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「デジタル化」と「DX」の違いを理解せずに迷走した事例

目次
はじめに―「デジタル化」と「DX」の混同が招く悲劇
「うちもDX(デジタルトランスフォーメーション)だ!」「最新ソフトを導入して効率化するぞ!」
このような掛け声が日本の製造業の現場でよく聞かれるようになりました。
しかし、本来の「DX」と「デジタル化(デジタイゼーション)」の違いを十分に理解しないままプロジェクトを進め、思うような成果が出ずに現場が混乱した事例も少なくありません。
今回は、昭和時代から続くアナログ体質を残しつつ、デジタル化を進めたものの迷走してしまった事例を、実際の現場目線で掘り下げます。
特に、製造業に勤務されている方、バイヤーを志す方、あるいはサプライヤーの立場でバイヤーの考えを知りたい方に向けて、
現場のリアルと、正しいアプローチへのヒントをお伝えします。
「デジタル化」と「DX」の違いとは何か
デジタル化とは―アナログ→デジタルへの置き換え
「デジタル化」とは、紙の帳票をエクセル化したり、手作業だった集計をRPA(ロボットによる自動化ツール)で自動化したり、「これまでアナログだった業務を、単純にデジタルツールに置き換える」というものです。
たとえば、
・手書きの日報をWeb入力にする
・FAX注文書をPDFでやりとりする
・エクセルで見積書を作る
これらは「デジタル化」の典型的な例です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは―ビジネス変革
一方、DXとは「デジタル技術を活用して、製品・サービスやビジネスモデル自体を根本から変革すること」です。
「今までの業務フローをデジタルツールにのせる」という発想ではなく、「デジタルを活用した新たな価値や成果をどう生み出すか」を出発点にします。
たとえば、
・受発注からサプライヤーとの連携まで自動化した購買プラットフォームを構築する
・工場のIoTデータを分析し、新しいサービスにつなげる
・受注生産方式から需要予測型の新サービスを生み出す
こうした「業務の枠を超えた根本的な変革」がDXです。
なぜ「デジタル化」と「DX」を混同しやすいのか
現場の共通認識不足とトップダウンの危うさ
製造業の現場には、「とにかく何かデジタル化に取り組まなくては」という圧力がかかりがちです。
その際、経営層や本部が
「今さら紙の日報なんて…Web入力にしなさい」
「これから工場4.0だ、IoTを入れるぞ」
と、現場目線を軽視したままスローガン先行でシステム導入を進めたため、現場は戸惑いや不満を抱きやすくなります。
一方、現場サイドでは「デジタル化がDXだ」と思い込んでいるケースも根強いです。
例えば、日々の管理帳票をエクセルでまとめるだけで「うちもDXですね」と満足してしまう。
でも、結局は非効率な手作業が本質的には変わっていなかった…ということも多いのです。
ベンダー側の営業トークによる混乱
ITベンダーの営業担当者が「DX推進パッケージ」などを提案してくる場合も認識のズレが起きやすいところです。
多くのソフトウェアやシステム、IoTパッケージは、「あくまでツールの導入」でしかありません。
「システムを入れた=DX実現」ではなく、「そのツールで何を変えたいか」という目的、ビジョンが定まっていない場合、現場の混乱を招きがちです。
よくある迷走事例
1. 「紙→エクセル」だけで作業がむしろ煩雑に
ある部品メーカーの品質管理部門では、従来紙で運用していた検査記録をエクセル入力に切り替えました。
紙への手書きがなくなるはず…と期待されましたが、実際には現場作業が増えてしまいました。
その理由は、
・検査作業中は手が空かずすぐにPCを触れない
・後からまとめてエクセル入力するため二度手間
・それまで1枚で済んでいた情報も、何枚ものエクセルファイル管理に変わる
さらに、「エクセルフォーマットが頻繁に変わる」「エクセルマクロの動作不良」「入力ミスや重複」など、逆に集計・管理負担が倍増。
紙ベースのほうが早かった…という現場の声が噴出して、短期間で紙運用に逆戻り。
「無理にデジタル化したせいで余計な作業が増えた」と不信感が残ることになりました。
2. 現場の運用や習熟度を無視した自動化が空回り
ある工場でIoTセンサーと生産管理システムの連携を進めました。
設備の稼働データ・異常兆候など「リアルタイム監視」が実現するはずでした。
しかし、実際に導入してみると、
・センサーの誤検知が多発
・既存のラインオペレーションに組み込めず現場が混乱
・データを活用するための分析スキルが現場になかった
