投稿日:2025年5月24日

3次元計測3次元データ作成と設計計測技術への活用事例

はじめに:現場で進む3次元計測技術の革新

かつての製造業の現場では、二次元の図面をもとに部品や設備を作り、製品の検査や設計変更もアナログな手法が中心でした。

しかし、近年急速に普及しているのが3次元計測技術と3次元データ活用です。

これらの技術は、生産性や品質を飛躍的に高めるだけでなく、調達や購買といったサプライチェーン管理の業務にも大きな変革をもたらしています。

本記事では、20年以上の製造現場での経験や管理職として現場を牽引してきた知見をもとに、3次元計測と3次元データが設計やものづくりの現場でどのように応用され、どのような効果を発揮しているのかを実践的かつ現場目線で紹介します。

また、昭和時代から抜け出せないと揶揄されるアナログな製造業界で、3次元技術がどのように根付いてきているのか、今後の展望とともに解説します。

3次元計測技術とは何か:従来技術との違い

さまざまな業種で使われている3次元計測技術ですが、実際には「非接触型スキャナ」「三次元測定機」「レーザー測定」など複数の手法が存在します。

従来ではノギスやマイクロメータ、投影機、接触式三次元測定機など、主に「一点測定」が主流でした。

一方、3次元計測は物体表面の膨大な点群データを一度に取得し、数百万〜数千万点レベルでの形状把握が可能です。

設計図と実物を俯瞰して比較できることで、寸法ズレや形状公差のばらつきなどを短時間で捉えることができます。

代表的な3次元計測技術

・レーザースキャナ(光学式):物体表面にレーザーを照射、反射光をカメラで捉えて立体形状を計測
・構造化光スキャナ:ストライプ状のパターン光を投影し、曲がり具合から三次元座標を取得
・接触式三次元測定機:プローブを使い複数点の座標データを取得
このように、測定の精度や用途に応じ多様な選択肢が登場しています。

3次元データの作成:現場のワークフローと実運用

3次元計測で得られるのは「点群」と呼ばれる大量の座標情報です。

これをCAD(Computer-Aided Design)データや、リバースエンジニアリングによる3Dモデルとして再構築することで、下記のような実運用が可能になります。

リバースエンジニアリングでの3Dモデル作成

図面が手元にない旧設備や、手作業で作られた部品の複製には3次元測定が威力を発揮します。

計測した形状データから、精度の高い3DモデルをCAD化し、再設計や金型製作、部品加工につなげる運用が増えています。

現物部品の精密測定とデータ比較

「図面には指定していないが、現場で長年使われている“合格品”の形状」も3次元データ化しておくことで、不良品・摩耗品との比較が短時間で行えます。

この手法は特に品質管理工程や、生産ライン調整において有効です。

設計開発の初期段階における3Dスキャン活用

新製品の試作レベルで手作りモデルをスキャンし、モデリングやシミュレーションに役立てるケースも増加傾向。

製品開発の初期での検証スピードが圧倒的に高まります。

設計・計測技術への活用事例(現場での成功事例)

導入の効果やメリットを最大限に引き出すには、いかに現場のフローにノウハウを根付かせるかが重要です。

以下、当社および同業他社の導入事例や実体験をもとに具体的に紹介します。

1. 部品の検査リードタイム短縮と品質向上

自動車部品メーカーの事例では、従来3人で60分かかっていた樹脂部品の全数測定が、3次元スキャナ導入でわずか10分に。

しかも、ヒューマンエラー防止ができ、不良発生時の原因追跡も計測データをもとに迅速に対応できます。

2. 設計変更・金型修正のスピードアップ

樹脂成形の現場では、設計変更後の試作部品が狙い通りの形状か、3次元計測ですぐに確認できます。

金型修正時にも、CADデータとの重ね合わせ機能を使うことで再修正の手戻りを最小限に抑えられます。

3. 既存設備・老朽部品のリバース対応

昭和時代から稼働しているプレス機やライン設備は、図面が消失しているケースも多々あります。

3D計測で現物を丸ごとデジタル化し、必要な改造や部品供給の継続ができ、この動きは大手から中小まで広がっています。

4. サプライヤー管理と調達業務への応用

複雑形状部品の「公差内かどうか」を明確な形で可視化できるため、ベテランの勘と経験による“現場判断”依存から脱却できます。

3Dデータのやりとりによって、発注側(バイヤー)と供給側(サプライヤー)が共通言語で合意形成できるため、トラブル削減や納期短縮にも直結します。

昭和から抜け出せないアナログ現場との共存と課題

デジタル化の波はとめどなく押し寄せていますが、いまだに紙図面・人手測定中心の現場も根強く残っています。

日本のものづくりの現場では、“昔ながらの仕事観”や“職人技術”も大切にされてきました。

アナログ現場の課題

・ベテラン依存による属人化、技術のブラックボックス化
・作業効率・人件費の限界(高齢化で慢性的な人不足)
・客観的なデータ記録不足による再発防止の難しさ

3次元計測・データ運用への現場の声

「機械に任せて精度が本当に保証されるのか疑問」「過剰な精度要求がかえって現場の混乱を招く」など、現場のリアルな戸惑いも耳にします。

導入当初は一部反発もありました。

しかし、実際に“手を動かしてみる”ことで「自分の仕事が楽になった」「数値根拠のある評価が取引先との信頼に」など、ポジティブな変化も増加。

現場主導のアジャイル導入、ベテランと若手の“協業”によるノウハウ継承も見えてきています。

今後の展望:製造業バイヤー・サプライヤーへの示唆

今後、設備や部品の複雑化、グローバル調達・SDGs対応の進展により、ますます三次元計測・三次元データの役割は大きくなっていきます。

製造業でバイヤーを目指す方へ

三次元データを活用した「客観的な品質管理」は、調達・購買の交渉力や市場競争力の源泉となります。

自社に最適な測定・データ運用フローを提案できるスキルを習得すれば、企業にとって不可欠な存在になれます。

サプライヤーの立ち位置で考える

単なる「安い・速い」だけでなく、三次元データを駆使したトレーサビリティ・品質保証体制の構築はバイヤーとの信頼度を飛躍的に高めます。

また、データベース化によって自社内の技術資産を可視化・継承しやすくなり、熟練者の技術伝承・働きやすい環境づくりにもつながります。

まとめ:ものづくりの新時代は「デジタルと技能」の融合から

昭和から続く“現場の勘と経験”と、急速に高度化する3次元計測・データ技術。

これらが相互補完的に融合しはじめた今こそ、現場はものづくりの新たな地平に向けて歩み始めています。

製造業に携わる全ての方が、三次元技術の真価を体感し、次世代産業の成長エンジンへとつなげること。

それが、長年現場で培った知恵と経験を持つ私たちベテラン世代の使命でもあると強く感じています。

自社・社外の壁を越えたデータ連携と、現場の声に耳を傾ける運用現場主義が、製造業の未来を切り拓くカギとなるでしょう。

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