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関税と消費税を含む着地原価でサプライヤ比較を正確化

目次
はじめに:着地原価とは何か? 製造業のリアルな購買判断軸
製造業で長年働いていると、「あの商品はいくらで買える?」「どこの会社から調達するのが得なのか?」という議論は日常茶飯事です。
特にグローバルサプライチェーンが当たり前となった今、単純にカタログや見積書にある価格だけで比較することは、競争力を失う大きな要因になります。
ここで重要となる考え方が「着地原価」です。
着地原価とは、商品が自社倉庫または指定納入先まで実際に到着するまでにかかる、全てのコストを合算した原価です。
消費税や関税、現地までの輸送費、保険、通関手数料、外貨決済手数料など、多様な見えにくいコストを含めて比較することで、はじめて正しい調達先選定が行えます。
本記事では、この「関税と消費税を含んだ着地原価」でのサプライヤ比較を、筆者の現場経験を踏まえながら、実践的かつ俯瞰的に解説します。
なぜ着地原価が製造業の競争力を決めるのか?
表面的な価格比較は“落とし穴”がいっぱい
工場の現場や調達部門では、しばしば「本体価格が安いから中国から買おう」「国内A社は高いけど、対応がいいから楽」といった議論に陥りがちです。
しかし、海外調達の場合、関税や消費税、輸送保険、フォワーダー手数料、港湾運賃(THCやD/O fee)など、日本国内調達には想定していなかった費用が必ず発生します。
また円ドルなどの為替リスクや銀行の海外送金手数料、貿易書類作成コストなども見落としがちです。
表面価格だけで意思決定をしてしまうと、想定外のコストオーバーや利益圧迫につながり、自社の価格競争力を大きく損ねる危険性があります。
ライバルは“着地原価”で勝負している
大手企業や購買のプロは、商品単価だけでなく「最終的なトータルコスト」で調達戦略を練っています。
着地原価で正確にサプライヤを比較できれば、コスト競争力だけでなく、適正在庫・高品質・安定調達といった総合力でも優位に立てます。
昭和時代のように“カタログ価格重視”で発注していると、グローバルな競争に追いつくことはできません。
着地原価に含めるべき主なコスト項目
着地原価を求めるための代表的な費用項目をリストアップします。
これらが見積もり比較の“土俵”です。
- 購入単価(FOB/EXW/ CIF等インコタームズ適用価格)
- 関税(HSコードによる税率を適用)
- 消費税(課税対象となる場合は輸入時に納付)
- 輸入関連諸経費(通関手数料・フォワーダー費用・倉庫保管等)
- 海外~国内の物流費(海上/航空運賃、トラック費用等)
- 保険料(貨物保険など)
- 為替手数料・為替変動リスク考慮
- 決済手数料(LC発行・送金等)
これらを確実に見積もり比較に組み込むことで、はじめて「正しいサプライヤ比較」が可能になります。
関税・消費税の計算ロジックと注意点
関税の正しい計算方法
関税は「商品の輸入を許可すると同時に課される税金」であり、基本的には「CIF価格×関税率」で求めます。
CIF価格とは
Cost:商品の価格
Insurance:保険料
Freight:運賃
これらの合計を指し、多くのインコタームズでの輸入ではCIFベースが使われます。
関税率はHSコード毎に異なり、同じ部品でも細かな材質や用途で変化します。
カタログや業者任せでは危険で、必ず自社でHSコードを確認・税率調査を行うことが重要です。
消費税の計算
消費税(2024年時点では10%)は、関税加算後の輸入価格全体にかかります。
計算式は
(CIF価格+関税)×消費税率
となります。
例えば
輸入部品CIF価格:1,000,000円
関税率:3%(30,000円)
消費税率:10%
であれば
(1,000,000+30,000)×10%=103,000円が消費税となります。
この金額が「確定直前に予想外に大きくなる」ケースは現場でしばしば起こります。