結果、センサーのアラートが鳴りっぱなしになって現場が対応しきれず、「人間の目で監視した方が早い」となり、多額の投資が無駄になってしまいました。
理由は、「技術ありき」で現場のプロセス設計や人材育成が完全に抜け落ちていたことです。
すなわち「DXで現場変革」ではなく、「設備だけがデジタル化」だったのです。
3. 本来の目的を見失ったRPA導入でさらなる混乱
調達購買部門でRPA(ロボットによる業務自動化ツール)を導入したS社でも、「デジタル化で劇的効率化」の触れ込みに踊らされました。
しかし、実態は…
・手作業での承認フローやデータ入力作業の前提が変わらない
・「RPAで自動化」するためにかえって複雑な手順・フォーマットを現場が準備するはめに
・現場担当者が「RPAの仕様」に自分の業務を無理に合わせることになり、工数増加
本来の業務プロセスを見直さず、「今あるアナログプロセスをそのまま自動化」しようとしたため、ツギハギだらけの運用になってしまいました。
なぜこうした迷走が起きるのか?製造業特有の事情
昭和からの現場文化・暗黙知の壁
製造業の多くは、長年培われた「現場力」「職人技」「阿吽の呼吸」が生産現場の強みとなっています。
こうした文化は、働く人たちの経験や慣習に支えられており、帳票・業務ルール・段取りもアナログで回ってきました。
この「暗黙知や属人的運用」が、デジタル化やDXの障壁となっていることはよくあります。
「現場が回ればなんとかなる」「新しいツールの使い方は面倒、やらなくていい」といった空気が根強い現場環境では、単なるIT導入では本当の効果が出ません。
ムリ・ムダ・ムラを“デジタル”で増幅してしまうリスク
アナログ運用で起きていた
・余計な手順やムリな作業
・毎回違う運用や担当者のやり方のムラ
・曖昧な役割や責任範囲
こういった非合理を「デジタル化」してしまうと、余計に現場の混乱や手戻りが発生します。
「ムリ・ムダ・ムラ」がそのままデジタル化されてしまっては本末転倒です。
どうすれば本物のDX・現場変革ができるのか
現場課題の本質を理解することから始める
まず大切なのは、「単なるデジタル化」ではなく、「何をどう変えたいのか?」という目的・ゴールを具体化することです。
たとえば
・購買リードタイムを半減したい
・現場の属人作業をなくし、どの担当者でも同じクオリティにしたい
・サプライヤーとの情報共有を自動化してミス撲滅したい
こうした「目的」を現場のみんなが共有できるかどうかが最優先です。
そこから「今のやり方」にしがみつかず、ゼロベースでプロセスを組み直してみる。
この本質的な現場改革からツールやシステムの選定に入れば、効果の出るDXへの道が開けます。
現場を巻き込んだ小さな成功体験の積み重ね
トップダウンでの全社導入や一斉切り替えではなく、まずは現場の一部工程やチームで「小さな現場改善」→「成果の可視化」→「水平展開」というサイクルを回すのが成功の近道です。
たとえば
・自動集計ツールのテスト導入でミスが1/10になった
・サプライヤーとリアルタイムで納期共有でき、トラブルが激減した
など「現場目線でのメリット」がしっかり体感できれば、現場全体にDXが浸透しやすくなります。
バイヤー・サプライヤー両方の視点で“つながり”をデザインする
購買・調達の現場では、バイヤー側とサプライヤー側で情報の非対称が起こりがちです。
DX時代は、単なるデジタル化だけでなく、両者の「つながり」「情報共有」「一元管理」の仕組みまで設計し直す必要があります。
例:
・ポータルサイトで受発注履歴・納期回答を一元化
・図面データや品質情報もオンラインで同時共有
・イレギュラー対応や特急品もワークフローで自動処理
サプライヤーの立場から「バイヤーは何を知りたいか?」を逆算できると、人間同士の心理的ハードルも下げやすくなります。
まとめ:「違い」を理解し、業界慣習に挑むDXへ
日本の製造業は、昭和から続く職人気質や現場流の「アナログ文化」が根強く残っており、その良さを活かしながらも、「目的なきデジタル化」では成果は生まれません。
・「デジタル化」と「DX」の本質的な違いを理解すること
・現場の課題と目的を共有し、プロセス全体を見直す勇気を持つこと
・現場、バイヤー、サプライヤー、全ての立場で“つながり”と“共創”の仕組みをデザインすること
この3つを軸に、時代遅れのやり方を一つひとつ脱却していく現場改革こそ、本物のDXの第一歩です。
業界の皆さまが、自社や現場で「迷走」しないためのヒントや気づきに本記事がなれば幸いです。
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