投稿日:2025年8月20日

保証期間定義の曖昧さが原因で不良補償を巡り争ったケーススタディ

はじめに:保証期間と補償トラブルはなぜ起きるのか

製造業に従事している方なら、「保証期間」に関するトラブルや苦い経験を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

特に調達購買や生産管理、さらにはサプライヤーとして顧客対応をしている現場の方にとって、「保証期間」と「不良補償」は決して対岸の火事ではありません。

現場で実際に発生したトラブルのほとんどが、「保証期間の定義が曖昧である」ことに起因しているケースが多く見受けられます。

本記事では、私が20年以上の製造業経験のなかで出会った実例や、昭和から続くアナログな慣習の現状も交えながら、保証期間を巡る争いのケーススタディと、その本質的な解決策について紹介します。

製造業に勤める方、将来バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの心理を知りたい方にとって、現場で明日から役立つ知見をお伝えします。

現場における保証期間の「曖昧さ」とは何か

契約書にない保証内容、現場の常識が通用しない現実

「いつまでが保証期間ですか?」
こう聞かれて即答できるバイヤーやサプライヤー担当者は、実は多くありません。

その理由は、実際には納入日や製造日、据付日、運転開始日など、様々な「起点」が現場によってバラバラであり、しかもその決まりごとが契約書や仕様書に明記されていない事例が多々存在しているからです。

例えば、納入後1年、据付後1年、稼働開始から1年、いずれが「正式な保証開始日」なのか曖昧なまま、現場の「常識」や「前年踏襲」に任せているケースは少なくありません。

保証期間の範囲や対象のモヤモヤ

また、保証の「範囲」が製品全体なのか、消耗品を含むのか、個別部品や付帯設備にも及ぶのか、個別の取り決めによって異なります。

契約では「全体保証」と書いてあっても、実際には現場で「この部品は保証外」と口頭で説明したり、逆に「この部分も保証するのが当然」と期待されたりし、トラブルの種になります。

こうした現場での「保証期間・範囲に関するモヤモヤ」が、後の大きな補償トラブルに発展します。

昭和のアナログ慣習が生む問題点

日本の製造業では、「見て覚える」「口伝えで学ぶ」という習慣が今も根強く残っています。

保証期間や不良補償の考え方も、多くの現場で「先輩から聞いたまま」「過去のやり方で」運用されることが多いのが実情です。

標準作業書やマニュアル類が未整備、または曖昧な表現であったり、契約書も雛型流用で必要事項が漏れていたりする現場もあります。

更に、近年では海外サプライヤーや工場との連携が増え、和文契約書や和式の「阿吽の呼吸」が通用しない場面も増えています。

こうしたアナログな慣習が、現代のグローバル取引や法的リスク対応には相応しくないことは明白です。

実際に起きた、保証期間定義の曖昧さが招いた補償トラブル事例

ケース1:据付日をめぐる認識違いで訴訟寸前

ある大型機械設備メーカーでは、部品納入から据付完了までは1カ月近くかかる特殊事情がありました。

バイヤー側は「稼働開始から1年が保証期間」と考えていましたが、サプライヤー側は「部品納入から1年」と主張。

据付作業が遅れたことで、本来なら保証内で対応できる不良発生にも関わらず、サプライヤー側が「保証切れ」と突っぱねてしまい、最終的に訴訟手前までこじれる事態となりました。