アナログ業界に根強い慣習が“コスト比較”を曇らせる本当の理由
「取引ヒストリー重視」の限界
日本の製造業では昭和の時代から、価格や原価の透明性向上に積極的な一方、長年の“取引慣習”により購入先を変えにくい土壌があります。
調達部門や工場現場では、「あの会社は昔から取引がある」「品質トラブルが怖い」など、人間関係や歴史的信用でサプライヤを選ぶ傾向も根強いです。
ですが、グローバル競争が激化する今、着地原価でサプライヤ比較をしなければ、不必要なコストを払うリスクが大きくなります。
「帳票文化」とExcel依存:進まぬ自動化が生む隠れコスト
帳票やExcelを使った手作業の集計、各部署への稟議・承認の際の紙資料回付など、デジタル化の遅れも着地原価管理を困難にしています。
本来であれば調達管理システム(SCM)やERPを活用し、見積もり~港・通関費用・輸送・消費税まで一元化してシステム管理することが理想です。
しかし現実には、バイヤーや工場の担当者がそれぞれ個別にエクセルで費用計算し、属人的ノウハウによる“誤差”が生まれやすいのも事実です。
失敗しない着地原価比較の仕組み~現場目線のポイント~
① サプライヤと手数料・諸経費まではっきり交渉
海外サプライヤから見積を取る際には「本商品はいくら?」だけでなく、「納入時までの全費用を明示して欲しい」と依頼します。
また国際物流業者(フォワーダー)、通関業者とも「案件ごとの見積」と「追加料金が発生する事例」を必ずヒアリングしておきます。
② 将来的なコスト変動リスクも比較対象に
為替レートの変動幅、物流費用の高騰、関税率の変更など、中長期的なコスト変動要因も、現場のバイヤーはあらかじめ料金比較のテーブルに含める必要があります。
たとえばドル建ての支払いなら、ある程度余裕を持たせた「為替予約」や、「過去数年の平均レートによるリスクヘッジ」なども着地原価計算に含めると現実的な検討ができます。
③ 初期対応費ではなく“ライフサイクルコスト”で比較
部品や設備の調達では、初回購入時のコストだけでなく、アフターサービス費用やサポートコストも“トータル着地原価”の一部として捉えるべきです。
現場目線では「調達価格は安かったが、故障時の交換パーツ調達が高額・タイムラグ大」などの事例も多々経験があります。
バイヤー・サプライヤー双方に伝えたい本質的な視点
バイヤーを目指す方へ
単純な“原価削減”だけでなく、関税や諸経費、実際の運用コストまでトータルに比較し、根拠と再現性を持ってサプライヤを選ぶ力がバイヤーには求められています。
数字合わせではなく、なぜそのコストが生じているのか、どこにリスクがあるのか現場目線の疑問を常に持って調達活動を進めてください。
サプライヤーの立場からバイヤーの気持ちを理解するには
サプライヤーも「うちは単価が安いから受注できる」と考える時代は終了しました。
バイヤーが着地原価で比較していることを理解し、自社がどの程度“全体コスト競争力”で戦えているのか見極めることが信頼構築や長期取引の鍵になります。
自社が負担している物流や保険、通関業務の体制が、顧客のコスト削減にどの部分で貢献できているかをアピールしましょう。
まとめ:着地原価比較はグローバル競争時代の必須スキル
日本の製造業は今、新しい世代のバイヤーが台頭し、生産地/調達地の多様化に直面しています。
「着地原価」で正確にサプライヤ比較を行う仕組みが、国際競争力を維持し、安定かつ強い利益構造を作るための第一歩です。
現場目線で全てのコストを“見える化”し、数字だけでは分からない現場判断力も駆使して、よりよいサプライチェーンを実現して欲しいと心から願っています。
アナログな習慣や思い込みを一歩乗り越え、新たな地平線へ。
製造業のバイヤー・サプライヤーの皆さまの挑戦を、現場経験者の立場からこれからも応援していきます。
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