよう12 項目に分けて示している。中身は同じものである)。電子で明示する手段は 2 つに限られており、相手を特定して送る電気通信(電子メールなど)か、データを記録した媒体を渡すか、のいずれかである[4]。いずれも、明示すべき事項が相手方の使用する電子計算機の映像面に文字や記号で明確に表示されるものでなければならない[4]。
ここが購買部門のDXで効く箇所になる。紙に印刷して押印しなければ発注にならない、という手順は法令が求めているものではない。電子で出す場合の条件と、書面の交付を求められたときの扱いは発注はメールで出してよい——電子化の条件が変わったにまとめてある。発注を何で出して、どう残すかを、電子帳簿保存法と取適法の両方から通しで確かめたい場合は、購買・調達 研修テキスト ⑥ 発注の出し方と電子化が使える。発注書の明示項目、注文請書と印紙税、メールで出す条件、FAX と電話で受けたものの保存、受発注システムの選び方の順に並んでいる。
記録は「決まっていなかったこと」まで残す
第 7 条が作成と保存を求めているのは、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類・電磁的記録である[3]。記録規則の第 1 条第 1 項には 13 の号が並び、第 3 条で、記載又は記録をすべき事項の全部の記載又は記録をした日から 2 年間の保存が求められる[5]。
DXの設計で落ちやすいのは、第 1 条第 1 項第 13 号である。第 4 条第 1 項ただし書によって明示しないこととした事項がある場合には、その内容が定められなかった理由、内容を明示した日、その内容を記録しなければならない[5]。明示の側でも、未定事項があるときは定められない理由と内容を定めることとなる予定期日を明示し、未定事項以外の事項の明示との関連性を確認できるようにしなければならない[4]。
つまり「まだ決まっていない」という状態そのものが、記録の対象になっている。表計算ソフトで発注一覧を持っている会社では、確定した値だけが残り、未定だった経緯は担当者のメールの中にしかない、という形になりやすい。ここは道具を替えるかどうかの前に、どこに残すかを決める話である。
電磁的記録で持つ場合の要件は 3 つで、訂正又は削除を行ったときにその事実と内容を確認できること、記録した事項を画面に表示し書面に出力できること、そして検索機能を持つこと(中小受託事業者を識別できる符号を条件に設定でき、製造委託等をした日は範囲を指定して条件を設定できること)が求められる[5]。記録の項目ごとの中身は取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すかに、2 年間の置き場所の設計は発注の記録を 2 年どう残すかにある。
着手順③ 支払期日を、受領日から数え直す
三つめは支払期日である。第 3 条第 1 項は、支払期日について、委託事業者が給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して 60 日の期間内において、かつできる限り短い期間内において定めなければならないと規定している[3]。
定めなかったときは、受領日が支払期日になる
見落とされやすいのが第 3 条第 2 項である。支払期日が定められなかったときは受領した日が、第 1 項に違反して定められたときは受領した日から起算して 60 日を経過した日の前日が、それぞれ支払期日と定められたものとみなされる[3]。決めていない状態がいちばん不利になるという作りで、支払期日までに支払わなかった場合には、受領日から起算して 60 日を経過した日から支払をする日までの日数に応じ、未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じた金額を遅延利息として支払う義務が生じる[3]。
DXの観点で問題になるのは、この起算日が受領日だという点である。製造委託・修理委託における給付の受領とは、給付の目的物を検査の有無にかかわらず受け取り、自己の占有下に置くことであり、検査員が出張して検査を開始すれば受領となる[6]。ところが社内の仕組みでは、締め日と検収日は残るのに受領日が残らないことがある。締め日から逆算する運用に慣れていると、受領日の欄が最初から作られていない。月単位の締切制度をどう扱うかは納品書・受領書・検収書の違いで扱っているので、そちらを参照してほしい。
