投稿日:2025年11月26日

センシング技術の選定に失敗しないための5つのチェックポイント

はじめに:センシング技術選定の重要性

「工場の自動化」「品質管理の高度化」「生産性向上」――
いまや製造業現場で、センシング技術の活用は避けて通れないテーマです。

しかし、装置選定を間違えれば、高額な投資が無駄になるだけでなく、現場で混乱が起きたり、期待していた効果が得られないことも多々あります。
特に、昭和的な「なんとなく」「横並び主義」で決めてしまうと、現場に不要な負荷をかけてしまう典型的な失敗パターンに陥ります。

本記事では、20年以上にわたり工場設計や生産技術、調達業務に携わった立場から、現場目線で「センシング技術の選定で失敗しないための5つのチェックポイント」を解説します。
これから工場のデジタル化やIoT化に取り組む方、調達バイヤー、または納入側サプライヤーの皆様にも役立つ視点をお届けします。

センシング技術とは何か?その役割と業界動向

そもそもセンシング技術とは、工場現場の「各種情報(位置、温度、圧力、画像など)」をリアルタイムで取得し、設備の制御、記録、品質管理に活用するための基幹技術です。

従来の現場では、作業者の目視検査や手作業計測が当たり前でしたが、産業用IoTプラットフォームやAI技術の進化により「誰がやっても同じ精度」「人でなくても良い作業」にセンシングがどんどん活用されています。

一方で、まだまだアナログ的な体質が根強く残る製造業界では、「とりあえず人を増やす」「昔ながらの装置を継続使用」といった現状維持バイアスも見られます。
このギャップこそ、今後の選定業務をするうえでラテラルシンキング(多角的思考)を持ち込む意義があります。

チェックポイント1:現場の課題や目的を明確にする

これが最も重要で、かつ最も軽視されがちなポイントです。

経営陣やIT部門主導で「何でもIoT」「AI化するぞ」と旗を振ったものの、実際の現場課題や目的が明確でないままセンサ装置を導入してしまうケースが頻発しています。

例えば「出荷前の製品画像検査」一つとっても、
– 欠品を見逃さないのが目的なのか
– 外観の微細な傷まで拾う必要があるのか
– 検査スピードが最重要なのか

によって選ぶべきセンシング技術、センサ仕様がまったく異なります。

現場の困りごとをしっかり“言語化”し、「何をどこまで検知すればいいのか」「品質・生産性のどちらを重視するのか」を明確にしておくことが選定の第一歩です。

ポイント

– なぜ必要なのか?導入目的の明文化
– 誰のどんな困りごとを解決するのかヒアリングを徹底
– 目的と要件がぶれたら必ず立ち返るフローをつくる

チェックポイント2:既存設備とのインターフェース(連携性)

昭和時代から使われてきた生産ラインやPLC(シーケンサ)は驚くほど多様です。

新しいセンサを導入する際によくある失敗が、「装置は先端なのに、既存設備と繋がらない」「データ取得が一方通行で現場が活用できない」といったインターフェースの問題です。

例えば、最新の産業用ネットワーク規格(Ethernet/IP、PROFIBUSなど)と古いRS-232Cやリレー接点オンリーの設備とでは要求される技術者スキルやコストが大きく異なります。

ポイント

– 既存ラインの制御方式・通信方式を一覧化
– センサが出力できるデータフォーマットの確認
– 導入後のメンテナンスやリプレイス性を考慮

チェックポイント3:現場環境への適合性(耐久性・精度・設置条件)

現場は想像以上に過酷です。
油、粉塵、湿気、高温、振動――こうした劣悪環境では「カタログ通りの性能」は発揮されません。

現場を知らないままスペック重視で導入した結果、「すぐに壊れる」「誤検知が多発」といったトラブルも多発しています。
また、「設置スペースがない」「配線・据付に思った以上のコストがかかった」といった問題も後を絶ちません。

ポイント

– 現場の具体的な設置場所・方法・作業フローを現物確認
– 粉塵/防滴などの保護等級(IP規格)や耐振動性能までチェック
– 誤検出率、検出レンジなど現場テストで実測評価の推奨

チェックポイント4:サポート体制とトラブル対応力

導入後のトラブル対応、ライン停止時の復旧サポートこそ、メーカーやサプライヤーを選定するうえで「現場目線」では最重要です。

販売先やメーカーの中には「売ったら終わり」で、スピーディに現場対応できないケースもあります。
特に24時間・365日稼働ラインでは、夜間や休日のサポート体制が肝です。

さらに、技術のブラックボックス化により「担当が辞めたら誰もわからない」「特殊言語や海外パートナー頼み」となれば、ライン停止リスクも増大します。

ポイント

– メーカー・代理店の緊急連絡体制・技術サポート体制を評価
– 導入教育やマニュアル整備・トレーニングプログラム有無
– 保守部品や消耗品の入手性・納期も必ず確認

チェックポイント5:デジタル活用と業務プロセス変革への視点

多くの現場では「取り合えずデータは取れている。
でも、結局使いこなせていない」という現象が起きています。

センサをIoTやAI解析に繋げるには、単にデータ取得用の装置を入れるだけでなく、購買・生産管理・品質保証など業務フローにも大鉈(おおなた)を振るう覚悟が必要です。

アナログ業務が根強い工場では、集まったデータの「見える化」→「改善提案」→「現場への反映」まで人手や手書き台帳頼み、エクセルの手入力…という昭和スタイルが残っています。

ここを脱却するには、単発的なセンシング導入にとどまらず、業務全体を再設計する「上流からの視点・推進力」が重要です。

ポイント

– 導入後「データの使い道」まで含めて設計
– 業務フローそのもののデジタルシフトを推進
– バイヤー・サプライヤー双方の利害を一致させる体制づくり

購買・調達目線でのセンシング技術選定のコツ

調達部門やバイヤーにとって、最新鋭装置を導入することが“目的”ではありません。
総量予算と長期運用コスト、現場人材のレベルや労務状況、今後のサプライチェーン変化まで総合的に考える必要があります。

サプライヤーの方も「なぜこのセンサが必要なのか」といった現場の真の課題を理解し、本質的な提案・導入後の“共創”を強く意識しましょう。

また、現場担当者との信頼関係や、各部門を横断するファシリテーション力が、センシング技術の真価を最大限に引き出すカギとなります。

最新トレンド:AI・エッジコンピューティングとセンシング融合

最近では、AIによる画像解析、設備異常予兆検知、現場データをリアルタイム演算する「エッジコンピューティング」といったトレンドが加速しています。
単なる「検知」から「現場で即時に判断・制御」にまで役割が拡大しています。

一方、すべてをクラウド任せにすると「通信遅延」や「セキュリティリスク」も生じます。
どこまで現場端末(エッジ)に持たせ、どこまで本社や外部の専門家に依存するのか、これまでの“昭和的感覚”から一段深く、多面的に検討しましょう。

まとめ:センシング技術選定で失敗しないために

センシング技術は、もはや工場の「価値創造」の根幹です。
目的の明確化、現場にあった装置選び、業務フロー変革といった“全体最適”の視点が成功のカギです。

昭和のアナログ体質を脱却し、現場×経営×サプライヤーが真のパートナーとして協力しあえる仕組みづくりを推進しましょう。

導入前の「現場目線の課題把握」と導入後の「運用・改善」サイクルを大切に、失敗しないセンシング技術選定に取り組んでください。

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