投稿日:2025年8月31日

MRO品のABCとXYZ分析で在庫コストと購買コストを同時削減

MRO品とは?現場目線で知っておくべき基礎知識

製造業に従事する方であれば、「MRO品」という言葉を一度は耳にされたことがあると思います。
MROとは「Maintenance(保全)」「Repair(修理)」「Operation(運用)」の頭文字をとったもので、具体的には工具、潤滑油、消耗部品、備品など工場や事業所の設備を維持・運用するために用いられる物資全般を指します。

生産ライン自体の直接材料ではなく、間接的に生産活動を支える「縁の下の力持ち」とも言えます。
MRO品の安定調達・適正管理は、工場の安定稼働やコスト競争力を左右する非常に重要な領域です。
しかし旧態依然とした現場では、「必要なときに見当たらない」「使った量が把握できない」「高い在庫を持ちすぎている」などの課題が根強く残っています。
この記事では、MRO品に適した在庫・購買管理手法である「ABC分析」と「XYZ分析」の実践的な活用法を、現場目線で掘り下げて解説します。

なぜMRO品のコスト管理が重要なのか

購買担当やバイヤーの立場から見れば、MRO品は原価そのものには組み込まれないため、優先順位が低くなりがちです。
しかし蓋を開けてみると、企業の間接材コストの中でMRO品が占める割合は意外と高い傾向があります。
例えば、
– 保管スペースの圧迫
– 棚卸や管理工数の増加
– 緊急時の調達コスト増
– 過剰在庫・陳腐化による資産の無駄
こういった副次的なコストがボディーブローのように経営を圧迫します。

加えて、MRO品の種類は数千、数万にものぼり、調達業務の煩雑化や「無駄の温床」になっているケースが多いのが現実です。
そのため、MRO品についても科学的・論理的な分析を実践することで、在庫コストと購買コストの両面からの最適化が図れるのです。

ABC分析で明らかになる「何を重点管理すべきか」

ABC分析の基本とその要点

ABC分析とは、Pareto(パレート)の法則 ーいわゆる「80対20の法則」ーを活用した分類手法です。
大まかにいえば、「全体の売上や使用金額の大半は、ごく一部の品目で構成されている」という経験則を応用します。

MRO品でも、
– 使用金額が高い(=重点的に管理すべきA品目)
– 中間層(B品目)
– 微小で全体構成比が低い(C品目)
と3段階に分類し、それぞれ適した管理方法を選択します。

MRO品のABC分析のやり方・現場的ポイント

1. 直近一年などの「発注金額」または「消費金額」をピックアップ
2. 商品ごと(部品番号、SKUなど)に合計し、金額順に並べる
3. 全体比率を算出し、「上位70-80%までがA品目」「中間15-25%がB品目」「下位5-10%がC品目」などと区分
4. A品目は在庫削減や値下げ交渉、重要パートナーの選定など重点管理対象にする
5. C品目は在庫切れリスクが多少あっても管理工数を減らし、発注をまとめるなど省力化を優先する

現場ではA品目ばかりに目を奪われず、「B品目群」がどこで隠れコスト増になっていないかも併せて見極めることが成功のカギです。

XYZ分析で「どれだけ予測できるか」を測る

XYZ分析の概要とMRO品への応用

一方、ABC分析だけで在庫管理・調達を最適化しきれないケースがあります。
それは、「需給の安定性」の違いに起因します。

たとえば、同じ金額規模のA品目でも、
– 過去の実績から毎月ほぼ一定数消費する部品
– 年に数回しか出庫されず、バラツキが大きい部品
とでは最適な発注タイミング・在庫数が違うはずです。

そこで有効なのが「XYZ分析」です。
これは需要予測の難易度、すなわち消費量の変動性に着目した分類方法です。
– X品目:消費パターンが安定しており予測しやすい
– Y品目:ある程度の季節変動や傾向があるが予測可能
– Z品目:予測がつきにくく突発的な需要が生じる

実務では移動平均や、標準偏差などで変動度合いを算出し、品目ごとにグルーピングします。
そうすることで、「予測可能性の高い品目で大量仕入・定期発注の自動化」「不確実性の高い品目は最小在庫、緊急調達など柔軟な管理」を選択できるのです。

ABC×XYZ分析で発注・管理工数を一気に合理化

クロス分析による「最適な在庫金額」「発注方式」の決定

ABC分析・XYZ分析を掛け合わせることで、より現場実態に即したマトリクス型の管理方針が描けます。
具体的に、「ABC-XYZマトリクス管理」と呼ばれる方法です。

– A×X:高コストかつ需要安定。この領域は自動発注、高度な価格交渉、重点在庫管理
– A×Z:高コストで需要不安定。過剰在庫を避け、定期的な見直しとサプライヤー連携が必須
– C×X:低コスト、需要安定。最低限の在庫を持って省力化
– C×Z:低コストだが突発的需要。非常時対応の安全在庫か、緊急購入を前提に

といった形です。
これにより、手間をA×Zなどの本当に重要な問題点に集中し、C×XやC×Zの管理コストは大胆に落とせます。

実際の導入・改善ステップ(現場目線)