「請求書が届かないから払えない」は理由にならない
取適法テキストは、社内の手続上、中小受託事業者からの請求書が必要である場合には、請求額を集計し通知するための十分な期間を確保しておくことが望ましく、請求書の提出が遅れる場合には速やかに提出するよう督促して、支払遅延とならないように代金を支払う必要がある、としている[6]。相手からの申し出や当事者間の合意があっても、代金は受領日から起算して 60 日以内に定めた支払期日までに支払わなければならないとも書かれている[6]。
これは、購買側のシステム設計に対する具体的な指示として読める。支払の起点を請求書の到着に置くと、相手の事務の速さに自社の適法性が左右される。受領の記録を自社側で持ち、そこから期日を計算する形にしておけば、督促の必要も見えるようになる。受領を拒む・返品する・やり直させるといった場面の線引きは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかにまとめてある。
手形を渡すことが、支払遅延に含まれるようになった
第 5 条第 1 項第 2 号は、代金を支払期日の経過後なお支払わないことを禁じており、この「なお支払わないこと」には手形を交付すること、および金銭及び手形以外の支払手段であって支払期日までに代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することが含まれる[3]。ここで注意したいのは、手段の名前で決まるわけではないことである。テキストは「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」の例として一括決済方式や電子記録債権を挙げているが、当たるのは(ア)満期日・決済日が代金の支払期日より後に到来し、支払期日に金銭を受け取るために相手方が割引を受ける等の行為を要するもの、(イ)相手方が決済手数料や振込手数料などを負担する必要があるもので、こうした支払手段を用いる場合に支払遅延となる[6]。逆に、テキストは「満期日・決済日等が代金の支払期日以前に到来するものを使用することは認められる」と明記している[6]。つまり支払期日までに相手方が満額を受け取れる形になっていれば、電子記録債権を使っていること自体が問題になるわけではない。ただしテキストは続けて、満期日・決済日までに支払不能等が生じて相手方が代金相当額の金銭と引き換えられない場合には、支払期日までに別途代金を支払う必要がある、としている[6]。見るべきは手段の名前ではなく、満期日と手数料の負担、そして実際に満額が渡るかどうかである。
支払方法は第 4 条第 1 項が明示すべき事項として挙げているものであり[3]、記録の側でも、金銭を使った場合はその支払額・支払日・支払方法を、金銭以外の支払手段を使った場合はその種類や名称などを記録しなければならない[5]。支払条件のマスタを持っている会社では、ここが古い運用のまま残っていないかを見ておきたい。
着手順④ 分析と自動化は、記録が揃ってから
①から③を通すと、副産物として揃うものがある。電子取引データの発生元、発注ごとの明示の内容、受領日、検査の結果、支払の実績である。これは分析の材料そのものである。単価の推移を見る、取引先ごとのリードタイムのばらつきを見る、支払条件の分布を見る——どれも、これらが揃っていなければ人手で集め直すことになる。
逆の順序で進めた場合に起きることも、はっきりしている。分析基盤を先に用意しても、そこに入る数字を担当者が表計算から転記していれば、入力の手間は減らない。しかも転記の過程では未定事項や差し戻しの経緯が落ちるので、分析できるのは「確定した結果」だけになる。原因の側を見に行けない。
社内の申請・承認・照合をどこまで機械に載せられるかという論点は、購買管理システムで何が変わるか——申請・承認・照合の 3 点で扱っている。ここでは順序の話に絞ると、④に手をつける前に①から③の記録が揃っているかを確かめる、という一点になる。
成功のためのステップ
ここから先は、①から③の範囲を満たしたうえで、どこまで良くするかを決める話になる。以下の四つは順番に並べたものではなく、④に進むときに同時に要る条件と読むほうが実態に近い。
ビジョンと目標の明確化
DX推進において重要なのは、まずビジョンと目標を明確に定義することです。