契約書には「保証期間:1年」とのみ記載されており、起点について明記がありませんでした。

ケース2:消耗品の交換は補償外?現場の慣例と顧客ニーズの乖離

自動化装置のメンテナンス部で、「1年保証」のはずが3カ月でセンサーの異常が発生。

バイヤーは「まだ保証期間内。交換は当然」と依頼しましたが、サプライヤー側は「これは消耗品扱いで保証対象外」と回答。

実は、発注書にも見積書にも消耗品の定義が明記されておらず、納入時にも「故障なら修理します」と言ったのみだったため、顧客は納得できませんでした。

現場サイドの「前例主義」「都合のいい解釈」に陥り、関係悪化のきっかけとなりました。

ケース3:海外向けプロジェクトは保証条件が複雑化

グローバル案件で、海外子会社経由の販売により「日本語契約書」と「英語契約書」の両方が存在。

ところが、日英で保証期間の起点や補償範囲が食い違っていたことが後に判明。

例えば日本語側には「据付完了日から1年」、英訳側には「出荷日から1年」と記載。

クレーム発生時に「どちらの基準が正か」揉め、法務部を巻き込んだ大騒動になりました。

これもお互い、確認不足と定義の曖昧さが原因でした。

根本解決のポイント:保証期間問題に強い現場を作るには

1. 保証期間・範囲の明文化と徹底

最大の防衛策は、「保証期間の開始点・終了点」を契約書や注文書など公式文書に明記し、双方で確認・署名しておくことです。

また、保証「範囲」や除外事項(消耗品やユーザー要因等)も具体的かつ個別に記載しましょう。

「常識」や「昔からの決め事」に頼らず、分かりやすいドキュメント作成が不可欠です。

さらに仕様書や納入仕様確認書にも保証内容をしっかり反映させることが現場では重要です。

2. 現場教育のアップデートとナレッジ共有

ベテランから若手まで「我が社の保証方針はこうだ」という統一見解と基準を、定期的な教育やマニュアルで浸透させましょう。

特に若手バイヤーや新任サプライヤー担当者には、「保証期間定義の重要性」「事前確認の手順」「曖昧な場合の対処法」などをロールプレイや動画教材で覚えさせるのがおすすめです。

同時に、過去のトラブル事例も「反面教師」として現場全員で共有し、組織の知恵として蓄積していくことが現場力強化に繋がります。

3. バイヤーもサプライヤーも「確認・記録の徹底」

発注時、契約締結時だけでなく、納入直後や据付作業時などのタイミングで、「保証期間起点確認書」などの簡単な確認書類をやり取りすることで、万一の行き違いを防ぐことができます。

また、イレギュラー対応や口頭やメールでのすり合わせ内容も、可能な限り記録し、社内・取引先と共有しておく姿勢が大切です。

この「一手間」が、中長期的にはトラブル防止になり、本業に集中できる環境を生み出します。

ラテラルシンキングによる「保証期間」への新たなアプローチ

価値提案型保証モデルの可能性

近年は「価値提案型」の新しい保証モデルも生まれつつあります。

例えば、IoTやセンサーデータ、遠隔監視システムを活用し、「お客様が一定性能以上の稼働率を維持できているか」をリアルタイムで共有することで、「能力保証」や「稼働保証」など、より顧客価値に即した保証体系にシフトする事例が海外で増えています。

こうした「稼働実績連動型」や「Pay-As-You-Go型」の柔軟な保証モデルは、保証範囲や起点をめぐる従来のトラブルから脱却できる可能性を秘めています。

日本の製造業でも、「単なる時間軸保証」から「顧客価値保証」への転換をラテラルシンキングで考えてみるのは、これからの現場進化のヒントになるでしょう。

適正なリスク共有とコミュニケーション力向上が肝

一方で、保証問題は「バイヤーvsサプライヤー」のゼロサムゲームにしてしまうと、お互いの立場が硬直しがちです。

大切なのは、お互い「リスクを適切に共有し合い」、「現場で何が一番困るのか」を率直に伝え合うコミュニケーション力です。

保証期間や補償範囲を主張し合うのではなく、「最終ユーザーの安心・信頼・満足」に繋がる着地点を、現場目線で一緒に模索する姿勢こそ、これからのWin-Win取引には不可欠だといえます。

まとめ:保証期間定義の曖昧さから脱却し、現場競争力を高めるために

製造業現場の「保証期間」を巡るトラブルは、昭和的なアナログ慣習、契約・仕様書の曖昧さ、現場間の確認不足が原因で頻発しています。

自社だけでなく、サプライヤー、バイヤー双方の現場担当者が「絶対に明文化・確認・記録する」文化を根付かせることが、日々の業務効率化だけでなく、将来のリスク低減、顧客満足の向上、そして現場力の底上げにもつながるのです。

まさに「保証期間」は現場競争力そのものです。

製造業の発展を願う方々とともに、昭和の常識から一歩踏み出し、「新しい現場知」を共に切り拓いていきましょう。

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