1. 顧客(現場オペレーター、保全担当、工場の現場長)と「何をどう困っているか」ヒアリング
2. 直近1年~2年の発注・使用履歴データ(可能であれば電子化)を整理
3. ABC分析で金額寄与が高い順にリスト化
4. XYZ分析でそれぞれの需給(消費)のバラツキ度合いを数値化
5. クロス表マトリクスを作成し、重点品目は手厚く、省力化すべき品目は管理基準を簡略化
6. 発注フローや補充スケジュール、担当割りなどを見直し、実運用できる業務設計に

ここで重要なのは「分析しただけで終わらない」「運用現場でちゃんと回る流れに落とし込む」ことです。
現場では属人的な運用や“とりあえず多めに持つ文化”が根強くあるので、メーカーやサプライヤーとの連携、場合によっては「VMI(ベンダーによる在庫管理)」の導入も有効です。

実際の現場で得たMRO品管理のリアルな課題と解決策

製造現場で20年以上、現場改善・購買管理を担ってきた経験から感じるのは、MRO品は「地味に見えるが非常に奥が深い」領域ということです。
以下に、現場で見かける典型的な課題と、それに対する解決への現実的なアプローチを紹介します。

よくある課題

– 棚卸資産の中でMRO品だけ未管理・ブラックボックス化
– 必要時に在庫切れ→現場が困る→多めに発注、の悪循環
– 発注点も担当の勘に頼りがちで属人化
– 項目ごと、部門ごとに在庫基準がバラバラ
– 生産現場の変更(新ライン、カスタマイズ受注等)に追従できない
– 在庫・調達データが紙やExcelで、統合的に見えにくい

具体的な解決策・手順

1. 基礎データ(在庫・使用履歴)を一元化し、デジタルで見える化
2. ABC-XYZ分析で重点品目、手間低減品目を見える形で貼り出す
3. 少なくともA品目・A×Z領域は、定期的な報告会で状況を共有
4. 保全・現場サイドと購買担当、サプライヤーを巻き込み仕組み自体を“習慣化”する
5. EDI(電子調達)、カタログ購買、VMIなども段階的に導入

特に、属人化を防ぐための「見える化」と、ハイコスト部品への〝見ているよ感〟を購買側が定期的に示すことが、現場とバックオフィス双方の納得感につながります。

昭和流の「現場の知恵」×デジタル化が真の削減をもたらす

製造業は長らく「現場主義」とも言われ、属人的なノウハウと昭和流の職人気質が根強く残っています。
MRO品においても、
– 「古参の担当者の記憶がシステムよりも頼りになる」
– 「緊急時には近くの取引先と電話一本で間に合わせる」
といった昭和のよき慣習がまだ多くの現場で続いています。

一方で、IoTやAI技術の発展により、データドリブンな在庫や調達管理の土台は確実に整いつつあります。
大事なのは「現場が培った知恵」を軽視せず、デジタルツールと融合させていくことです。
例えば、ベテラン現場担当者の「この品目は半年に一度、突然のトラブルが起きる傾向がある」という肌感覚も、XYZ分析の知見として根拠付けできます。
そして、その判断基準が見える化されれば、後進でも適切に在庫・調達判断が下せます。

バイヤー・サプライヤー必見:MRO品コスト削減の新潮流

サプライヤー視点から見て、バイヤー(調達担当)が現場で何を考えているのかを知ることは、今後のビジネスに大きなアドバンテージとなります。
現在、製造業界では「共同でデータを活用し、持続可能なコストダウン・仕組み化を目指す」動きが加速しています。

– データ共有による余剰在庫と調達コストの双方削減
– ジャストインタイム型のリードタイム短縮発注
– VMI型在庫管理:在庫リスクを双方で分担
– 電子購買プラットフォームを使った効率化・標準化

これらの動きは従来の「安く買う」「まとめて買う」単純な価格競争から、戦略的パートナー型の共創へと発展しつつあります。
サプライヤーとしても、データ連携やAI提案を通じ、バイヤーの課題解決型ビジネスへシフトしていくことが求められていると言えるでしょう。

まとめ:MRO品の合理化で、持続的な成長を

MRO品は「コストが細かく管理しにくい」「緊急需要に弱い」といった特徴・課題が根強くあるものの、ABC分析・XYZ分析を組み合わせることで、現場の管理工数とコスト両面から合理化を進めることが可能です。

分析の導入・浸透には、数字だけでなく現場の“生きた知恵”との融合が有効です。
購買部門としては、最重要品目へ手間と投資を集中し、調達チャネルや管理方法の標準化も進めることで、全社的なコスト最適化を図ることができます。

今後は、データベースやAIなどの新技術を使いこなしつつ、人の勘や経験も活かす「現場密着型デジタル管理」がますます求められるでしょう。
バイヤー、サプライヤー、製造現場が三位一体となり、MRO品管理の最適化に取り組むことで、あなたの現場でも持続的な成長の礎が築かれます。

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