購買部門がDXから何を得たいのか、どのような結果を求めるのかを具体的に示すことで、全社を挙げての取り組みにもつながります。
また、目標は短期・中期・長期で設定することが望ましいです。
データ基盤の整備
DXの根幹をなすのはデータです。
そのため、データを一元管理し、リアルタイムで活用可能な環境を整備することが必要です。
既存システムとの連携やクラウドソリューションの活用を検討し、最新のデータ基盤を構築しましょう。
スキルと人材の育成
DXを進める上で欠かせないのが、人材の育成とスキルアップです。
デジタルツールの操作スキルだけでなく、データ分析や問題解決能力を持った人材を育成していくことが必要です。
外部からの専門家の招聘や社内での研修プログラムを通じて、スキルを持つ人材を確保しましょう。
組織体制の再構築
DXを推進する中で、従来の組織体制で対応できない場合もあります。
そのため、組織のフラット化やクロスファンクショナルチームの導入など、新しい組織体制を考えることが必要です。
柔軟な組織が、変化の激しいビジネス環境でも迅速に対応します。
事例から学ぶ成功の要素
先進企業の取り組み事例
多くの先進企業がすでに購買部門のDXに取り組んでいます。
例えば、ある大手製造業では、AIを活用した購買予測システムを導入し、精度の高い費用予測と迅速な再発注を実現しています。
また、全ての購買データをリアルタイムで分析可能にし、供給リスクの早期発見を可能にしました。
中小企業の成功例
中小企業でも、DXを推進することで大きな成果を上げている例があります。
ある中規模製造業では、クラウドベースの購買管理システムを導入し、ペーパーレス化と承認プロセスの迅速化を達成。
これにより、調達作業の効率が大幅に向上し、コスト削減にもつながりました。
DX推進のリスクと注意点
データセキュリティの確保
DXを進める中で、データセキュリティは常に重要な課題です。
サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクを最小限にするためのセキュリティ対策を施し、安心してデータを活用できる環境を整備しましょう。
変化への抵抗
新しい技術やプロセスを導入する際には、従業員の間で抵抗が生じることがあります。
変化を受け入れる企業文化を醸成するとともに、適切な研修とコミュニケーションを通じて、従業員の理解と協力を得ることが重要です。
投資対効果の注意
DXには一定の投資が伴いますが、その結果得られる効果を見極めることも重要です。
長期的な視野でプロジェクトを評価し、段階的に成果を検証することで、効果的な資源配分を行いましょう。
進み具合をどう測るか
①から③には、他の改善活動と違う性質がある。達成すべき水準が最初から決まっていることだ。工数を何割減らすかは自社で決める目標だが、明示の項目が足りているかどうかは規則が決めている。だから進み具合の測り方も、「どれだけ良くなったか」ではなく「聞かれたときに答えられるか」を数える形になる。
測る対象は、良くなった量ではなく欠けている件数にする。目標値の設定が要らず、ゼロに近づいたかどうかで判断できる。
| 測るもの | 数え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 電子で受け取ったのに、決めた保存先に無いデータ | 担当者別・取引先別の件数(月次) | 電子帳簿保存法 第 7 条[1] |
| 明示の項目が欠けている発注 | 抜き取った発注のうち、8 つの号を満たさない件数 | 明示規則 第 1 条第 1 項[4] |
| 予定期日を過ぎた未定事項 | 明示した予定期日を過ぎても内容を明示していない件数 | 明示規則 第 1 条第 1 項第 8 号[4] |
| 受領日が記録に無い取引 | 締め日・検収日しか残っていない取引の割合 | 記録規則 第 1 条第 1 項第 2 号[5] |
| 経緯を復元できない取引 | 抜き取った取引で、明示・受領・検査・支払をつなげられない件数 | 記録規則 第 1 条第 1 項[5] |
いちばん下の「経緯を復元できるか」は、月に数件を抜き取るだけで測れる。取適法第 12 条は、公正取引委員会や中小企業庁長官が必要と認めるときに報告をさせ、又は職員に立ち入って帳簿書類その他の物件を検査させることができると定めている[3]。求められる形は、この抜き取りとほぼ同じである。先に自分で引いてみれば、どこで切れているかが分かる。
在庫や納期の側の指標(棚卸差異の金額、欠品による特急対応の回数など)については、在庫管理システムの選び方で別に整理してある。ここで挙げた五つは、それとは別に、④へ進んでよいかどうかの判断材料として見るものになる。
よくある質問
電子帳簿保存法の対応には、専用のシステムが必要ですか
国税庁の案内は、専用のシステムを導入していなくても対応できる方法を示している。改ざん防止については事務処理規程を定めて守る方法があり、検索については表計算ソフト等で索引簿を作る方法と、ファイル名に規則性をもって日付・金額・取引先を入力し特定のフォルダに集約する方法が挙げられている[2]。具体的な手順は電子帳簿保存法の対応を参照してほしい。
紙で届いた注文書をスキャンしなければなりませんか
電子取引データの保存という文脈では、その義務はない。国税庁の案内は「あくまでデータでやりとりしたものが対象であり、紙でやりとりしたものをデータ化しなければならない訳ではありません」と明記している[2]。紙で受け取った書類を電子化して保存する制度(スキャナ保存)は別に用意されているもので、電子取引データの保存義務とは別の話になる[1]。
猶予措置を使えば、当面は何もしなくてよいのですか
そうではない。猶予措置の適用を受ける場合であっても、電子データ自体を保存したうえで、そのデータと出力書面の両方について提示又は提出の求めに応じられる必要がある[1]。出力書面のみを保存する対応は認められていない[1]。また、保存義務そのものが免除されているわけではなく、整備が間に合わないといった事情が解消された後に行う電子取引には適用されない[1]。
発注書に押印がないと、明示したことになりませんか
第 4 条第 1 項は、書面又は電磁的方法により明示しなければならないと定めているだけで、押印を求める規定は置かれていない[3]。明示規則も、電磁的方法として電子メール等の送信と記録媒体の交付を挙げ、明示すべき事項が相手方の電子計算機の映像面に明確に表示されることを求めている[4]。押印は社内の決裁の慣行であって、法令が要求している要件ではない。詳しくは発注はメールで出してよいにまとめてある。
受発注をシステム化すれば、支払期日の管理も自動になりますか
自動になるかどうかは、受領日が記録されているかで決まる。支払期日の起算日は給付を受領した日であり、検査をするかどうかを問わない[3]。締め日と検収日しか持っていない仕組みでは、システムを入れても計算の元になる日付が無い。導入の検討では、受領日をどの操作で記録するかを先に決めておきたい。
まとめ
調達管理における購買部門のDX推進は、製造業の競争力を強化し、新たな価値を創出するための重要な戦略です。
成功の秘訣として、ビジョンの明確化やデータ基盤の整備、スキルと組織体制の再構築が挙げられます。
また、先進企業や中小企業の事例から学び、注意すべきリスクにも対応することで、DX推進プロジェクトを成功に導くことができるでしょう。
購買部門のDX化により、製造業はよりダイナミックで持続可能な成長を遂げることができるのです。
そのうえで、着手の順序については本記事の前半で見たとおりである。効果の見積りを必要としない範囲——電子で受け取った取引データを電子のまま保存すること[1]、発注時に明示して取引の経緯を 2 年間残すこと[4][5]、支払期日を受領日から起算して定めること[3]——を先に片づけると、投資対効果の議論を待たずに動き出せる。しかもこのうち取適法に関わる二つ(明示と記録、支払期日)は、令和 7 年度に実際に最も多く指摘されている範囲と重なっている[7]。
進み具合は、良くなった量ではなく欠けている件数で測る。保存先に無いデータ、項目が欠けた発注、期日を過ぎた未定事項、受領日の無い取引、経緯をつなげられない取引——この五つが減っていれば、④の分析や自動化に進む土台ができている。ビジョンから始める順序を捨てる必要はない。その前に、選ぶ余地のない範囲を先に済ませておくということである。
出典・参考資料
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
明示した内容と、受領・検査・支払の記録を、同じ場所に残す
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